糺す【拾肆】《タダス【ジュウシ】》
遅くなりました。
更新します。
ギリギリラインばかりなので苦手な方はご注意ください。
夜の見廻りを終えて隊舎に戻った忋抖は隊長でもあり父でもある紳に変わりは無かった、と報せを入れた。分かった、と荊軻への報せをしたため始める紳を見ながらまとめる隊士達に邸に下がっていい、と伝える。疲れた身体を引きずるように隊舎を出て行く隊士達に笑って手を振りながら見送って忋抖は紳に向き直る。
「父様、まだ戻らないの?」
他に隊士が居ない事を確かめてから忋抖も肩の力を抜いた。隊士達の前では隊長と呼ばなければならないが二人であれば特段構うことはない。椅子を持ってきて紳の前に座ると、もう少しな、と報せをしたためる手は休めることなく応えが返ってくる。
「あと一部隊戻って来てないんだよ。もうそろそろだと思うけどな。先に帰ってていいぞ?悧羅もお前たちが帰ってくるのを待ってるだろうから」
「母様が待ってるのは俺たちじゃなくて父様だよ」
笑って言う忋抖に、そりゃそうだ、と紳が笑っている。昨夜初めて見せてもらって触らせてもらった悧羅の腹の疵痕が思い出されて忋抖は小さく息をついた。湯から上がってきた紳は悧羅と子ども達が部屋に入っている事に安堵していたが、疵痕を見せてもらった、と言う皓滓の言葉には少し心が揺らいだように見えた。一瞬息を呑んだ紳に悧羅が、ただの古傷だ、と宥めていたけれど出来れば見せてほしくは無かったのだろうと思った。悧羅の腹に残る疵痕は紳の罪の証だからだろう。思えば幼い頃に皆で湯を使っていた時には疵痕など見えなかった。きっと悧羅が隠していたのだ、と今思えば納得がいく。あれだけの疵痕だ。痛むことも引き攣る事も少なくなったと悧羅は言っていたけれど、全く痛まないはずがない。話としては聞いていたが実際に目にしてみると、当時は壮絶だったろうと容易く思い描くことができる。
男である忋抖には女が自分で子袋を潰すということがどれほどの覚悟であったのかは慮ることは出来ない。けれど自分の責で何よりも愛おしく思っていた女がそういうことをしてしまったら、自分はどうするのだろう、と考えてしまう。しかも今の忋抖よりも歳若かった二人にはその身に余るほどの辛酸と苦痛が伴っただろう。考えるだけでぶるりと震えてしまいそうになる身体を必死に抑えた。
「近頃父様の戻りが遅いから母様が部屋に入りたがらないんだよ。身体壊すっていうのに聞かないんだもんね」
呆れたような忋抖の嘆息に紳は苦笑するしかない。
「じゃあ、今日は中で待っててって伝えてくれよ」
「…聞くと思う?」
「思わないけどね」
でしょ?、と忋抖が肩を竦めた。今までも幾度となく言ってきたがこればかりは悧羅は退かない。仕方ないので上衣くらいは掛けるようにしているのだが、どれだけ紳が遅くなっても悧羅は縁側で待ち続ける。急ぎの務めがある時以外に限られるが、里の主たる事柄は荊軻が取り仕切っているのでそう急ぎの務めが上がってくることはない。必然的にほぼ毎日縁側に座っているのだ。妲己や哀玥が宮にいる時は側に侍っているので少しばかりの暖や身体を預けることができるのだが、その妲己も哀玥も悧羅の命を受けて何やら動いている。もうすぐ始まる企てのためであることは分かっているけれど、どうにも悧羅を一人にしておくのは忍びなくて忋抖を含む子ども達も誰か一人は側にいるようにしていた。専ら玳絃と灶絃が母寄りであるので側にいるのだが、務めに障る、とある程度の刻で部屋に戻されてしまうのだ。であればこそ紳に早めに戻って欲しいのだが、紳もこのところ忙がしくて戻るのは酉の刻を過ぎる事が多い。
「じゃあ出来るだけでいいから早く戻ってきてよね」
椅子を戻しながら言うと、分かってるよ、と紳が大きく伸びをした。
「それよりもお前こそ早く帰らないと、また佟悧から追いかけられるぞ?」
椅子を戻した忋抖に揶揄うように紳が言うと、それは怖いね、と苦笑が出てしまう。十五年前の粛清で図らずも間諜をしてくれていた佟悧が求めた褒美は忋抖と情を交わしたい、というとんでもないものだった。姉のように育った佟悧と今更そんな関係になれるはずもなく、何より一人の女として見ることが出来ない忋抖はそれからずっと逃げ続けている。宮の部屋へ通じる呪も時々悧羅にかけ直してもらい、哀玥が側にいることでどうにか保てているのだ。
「いい加減諦めて欲しいんだけどなぁ。十五年も逃げ続けてるんだから…」
「咲耶の子だからな。そうそう容易く諦めたりしないさ。一回試せば気が済むんだろうけどね」
小さく笑う紳に、無理だってば、と肩を落としながら忋抖は手を振って隊舎を出た。いつもは哀玥も共に動くのだが今は悧羅の命を優先させているので隣に居ないことに少し違和感がある。今日は宮には戻っているだろうか、と考えながら翔け始めて、もうすぐ宮に着くという時になって身体の右側にふわりと何かが巻きついた。は?、と視線を落とすと見慣れた漆黒の髪が見えた。
「やっと捕まえた!」
抱きついたまま顔を上げて笑うのは佟悧だ。気を張り詰めていたと思っていたが、宮が見えて少し力が抜けてしまったようだ。忋抖に気づかれずに身体に巻きつくなどそう易々と出来るものではない。単に悪意も殺気もなかったから見過ごしたと言ってもよいが、やばい、と忋抖は苦笑した。
「…もしかして張ってた?」
どうにか佟悧を離そうとしてみるがしっかりと抱きついた腕は離れる事がない。だってさ、と頬を膨らませながら余計に腕に力を込められてますます忋抖は苦笑を深めた。
「忋ちゃん、お部屋の場所も変えちゃうし、悧羅ちゃんに頼んでちょこちょこ呪もかけ直してもらってるでしょ?哀玥ちゃんも側を離れないしさ。なかなか一人にならないから大変だったよ」
「いやいや…ってそんなにずっと張ってたのかよ」
何とか腕を外そうとするが、大変だったんだからね、と佟悧はますます頬を膨らませている。そこまでしなくても佟悧が他に情を交わしている相手がいることは忋抖も知っている。別に忋抖としたいからと言っていても本能に逆らわないのは佟悧らしい。巻き付けられた腕を外すのを諦めて嘆息すると、ふふふ、と佟悧が笑っている。
「別に俺じゃなくてもいいでしょ?そういう事する相手は持ってるじゃないか」
「それは忋ちゃんだって一緒でしょ?」
当たり前のように首を傾げられて忋抖は苦笑するしかない。確かに言われてみればそうなのだが。
「もういい加減に諦めてよ?十五年も追いかけっこしてるんだよ?…それとも忋ちゃん恋仲の相手がいる?」
「…いや、そうじゃないんだけど…。何度も言ってるじゃないか。佟悧は俺にとって姉みたいなもんだからそういう相手として見れないんだって」
空いた左手で頭を掻きながら言ってみるが、またそんなこと言う、と佟悧は納得しない。これも十五年言い続けてきたことだから聞き飽きたとでも言うように大きく溜息をついている。
「大体何で俺にそこまで拘るんだよ?他で我慢してろって」
「だからぁ、一回してみたいんだって。合うかもしれないでしょ?姉みたいとか言わずに忋ちゃんも折れてよ」
もう、と肩を落としながら佟悧は忋抖の腕を引っ張り始める。何気に強い力に体勢を崩しそうになる忋抖の腕を離さずにそのまま翔け始めた。おいって!、と待つように声を掛けるが佟悧は止まってくれない。力付くで振り払うことは出来るのだが、やはり自分より力の弱い鬼女に対してそれをするのは忋抖には憚られる。
「佟悧、待てって!何処に連れて行くつもりだよ!?」
どうにか足を止めようとするが翔ける足を止めない佟悧に引きずられてしまう。いいからいいから、と笑いを含んだような声音に、本当に待てって!、と言ってみるが全く聞かない。結局引かれるままに連れてこられたのは佟悧が任されている診療所だった。今は佟悧はここで寝泊まりをして医師として里を廻っている。戸を開けて中に入ろうとする佟悧に、いやいや、と忋抖は慌てて首を振った。どうにか戸を潜らないようにそこに留まる忋抖に、ほんとにもう、と佟悧が大きく嘆息して腕を離した。離しても何も言わずに逃げる忋抖ではないと分かっているからだ。
「…本当に頑なだよね…。そんなに拒まれると佟悧に魅力が無いように思えちゃうよ」
くすくすと笑う佟悧に、そういうわけじゃないよ、と忋抖も小さく笑う。姉のように思っているのでなければここまで誘われて嫌だとは思わないだろう。本当に大切な家族のような存在だと思っているから拒み続けられるだけだ。
「…本当に勘弁してよ…。佟悧とそんな風になっちゃったら、これから先顔合わせるのも気まずくなるしさ。それも嫌なんだよね」
「そんなのいつも通りでいいに決まってるじゃん?情を交わしたからって忋ちゃんと佟悧の関係が変わるもんでもなし。そういうことしてる相手とだって関係や態度は変わらないでしょ?それと一緒だよ」
「じゃあ、もしもそういう風になったとしてさ?合うってなったらどうすんの?」
「それも変わらないでしょ?合うってなったら次またすればいいだけ。…何が問題なの?」
きょとりとしてさも当たり前の事のように言い放ちながら佟悧が首を傾げた。佟悧としてはただ鬼としての本能に従っているだけだ。姉弟のように育ったとはいえ血の繋がりはない。忋抖と情を交わしてみたいというそれだけの事なのだ。容易く言われて忋抖も苦笑するしかない。きょとりとしている佟悧に、あのねえ、と小さく息をついて頭を掻いてしまう。とにかくこの場から離れないと押し倒されてしまいそうだった。
「まあ、とにかくさ。もうちょっと考えさせてよ?ね?」
落ち着けようと思ったのだが、もう!、と佟悧が頬を膨らませて忋抖の腕を掴んで力一杯に引き寄せた。わ!、とぐらつきながら忋抖は診療所の中に引き込まれてしまう。引き込むと同時に戸を閉められて、まずい、と焦っている忋抖にぐいぐいと佟悧が近づいて来る。
「いや、待てって…。ほんと、ちょっと待てって!」
追い込まれるように後ずさる忋抖の背が部屋に繋がる戸にぶつかった。逃げようと思えば逃げられるだろうが、それで佟悧を傷つけるのも嫌なのだからどうしようもない。
「佟悧、ちょっと落ち着こうよ?な?」
後ろに下がることもできなくなって両手でこれ以上近づかれないようにしてみるのだが佟悧は全く気にしていないようで忋抖の手を掴んだ。
「もう少しもう少しって言われ続けてもう十五年も経ったの!いい加減に覚悟きめてよね?」
「いや、だから佟悧をそういう風に見れないって言ってるんだってば」
幾度も伝えてきた言葉だがそれで退くとも思えない。逃げるよりも落ち着けるように話した方がいいかもしれなかった。掴まれた手を降ろすと佟悧も手を離してくれる。背中に当たる戸を少し開いて腰掛けると、もう一度大きな溜息を忋抖はついた。隙を突いて逃げるつもりもないと示したのだが、それには佟悧も満足そうだ。これまで忋抖が逃げ廻っていたのだからやむを得ない反応だろう。
「べつに佟悧自体が嫌ってんじゃないんだよ。とにかく姉みたいな印象が強くてそういう対象として見れないんだ。俺と情を交わしたいって言ってくれるのは凄く嬉しいんだけどね?俺好みの顔してるしさ。だけど、どうしても踏み込んだ後の事を考えると無理なんだよね。分かってくれたら嬉しいんだけど…」
出来るだけ穏やかに佟悧を見ながら伝えると大きく嘆息している。
「まあ、忋ちゃんの理想って悧羅ちゃんだもんね。逃げてたかと思えばちゃんと話す時には話すしさ。そういう所が狡いんだよねえ」
本当にもう、と肩を竦めている姿に、分かってくれた?、と笑った忋抖は次の瞬間に目の前に来た佟悧の顔に驚いて後ろに倒れ込んでしまった。あっぶねえ、と身を起こそうとしたが身体の上に佟悧に乗られて身動きが取れなくなっている。もうさ、と呟くようにいいながら佟悧の両手が忋抖の顔を包んだ。
「…ごちゃごちゃ煩い…」
目の前でにっこりと笑って佟悧はそのまま忋抖に深く口付けた。慌てて押しのけようとするが佟悧は唇を離さずに自分の衣と忋抖の隊服の紐を解き始めている。
「待てって!」
ようやく口付けから解放されて佟悧を押しのけようとするが少し露になった肌が触れ合ってしまっては忋抖の意思とは逆に身体が沸ってきてしまう。するりと衣をずらしてもう一度佟悧が忋戸の上に乗ってくる。
「…もう諦めてよ。いい加減佟悧も限界だよ?」
熱で沸っているのか潤んだ目で見つめられて忋抖が言葉を出せずにいるとまた深く口付けられる。さらりとした肌が触れる感触に忋抖は無意識に佟悧の背に腕を廻して抱きしめた。長い口付けから解かれると佟悧の息が上がっている。ここまでされて放って戻るほうが酷だろう。分かった、と諦めて嘆息すると目の前の佟悧が破顔する。それに苦笑して、寝所は?、と尋ねると一部屋先だ、と教えられた。上に乗ったままの佟悧を抱え上げて部屋の中に上がり寝所に入るとそのまま横たえる。
「変わってくれるなよ?」
苦笑して深く口付けながら互いの衣を剥いで捨てる。そのままいつも情を交わすように慈しみ始めると、くすぐったいよ、と小さく笑っていた佟悧から少しずつ甘い声が上がってくる。いつもの自由奔放な佟悧の姿とは違う表情と声に忋抖は小さく湧きでる笑いを堪えきれずにくすくすと笑ってしまう。
「…何…?」
潤んだ目で見つめながら顔を包まれると忋抖の顔が引き寄せられる。まるで口付けを乞われているようでそれにも笑って半ば乱暴に唇を重ねた。その間にも手を休める事なく慈しみ続けると身体の下で佟悧が身を捩り始める。
「忋ちゃん」
乞われたけれど、まだ駄目、と忋抖は佟悧の身体の至るところに口付けていく。
「誘ったのは佟悧でしょ?そんな容易く終わらせてやらないって」
笑いながら佟悧の足の間に顔を埋めて慈しむと佟悧の身体が逃げようとして忋抖の肩を押す。その腰を支えて引き戻すと、やあだあ、と甘い声と共に身体が大きく跳ねた。それでも逃がさないように続けて慈しむと二度三度と身体が反り返って果てて行くのが分かる。都度聞いたこともない佟悧の声にぞくりと震える自分を抑えて腰の腕を離すと、少しぐったりとした佟悧が忋抖を呼ぶ。何?、と佟悧の額に口付けるとそれだけでびくりと身体を震わせている。
「忋ちゃん…。佟悧もう本当に限界。とにかく一度入ってよお」
「…これだけ煽っといてそれはないでしょ?焦らすだけ焦らすよ、俺」
意地悪に笑って見せながら首筋をなぞると、お願い、とまた乞われる。駄目、と笑いながら慈しむ手を休めずにいると又佟悧が身体を捩り始めた。甘い喘ぎを聴きながら思っていたよりも細い佟悧の身体を慈しんでいるとその間にも幾度も反り返り都度名を呼ばれる。荒れた息と泣き出しそうなくらい甘い声で忋抖を呼ぶ姿はしっとりと汗ばんで艶かしさを煽る。
確かに肌を重ねなければ分からないこともあるもんだ、と初めて見る佟悧に目を細めているとまた腕の下で身体を捩って逃げ出そうとしていた。
「どこいくの?逃げちゃ駄目だろ?試したいって言い続けてたのは佟悧じゃんか」
うつ伏せになってどうにか身体を離そうとする項を唇でなぞるとびくりと身体を震わせて甘い声を出してくる。布団を掴んで逃げようとする身体をどうにか繋ぎとめようとする姿は可愛いらしくてまた忋抖は笑ってしまう。何で笑うの?、と甘い声の中から聞かれて、何でだろうね?、とだけ応えてまた笑う。囁くように肌に唇を沿わせると幾度めかも分からずに佟悧が果てた。それでも手を休めない忋抖から無意識にまた逃げようとする身体を引き止める。
「逃げちゃ駄目だって言ってるだろ?」
笑いながら身体を抱えて向かい合わせになると佟悧の腕を片手で押さえ込んだ。幾度も果てさせられてくったりとした佟悧がとろりとした目で忋抖を見てくる。荒れた息で紅く染まった唇を啄むと、もっと深く、とねだられてしまう。本当にいつもの佟悧からは考えられない姿に、また忋抖は苦笑してしまった。ねだられるままに深く口付けて細い片足を抱え上げて自分の肩に乗せる。そのまま勢いよく中に入り込むと幾度も果てていた佟悧が忋抖を強く締め付けてきた。唇を塞がれたまま一気に入り込まれて佟悧が息を呑んだけれど、休ませることなく動き始めるとくぐもった声を出しながらも忋抖にしがみついてくる。動いている間にも佟悧の身体は反り返り幾度も果ててはまた昇っていく。
口付けから解放すると堪ない、というように甘い喘ぎとともに首を振って嫌だ、と示す。入っている忋抖も佟悧が果てるたびに締め付けられてつい、きっつ、と呻いてしまう。喘ぎの中から何度も、ちょっと待って、と哀願されるが止まってやれることが出来ないでいると佟悧の目から涙が溢れた。
やっべえ、やり過ぎた。
とりあえず動きを止めるとしがみつかれていた腕が力なく落ちてぽすりとした音がする。
「悪い、止まれなかった」
謝りながら流れ落ちた涙を拭いてやると潤んだ目で見つめながら佟悧が腕を伸ばして頬に触れてきた。
「…忋ちゃんて…、意地悪だ…」
引き寄せられて口付けると、いつもこんななの?、と小さく笑っている。
「さあ?どうだろうね?…何て応えて欲しいの?」
笑いながら額を付けると佟悧もくすくすと笑い始めた。肌が触れ合う感触は嫌なものではない。けれど、ここまで攻めたてた事は無かったかもしれない。
「佟悧、癖になっちゃうかもしれないよ?」
もう一度口付けられて忋抖の背中に震えが走る。いいよ?、と笑って応えると少しばかり驚いたのか目を見開いている。
「もうしちゃってるし。癖になったらなったで又誘いにくるんでしょ?…正直こうしてるの俺も嫌じゃないからね」
「だからずっと言ってたじゃん。やっと分かった?恋仲になりたいわけじゃなくて触れ合うのがどうなのか知りたいんだって。…もっと早く折れてくれてたら良かったのになあ」
息を整えながら言う佟悧に笑って、それはそれ、と忋抖は又動き出す。今までよりも深く入り込まれて、ようやく整いそうだった息もまた乱れ始める佟悧を抱き上げて座るともうそれだけで難なく果てていくのが分かる。今までよりも強く締め付けられて自分が果てそうになるのを堪えてから一旦動きを止めるとぐったりと忋抖の胸に佟悧の身体が預けられた。
「じゃあ今まで通りってことで良いんだよね?俺も他と情は交わすし、佟悧も他と情は交わす。でもしたくなったら誘う」
「…それもずっと言ってるでしょ?佟悧別に忋ちゃんを縛りたいわけじゃないもん」
腕の中から見上げてくる佟悧は頬を膨らませている。でもさ、と小さく首を傾げて呟くように続ける佟悧に、何?、と尋ねると腕が首に廻された。
「こんな忋ちゃん知っちゃったら、他の女に少し嫉妬するかもなあ。でも約束だから、それでいいよ」
にっこりと微笑む佟悧につい忋抖は声を上げて笑ってしまう。
「それでこそ佟悧だよな。…ってか佟悧って可愛いかったんだな」
「はあ?今頃気づいたの?」
呆れたように嘆息する佟悧を引き寄せて口付けると、悪い、と忋抖は謝ってから再び動き出した。今の今まで普通に話していた佟悧からまた甘い声が聞こえ出してそれでも離れないようにしっかりとしがみついてくる。背中に爪が立ったけれど構わずに突き続けると立て続けに佟悧が果てていく。さすがに締め付けが強くなり過ぎて忋抖も堪えられそうになかった。
癖になるのは俺も同じかもしれないな、と思いながらも突き上げ続けると甘い声の中から名を呼ばれる。何度も名を呼ぶ口を乱暴に口付けて塞ぐと上に跳ねる佟悧を押しつけて共に最奥で忋抖も欲を吐き出した。その刺激で震える身体を又押し付けるように留めおいてようやく唇を離すとまたくったりとした身体が胸に預けられた。小さく笑いながら抱きしめて、大丈夫?、と頭に口付ける。
「…やっぱり癖になりそうだよ。…しばらく忋ちゃん以外欲しくなくなりそう…」
まだ中から出ていない忋抖に甘えるように擦り寄って言う佟悧が可愛くてまた忋抖は笑ってしまう。
「確かに相性は良いかもな。…でもそんな見たことない佟悧ばっかり見せられたら、もう一回したくなるだろ?俺、そういえば母様に部屋に入っててって父様が言ってたって伝えなきゃなんなかったんだよな」
思い出した忋抖に、今更?、とまだ力の入らない身体を預けたままで佟悧が笑っている。
「さすがに紳ちゃんも戻ってるよ。それよりもう一回したいって本音?」
うん?、と忋抖は苦笑する。まだ出ていないのだから佟悧の言葉で沸ってきているのは分かるだろうに。
「嘘だったらとっくに出てるよね。分かるでしょ?」
入ったままだった忋抖が沸り始めると佟悧がまた震えだす。本当みたいだね、と甘い声で言われて反り返り始める身体を強く忋抖が抱きとめて深く中に入り込んだ。
「…そういうわけなんで、もう一回いい?」
笑いながら言う忋抖の頬を包んで引き寄せて口付けながら、もちろん、と佟悧も笑っている。
「十五年も待ったんだからね。ちゃんと支払らってもらわないと佟悧がどうにかなりそうだったんだから。利子も付けてよね」
了解、と苦笑してまた二人は快楽に溺れ始める。甘い喘ぎの中から何度も艶かしく名を呼ばれ続けて忋抖もしばらくは佟悧で賄えそうだ、と思いながら目の前で自分に応える佟悧に思う存分溺れてみることを決めた。
満月まで後八日になっていた夜だった。
遅くなってすいません。
忋抖が、ついに堕ちてしまいました。
これから先ギリギリラインが続く予定です。
苦手なかたは御了承下さいませ。
お楽しみいただけましたか?
ありがとうございました。