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糺す【肆】《タダス【シ】》

こんにちは。

遅くなりましたが更新します。


ギリギリラインばかりになってしまったので、苦手な方はご注意を下さい。

一昼夜(イッチュウヤ)ぶりに戻った宮はすでに寝静(ネシズ)まって暗くなっていたが、(シン)悧羅(リラ)の自室にだけは(ホノ)かに(アカリ)(トモ)されていた。(モド)らなかった昨夜(サクヤ)もきっと磐里(バンリ)加嬬(カジュ)支度(シタク)だけは(トトノ)えていてくれていたのだろう。()が明ければ又大国(タイコク)に降りて確かめなければならない事が多々(タタ)あるが、まずはゆっくりと湯を使いたかった。悧羅を抱き上げたままで何も言わずにそのまま湯殿(ユドノ)に向かう紳もどうやら同じ思いの様だ。


「変わりがなかったわけでも無さそうだね」


宮の気配(ケハイ)(サグ)っていると紳が小さく笑いながら悧羅を見る。言わんとすることは悧羅にも分かった。いつもの子ども達と妲己(ダッキ)女官(ニョカン)二人の気配(ケハイ)の他にもう一つ馴染(ナジ)みのある気配(ケハイ)を感じたのだ。しかもそれは二人の娘である媟雅(セツガ)と共にいるのが感じ取れる。そのようだ、と笑う悧羅と共に湯殿(ユドノ)に入り二人で湯を使っていると、どちらともなく笑いが出てしまう。くすくすと笑う悧羅に湯を掛けながら、紳は、何だか複雑(フクザツ)なんだけど、と小さく嘆息(タンソク)した。その気持ちは悧羅も同じではあったが、媟雅(セツガ)が自分の意思(イシ)で決めた事ならばなにも言うことはない。


「その様なことを言うたとて、紳とて媟雅(セツガ)(トシ)の頃には(ジョウ)()わす者くらいおったであろ?」


揶揄(カラカ)うように言う悧羅に、それはそうだけど、と紳が頭から湯を掛ける。


「そんな意地悪(イジワル)言わないでよ。…あ、ちょっと()いてくれてる?」


顔に掛かった湯を()きとっている悧羅の顔を(ノゾ)き込んで少しばかり(ウレ)しそうな顔で見られて悧羅は、少しな、と苦笑した。(コタ)えを聞くなり深く口付けられて体勢(タイセイ)(クズ)しそうになった悧羅の身体(カラダ)を紳が抱きとめる。


「悧羅に()かれるのって俺(スゴ)(ウレ)しいんだよね」


(クチビル)は離したが悧羅の身体は離さないままで紳が嬉しそうに笑う。そのまま抱き上げて湯に()かるとまた深く口付けられて悧羅は身体の(シン)(シビ)れてしまう。


「…また其方(ソナタ)はそのようなことばかり()うて…」


(ミダ)れた息の中から()めるように(ツブヤ)く悧羅に紳は、本当に(ウレ)しいんだよ?、と笑いながら今度は(ツイバ)むように()れた(クチビル)()いあげてくる。ますます身体が(シビ)れてきて、紳、と悧羅は名を呼ぶしかない。(ウル)んだ目で見つめられながら()われて紳は笑みを深くする。揶揄(カラカ)われた仕返(シカエ)しとでも言う様に、なあに?、と意地悪(イジワル)に笑っている。(スデ)に身体が(シビ)れ始めてしまった悧羅は困った様に首を(カシ)げて紳の(ホオ)(ツツ)んだ。


寝所(シンジョ)に入ってはくれぬか?」


とろりとした目で()われて、ここじゃなくていいの?、と紳は苦笑している。


媟雅(セツガ)達が来るやもしれぬからな。…寝所(シンジョ)までは持つであろうて」


「…そんなに(コラ)えきれなくなったゃったの?」


くすくすと笑いながら悧羅の背中を指でなぞるとそれだけで悧羅の身体がびくりと()り返る。だからならぬと言うに、とますます(ウル)む目で見られて紳も自分が(タギ)るのを止められなかった。これは本当に悧羅の言う通り寝所(シンジョ)に入らないと、朝までここで()()いてしまいそうだった。わかった、と悧羅を離して湯船(ユブネ)を出てから身体の水気をふわりとした手拭(テヌグ)いでとっていく。一足先(ヒトアシサキ)寝間着(ネマギ)(マト)った紳が悧羅の髪の水気(ミズケ)を拭き取ってくれる。髪を(マカ)せて悧羅も寝間着(ネマギ)(ソデ)を通して整えると、ある程度髪の水気(ミズケ)を取った手拭(テヌグ)いを紳は投げ捨てた。


手を引いて自室に入ると(ツクエ)の上に支度(シタク)されていた水差しから互いに水を飲む。火照(ホテ)った身体が少しは冷えるか、とも思ったのだが二人には全く効果(コウカ)がなかった。まあ無理だよね、と苦笑しながら紳は悧羅の手を引いて寝所(シンジョ)に入る。互いに(コロモ)を脱ごうとして、紳が悧羅の手を止めた。おや?、と首を(カシ)げる悧羅に、駄目(ダメ)だよ、と言い聞かせた。


()()は俺がしたい事なんだから、楽しみを取り上げないでくれる?」


「そういうものなのかえ?…紳は(ワラワ)には分からぬことを楽しみにしておるのだな」


くすりと笑って悧羅は寝間着(ネマギ)をもう一度整えた。まあ分からないかもね、と苦笑しながら悧羅の寝間着(ネマギ)をずらして白い肌を出すと口付けながらそのまま布団(フトン)に押し倒す。しなやかな腕が紳の首に廻されて、紳の身体の(シン)にも(シビ)れが走る。いつものように|慈《イ《ツク》しみを始めようとした紳に悧羅が首を振った。


「なあに?どうしたの?」


笑って聞く紳に悧羅が小さく笑って見せた。


「…ここまで(コラ)えたのだえ?…まずは(ワラワ)の中に入ってはくれまいか?」


()じらいながら紳から少しだけ視線(シセン)(ハズ)して()げられて、ああもう!、と紳は悧羅を強く抱きしめた。細い(アシ)を片方だけ持ち上げて一気に悧羅の中に入り込む。するり、と受け入れてくれた悧羅は願ったものの一気に中に入り込まれて甘い声を(コラ)えきれなかったようだ。奥まで入り込んで一旦止まると紳は悧羅の頭を撫でる。


「そんなに俺が欲しかったの?」


(ヒタイ)に口付けながら聞くと、困ったように悧羅が小さく笑っている。


「…そうでなければ願わぬであろ?…早く(モラ)わねば嫉妬(シット)でどうにかなってしまうほどに」


「それを言うなら俺だって嫉妬(シット)でいつも(クル)いそうだよ?俺以外にも悧羅の(ナマメ)かしい姿を知ってる奴がいるんだから」


(ヒタイ)を付けて(ササヤ)く紳に、おや?、と悧羅がきょとりとした。


「…(ワラワ)は紳に伝えておらなんだかの?」


首を(カシ)げる悧羅に、何を?、と紳が聞き返すしながらもっと奥に入り込むと甘い声が聞こえた。


「妾は紳と情を()わすまでこのように(ミダ)れたことなどなかったえ?ただひたすらに()えておっただけのことであった(ユエ)。声を上げたことも(コタ)えたことも、()てたことすらない」


(アエ)ぎそうになる声を(コラ)えながら伝える悧羅に、え?、と今度は紳が首を(カシ)げた。


「…本当に…?」


()き上がってくる幸福感(コウフクカン)を必死に抑えながら聞く紳に悧羅は何でもないように大きく(ウナズ)いている。


(ハナ)()れさせとうなかった(ユエ)寝間着(ネマギ)を取ることも許しておらなんだ。寝間着(ネマギ)の上から()れられたことはあったがな」


「何でそこまで我慢(ガマン)したの?(コラ)えるのって、かなりきついでしょ?」


(ジョウ)()わすのは鬼にとっては本能(ホンノウ)のようなものだ。(チギ)りを()わさずともただの日々の愉悦(ユエツ)の一つでもある。悧羅と出会う前の紳もそうやって(ジョウ)()わしながら過ごしていた。()ってくる鬼女(キジョ)は多かったから自分で(サガ)したり(サソ)ったりすることまではしなかったけれど、(サソ)われて別に(イヤ)だと思わなければ(オウ)じていた。男鬼(ダンキ)にとれば鬼女(キジョ)を自分の腕の中で(ミダ)れさせ()てさせることが(タノ)しいものなのだ。(コラ)えられればそれだけどうにか(コラ)えられないほどに()め立てて(ミダ)れさせるように(ツト)める。それを(コラ)えるのは鬼女(キジョ)にとっても(ツラ)いものではないのか、と思う。鬼としての本能(ホンノウ)にさえ(サカ)らっている、ということにもなるからだ。


まあ、紳にとっては相手が()てようが()てまいが自分の(ヨク)さえ吐き出せれば良かったので、そこまで相手を(イツク)しむようなことはしていなかったけれど。


今思えば最低なことをしていたものだ、と自嘲(ジチョウ)する紳に悧羅の声が届く。


(コラ)えておったわけではない。…ただ苦痛(クツウ)であっただけ(ユエ)嫌悪(ケンオ)しかなかったからの。快楽(カイラク)など求めてもおらなんだし、(ハヨ)う終わることだけを考えておったに。(ハダ)()れ合うことすら(イヤ)であったな」


(マユ)(ヒソ)めて思い出したくもない記憶を辿(タド)ると、小さく嘆息(タンソク)が出てしまう。腕の中に容易(タヤス)く収まっている悧羅の(ホオ)に紳が口付けると(ヨミガエ)っていた思い出から()(ハナ)たれる。


「じゃあ、(ハナ)(ジカ)(サワ)らせたことないの?」


うん?、と悧羅が首を(カシ)げた。()れられないように(カク)していたのは事実(ジジツ)だ。夜伽(ヨトギ)の礼を取りに来た者達にも、寝間着(ネマギ)を取らないことと(ハナ)に触れないことを制約(セイヤク)させていた。


「…まあ、そうだの。出来るだけ…、とでも()うておこうかの。(コロモ)の上からは触れられておったに。…ああ、唯一(ユイイツ)許しておったは舜啓(シュンケイ)だけであったな。共に湯浴(ユア)みをしておった(ユエ)


共に湯浴(ユア)みをすると、すっごおい、とにこにこして華に触れたがる舜啓(シュンケイ)にはさすがに悧羅も駄目(ダメ)だとは言えなかった。何より自分の子のようなものだ、と思っていたから特段(トクダン)許しを与えるものでもなかったのだ。


「…なあんだ、じゃあ悧羅の()()()()姿()を知ってるのは俺だけなの?」


考えに(フケ)っていた悧羅を紳が勢いをつけて突き上げ始める。前触(マエブ)れもなくかき(ミダ)されて息を()みながらどんどんと(ノボ)らされて込み上げる声を(オサ)えることも出来ずに悧羅の身体が()り返って中に入ったままの紳を()め付けた。(ハゲ)しく()めつけられて()てそうになるのを(コラ)えながら紳は悧羅を()がさないように強く抱きしめる。(イキオ)いを(ユル)めることなく、(サラ)()めたてると何度も何度も悧羅の身体が()り返り、その(タビ)に強く紳を()めつけた。


「しばし…っ」


待て、と言いたいのだろうことは分かったがそれを聞いてやれるほど今の紳には余裕(ヨユウ)がなかった。


初めて悧羅と(ジョウ)()わした時に腕の中で(ミダ)れて(アエ)いで幾度(イクド)()てる(ナマメ)かしい悧羅の姿と、細くしなやかな身体(カラダ)と左肩に美しく咲く(ハス)(ハナ)を先に見て()れたことのある男がいるのだ、ということに(ハラワタ)千切(チギ)れそうだった。()()()手を離さなければこんな姿を誰に見せることもなく紳だけのものにしておけたのに、と思えば(クヤ)しくて仕方(シカタ)がなかった。破瓜(ハカ)の相手も自分が(ツト)めたかった、と心の底から後悔(コウカイ)した。


けれど、悧羅から初めて聞かされた言葉は紳にとってこれ以上無いほどの(サイワイ)だった。腕の中から自分の名を呼んで(イツク)しむ事に(アラガ)いもせずに(コタ)えて(ハダ)(ジカ)(カサ)ねることも許されていたのは紳だけであったのだ。そう思えば身体の(シン)から、ぶるりとした震えが上がる。一度動きを止めると幾度(イクド)()てさせられた悧羅は息も荒れてくったりとしている。その身体を抱き起こそうと()れただけで、びくりと悧羅の身体が(フル)えて甘い声が聞こえてくる。


悧羅の中から出ることはせずに布団(フトン)の上に座るとより深く入り込まれて、悧羅から(コラ)えきれないような(アエ)ぎが()れる。無意識(ムイシキ)に閉じようとする悧羅の細い(アシ)を開かせて自分を(ハサ)ませると、その動きだけで甘い声が漏れる。背中を指ですっとなぞると(タマラ)ないとでもいうように悧羅が紳にしがみついた。


「そういう大事なことは早く言ってよね」


(イト)おしい身体を抱きしめて紳が言うと、腕の中から(ウル)んだ目が(アオ)ぎ見てくる。()れて赤くなった(クチビル)に口付けながら強く抱きしめると、だから、と悧羅が(ササヤ)いた。


(ワラワ)のほうが…、()いてしまう(ユエ)…」


どうして?、と小さく笑いながら悧羅の(ヒタイ)に口付けると(コマ)ったように顔を(ソム)ける姿が(ウツ)る。その姿が可愛(カワイ)くてつい意地悪(イジワル)をしたくなってしまう。


「ねえってば。どうしてか教えてよ?」


先の言葉が聞きたくて紳は追い()ちをかけるようにもう一度悧羅の背中を指でなぞった。びくりと震えあがる悧羅の身体を押し付けるようにしてますます奥深くに入り込むと甘い声と共に、また悧羅が()てたのが分かる。(タオ)れこみそうになる身体を紳にしがみついて(ササ)えている悧羅に、ねえ?、と紳の笑いを含んだ声が降ってくる。


「…教えてくれないと、もう終わりにしちゃうよ?」


悧羅の耳元で紳が(ササヤ)くとそれだけで悧羅の身体が震えてしまう。(ササヤ)いた耳を優しく()まれて、悧羅の身体がまた(シビ)れ始めた。それは(イヤ)だ、と言う悧羅を押さえつけて動き出すと細い腕が、必死(ヒッシ)に紳にしがみついた。ほら早く?、と笑う紳に()めたてられながら荒れる息の中から、分かったから、と悧羅が(ウッタ)えた。このまま()め続けていられては言葉を出すことさえ許されない。ただ翻弄(ホンロウ)されるままに紳によって官能(カンノウ)を与え続けられるだけだ。


「やっと教えてくれる気になったの?」


苦笑しながらまた悧羅を押しつけて深い場所で(ワズ)かに動くと背中に廻されていた悧羅の手に力が入って紳の背中に爪跡(ツメアト)が着く。ほら、と先を(ウナガ)す紳から、もう一度顔を(ソム)けて悧羅はほんの少し(ホオ)(フク)らませた。


「…紳は(ワラワ)の他の者にも()()()()(イツク)しみを与えておったのであろ?(ワラワ)の他にも紳に(イツク)しまれながら愉悦(ユエツ)(ヒタ)()てさせてもろうた者がおると思うたら…。気が(クル)いそうになるのじゃ…」


荒れた息の中から(サミ)しそうな(フル)える声音(コワネ)がして紳はぶるり、と身体が震えるのが分かった。悧羅、と名を呼ぶが顔を(ソム)けたままで悧羅は頭を紳の胸に(アズ)けている。もう一度名を呼ぶと小さく頭が振られた。今は顔を見られたく無い、ということだろう。くすくすと笑いながら、悧羅、と呼んで両手で小さな頭を(ツツ)んで紳は悧羅の顔を自分に向けさせた。与えた快楽(カイラク)(ウル)んでいる目に(ウッス)らと涙が浮かんでいる。嫉妬(シット)(クル)っているのは自分だけだと思っていたけれど、どうやら本当に悧羅も本当に苦しく思っていたようだ。まだ顔を(ソム)けようとする悧羅の顔を優しく(トド)めおいて紳はそっと口付ける。


「…馬鹿(バカ)だなぁ…。そんなこと気に()んでたの?」


小さく笑うと、そのようなことではない、とまた悧羅は顔を(ソム)けようとする。それを駄目(ダメ)だよ?、と(トド)め置いて深く深く口付けながら悧羅を布団(フトン)に押し(タオ)した。そのまま(ハゲ)しく動き出すとくぐもった声が漏れだしてくる。息が苦しくなって(クチビル)を離した悧羅を追うように口付け続けると離れていた腕が紳の背中に廻されて抱きついてくる。頭を振って、無理だ、と(ウッタ)える悧羅に(カマ)うことなく動き続けるとこれまでで一番(ハゲ)しく身体が()ねた。思わず唇を離して逃げようとする悧羅に、駄目(ダメ)、と紳が伝えると(ウル)んだ目に浮かんでいた涙が(コボ)れて落ちた。


(ホオ)に口付けてそれを受け止めながらも動きを止めないでいる紳に翻弄(ホンロウ)されるままに悧羅は幾度(イクド)も昇らされて幾度(イクド)()てる。その間中(アイダジュウ)締め付けられて紳も一度奥深くで()てたけれど、それでも動きは止めることはしない。息を整えることも出来ずに(アエ)ぎと甘い声を聞かせ続けられて紳も止まることが出来ない。何よりもあんなに可愛(カワイ)らしい嫉妬(シット)を聞かせられてやめられるわけもない。


何度も、待ってくれ、と甘い声の中から言われるが無理なのだ。もう一度悧羅の奥深くで吐き出してから、ようやく動きを止めると紳の背中から力なく腕が落ちた。(ミダ)れきった悧羅に軽く口付けるが悧羅はされるがままだ。


「まだだよ?」


その姿に苦笑しながらまた動き始めるとすぐに悧羅が()てる。耐えるように布団(フトン)(ツカ)んでいる悧羅の手を(ハズ)させて、こっち、と細い腕を紳は自分の首に廻させた。苦しいほどに幾度(イクド)も昇らされている悧羅には紳にしがみつく力も残っていない。それでもどうにか廻された腕で紳の身体に(カラ)みつこうとする姿が(イト)おしくて全てを(ウバ)うように紳は悧羅の(クチビル)(ウバ)った。呼吸することも許されないような快楽(カイラク)に悧羅も(オボ)れるしかない。何度も、もう無理だ、と哀願(アイガン)しても止むことのない官能(カンノウ)に悧羅の目から新しい涙が(アフ)れてくる。また()てそうになって、悧羅は唇が離された合間(アイマ)に、紳、と名を呼ぶ。どうしようかな?、と悪戯(イタズラ)な顔をする紳の息も(ミダ)れている。(タノ)むから、ともう一度名を呼ぶと、もう、と笑いながら深く口付けてくれた。そのまま強く抱きしめられて激しさを増す紳の動きに()えられずに大きく()ねた悧羅と同時に奥深くで紳も()てた。


ぐったりと腕を落とした悧羅を口付けから()(ハナ)つととろりとした目から涙が沢山(タクサン)(コボ)れ落ちている。紳自身も乱れた息の中から、悧羅、と名を呼ぶが言うことを聞かない身体を動かすことが出来ないのだろう。視線だけがゆっくりと紳を(トラ)えた。


「今日はまだ駄目(ダメ)だよ?もっと俺のものにするからね?」


ゆっくりと動き出す紳に合わせてまた声を上げる(ヒタイ)に口付けるとその軽い刺激だけですぐに果ててしまうほどに悧羅の身体は(オボ)れてしまっている。紳と(ジョウ)()わすようになって二十年になるけれど、ここまで()めたてられて休息(キュウソク)も与えられないことなどなかった。これまで与えられていた官能(カンノウ)(ハル)かに(シノ)ぐ強い快楽(カイラク)(アラガ)うことさえできない。


いや…、(アラガ)いたくないのだ。


何処(ドコ)までも()ちていく自分が分かってはいたけれど紳に()とされるのであればそれは悧羅にとって(サイワイ)でしかない。けれど()てさせられるたびにより深くより強くなる刺激に頭の奥まで(シビ)れて何も考えることが出来なくなる。それでも唯一(ユイイツ)ちくりと心に(トゲ)のように刺さって抜けない思いはあるけれど、それを伝えた今でさえどうすることも出来ないことも分かっている。悧羅はどのような理由があろうと他の男に身体を許していたのだから、紳が誰と(ジョウ)()わしていたとしても何も言えないのは分かっているのだ。それでも毎夜(マイヨ)(イツク)しまれるたびに、この腕やこの(イツク)しみ方を知っている者が他にいるのだ、と思うだけで苦しくなっていた。


紳に(イツク)しまれて悧羅と同じように果てさせた者が幾人(イクニン)いるかなどはわからない。悧羅と出会う前までの話だということも分かってはいるが、その事実がいつも刺さっていることは(イナ)めなかった。


何を言えるというのだ、と思っていたのについ伝えてしまった。


後悔(コウカイ)しても遅い、と思いながらも考えがまとまらない。少し考えようとすると紳が与えてくる刺激(シゲキ)が強さを増して(オソ)ってくるからだ。


もう駄目(ダメ)だ、と悧羅は考えることさえもやめざるを得ない。ひたすらに与え続けられる快楽(カイラク)(アラガ)えず求められるままに受け入れてまた数回()てさせられて一体これまでにどれだけ()てさせられたのかも分からない。横たえられている布団(フトン)衣擦(キヌズ)れが触れることさえ刺激になってしまうくらいに身体は(タギ)り切っている。いつもならば、おかしくなる、と紳に()い願うところだが今日ばかりはおかしくなりたかった。言ってはならないことを伝えてしまったのだからそれを忘れるほどに、おかしくしてほしかった。


その思いは(チギ)りの(キズ)から紳にも伝わってゆく。だからこそ紳も()めることをやめないのだから。むしろおかしくなってくれるのならこれほど(ウレ)しいことがあるだろうか?誰と情を()わしてもただ(コラ)えるだけだった、と言ってくれた悧羅は紳の腕の中で(ミダ)れて応えてくれている。甘い声を上げて身体を(タギ)らせて紳の(イツク)しみや()めに応えて昇り幾度(イクド)も果ててくれている。その姿もその声も(ウル)んで()てる前に口付けを()う悧羅の姿を知っているものなど居なかったのだ。


本当に全てが紳のものであったのだ。


そう知ってしまったからには悧羅に与える快楽(カイラク)官能(カンノウ)も全て紳が与えて紳が教えた事になる。最上級(サイジョウキュウ)のものをこれからもずっと与え続けていかなければ、と思えば手を休めることも出来ない。もう一度大きく()ねる悧羅の身体を抱きしめると、(サラ)に深く入り込んで紳は動きを一旦(イッタン)とめた。


お互いが(ミダ)れた息の中で紳は悧羅の顔に張り付いた髪を取り除いていく。指が顔に()れるたびに、びくりと(フル)える悧羅に苦笑しながら、あのね?、と紳は語りかけた。身体を動かすことも出来ない悧羅が視線だけを動かして見ると、(オダ)やかな笑顔を浮かべている紳が見えた。乱れた疲れ切って声も出ない悧羅の唇を(ツイバ)むと、また悧羅の身体が震えた。それに苦笑して紳は続ける。


「確かに俺は悧羅と会う前に(ジョウ)()わす鬼女(キジョ)はいたよ?それこそ一夜限(ヒトヨカギ)りで顔も(オボ)えてない。勿論恋仲(コイナカ)になったことがないわけじゃなかったけど、それも長続きしてないんだ。だけど、悧羅が心配してるようなことはない。確かに(ジョウ)()わしてたけど悧羅にしてるみたいに心を込めてたわけじゃない。相手が()てようが()てまいがどうでもよかったし、自分の(ヨク)わ吐き出すためだけで()わしていたようなものだから、一晩(ヒトバン)に何回も求めた事もない」


荒れた息の中から見上げる悧羅の額に口付けると、また身体がびくりと震えている。悧羅の息はまだ整ってもいないし、目もとろりとし続けている。


「俺が()()()()()(イツク)しむのは悧羅だからだよ。悧羅以外にこんなに丁寧(テイネイ)にしたことないし、何度も()ててもらいたいって思ったこともない。何より悧羅を()しがるみたいに、ずっと離さないなんてこともなかったんだから」


だから()かなくていいよ?、ともう一度口付けると、(マコト)かえ?、と悧羅が(ツブヤ)く。それに笑顔で(ウナズ)くと紳の(ホオ)に悧羅の手が()れた。気怠(ケダル)さですぐに落ちそうになる腕を紳が(ニギ)って受け止める。


「…では、紳が(ワラワ)のように(イツク)しむのは(ワラワ)だけなのかえ?」


「そうだよ?悧羅だから大切にしたいし悧羅だから(イツク)しみたいんだよ?こんなに欲しがる俺もどうかしてるとは思うけどね」


肩を(スク)めながら言う紳に、よかった、と悧羅が大きく溜息(タメイキ)をつく。


「…ほんに…、良かった…」


(ワズ)かに(ニジ)んでくる視界で悧羅は懸命(ケンメイ)に紳に手を伸ばした。うん、と笑っている紳の顔を引き寄せて深く口付ける。


この(イツク)しみ方を知っているのが悧羅だけなのだとしたら、何を嫉妬(シット)(クル)うことがあっただろう。胸の奥に刺さっていた(トゲ)が抜け落ちていくのを感じながら悧羅は唇を離した。唇が触れ合うほどの距離(キョリ)で、ならば、と悧羅は乱れた息の中から紳を見つめた。流れ落ちる涙もそのままに、(クル)わせてくれ、と()う。


「今もこれからも紳が(ワラワ)のように(イツク)しむものがいないのであれば、日々(ワラワ)を紳が与えてくれる快楽(カイラク)()として(クル)うほどに(オボ)れさせてたもれ」


願う悧羅に深く口付けて紳は笑う。もちろん、と言いながら紳は少しばかり悧羅の中の奥に進んだ。(アエ)ぎに変わる声に(カブ)せるように紳は優しく語りかける。


「悧羅が知らなかったところに俺が連れて行くよ。おかしくなるって言われても止められないからね?」


いい?、と聞くが()められている悧羅にはもう応える(スベ)はない。ただ紳の与えてくれる快楽(カイラク)(オボ)れるように(シズ)んでいくのだけが分かったが、(アラガ)うことは出来なかった。

お楽しみいただけましたか?

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