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縁【弐】《エニシ【ニ】》

おはようございます。

長くなりまして、昨日更新出来ませんでした。

今日頑張ります。


ギリギリラインばかりですので苦手な方はご注意くださいませ。

(ウッス)らと窓から差し込んでくる白い光で媟雅(セツガ)は目を開けた。ぼんやりと(カスミ)がかったような視界(シカイ)見慣(ミナ)れた舜啓(シュンケイ)寝所(シンジョ)天井(テンジョウ)が見える。重い(マブタ)を上げて視線だけを動かすと投げ出された舜啓(シュンケイ)の腕が見えた。あれからどれくらいの(ジカン)()ったのかも分からない。どんなに(イヤ)だと泣き(サケ)んでも舜啓(シュンケイ)(ハナ)してくれなかった。悧羅(リラ)に当てられて(タギ)りきった身体(カラダ)(タタ)き付けて(キザ)みつけるように幾度(イクド)()()かれ続けた。腕を動かすと少しばかり痛む。ぼんやりとする目で自分の腕を見ると(オサ)え続けられていたからなのかくっきりと舜啓(シュンケイ)の手の(アト)が残っている。小さく嘆息(タンソク)して舜啓(シュンケイ)を見ると(ツカ)れているのか静かな寝息(ネイキ)が聞こえた。


今なら…。


少しずつ身体を動かして自分の中に入ったままの舜啓(シュンケイ)から離れるように(ココロ)みるのだが数え切れないほどに()わされた(ジョウ)の後では気怠(ケダル)くて上手(ウマ)く動かせない。(ダル)い腕を伸ばして(ユカ)(ツメ)を立てて()い出るように動く。入ったままの舜啓(シュンケイ)を出すために動くのだがまだ熱の残る身体にはそれが刺激になってしまう。大きく息をつきながらあともう少し、というところで投げ出されていた腕が動いた。引き(モド)されると同時にまた深く入り込まれて(タマ)らずに声を上げてしまう。


駄目(ダメ)だよ?()がさないって言ったろう?」


背後(ハイゴ)から強く抱きしめられてより深いところに舜啓(シュンケイ)()れる。もう少しであったのに、と(クチビル)()んでいると媟雅(セツガ)を抱きしめていた手がするりと動き始める。長く共にいたのだ。舜啓(シュンケイ)はどうすれば媟雅(セツガ)(ノボ)るのか、何処(ドコ)が弱いのかも全て知り()くしている。弱い所を集中(シュウチュウ)して()められて身体を(フル)わせる媟雅(セツガ)の中でまた舜啓(シュンケイ)(タギ)り始めているのが分かって、(イヤ)だと首を振ってみるが聞いてくれないのはもう分かっている。


「そうは見えないよ?」


意地悪(イジワル)声音(コワネ)で言われて懸命(ケンメイ)に首を振ってみるが動き始められるともう(アラガ)えなかった。頭では嫌だと思っているのにあまりにも容易(タヤス)(ノボ)らされて()てさせられてしまう。一度の(ジョウ)で数え切れないほどに()てさせられている身体(カラダ)はほんの少し動かれただけで手足が(シビ)れてくるほどだ。自分の身体なのに思い通りに動かないことに腹立(ハラダ)たしくなる。これほどまでに()められた事も求められた事も無かったからかもしれないけれど、(オソ)ってくる官能(カンノウ)にどうでも良くなってしまいそうにもなる。それでもどうにか頭の片隅(カタスミ)にだけでも理性(リセイ)(トド)め置いておけるのは舜啓(シュンケイ)が伝えてくれる言葉を信じ切れないからだ。(イヤ)だと言いながら自分から()れる甘い声が本当に自分のものなのかも分からなくなる。身体が幾度目(イクドメ)かに()てて力が()けてしまうところりと身体を返された。うつ()せにされて上から(オサ)えつけられてまた突き上げられる。(コシ)を持ち上げられて自由も(ウバ)われてまた(セマ)ってくる絶頂(ゼッチョウ)()えるように布団(フトン)を強く(ツカ)むが、止まる事なく(アタ)え続けられる強い刺激(シゲキ)には(アラガ)えなかった。


()り返った媟雅(セツガ)の背中を舜啓(シュンケイ)(クチビル)(シタ)が確かめる様に()い廻る。突き立てられる強い刺激と(サソ)うような(シタ)の動きで何を考えるべきなのかも忘れてしまう。大きくなる自分の(アエ)ぎの中に身を(ユダ)ねてしまうと()ちることなど容易(タヤス)かった。どんなに媟雅(セツガ)()てても、嫌だと(ウッタ)えても聞いてもらえないのであれば(オボ)れた方が楽になるのではないかとさえ思ってしまう。好きだと言ってくれた舜啓(シュンケイ)の言葉の真意(シンイ)を考える(ジカン)()しいけれどそれも(カナ)わない。ふうっと息を吐くとそれを待っていたかの様に一番弱いところを()められてまた身体を(フル)わしながら()てた媟雅(セツガ)最奥(サイオク)舜啓(シュンケイ)(ヨク)が吐き出された。受け止めるしか出来ない事が(クヤ)しくてぐったりとした身体を布団(フトン)(アズ)けると又(ナミダ)(アフ)れてくる。持ち上げられていた(コシ)(ハナ)されると身体の上に舜啓(シュンケイ)の身体が(オオ)(カブ)さった。気怠(ケダル)くて力の入らない身体では押しのけることも出来はしない。


「…いい加減(カゲン)()げようとするの(アキラ)めてよ。()がさないっていってるでしょ?」


背中から布団(フトン)に押しつけられて身動(ミウゴ)きも取れず息を荒らしている媟雅(セツガ)の耳元で(ササヤ)くように言われて、また身体が熱くなるのを媟雅(セツガ)(コラ)えきれない。それが伝わったのか小さく笑いながら舜啓(シュンケイ)布団(フトン)(ツカ)んだままの媟雅(セツガ)の手を(ハズ)させる。両の手首にくっきりと残った自分の手の(アト)に口付けながら、(ヒド)いよね、と苦笑(クショウ)した。ただの(ジョウ)()わす相手(アイテ)にしてきたような行為(コウイ)だ、と自嘲(ジチョウ)してしまう。媟雅(セツガ)にだけはどんなに自分が(タギ)っていても(ツネ)に優しくすることを考えていたのに手を(ハナ)してしまった途端(トタン)()()だ。


「…お願いだから()りて…」


(ムセ)び泣くような声で哀願(アイガン)されても元よりその気など舜啓(シュンケイ)には無い。


(イヤ)だ。()りたら又どうにか()げようとするだろ?三日(ミッカ)は離さないし出ないって何度も言ってるじゃないか。…それとも(シバ)りつけたら(アキラ)める?」


(アラワ)になった(ウナジ)に吸い付くとびくりと媟雅(セツガ)(コタ)えてしまう。どうして今なのだ、と涙が(アフ)れてくるのを止められない。


どれだけ泣いたと思っているのだろう。

どれだけこの腕の中に戻れるならと願ったと思っているのだろう。

ようやく少し落ち着いた所だったのに…。

もう少し(ジカン)をかける事が出来たならきっと思い出として心に(トド)めおけた。


「…どうして…」


今なのだ、と言う言葉は出なかった。嗚咽(オエツ)(マギ)れて。布団(フトン)に顔を押しつけて涙を(カク)すと(オオ)(カブ)さったままで強く抱きしめられる。


「何度も伝えてるよ?好きだからって。媟雅(セツガ)()しくて(タマ)らないんだ。信じられない?」


優しく伝えられても媟雅(セツガ)は顔を上げる事が出来ない。信じられるはずがない。裏切(ウラギ)ろうとした媟雅(セツガ)をそう容易(タヤス)舜啓(シュンケイ)が許しているとも思えなかったし、何よりこの状況(ジョウキョウ)だ。悧羅(リラ)に当てられたままで(タギ)る気持ちの中で伝えられても冷静(レイセイ)に受け止められないのだ。


「信じられるわけがないでしょう…。どれだけ(ナヤ)んでどれだけ泣いたと思ってるの…?(ホカ)に触れさせないって言ってた舜啓(シュンケイ)容易(タヤス)(ユル)してくれるはずもないって分かってたから受け入れたのに…」


嗚咽(オエツ)混じりの声に呼応(コオウ)する様に抱きしめる腕の力が強まった。(アマ)りの力の強さに苦しくなって身を(ヨジ)るが離してもらえない。代わりにごめんな、と言う声が耳元で聞こえた。


媟雅(セツガ)が泣いてる時に気づけなくて。悪いのは俺だから、媟雅(セツガ)はこれ以上自分を()めるな。信じてくれるまでどれだけでも伝えるし待つって言っただろう?…どうしたら信じてくれる?どうしたら許してくれる?」


「…そんなのわからないよ…。私の方がどうしたら許してもらえるのか考えてたんだから…」


「だから媟雅(セツガ)(アヤマ)る必要はないって」


言って舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)の上から身を起こした。苦しいほどに強く抱きしめられていた腕が(ホド)かれてほっと息をつく身体をくるりと返して仰向(アオム)けにする。入られたままで動かされて(フル)える媟雅(セツガ)の身体にもう一度肌を(カサ)ねて強く抱きしめた。


「…じゃあさ、媟雅(セツガ)は俺以外の手を知りたい?他の男がどうやって媟雅(セツガ)(イツク)しむのか肌を(カサ)ねてみたいって思う?」


気怠(ケダル)い腕を動かして顔を(カク)媟雅(セツガ)舜啓(シュンケイ)()う。顔を(オオ)ったままで考えてみるが媟雅(セツガ)に分かるはずもない。舜啓(シュンケイ)への気持ちが落ち着いたらそうしてみようと思っていた。だがそれはまだ先の話だと考えていた。まずは一目見ただけで息苦しくなるほどに残っている舜啓(シュンケイ)への気持ちを(トトノ)えてから、(タノ)しむだけの(ジョウ)()わす相手を(サガ)してみるつもりだった。(サガ)して見つけられるかも分からなかったけれど、鬼の本能(ホンノウ)(シタガ)えばいいのだろうと考えていた。肌を(カサ)ねて身体を開いてしまえばいつかまたただの(タノ)しむ相手として舜啓(シュンケイ)(ジョウ)()わせたかもしれないのだ。


「今はまだわからない。…さっきまでは気持ちが(トトノ)ったらそうしてみようと思ってたから。でも、それは今じゃない」


(コタ)えた媟雅(セツガ)の身体が(クル)おしいほどに強く抱きしめられた。あまりに苦しくて息も出来なくなるかと思うほどだ。苦しい、と(ウッタ)えるが力は(ユル)まることがない。


媟雅(セツガ)()()()()()ならすれば良いと思う。でも俺以上に媟雅(セツガ)(イツク)しめる(ヤツ)なんていないよ?」


そんなのわからないじゃ無いか、と言う媟雅(セツガ)の身体から腕が()かれて代わりに顔を(オオ)っていた腕を外される。涙が止まらない顔を見られたくなくて(オオ)っていたのに(ハズ)されてしまって(アワ)てて顔を(ソム)けると両手で顔を(ツツ)まれる。舜啓(シュンケイ)の腕を(ツカ)んで(ハズ)そうとするが、駄目(ダメ)だと言われてしまう。そのまま深く口付けられてまた(タギ)る身体の(フル)えを必死に(オサ)えていると、わかるよ?、と(クチビル)を離した舜啓(シュンケイ)が微笑んでいた。


「俺以上に媟雅(セツガ)だけを想ってきた奴なんていないんだから。本当は(イヤ)なんだけどね…。手を離しちゃったのは俺だから、また手を取ってもらえるまでは待つよ」


「…取らないかもしれないじゃない…」


はらはらと流れる涙を()いてやりながら、そうだね、と舜啓(シュンケイ)は苦笑するしかない。戻ってくれと願ってもそれは媟雅(セツガ)の気持ち次第(シダイ)だ。待っていてもただ長い(ジカン)を過ごすことになるかもしれないことは覚悟(カクゴ)の上だ。


「でも取ってくれるかもしれないだろ?」


小さく笑いながら(ヒタイ)に口付けるとびくりと身体が震えている。


「そんなに無駄(ムダ)(ジカン)舜啓(シュンケイ)に過ごさせるわけにはいかないよ」


無駄(ムダ)じゃないよ?ただでさえ二十年待ったんだし。鬼の(セイ)は長いから(タイ)した問題でもない。それで媟雅(セツガ)が俺を選ばなくてもそれは仕方(シカタ)ないって(アキラ)めるけど、取ってくれるかもしれない可能性(カノウセイ)があるなら(アキラ)めたくない」


優しく言いながら(ツイバ)むように(クチビル)を吸い上げるとまた媟雅(セツガ)の身体が(フル)えだす。その姿でまた(タギ)りはじめる舜啓(シュンケイ)を感じて思わず甘い声が()れ出した。


「それでも待たせたく無いっていうなら、もう一度俺の手を今取って?…何があっても媟雅(セツガ)を信じるし、媟雅(セツガ)だけを見るって(チカ)うから。恋仲(コイナカ)になっても(ホカ)(ジョウ)()わしたいっていうならそれでもいいよ」


お願い、と()われても何とも言葉を(ツム)げないでいると(フタタ)舜啓(シュンケイ)が動き出す。待って、と荒くなる息の中から(ウッタ)えてみるが舜啓(シュンケイ)(コタ)えは待てないの一言だ。もう無理(ムリ)だと伝えられても一度動きだすともう止まれない。媟雅(セツガ)の中に入り続けているだけでずっと()めつけられているのだから()えられるはずもないのだ。これまで毎日の様に腕に抱いていたものをほぼ一月(ヒトツキ)の間も離してしまっていた。それが今は腕の中にあって聞きたかった声も見たかった姿も目の前にあって自分が動けばそれに応えてくれている。媟雅(セツガ)の本心ではないのは分かっているけれど、どうにか(ツナ)ぎとめておくためには()()き続けるしか舜啓(シュンケイ)には出来ないのだ。腕の中で舜啓(シュンケイ)(イツク)しみに応えて(ノボ)って()てる姿は幾度(イクド)見ても心を(ウバ)われてしまう。


「俺のところに戻るって言ってよ、媟雅(セツガ)


()ててぐったりとしている媟雅(セツガ)の身体に口付けながら(イノ)るように伝えるがまた(ノボ)り始めている媟雅(セツガ)には(コタ)えようがないようだ。舜啓(シュンケイ)を押し戻す力も出ないほどに()てさせられてもう甘い声しか出せなくなっている。(アラガ)う事すら(アキラ)めたように大きく()り返っていく媟雅(セツガ)()め付けられて逃がさないように強く抱きしめながらも、やっばい、と舜啓(シュンケイ)(ウメ)いてしまう。細く長い脚を自分の肩に乗せてもっと深く入り込むと媟雅(セツガ)が息を呑んだ。


「…深い…っ!」


もう無理(ムリ)だと首を振りながら()り返って行く身体を(オサ)えつけて、俺も駄目(ダメ)かも、と舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)に深く口付ける。声がくぐもったが代わりに媟雅(セツガ)の腕が背中に廻されて(シン)(ゾウ)()ね上がる。(タガ)いを強く抱きしめ合いながら同時に()てるが(フル)え続ける媟雅(セツガ)の腕は舜啓(シュンケイ)の背に廻されたままだ。(クチビル)を離して名を呼ぶと、もういい、ととろりとした目で媟雅(セツガ)(ツブヤ)いた。何が?、と(タズ)ねると荒れた息を整える事もせずに媟雅(セツガ)の手が舜啓(シュンケイ)の顔を(ツツ)んで引き寄せてくる。そのまま口付けられて(オドロ)舜啓(シュンケイ)にまた、もういいと(クチビル)()れ合うところで媟雅(セツガ)(ササヤ)く。


「…考える(ジカン)をくれる気もないんでしょう…?」


与え続けた快楽(カイラク)で小さく(フル)え続けながら(ナマメ)かしく(ササヤ)かれて舜啓(シュンケイ)はぶるりと(フル)えた。


「そういうつもりじゃ無かったんだけどね」


(ウソ)つき」


包まれていた(ホオ)がまた引き寄せられて深く口付けられる。(フタタ)(タギ)ってくる自分をどうにか(オサ)えるが伝わったのだろう。口付けたままで媟雅(セツガ)から甘い声が()れた。(クチビル)が離されると、また、もういいと(ツブヤ)いている。


「…だから、何が?」


いつもとは(チガ)う姿に首を(カシ)げてしまうがとろりとしたままの媟雅(セツガ)がまた舜啓(シュンケイ)を引き寄せる。深く口付けた後に、もう動いて、と()われて舜啓(シュンケイ)は思わず目を見開いた。


「…媟雅(セツガ)…?」


名を呼んでみるが媟雅(セツガ)はとろりとしたままだ。


「…もう分からないから…、(オボ)れてしまいたい…。もう何も考えたく無い…」


「そんな(サミ)しいこと言わないでよ…」


(ホオ)(ツツ)まれたままで(ヒタイ)をつけると媟雅(セツガ)がゆっくりと首を振った。本当にもういい、と(ツブヤ)媟雅(セツガ)の腕が伸びて舜啓(シュンケイ)の首に廻された。


「…考えられないくらいなら考えたくない…。()げることも(アラガ)うことも(ユル)してもらえないならそれももうやめる。…だけどこのままだと思い出して泣いてしまうから、何も考えずにいられるようにして…」


(フル)えの止まらない媟雅(セツガ)の腕で引き寄せられてまた口付けられる。見たことのない媟雅(セツガ)の姿と聞いたことのない媟雅(セツガ)の言葉に舜啓(シュンケイ)の身体がまたぶるりと震えた。十五年一緒にいて初めて見る姿は(ナマメ)かしすぎて一気(イッキ)(タギ)る。


「…(オボ)れさせてくれないならどいて?(ホカ)を当たる」


廻されていた腕が力なく落ちて布団(フトン)に当たると、ぽすりと(カワ)いた音がした。大きく息をついている媟雅(セツガ)に、(ホカ)?、と舜啓(シュンケイ)(タズ)ね返してしまう。微睡(マドロ)んでもいるかのような媟雅(セツガ)は、うん、と首を(カシ)げている。


滅茶苦茶(メチャクチャ)にしてくれるならもう(ダレ)でもいい…」


考えたくない、と(ツブヤ)いた媟雅(セツガ)身体(カラダ)を抱きしめると舜啓(シュンケイ)は名をもう一度呼んでみる。(コタ)えの代わりに聞こえたのは、(コワ)してという(セツ)な過ぎる願いだった。(クル)おしくなるほどの甘い声音(コワネ)(イザナ)われるかのように口付けて強く抱きしめると、早くと()われた。


「じゃあ呼んで?俺が良いって、俺が欲しいって言って?」


今まで共にしてきた十五年でも聞かなかった言葉を舜啓(シュンケイ)(ホッ)すると落ちていた腕が動いて(ホオ)()れた。(ウル)んでとろりとした目で見つめながら甘い声がその名を呼ぶ。


「…舜啓(シュンケイ)…、お願い。…舜啓(シュンケイ)(コワ)して…」


ぞくりと()い上がってくる官能(カンノウ)舜啓(シュンケイ)(コラ)え切れずに(コブシ)(ニギ)る。元々(モトモト)離さないつもりではあったし、卑怯(ヒキョウ)な手を使ってでも自分を(キザ)みつければ媟雅(セツガ)は戻ってくれるかもしれないと思っていた。だが腕の中の媟雅(セツガ)()()とは(チガ)う。本当に何もかもを忘れたいほどに苦しいのだろう。


()()()()()と言ってしまうほどに。

求められて本心ではない言葉を(ツム)いでしまうほどに。


大きく息をついて舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)(ヒタイ)に口付ける。


「分かった…。止まってやれないよ?いいね?」


(クチビル)を降ろしながら媟雅(セツガ)(クチビル)(ツイバ)むとまた、早くと言いながら身体を(ヨジ)り始めている。


「…絶対に優しくしないで…」


(ツイバ)んでいる(クチビル)からまた意外な言葉が飛び出して舜啓(シュンケイ)はうん、としか言えなくなった。そのまま媟雅(セツガ)の望み通りに身体を開かせる。何も考えたくないと言った媟雅(セツガ)(オボ)れていく様を見やりながら、まるで(タガ)いが(ケモノ)のようだ、と()て続ける媟雅(セツガ)を強く抱きしめた。



それから先の(ジカン)、目を()ますと無意識(ムイシキ)の内に涙を(コボ)媟雅(セツガ)を見るのが(ツラ)くて少し身じろぎすると舜啓(シュンケイ)も目を()まして()()き続けた。窓から差し込む(シラ)んだ光が高くなってまた沈んでを繰り返すけれど、(コワ)せと願われた舜啓(シュンケイ)はその願いを()たし続ける。三度目の夜が来て明日からは(ツト)めに出なくてはならないという時になっても、媟雅(セツガ)(オボ)れ続けることを選んだ。さすがに少し休めと言ったのだが、ならば(ホカ)に行くだけだ、と言われては離すことなど出来なかった。(ホカ)(ジョウ)()わしても良いから戻ってくれ、と願ったはずなのに本当に行ってしまうのではないかと考えただけで離せなくのるのであればその約束さえ守れるか舜啓(シュンケイ)には自信がなくなってしまう。


()()くたびに(ボウ)っとしていく媟雅(セツガ)気遣(キヅカ)おうとすると、優しくしないで、と()められてしまう。(タガ)いが()ててぐったりと倒れ込んでも意識(イシキ)手放(テバナ)すまでは続けてくれと願われた。()われるままに乱暴(ランボウ)媟雅(セツガ)の中に自分を(キザ)みつけながら(イツク)しみ続けて何度目かの意識を手放(テバナ)してくれたのは夜も()けた頃だった。()てて舜啓(シュンケイ)を受け止めると同時に(クズ)れた細い身体を抱きしめて布団(フトン)に横にするとぐったりとした身体は汗で()れているし(キザ)みつけた(アト)(イタ)るところに残っている。離さないとは言ったがここまでする気はなかった、と残ってしまった(アト)に指を()わせる。手首にも肩にも腰にも(オサ)えつけすぎて舜啓(シュンケイ)の手の(アト)がくっきりと浮かんでいる。


この三日で少し色が変わり始めているそれらを見ると痛々(イタイタ)しくなってくる。それほどまでに(クル)いたかった媟雅(セツガ)の気持ちが痛すぎてもっと早く気持ちを伝えるべきだった、と後悔(コウカイ)が押し寄せた。会える時まで待つなどと悠長(ユウチョウ)な事を考えずに、気持ちが整った瞬間(シュンカン)媟雅(セツガ)に伝えに走るべきだった。そうすればもう少し信じてもらえたのかもしれないから。荒れた息のままで媟雅の横にごろりと寝転(ネコロ)んで、中に入ったままの身体を引き寄せる。意識を手放(テバナ)している媟雅(セツガ)は身じろぎひとつせずに容易(タヤス)く腕の中に収まった。夜が明けてしまえば(ツト)めに出なければならない。今度はいつこの腕の中に戻ってくれるかも分からないのに、またもう一度手放(テバナ)さなければならない。


大きく息をついて抱き寄せた媟雅(セツガ)の髪に顔を(ウズ)めると、(ツツ)まれ()れていた(ニオ)いがする。こんな思いをさせるために何十年も想い続けてきたわけではなかったはずだ。ただ(シアワセ)にしたかっただけだった。(スベ)てが(オソ)すぎたのだ、と言い聞かせるように、ごめんな、と(ツブヤ)いてしまう。聞こえているはずもないのに何度も(ツブヤ)くように伝え続けて、いつのまにか舜啓(シュンケイ)気怠(ケダル)さの中に(シズ)むように眠りに落ちた。



次に目が覚めた時には窓の外が(シラ)み始めた頃だった。腕の中で媟雅(セツガ)が動く気配(ケハイ)がして(アワ)てて目を開けると気怠(ケダル)いのだろう。思いの(ホカ)に力の入らない自分に戸惑(トマド)っているようだ。眠いのか目を(コス)る姿が愛らしくなって舜啓(シュンケイ)は抱きしめる腕に力を込めて引き寄せた。


「まだ早いよ?」


そう伝えてみたのだが(ボウ)としたままの媟雅(セツガ)は身を起こそうとしている。離さないように力を込めると、宮に帰る、とぽつりと(ツブヤ)かれる。何で?、と余計(ヨケイ)に抱きしめる腕に力を込めると、三日(ミッカ)()った、とまた起きあがろうとする。確かにそうなのだが何故(ナゼ)戻る必要があるのか分からない。ただでさえ気怠(ケダル)そうにして思うように身体を動かせてもいないのに、一人で帰ることなどできるはずもないように思えた。


「いいからこのままもう少し休もう。(ツト)めの前には湯も使わなきゃならないだろう?」


どうにか身を起こした媟雅(セツガ)を追うように舜啓(シュンケイ)も起き上がる。意図(イト)せずに媟雅(セツガ)の中から出てしまったが、それも分からないほどに(ボウ)っとしたまま投げ捨てられたままであった隊服(タイフク)を取りに行こうと媟雅(セツガ)が動き出している。媟雅(セツガ)、と名を呼んでみるがぼんやりしているのか、うん、としか(コタ)えがない。起き上がった背中にも舜啓(シュンケイ)(アト)が残っているのが見えてつい目を細めてしまう。もそもそと隊服(タイフク)を身につけようとしている媟雅(セツガ)をもう一度引き寄せて背中から強く抱きしめる。ここで離したら本当に腕の中には戻ってくれない気がしてしまう。


「…帰らなきゃ…」


腕の中から出ようとする細い身体を抱きしめて首を振ると、(コマ)ったように名を呼ばれた。告白(コクハク)に対する答えもまだもらえていない。待つのは()れているとは言ったけれど一度想いが(ツナ)がった者を、また戻ってくれるのだろうかと待ち続けるのは十五年前までとは違う。


「ここから行けばいい。答えを出せないなら少しでも長く俺の(ソバ)にいて」


哀願(アイガン)する舜啓(シュンケイ)の腕をどうにか(ハズ)そうとしているのか廻した腕に媟雅(セツガ)の腕が触れた。(モド)らなきゃ、と(ツブヤ)媟雅(セツガ)の心が急速(キュウソク)に離れた感じがして舜啓(シュンケイ)はまた首を振った。


離したくない、離れたくない。

誰にも渡したくない。


その想いだけが舜啓(シュンケイ)支配(シハイ)して、抱きしめながら出た言葉に舜啓(シュンケイ)自身が(オドロ)いた。


「…俺と(チギ)ろう、媟雅(セツガ)…」


腕の中の媟雅(セツガ)も言葉を発した舜啓(シュンケイ)も共に何が起こったのか分からずに(カタ)まってしまった。告白(コクハク)の答えさえもらえていないのに、とんだ身の程知らずな言葉を出してしまった。本当にどうかしてしまっている、と自嘲(ジチョウ)するしかない。(カタ)まったままの媟雅(セツガ)を抱きしめる腕を(ユル)めて自由に動いて良いことを(シメ)したがそのまま動く気配(ケハイ)がない。まだ微睡(マドロ)みが残っているのか?、と心配になっていると、何を言ったの?、と小さく(フル)える声がした。


「…ごめん、忘れてくれていい」


あれだけ(ツラ)い思いをさせ続けたのだ。突然舜啓(シュンケイ)が言った言葉など信じられないだろうし、馬鹿げたことだと笑われても仕方ない。舜啓(シュンケイ)でさえ自分の口から飛び出した言葉なのに(ウツツ)のことなのか分からないのだから。けれど媟雅(セツガ)は背を向けたままでもう一度(タズ)ねてくる。今何と言ったのか、と。


「…媟雅(セツガ)(チギ)りたいって言った…。返事ももらえてないし(ヒド)いことばっかりして傷付(キズツ)けてばかりだけど、どうしても離したくない」


言葉にしてしまうと受け入れてもらえないだろうという気持ちも大きくなってくる。今更(イマサラ)何と(オロ)かな事だ、と嘆息(タンソク)して背を向けたまま身体を離さない媟雅(セツガ)を見下ろすと小さく(フル)えていた。かたかたと(フル)える身体をもう一度抱きしめると(アラガ)うこともなく腕の中に収まってくれる。


「…なんで…」


ぽつりと(ツブヤ)くような声音(コワネ)(フル)えていて舜啓(シュンケイ)はまた大きく嘆息(タンソク)してしまう。


「忘れてくれていいよ。聞かなかったことにしてくれていい」


(フル)え続ける身体をさすって(ナダ)めるが、忘れられるわけがない、とまた小さな声がした。確かにそうだろうが信じられない気持ちの方が大きいだろう。この三日(ミッカ)媟雅(セツガ)(ウッタ)えも聞かないふりをして自分のものにし続けたのだ。その間にどれだけ好きだと伝えても信じ切れていなかった媟雅(セツガ)舜啓(シュンケイ)でさえ無意識(ムイシキ)の内に出した言葉を信じてくれるはずもない。


「…本気で言ってるの…?」


(フル)えが大きくなりつつある媟雅(セツガ)(タズ)ねられて舜啓(シュンケイ)もしばし考えてみる。無意識(ムイシキ)に出たとはいえ舜啓(シュンケイ)自身もその言葉に(オドロ)いた。けれどよくよく考えてみれば(モト)より舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)(チギ)るのだ、と(オサナ)い頃から決めていた。恋仲(コイナカ)であった十五年の中では手に入れた安心感からかそこまで強く願うことは無かったけれど、今思えば誰にも渡すことなどないという慢心(マンシン)からくるものだったのだろう。それが離してしまったことで忘れていた気持ちが強く(ヨミガエ)ったのだということか。もう一度大きく嘆息(タンソク)して抱きしめる腕に力を込める。


「どうやらそうみたい」


小さく笑って伝えると、どうして今?、と(ムセ)び泣く媟雅(セツガ)がいた。それに分からない、と苦笑して媟雅(セツガ)を抱き上げて自分の方に向けるとそのまま膝に座らせる。はらはらと泣いている媟雅(セツガ)(ホオ)に口付ける。


「どうしてだろうね。よく考えたら俺ずっと媟雅(セツガ)(チギ)るって決めてたんだよな。一緒にいる(ジカン)が長すぎてそれに甘えてそんな当たり前の気持ちを忘れてたんだな。…信じられないだろうけど考えてくれないか?」


「だけど、許してくれてないんじゃないの?」


「うん?許してないのは媟雅(セツガ)を責めた自分の心の方だよ。媟雅(セツガ)の方が()()()()()いた俺を許せないだろう?だから返事はすぐじゃなくて良い」


見上げながら涙を流し続ける媟雅(セツガ)が首を振った。


「やっぱり(イヤ)だよね?」


当たり前だな、と苦笑する舜啓(シュンケイ)の前で媟雅(セツガ)は首を振り続けている。それをみる舜啓(シュンケイ)は苦笑するしかない。首を振り続ける媟雅(セツガ)の背中をぽんぽんと叩いて(ナダ)めながらもう一度苦笑して、送るよ、と伝えるが媟雅(セツガ)はまだ首を振り続けているばかりだ。


「どうしたの?…帰る前に湯が使いたいなら支度(シタク)しようか?」


首を(カシ)げて苦笑を深めると首を振りながら媟雅(セツガ)の頭がぽすりと舜啓(シュンケイ)の胸に(アズ)けられた。媟雅(セツガ)?、と名を呼ぶと小さな声がしたが聞き取れなかった。なあに?、と聞き返すと嗚咽(オエツ)の混じった声がした。


「…(モド)りたい…」


聞こえた言葉にただ舜啓(シュンケイ)(フル)える身体を抱きしめた。


「…でも本当に戻ってもいいのか分からないの…。また同じような事があったら?また私が裏切(ウラギ)りそうになったら?また手を離されるのが(コワ)くて(タマ)らない…」


ふうっと声を上げて泣き出す媟雅(セツガ)舜啓(シュンケイ)は強く抱きしめて、大丈夫、と(ササヤ)く。


「何があっても信じ抜くって言っただろう?恋仲(コイナカ)に戻ってくれたとしても、(チギ)ってくれたとしても媟雅(セツガ)()()()()()ならそれで良い。最後に俺の腕の中に戻ってきてくれればそれで十分だ。媟雅(セツガ)(ホカ)に目がいかないように俺が(シアワセ)にすればいいんだから」


本当にごめん、と(アヤマ)ると腕の中の媟雅(セツガ)が首を振る。


「だから戻ってきて、媟雅(セツガ)。俺と(チギ)ろう」


応えの代わりに媟雅(セツガ)の腕が舜啓(シュンケイ)の背中に廻されて力が込められると、途端(トタン)に大きな泣き声が響いた。泣き叫び続ける媟雅(セツガ)を抱きしめて、うん、と舜啓(シュンケイ)は小さく笑う。


「ごめんな、本当にごめん」


(ワラベ)をあやすように抱きしめる腕に力を込めながら泣き続ける媟雅(セツガ)舜啓(シュンケイ)(アヤマ)り続けた。

長くなりました。

なかなか思うように言葉が見つけられず更新まで時間がかかってしまいました。


お楽しみいただけましたか?

いつもありがとうございます。

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