糺す【拾捌】《タダス【ジュウハチ】》
遅くなりました。
ギリギリラインがありますので苦手な方はご注意下さい。
更新いたします。
ぼんやりと微睡む目を開けた媟雅の目に最初に映ったのは悧羅の紫の長い髪だった。目の周りは重いのにひやりとした感覚が残っている。ずっと冷やしてくれていたのだろう。丁度手拭いを換えていたところだったらしく冷たい水の入った桶で手拭いを絞っている。顔と身体を包むふわりとした毛並みと、包まれ慣れた匂いがしてそれが妲己のものだと分かってほっと小さな安堵の息をつく。それに気づいたのか、おや、と穏やかな悧羅の声がした。
「目が覚めたのかえ」
手拭いの代わりに手が置かれてそのまま額を撫でてくれる。妲己も少し身体を起こして、姫様と擦り寄ってきた。気分はどうだ、と尋ねられるがぼうっとしたままでよく分からない。今は?、と問い返すと夜だ、と妲己が教えてくれた。夜、と呟いて身体を起こそうとすると妲己が手伝ってくれた。大分眠っていたようで身体が気怠い。尾で抱きとめられるままに身体を預けると温かな妲己の体温が心地良くて安心してしまう。
「もう少し寝ておればよかろうに」
小さく笑いながら頬を撫でてくれる悧羅に、寝過ぎたよ、と返すと水差しから注いだ水を渡された。受け取って飲むと乾き切っていたのであろう身体に染み渡っていくのが分かった。
「あの夜はまだだよね?」
自分も付いて行くと伝えていたから悧羅が置いていくとは思えないが一応尋ねると、明日だ、と返ってきた。そんなに寝ていたのか、と思うと申し訳なくなってしまう。務めにも出ていないから同じ部隊の者たちにも迷惑がかかってしまっている。さすがに休みすぎた、とごちると悧羅は、なんの、と笑っている。
「媟雅はちと気を張り続けておるからの。丁度よい休息じゃて」
「明日は出るよ。夜には大事な母様の務めもあるんだし。部隊の仲間達にも迷惑かけちゃってるから」
少しずつ水を飲みながら言うと、よいよい、と悧羅は笑っている。
「夜には務めに着いてきてもらわねばならぬからの。昼間は休んでおきや」
「でも…」
口を開こうとしたが悧羅は静かに首を振っている。想いが通じている者と離れなければらならない気持ちは悧羅にはよく分かる。悧羅の時は子袋まで潰していたので身体の衰弱が酷かったけれど、それよりも辛かったのは紳への想いを鎮めるために自分の心を凍てつかせることだった。想いを寄せる相手に拒まれた時の気持ちは痛いほどにわかり過ぎてしまう。しばらく話していると部屋の戸が静かに開けられた。
「何だ。起きてたの?」
入ってきたのは紳だ。湯を浴びてきたのだろう。髪がしっとりと濡れていた。よいしょ、と悧羅の横に座ると媟雅に手を伸ばして頭をくしゃりと撫でてくれる。
「少しは眠れたか?」
微笑みながら尋ねてくる紳の手が温かくて泣き出しそうになるのを必死に堪える。ただでさえ大変な刻なのにこれ以上の心配をかけるわけにはいかない。だが紳が宮に戻っているということはもう戌の刻や亥の刻は過ぎているのだろう。
「父様今日は早かったの?」
頭から手が離されてから媟雅が尋ねると、さっきだ、と笑っている。
「亥の刻近かったかな?早く帰りたかったんだけどね」
なんでも無いように笑う紳にも明日は務めに出ると言うが苦笑して駄目だと言われてしまう。
「どうせ夜には一緒に行くんだろ?だったら昼間は休んでろ。せめて少しくらい食餌も摂らないと夜も連れてってやんねえぞ?」
ねえ?、と隣を見ながら笑う紳に静かに悧羅も微笑んで頷いている。
「先程からそういうて聞かぬのじゃ。妾も出ずとも良いと言うておるのだがな」
「だって務めは溜まってるだろうし、部隊の仲間に負担かけちゃってるでしょ?」
水を飲みながら言うと紳は声を上げて笑いながら、大した事じゃないともう一度媟雅の頭を撫でた。
「そんなに気にしなくて大丈夫だ。媟雅の分なんて俺が廻ればすぐ終わることだし、隊士達にもそう言ってる。務め自体そんなに増やしてないから」
「…じゃあ父様が大変になってるよ。帰りが遅くなってるのも私の責いでしょ?」
「いいや?全然大変じゃないよ」
くしゃくしゃと媟雅の頭をかき混ぜて、父親だからね、と紳は言う。実際大したことは無かったし何より今は媟雅の心の方が大切なのだ。想う相手と離れなければならない気持ちは紳にも痛いほど分かる。紳や悧羅とは感じている事も違うだろうが落ち着くまでは護ってやりたかった。子ども達は六人全て大切だが媟雅は紳と悧羅にとっては特に思い入れが強い子だ。出来れば紳と悧羅が本当に大丈夫だと思うまではゆっくりさせたいのだが、それを是という媟雅ではないのも知っている。明日の夜は仕方ないとはいえその後も休ませたいが嫌だというだろう。そうであれば明日の大事の前までは休ませておきたい。少し痩せた媟雅に妲己も、二人の言う通りに、と諭している。
“そうでなければ我が許しませぬよ。どうしても主のお務めに行くと言われるのであれば我の背から降りることも許しませぬ”
「妲己もこう言うておるに。ゆるりと休め。妲己が許さねば妾が連れてゆくと言うても聞いてはもらえぬでの」
くすくすと笑う悧羅に、至極当然と妲己は尾で媟雅を包む。妲己にとっても媟雅は特別だ。産まれた時から媟雅は妲己が護ってきたし悧羅や紳よりも妲己に懐いていた。眠るときも妲己さえ居れば泣かないほどに媟雅の側にいたのだ。我儘を言われても否と言えず共に宮を抜け出しては女官達に叱られたものだ。その媟雅が遠い昔の悧羅のように心を痛めているのを放っておけるはずもない。宮に戻って悧羅から眠らせていると聞いた時には、どうしてもっと早く戻らなかったのだ、と思ってしまった。顔を擦り寄せると、くすぐったいよ、と媟雅が小さく笑った。
「何か食べるか?忋抖達もいろいろ買って来てるぞ?媟雅が食べないから専ら自分たちの物にしてるけどな」
肩を竦めながら苦笑する紳に、みんならしいね、と笑いながら弟妹達にまで心配をかけてしまっていることに申し訳なく思ってしまう。言われてみれば少し空腹に感じるがどうしても食べたい、という感じでも無かった。
「今はいいかな。…明日は少し食べるよ。そうでないと連れて行ってもらえないのは困るから」
「そうしてくれ。本当は俺も付いときたいんだけどな。今居ないと不自然になるから、ごめんな?」
謝る紳に、どうして父様が謝るの?、と媟雅は笑ってしまった。紳の務めの大きさは知っているし、今が大変な時であることも分かっている。こんな時に余計な心配をかけている自分の方が謝るべきなのに本当に紳は子ども達に甘い。
「それよりも父様も母様ももう休んで。私は大丈夫だから。妲己もいてくれるし、明日は大変なんだから」
もう遅い刻なのだから二人にも休んで欲しくて言ったのだが、二人は共に笑っているばかりだ。
「そう大したことはないえ?すぐに終わる故」
「確かにすぐ終わるだろうね」
何をするのかは知らされていないが二人がそう言うということは本当にすぐ終わるのかも知れない。だがそれでも紳は務めの後であるし悧羅も明日のために動いている荊軻達と企てを密にしている。合間を縫って媟雅の側にいてくれているのだろうから多少の疲れはあるはずだ。
「とにかく良いから休んでよ。すぐ終わるって言われても二人が疲れてたら話にならないでしょ?」
空になった湯呑みを取り上げる悧羅に言うとまた小さく笑っている。本当に休んで、ともう一度いうと分かったと笑いながら二人が立ち上がる。
「じゃあ妲己に任せるよ。眠れるなら寝るんだぞ?」
うん、と頷く媟雅の頬を撫でてから紳は悧羅と共に部屋を出た。自室に向かいながら悧羅の手を取ると案ずるな、と穏やかな声がする。でもさ、と嘆息する紳の繋いだ腕に空いた腕を絡ませて悧羅は身を寄せた。大事無いはずじゃ、と見上げながら微笑まれて紳は苦笑するしかない。
「…舜啓も聞きたいんだろうけどさ。さすがに俺には聞けないみたいでね。でも隊に出てない媟雅を探してる風なんだよね」
知らないふりするのも楽じゃないんだよ、と言いながら自室の戸を開けて中に入る。では良いではないか、と笑っている悧羅を抱き上げて寝所に横にすると、おや?、と首を傾げられる。
「媟雅があの調子である故、このところ無かったではないか?」
意地悪に笑って頬に触れる悧羅に、そうなんだけどね、と紳も苦笑しながら口付ける。媟雅が寝込んでから丁度悧羅が物忌みに入ったのもあって紳はこのところ悧羅に触れることが出来なかった。物忌みも終わったようだし、紳が堪えられるはずもない。口付けながら自分の寝間着を脱いで悧羅の身体も露にする。数日振りに肌が触れ合って長い腕が首に廻されると、それだけで沸る。
「俺もそうだったから、媟雅の気持ちも分かるし自制しなきゃなあとは思うんだけど…。物忌みの間耐えたんだし…。俺も悧羅と離れてた分は取り返さないといけないしね。刻がどれだけあっても足りないからなあ」
額や頬に口付けながら囁くように言うとその吐息で身体を震わせながら悧羅は、媟雅の事なら大事ない、と教えてくれる。
「何でそんな風に思うの?」
慈しみながら尋ねるが甘い喘ぎを上げながら身を捩り始めている悧羅には言葉を紡ぐことが難しい。手を休めてくれなければ話せない、とどうにか伝えるのだが嫌と笑われた。
「何日振りに触れると思ってるの?触れられなくて俺もおかしくなりそうだったんだから、慰めてもらわないと困る。…墜ち終わるまで止めないよ」
「では話せぬではないか」
どうにか言葉になったのはそれだけだったようだ。甘い声がする中で幾日振りかの悧羅の姿は紳に他の事を考えることを許さない。ただ腕の中にいる悧羅の事だけしか考えられなくなって慈しみ続けると幾度も果てては昇るを繰り返す姿にまた沸らされる。細い身体を唇でなぞりながら細い両足を曲げさせて間を慈しみ始めると慌てたように、それは、と悧羅の腕が紳を押した。滅多にそこを直に攻めることは無かったので、悧羅もこれだけは抗おうとする。逃げようとする悧羅の細腰を強く引き止めて足で逃げられないように少し浮かせてから攻めると悧羅の身体が何度も跳ねて反り返る。嫌だ、と言うが元より紳には聞く気もない。まだ話せる内は溺れきっていない証でもある。時には足の内側や足の指先一本一本に至るまで慈しみながら強い刺激から解いてやるがまたそこに戻ると幾度も果てさせられて力の入らなくなった手がどうにか紳を押し戻そうとする。
それにも駄目、と言い置いて続けるとまた幾度も震えては果てて昇っていく。しっとりと汗ばんだ悧羅の足を抱え上げて奥まで一気に入り込むと息を呑みながら悧羅が果てる。中に入った紳も入る時から狭さを感じていたのに急激に締め付けられては堪らない。耐えられずに一度欲を吐き出すがその刺激でも悧羅は息を呑みながら身体を反った。子を産むと少しばかりは締め付けも和らぐ、とはよく聞く話だったが悧羅に関してはそれがない。むしろ共にいる間、情を交わすたびに入った紳を出さないとでもいうように締め付けてくるのだ。紳以外知る由も無いだろうが、悧羅本人もきっと気づいていないだろう。
「狂うほどに溺れさせて」
そう言われてから遠慮を止めた紳に日々堕とされ始めた頃から始まったような気がするけれど、自分だけを求めてくれているのが伝わってそれがまた紳の悧羅への溺れを深くしていく。腕の中に収まる悧羅にくすりと笑って動き始めると応えるように甘い声と強請るように名を呼ばれる。締め付けも強くなるが耐えて攻めたて続けると泣き出しそうな声で口付けを迫られた。うん、と細い身体を強く抱きしめて深く口付けると響いていた声がくぐもった。求められるままに口付けを繰り返しながら突き立て続けるとその間にも悧羅は昇って行く。
「ああもう…、可愛いすぎるって」
果ててぐったりとしながらも紳を呼び続ける悧羅を抱き上げて座ると身体を胸に預けながら仰ぎ見てくる。荒れた息の中から名を呼ばれてますます紳も沸ってしまう。限界?、と意地悪く尋ねながら悧羅を押し付けると、深い、と喘がれてしまう。
本当に可愛いくて仕方ない。背中を指でなぞるとぶるりと震えるほどに敏感になった姿に目を細めると、まだ足りない、と乞われた。睦み合わない事など物忌みの数日だけでも長すぎるくらいなのは悧羅も同じだ。出来れば紳とずっとこうしていたいほどに刻はどれだけあっても足りない。果てさせられすぎて視界は眩むし手足も痺れているが、それでも足りずに求めてしまう。攻め立てられて押さえつけられながら最奥で紳が欲を吐き出しても、まだ、と自分の中から出ることを許してやれない。
「そんなに欲しい?」
悧羅の中で再び沸り始めるのを感じながら深く口付けると力の抜けた腕が首に廻される。
「当たり前じゃ…、まだまだ足りぬ…」
潤んだ目で見つめられて紳は笑ってしまう。
「何でそんなに可愛いの?…困るよ、いつまでも悧羅に堕とされ続けてるんだけど。毎日毎日愛しい思いが深くなってるんだよなあ」
くすくすと小さく笑って預けられた身体を抱きしめて言うと、同じじゃ、と悧羅も荒れた息の中から笑いながら言う。
「妾とて日々紳に堕とされ続けておるに。心も身体もな。…欲しゅうて堪らぬほどに」
「…またそんな可愛いことばっかり言って…。じゃあまだあげるから、どうして媟雅は大丈夫だと思うのかだけ教えてよ」
沸った自分を悧羅の中に押しつけながら忘れてしまう前に尋ねるとますます奥に入り込まれて喘ぎながらしがみついてくる。
「そんなに入られると言えぬではないか」
甘い声のまま訴えてくる悧羅に、そうだねえ、と笑いながら少し動く。更に甘えた声を出す悧羅に我慢出来ずに動き続けると細い身体がびくりと上に跳ねようとする。逃がさないようにしっかりと押しつけて動く勢いを増すと悧羅もまた自分が逃げだしてしまわないように細い腕と足で紳にしがみついた。互いに荒れた息を切らしながら名を呼び合うと紳が堪らずに悧羅の唇を乱暴に奪う。しっとりと汗ばんだ肌を触れ合わせながら口も塞がれたままで呼吸も出来ないけれど、全てを紳に捧げている悧羅にとってはこの瞬間、この刹那が倖で仕方ない。激しく突き立てられて奪われたままの口から、もう、と又果ててしまいそうなことを伝えると、勢いを増して突き立てられる。艶めかしい姿も何もかもが愛しくてどうしようもない、と伝えてくれる紳に応えながら共に果てるが、紳は止まらない。
ぐったりと力の抜けた悧羅の身体を横たえてまた攻める。紳しか見れない悧羅の姿に自分に限界などないかのように沸り続けてしまう。それに抗うこともなく受け入れ続ける悧羅にもまた限界など無いように思えた。潤んだ目から涙が溢れても悧羅が苦しんでいるわけでは無いことをもう紳は知っている。荒れた息の中から一応、やめる?、と悪戯に攻めたてながら聞いてみるが応えなどわかりきっている。懸命に首を振りながら、嫌だ、と言ってくれるのを見たいのだ。紳が望む通りに身体を反り返しながら首を振って、嫌、と言ってくれる。だよね?、と分かっていた応えに満足しながらより勢いを増してより深く突き立てると悧羅の身体が大きく跳ねあがった。それでも、まだ、と強請られて勿論だ、とそのまま今度はゆっくりと動く。激しすぎる動きから緩徐な動きになって悧羅が腕の中で身を捩る。
吸い上げすぎて赤く染まった唇を啄むように口付けると、もっと、と強請られた。
「…もっと…、深く…。…もっと…強く…っ」
頼む、と乞われて紳は強く悧羅を抱きしめる。こうしている刻だけは互いの事さえ考えていればいい。本当にどうしてこんなに欲しいのか分からない。手に入れているのに、それでも尚求めてしまう。ゆっくりと動きながら、どれほど愛しいかを伝えると同じだと言ってくれる。力の抜けたはずの腕を懸命に上げて紳の両頬を包んで引き寄せながら深く口付けてくる。
「…はやく…、強く…壊してたも…」
見つめられてぞくりと背中に走る震えを感じながら、すぐにも攻めたてたいのを紳は堪えた。媟雅についての応えを聞いていなかったのを思い出したのだ。尋ねると、今か?、と荒れる息と喘ぎの中から不満そうに聞いてくる。
「今でないと聞けないと思うんだよね、俺。これから先は壊すから」
悧羅の望み通りに、と赤く濡れた唇を舐めるとそれだけで身体を震わせた。でないと動かないよ?、と額に口付けながら深く入り込むと、喘ぎを上げながら悧羅の腕が落ちる。両の指を絡ませて布団に押し付けると、早く、と先を促す。
「早く話してくれないと俺が我慢出来なくなってるよ?」
「…話せば壊してくれるのかえ…?」
喘ぐように言われて、望むまで、と紳は笑った。
「ただ、そう思うだけじゃ。あれらは離れられぬ、とな。紳と妾のように離れようと心を凍てつかせても戻ってしまう。あれから数日経っておる故、舜啓の頭も冷えたであろうからの…」
ふうん、と言う紳に、それに、と悧羅は続ける。
「明日は妾の本領が出るであろ?であればそれも僅かばかりの手伝いにはなろうて」
「なるほどね。確かに悧羅があれを使えば正気でいれる奴なんていないもんね。本心が出ちゃうからな。…でもそうだとすると連れて行く奴らも考えないといけないかなぁ。しばらく務めにもなりそうにないよね」
小さく笑いながら、何より俺が、と口付けるとそれは願ってもない、と悧羅も笑っている。むしろそれが良い、と絡ませた指に力が込められて困ったように紳は声を上げて笑ってしまう。
「里の護りやら後始末やらあるんだから。全員がそんなことになったら困るんだけどな。俺もしなきゃなんないんだよ?」
「紳は妾を鎮めてくれれば良いでは無いか。他の事など任せれば良い」
「またそんな事言って…。自分で抑えられるようになったの知ってるよ?悧羅の意志で出したり引っ込めたり出来るでしょ?」
笑い続ける紳から悧羅は少し拗ねた様に顔を逸らした。
「嫌じゃ。あれを使わば妾もそれなりに沸る。紳が鎮めてくれぬのであらば出し続けるぞ」
「すごい脅しだなぁ。しかも嫌だ、なんてまた可愛いこと言って…。ほんとに参るよね」
逸らされた顔に口付けると、分かったよ、と紳はまた苦笑した。
「出し続けられて変な奴が悧羅に寄って来ても困るしね。そんなんなったら相手を斬り殺しちゃうからなあ」
「…そうだえ?他の男の手などに触れられとうもない。紳でなければ嫌じゃ」
頬を膨らめて顔を戻す悧羅に軽く口付けて当たり前だろ?、と紳も笑った。
「俺のなんだから、誰に触らせるっていうんだよ?そんなの考えたくも無いね」
であろ?、と笑う悧羅か少しばかり身を捩った。悧羅も中に入られたまま動きもされずに焦らされているのだ。そろそろ待ちきれなくなっている。
「それよりも話したのだから…その…、」
恥じらうように視線を逸らして、壊してくれまいか?、と小さく呟くように言う悧羅の姿にに紳はくすくすと笑う。紳も悧羅と同じで焦らされている。中に入り込んだままなのだから常に締め付けられているのと同じ事なのだ。
「約束したからね。でも壊れて堕ちるまで何て言われても止めてあげないよ?」
「…それを望んでおる故。紳で妾を埋めてたもれ」
もう一度、頼む、と微笑まれて紳は苦笑を止めることが出来ない。本当に困った女に溺れてしまった。けれどこの姿を他の男が見る事など耐えられないだろう。
「…俺で良かった?」
動き出すしながら絡めた指を強く握って布団に押し付ける。勢いを増す動きに翻弄されるままの悧羅が、当たり前だ、とどうにか言葉を出す。
「…紳でなけ…っれば…っ!」
これほどに欲しくなど無い、と伝えられた言葉に紳の身体が芯から震えた。それ以上言葉は出なかった。互いに言葉の代わりに睦み合って互いが唯一無二だとその身体に染み込ませていく。
満月の夜まであと一日だった。
遅くなり申し訳ありません。
書いたり消したり繰り返ておりました。
おたのしみいただけましたか?
ありがとうございました。