閑寂【参】《カンジャク【サン】》
こんにちは。
また新しいお話に進みます。
おや、と悧羅は周囲を見渡した。耳に伝わる川の流れる音とそれを流れる無数の蓮の華がぼんやりと輝いている。今の今まで紳と情を交わして疲れ果てて眠りに落ちたはずだ。なのに今立っている場所は幾度も呼び出された王母の間だ。やれやれと足を進めると、何も着ていなかったはずの身体に真っ白な衣を纏わされていることに気づく。
裸で見えるわけにはいかないということだろう。呼び出されたままでは何も纏ってはいなかったので、これは有難いと思うべきだった。
先に見える朱色の柱の亭に向かって歩いて行くと横を流れる蓮の蕾が次々に開いて行く。歓迎されてはいるようだ、と苦笑しながら亭の入口を潜る。中ではいつものように穏やかな顔をした王母が茶を淹れてくれていた。
「また唐突な呼び出しであるの」
笑いながら王母の前に座ると前に茶が置かれた。
「お前の伴侶がなかなか離さぬのが悪い。私ももう少し早く、とは思っておったのだがな」
「ならば明けてからでもよいではないかえ」
苦笑する悧羅に、まあ良かろう、と王母が笑う。茶を飲むように勧められて、ほんにもう、と嘆息しながら悧羅は茶器を手に持った。
「で、何ぞあるのかえ?」
また厄介な務めを言われるのだろう、と思いながら悧羅は茶を啜る。それを微笑んで見ながら王母はふっくらとした指で卓を叩いた。鏡面のような水面に映し出されたのは大国の朝廷だった。幾度か王母の命で入り込んでいたので、その景色には特段驚きはしない。もう一度王母が卓を叩くと景色が変わった。映ったのは一人の男だった。身につけている衣や装飾品からそれが大国の皇帝であることは見てとれた。
「これがどうした?」
悧羅の問いには応えずに王母はもう一度卓を叩く。皇帝の顔が大きく映しだされると悧羅は眉を顰めた。見えたその顔は酒でも呑んでいるかのように真っ赤な色をしている。ふむ、と頷くとまた卓が叩かれて映し出されたのは朝廷だった。数十人もの官吏の顔があるが、やはりどれも真っ赤な顔だ。
「…なるほどのぅ。入れ替わっておるのだな。なれど、入れ替わられた者達は生きてはおるまいよ?」
悧羅の言葉に王母は黙って茶を啜った。
「それはどうかはわからぬな。なれどこれではこのままこの王朝は朽ち果てる。それが世の理であれば私が何を言うこともないのだがな。これらは私達の居に入り込もうとしている。ここに映っているだけの数でもないようでな。何においても数は脅威になるだろう?」
八月前の粛清のことを言いたいのだろう。穏やかな笑みを浮かべたままで王母は卓を叩いた。水面だった場がいつもの卓に戻る。確かに数というのは脅威だ。それは悧羅も良く分かっている。例えそれが若輩者の集まりであろうとも、姍寂のように禁術とも呼べる物にまで手を出せば確かに勝てる、とは言い難い。粛清の時はまだ犬神の力が弱かったからどうにかなったのだ。運に恵まれたのだと言ってもいい。
「では、これらを取り除けば良いのだな?だが、これらはそう知恵のあるモノでもあるまいて…。何かが動いておる、と思うておったが良いのであろうな」
「お前は本当に賢い娘だな」
満足そうに大きく頷く王母に悧羅は苦笑する。要はその背後にいるモノまで見つけ出せ、ということなのだ。妖を狩るだけならそう刻はかからないが、その裏のモノまで見つけ出すのには少しばかり骨が折れそうだった。
「妖はしばらく泳がせる。どのように使役しておるのかも見らねばならぬ故。面倒な相手でなければよいがの」
「お前に任せる。好きに動け。ここに入られなければ良い」
「で、あろうの」
入り込まれるのは悧羅にとっても困る。映し出された妖自体は単純で容易いモノだが、裏にいるモノが妖であれ人であれ、この地に近づけるわけには行かないのだ。里の民達のためでもあるが、人の子のためでもある。入り込まれて仙桃や悧羅達の存在が知れたら良いことには繋らない。易々と入り込めるようにはしていないが、門を開けて出入りする以上絶対とはいかないだろう。何かに乗じて入り込んだり迷いこんだりの可能性はある。それがないように門には呪を施しているがそれは妖のみに作用する。
人の子が迷い込んだ事が無いわけではないのだ。それは悧羅達が里を移す前からのことではあるので、迷い込んだ人の子をどうせよ、とは王母は言ってはいない。
王母の懸念は、この妖達を使ってこの場に通ずる手立てを見つけた人の子が迷いこんだ風体を装って入り込むことなのだ、と思われた。
一人二人の仕業ではないかもしれない。
とはいえ、見せられただけでこれだけの数の妖だ。何かがある、とふいに心によぎった思いに悧羅は首を傾げた。何故そう思ったのかは分からない。だがそう思ったのだ。
考えに耽る悧羅に王母は微笑んでいる。
「良い手立てを考えてくれ。あとは犬神だな。もう少し預かる。そう遠くない日にはお前にやれるだろう」
おや、と悧羅は笑った。何のことか分からずに連れてこられているのだ。荒れ狂っているだろう、と思っていた犬神は王母には従順だったようだ。あれから姿を見ることは無かったが悪いことにはなっていないことだけは分かる。
「利口にしてくれれば良いがの」
笑う悧羅に、大丈夫だ、と王母も笑っている。と、ぱん、と手を叩く音がして悧羅は寝所に戻された。やれやれ、と息をついていると後ろから抱きしめられる。
「王母様の呼び出しだったの?」
悧羅が腕の中から消えた瞬間に目を覚ました紳は焦る事なく待っていた。同じ事が幾度もあれば、流石の紳でも慣れてしまう。だが、何も情を交わした直後の微睡んだ悧羅を呼びつけなくてもいいではないか、とも思う。消えたままの姿で戻ってきた悧羅を布団に引き入れて、何だったの?、と紳は尋ねた。紳の胸に擦り寄りながら悧羅は大きく息をつく。
「大国の宮廷が何やら騒がしいようじゃ。裏に何ぞおるやもしれぬ、というておったに」
悧羅の応えに紳も大きく息をついた。
「また忙しくなりそう?」
「裏にいるモノの尾が掴めれば早かろうがの。ちと難儀するやもしれんな」
そっか、と呟いて紳は悧羅を抱きしめる腕に力を込めた。まずはゆっくりと朝まで休ませなければ、また疲れを溜めてしまう。幼子をあやすように背中を優しく叩き続けると次第に悧羅が微睡み始めた。
あんまり無理をして欲しくはないが…。
願いながら紳も戻ってきた悧羅の温もりを感じながら眠りに落ちた。
翌朝の朝議の場で悧羅は王母からの任についてを重鎮達に報せた。大国の宮廷がどうなろうと良いではないか、と栄州は憤慨したが、それは荊軻に制された。
「王母様が何のお考えもなく長に任をお預けられることなどございませんでしょう。宮廷の中だけでなく何か懸念がおありになるのですよ」
嗜められた栄州は、それはそうだろうが、とやはり納得がいかない様で、膝を叩いている。話さねば分からぬだろうよ、と悧羅が笑うと荊軻も大きく頷いた。大国に悧羅が降りる、ということは里の管理は重鎮達に預けられる。紳は悧羅と共に行くことが当たり前になっているので、実際には荊軻と枉駕に委ねられるのだ。何をしに、何の目的でいくのかは知っておかなければならない。
「王母が妾に見せた妖はそう脅威となるものではない。ただの、知恵もあまり持たぬモノ達が数だけはおるという。何やらおかしいと思わぬか?」
扇子を広げて笑う悧羅に、その|妖《アヤカシは?、と枉駕が尋ねた。
「酒を呑んだように赤い顔をして知恵も乏しい…。どのようなモノが考えられるかの?」
逆に問われて枉駕が考える。数だけは多いという悧羅の話から考えるに答えは一つのようだ。
「…猩々、でございますか」
答えた枉駕に満足そうな顔をして悧羅が微笑んだ。人語を解し人のような姿だがその顔は赤く酒を好む、と言われている。悧羅も見えたことはなかったがあの容姿であれば間違いではないだろう。
「たしかに猩々であれば知恵が乏しいとされておりますね。ですがそのようなものが大国の宮廷に入り込み皇帝や官吏に化けているなど考えにくいのではありませんか?」
首を傾げた荊軻の言葉に、そうであろうの、と悧羅も否とは言わなかった。
「とすれば、ナニモノかが裏で糸を引いている、と考えた方がよろしいでしょうね。そのナニモノかの目的が分かりかねますが」
「大国って倭には居なかった妖が多いもんね。悧羅と一緒に行くとよく分かるんだけどさ、強さも形も倭とは違う」
ね?、と紳に言われて悧羅も頷く。そのために民達が門を開いて出入りする際に良からぬモノが入り込まぬよう厳重に結界を施している。
「元来、晴明のような陰陽道も辿れば大国の道教じゃ。あの姍寂が用いた蠱毒も大国からのもの故」
陰陽師であろうが道士であろうが人の子の能力など如何に優れていても悧羅達のような鬼神には赤子の手を捻るようなものだ。そう恐れることなどないと思ってはいる。だが王母も言っていた通り脅威となるのは数だろう。悧羅も道士と対峙したことはないが屍人を僵尸として使役出来るほどの能力がある者達なのだから甘く見ていては足元を掬われるかもしれない。
「王母としては猩々を使役しておるモノがおるとして、何が目的か探りたいようだの。猩々であろうと妖じゃ。この霊峰の入り口まではこれるやもしれぬ。であれば、だ」
「使役しているかもしれないナニモノかが、この地に入り込む事が考えられる、というわけでございますね?」
言葉を引き継いだ荊軻に、悧羅は扇子を閉じる事で応えた。
「たしかに民達が出入りする門には妖に対する結界がございます。ですが数年に一度は人の子が迷い込むこともございましたね。たまたまでございましたから隊士達に地に降ろさせましたが、忘却の術が不十分であったならば、その者達から話を聞き及んでいるのかも知れません」
うん、と悧羅も頷く。この十年で迷いこんだ人の子は数えるほどだ。その都度地に降ろし全てを忘れるように呪をかけてはいたが中には朧気ながらも覚えていたり、呪が解けて思い出したということもあり得ぬ話ではない。
「大国で妖を使役する者といえばやはり道士、と考えた方がよろしいでしょうね。ですが、仮にも道士といえば仙人と同義でございましょう?そのような者が太元玉女のお膝下に入り込もうなどと考えますでしょうか?」
顎に指を当てながら考えこむ荊軻に皆も同意する。糸を引いているモノのそのまた後ろで何かが動いているのかもしれないが、とにかく見てみなければわからないこともあるだろう。
「なによりもここに入り込まんとするものがおるは確かであろうの。何が目的であろうとも王母の治る場で人の子が思いのままに動くはならぬでの。…人の子の手に渡ればあまり良いことにならぬものもあるでのう」
それに、と言いかけて悧羅は言葉を切る。
あの時何故王母は犬神の話をしたのか?
預けて八月、その間幾度も任を受けていたし王母が気紛れに悧羅の元に降りてくることもあった。だが一度も犬神の事など口にしなかった。悧羅から尋ねても微笑むばかりで、どうしているのなど分からなかった。王母に預けているのだから妙な事になってはいないだろうと安心していたけれど、それでも何故今になって語る気になったのか?
単純に考えれば王母の言葉通り犬神を悧羅の元に戻せる、というだけの事なのかも知れない。けれど大国の現状を見せられた時にも感じたのだ。何かがある、と。王母が犬神の話をしたのはもしかすればそういう事なのか?
もしもあれの思惑がまだ生きているのだとしたら…。
いや、しかし…。
考えられないことではないのだが確かめる術が今はない。やはり一度大国に降りなければ分からない。
「…何か気になる事があるの?」
よぎった小さな可能性を頭から出すように頭を振った悧羅を見て紳が訝し気にしている。それに苦笑して、少しばかりな、と悧羅は応えを濁した。何?、と聞かれるがそれには首を振る。
「妾の考え過ぎやもしれぬ。確かめねばならぬことが多なりそうじゃと思うての。妾の思い過ごしならば良いのだがそれを確かめる術がないのじゃ…」
小さく嘆息して悧羅は扇子を手で叩き始めた。
そうだ、確かめる術がない。唯一知っているモノは王母が持っている。それが戻れば分かることもあるのだが…。
「長が言を濁されるのは珍しきことだの。どれ、一つ我にもお聞かせ願えぬか?時には相談役としての務めをせねば、ただの飾りの老いた翁になってしまいますぞ?」
笑いながら髭を触る栄州に悧羅は苦笑せざるを得ない。確かに相談役とはいえ、悧羅の言葉に否を唱えたことなど栄州はない。この500年で異を唱えたのは悧羅が紳を夜伽の任から解かないと言った時だけだ。結局は折れてくれたのだがその事以外では悧羅の思う通りにさせてくれていた。栄州の主な役割は悧羅の夜伽の相手を選ぶ事くらいだった。相談役に任じているにも関わらず、だ。
そうであったな、と悧羅は小さく笑って心によぎった小さな可能性を口にだすことにした。王母が初めて自ら犬神の話をしたのだ、と。
「妾にただ教えようとしただけなのかもしれぬ。なれど、何であろうの…。少しばかり心に残るのだ。何故今であったのか、との…」
ふむ、と栄州は髭をさすりながら小さく笑った。
「あの痴れ者、姍寂が用いておったのは大国に所以のある蠱毒の法でありましたな」
うん、と悧羅が小さく頷く横で、それって、と紳が悧羅の手を握った。なるほど、と荊軻も嘆息して肩を落とした。それにも栄州は微笑んでいる。
「我であるならば一度や二度は試しましょうや。確かなものとせねばこの場で行うなど致そうとはせぬでしょうな。とはいえ、この場でいくつも行えば長であられずとも気取られることもあるでしょうや。…とすればでございますが…」
「人の子の国で幾度か試みるでしょうね」
引き継いだ荊軻に、そういうことであろうな、と栄州も頷く。
「…あのような禍々しきモノがまだ大国におる、ということか?」
驚愕を隠せない枉駕に、そういうことも考えられるという事だ、と栄州が諭す。ぶるり、と枉駕の身体が震えた。姍寂の邸で見たモノは妖と呼ぶにはあまりにも禍々しかった。その気配も、発する言葉も、頭だけで民を喰い散らかす姿も。思い出すだけでも身震いしてしまう。荊軻の言う通りに悧羅を呼びに行かず押し入っていたとしたら枉駕も確実に喰われていただろう。悧羅を共に連れて行ったから、誰一人として欠けることがなかったのだ。
それも悧羅に言わせれば、まだ早かったからだ、ということだった。もう少し刻が経っていれば悧羅でも抑え込めたがわからない、と。
それが、大国の人の世にいるというのか?
いつ作られたのかもわからない代物であれば、その禍々しさはどれほどのモノになっているのだ?
「やはりそう思うかの…」
大きく息をついた悧羅の声で枉駕は気を取り戻した。普通であれば、と栄州が同意する。
「長のように一度で全てを行える、という者は少ないでしょうな。我が知っておる中でも呪などの博が深い荊軻殿でも用心は致すでしょうな。特に確実に害を為そうとするのであれば尚の事だろうて」
大きく嘆息する悧羅に栄州が続ける。
「王母様が何の意もなく唐突にそれまで話すことの無かった犬神のことを話された。何らかの糸口と思う方が自然であろうな。そう考えたとして、幾つあるかは分からぬが」
「そうですね。幾つのモノが何処に埋められておるかが分かりかねますが…」
そうだな、と栄州も頷く。一つや二つであればまだどうにかなるのかもしれないが、十や二十となれば手に余る。その内の一つが宮廷に入り込むようにしているのか、それともその全てが同じ目的を持って動いているのか。何より姍寂の目的は悧羅を弑する事だったはずだ。長という者に疑念を抱き絶対であるべきはずの長という存在に怨恨を持っていた。聞き及んだ姍寂は自分が作った犬神に精神を壊されていたと聞く。
そもそもその犬神に壊されたのか、別に作っていた時から壊れ始めていたのか定かではないが、これはなかなかに手強そうな問題だ。
悧羅が里にいた犬神を持ち帰ったのは八月も前だ。それよりも早く作られていたのであれば少なく見ても一年は経っているだろう。それが一体、もしくはそれ以上の数がいるとすれば間違いなく一介の鬼の手には余る。悧羅でさえどうなるかは分からないだろう。
「姍寂の目的は悧羅を弑することだったろう?って言うか長っていう者自体に疑念を持ってた。その思いを持って犬神を作ったんだとしたら、今動いてる妖達はここを見つけて里を滅して悧羅を殺すために動いてるってこと?」
悧羅の手を握る手に力を込めながら紳が腰を浮かした。そんなこと許せるはずもない。冗談じゃない、とつい大きくなる声を上げる紳の手を悧羅が握り返した。落ち着け、と穏やかな悧羅の声に、でも、と紳が振り返る。よいから、と微笑まれて浮かせていた腰をまた悧羅の横に降ろした。
「ただの小さき可能性の話しじゃて。なれど、妾だけでなく栄州までもそのように思うたのであれば大きな違いはなかろう。一度はその場を見ねば分からぬ。なれど一つだけわかるモノがおるのじゃよ」
握ったままの手を摩りながら悧羅が言う。
「王母様にお預けしておりまする犬神にございますね?」
荊軻が言うと悧羅は頷く。
「あれが知っておることがあるやもしれぬ。知っておって欲しいと思うておるのだがな。自身が幾度目に作られたのか、という事さえ知ることが出来ればそれだけでも大きなこと故」
いつ返すとまでは言われなかったが、近い内に、とは言っていた。そう遠くない日に悧羅の元に戻るのだろう。王母の事だ。こうなる事を知っていたのかもしれない。
いつもそうだ。王母自身が人の世に関わり過ぎては世の理が流れから外れてしまう。例えその時に知っていても教えなかった、ということは教えてはならなかったということだ。神仙の綱紀の中にでもあるのだろうか?、と時折考えてしまうが悧羅には伺い知る事などできようはずも無かった。ただ粛々と民達と里とこの地を護っていくしかできないのだ。
「それらのモノの目的が妾であるならば話は早い。なれど、決してこの地に踏み込ませるはまかりならぬ。妾一人の能力で抑え込めればよいが…。まずは数であるの」
大きく嘆息して悧羅は途方もない問題に当たったものだ、と苦笑する。もしも本当に犬神が他にも作られていたとして大国にどれだけの辻道があるのかも分からない。倭の国よりも広い土地で全ての辻道を探すだけでも骨が折れる。蠱毒の法を姍寂が何処で知識を仕入れたのかも分からない。
姍寂の邸にいた犬神のように全てが暴走しているか。
同じ目的を持ったモノとして集い力を合わせているか。
もしくはより強くなるために互いを喰い合って一番強いモノが残っているか。
いずれにしてもここで頭をどれだけ捻ろうとこれ以上わかることは無いだろう。
「死して尚、里や長に手をかけようとするとは…。ほんに女子の執念は恐ろしゅうございますな」
小さく笑う栄州に、ほんにの、と悧羅も頷いた。八月前に全てが片付いたはずであったのに、まだ悧羅の心を惑わすとは栄州の言う通り恐ろしいものだ。恨み辛みがない者も恐ろしいが、やはり小さな火種があるとそれは気づかない内に大きくなり、いつのまにか側にあると気づいた時には爆炎になり渦を巻いて襲いかかってくるのだ。
「とにもかくにも降りてみねば分かるまい。少しばかり降りてどのような塩梅であるか見て参る。妾が里を離れておる間にも何があるか分からぬ故、気だけは抜かぬように致せ」
「ですが長。あのようなモノが幾つおるのかも分からぬのに大国に降りるは危のうございませぬか?」
枉駕が不安気に言葉を紡ぐ。承知しておる、と悧羅は居住まいを正してしっかりと重鎮達を見た。
「何事もなければよろしいが、こればかりは妾にも分からぬ。何ぞあればすぐに戻りて策を練るが、妾が戻れぬこともあると心致せ。まずは出入りの門の結界をより強めておく。王母の土地である全てに妾の、結界を張れれば良いのだが、何処までかなどは分からぬ故、それは叶わぬな。なれど里のみであれば張れる。姍寂の作った犬神がおると思うて動くとなれば狙うは妾であろう。妾がおらねば里に牙を剝くと考えよ」
眼前の三人が、御意、と小さく頭を下げた。まずはその二つを施してから大国に降りる事になりそうだった。
録画してたクセスゴ見てたんですが、どぶろっくさんで爆笑してしまいました。
お話がまた新しい物語に入ります。
どうなっていきますやら楽しみにして頂けると頑張れます。
お楽しみいただけましたか?
ありがとうございました。