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閑寂【弐】《カンジャク【ニ】》

ギリギリラインばかりです。

苦手な方はご注意下さい。

唐突(トウトツ)で意外な一言(ヒトコト)舜啓(シュンケイ)は目を見開いた。以前佟悧(トウリ)媟雅(セツガ)の前で(アバ)かれているので虚言(キョゲン)を言うことは出来ないが、何故(ナゼ)それを聞きにこんな夜更(ヨフ)けに部屋まで来るのかが分からない。えっと、と言葉を(ニゴ)して頭を()くしかない舜啓(シュンケイ)眼前(ガンゼン)(スワ)ったままの媟雅(セツガ)の視線が()さる。


「…(ダマ)ってるってことは、そういうことなんだよね?」


身体(カラダ)を近付けて舜啓(シュンケイ)(ノゾ)きこむように媟雅(セツガ)が追い()ちをかけるように(ツブヤ)いた。可愛(カワイ)らしい顔が目の前に来て舜啓(シュンケイ)は思わず後ろに身体を退()いた。さすがに寝間着(ネマギ)姿のままで近寄られては舜啓(シュンケイ)戸惑(トマド)ってしまう。ええっとね、とまた言葉を(ニゴ)舜啓(シュンケイ)から身体を離して、そっか、と媟雅(セツガ)が小さく息をついた。その姿にやはり違和感(イワカン)(オボ)えて舜啓(シュンケイ)も息をつく。


「どうしていきなりそんな事聞くの?」


逆に(タズ)ねてみると今度は媟雅(セツガ)のほうが(ダマ)ってしまう。


なんなんだ?


よく分からないがとりあえず聞かれた事に(コタ)えなければ媟雅(セツガ)は部屋から出て行かないのだろうという事だけは分かった。


「…情を()わすだけの相手はいる。俺だって男だからね。聞きたいことはそれだけ?」


少し笑いながら媟雅(セツガ)を見ると、小さく(ウナズ)いている。どうして唐突(トウトツ)舜啓(シュンケイ)(ジョウ)の相手の事など知りたがったのかは分からないが媟雅(セツガ)疑問(ギモン)は晴れたようだ。


「じゃあそろそろ休まなきゃ。せっちゃんもそんな格好(カッコウ)してたら身体(コワ)すよ?部屋まで送るから戻ろうか」


よいしょ、と立ち上がろうとする舜啓(シュンケイ)(コロモ)(スソ)が引っ張られてよろけそうになってしまった。どうにか()(トド)まって媟雅(セツガ)を見ると舜啓(シュンケイ)(コロモ)を引っ張ったままで下を向いている。せっちゃん?、と声をかけると(コロモ)を引っ張る力が込められたのが分かった。(アキラ)めてもう一度座るが媟雅(セツガ)(コロモ)を離さない。


「どうしたの?せっちゃん?」


(ヤワ)らかく聞くと、ない、と(ツブヤ)くような声がした。何が?、と(タズ)ねる舜啓(シュンケイ)にはまだ媟雅(セツガ)の顔は見えない。いつも見ている媟雅(セツガ)からは想像出来ないほどのか弱さが見えて心配になる舜啓(シュンケイ)にまた声が届いた。


「…私は、ないの…」


うん、と舜啓(シュンケイ)(ウナズ)いた。媟雅(セツガ)の身持ちが(カタ)いことは知っている。これ、と決めなければ身体を許すことはしないだろうことも分かっている。だからこそ舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)(ジョウ)()わして欲しいとは言えなかったのだから。もしかしたら媟雅(セツガ)を嫁にしたいと言い続けている舜啓(シュンケイ)の事を軽蔑(ケイベツ)してしまっているのかもしれない。


「…なんか、ごめんね?でも、俺もいい歳した男だからね。そういう事もしないと、もたないこともあるんだよ。軽蔑(ケイベツ)したの?」


(アヤマ)ると下を向いたままの媟雅(セツガ)がそのままで首を大きく振った。それなら良かった、と微笑(ホホ)えんでからもう一度部屋に戻ろうか、と言う舜啓(シュンケイ)に又しても媟雅(セツガ)は首を大きくふる。続くように、あのね、と小さな声がした。うん?、と(コタ)える舜啓(シュンケイ)の前でまだ媟雅(セツガ)は下を向いたままだ。


「…今日、啝珈(ワカ)が言ってたでしょ?前には佟悧(トウリ)も言ってた。『(タメ)してみないと分からないこともある』って…」


「うん、そういえば言ってたね。それがどうかしたの?」


(コロモ)(ニギ)る手に力が込められた事が分かって出来るだけ優しく舜啓(シュンケイ)は声をかけるように(ツト)める。


舜啓(シュンケイ)が私を嫁にするって言ってるのは私が母様(カアサマ)の子だからっていうのも分かってる。まだ、お互い成長途中(セイチョウトチュウ)だし、舜啓(シュンケイ)(ジョウ)()わしてる鬼女(キジョ)がいるならいつかその鬼女達(キジョタチ)の中から(チギ)りを結びたいって思う(ヒト)が出るんじゃ無いかっても思うの」


うん、と舜啓(シュンケイ)(ウナズ)いた。確かに媟雅(セツガ)を嫁にとると言ったのはまだ悧羅(リラ)(ハラ)の中にいた頃だ。悧羅を紳に(ユズ)るから女児(ジョジ)を産んでくれと(タノ)んだ。その通りに媟雅(セツガ)が産まれたのは偶然(グウゼン)()ぎないが(シン)の腕の中に抱かれている媟雅(セツガ)を嫁にする、とその時に決めた。悧羅の子だから嫁に(モラ)われるのだ、と思われていても仕方(シカタ)の無い事だろう。


「確かに悧羅にそう願ってたけどね。でも、俺はせっちゃんだから欲しいんだよ?」


(オサナ)い頃はただ漠然(バクゼン)と嫁にするのだと思っていた。けれど歳を(カサ)ねるにつれ美しく成長していく姿を間近(マヂカ)で見ている内に、それは確かな恋慕(レンボ)に変わった。咲耶(サクヤ)に言わせれば()り込みのようなものではないのか、と疑念(ギネン)を持たれるが誰と(ジョウ)()わそうが、恋仲(コイナカ)のように共にいようが媟雅(セツガ)を一目見ると引き戻されてしまう。特に近頃(チカゴロ)(オサ)の子である、という重責(ジュウセキ)を自覚して悧羅の役に立つために日々鍛錬(タンレン)(マナ)びに(ハゲ)媟雅(セツガ)(マブ)しくみえていた。


間違いなく舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)恋慕(レンボ)しているのだ。例え最初のきっかけがなんであったとしてもそれは舜啓(シュンケイ)意思(イシ)であり本音(ホンネ)だった。だからこそもっと強く、もっと良い男になるために(ハゲ)まなければならない。媟雅(セツガ)理想(リソウ)とする(シン)に少しでも近づくために。


だからね、と考え込む舜啓(シュンケイ)の耳にまた小さく(ツブヤ)くような声が届く。


「だからね、(タメ)してみたいの…」


届いた言葉の意味が一瞬(イッシュン)分からなくて首を(カシ)げた舜啓(シュンケイ)は次には、は?、と声を上げてしまった。


それは、つまり…、そういうことなのか?


目の前の媟雅(セツガ)を見ると(コロモ)(ツカ)んだ手も下を向いたままの背中も小さく(フル)えている。


()わさないと分からないことがあるんだったら、私もそれを知りたい。知らないままでいたくない」


「それはそうかもしれないけど…。別に無理しなくても良いんじゃ無いの?せっちゃんがそういう気持ちになる時まで考えて決めてもいいと思うよ?」


震えている媟雅(セツガ)の背に手を当ててぽんぽんと撫でながら(サト)すように舜啓(シュンケイ)が言う。震えるその背中が(アセ)っているようにも見えたからだ。破瓜(ハカ)の相手に選んで貰えたことは(ウレ)しくないわけでは無いが、(タメ)したい、と言われては素直(スナオ)に喜べない。かといって他の相手に(マカ)せるのも(イヤ)なのだが。矛盾(ムジュン)する自分の心に自嘲(ジチョウ)している舜啓(シュンケイ)に、考えた、とまた小さな声がした。


「考えたよ、ずっと。闘技(トウギ)舜啓(シュンケイ)に負けた時からずっと考えてた。粛清(シュクセイ)(サワ)ぎの後に佟悧(トウリ)舜啓(シュンケイ)にもそういう相手がいるって言った時に、…なんだかもやもやして…。それからもずっと考えてた。…これが恋慕(レンボ)なのかは分からないけど、分からないからこそ知りたいの」


事実そうだった。舜啓(シュンケイ)とて良い年頃(トシゴロ)の鬼だ。媟雅(セツガ)を嫁にするとは言ってくれていても、媟雅(セツガ)にその想いが無かったから(ジョウ)()わしてくれ、と言われた事などなかった。それは他に()()()()()()の相手がいるのだろうとは薄々(ウスウス)分かってもいた。時折(トキオリ)宮にも媟雅(セツガ)の前にも姿を見せないこともあったから、恋仲(コイナカ)になっている者もいるのだろうとも思っていた。


それはそれで(カマ)わない。


そう思っていたのに、この八月(ヤツキ)学舎(マナビヤ)や里を見廻るたびに闘技(トウギ)で三番手になった舜啓(シュンケイ)恋慕(レンボ)する鬼女(キジョ)が多いことに気づいたのだ。気づいてしまうと何故(ナゼ)だか(アセ)る気持ちと鬱々(ウツウツ)とした気持ちが心の中に渦巻(ウズマ)くのだ。悧羅に稽古(ケイコ)をつけにもらいに舜啓(シュンケイ)が宮に来る事も以前より増えている。姿を見ると何故(ナゼ)かほっとしている自分にも媟雅(セツガ)(オドロ)いた。


宮に来るということは今舜啓(シュンケイ)恋仲(コイナカ)になっている相手がいないという事なのだ、と気づいた時には安堵(アンド)している自分にも(オドロ)いた。それと同時にひたすらに忋抖(カイト)(ジョウ)()わしたい、と動いている佟悧(トウリ)を見ていると(ウラヤ)ましくもあったのだ。舜啓(シュンケイ)(コロモ)(ツカ)んでいる手や身体の(フル)えが大きくなるのを必死に(コラ)えて媟雅(セツガ)は下を向いたまま、ぎゅうっと目を閉じた。


舜啓(シュンケイ)(コタ)えがどうなのか分からない。こんなことを言い出した自分に(アキ)れるかもしれない。

それでも最初の相手は媟雅(セツガ)を大切だと言い続けてくれている舜啓(シュンケイ)に任せたかった。


長い沈黙(チンモク)が身体を刺すようで痛みを感じてしまう。(イノ)るような心持(ココロモ)ちで応えを待つ媟雅(セツガ)に大きな嘆息(タンソク)が聞こえて、やはり駄目(ダメ)か、と媟雅(セツガ)も小さく息をついた。(ウス)く目を開けると、ぽん、と頭に手が置かれた。せっちゃん、と呼ばれるが(フル)えて(カタ)くなった身体(カラダ)を動かすことができない。ただ舜啓(シュンケイ)(コロモ)(ニギ)る手にだけ力を込めると、媟雅(セツガ)、と名を呼ばれた。いつも愛称(アイショウ)でしか呼ばれていなかった媟雅(セツガ)(オドロ)いて(ハジ)かれたように身体を起こした。ようやく視線(シセン)が合って、舜啓(シュンケイ)が苦笑する。


「先に言っとくけど俺、多分離せなくなると思うよ?媟雅(セツガ)は分からない事を知りたいからって言ってるけど、俺はずっと媟雅(セツガ)が欲しくて(タマ)らなかったんだからね?それに文句(モンク)言ったりしない?」


媟雅(セツガ)の頭を優しく()でながら微笑(ホホエ)舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)が目を見開いた。


「でも…。舜啓(シュンケイ)は私が母様(カアサマ)の子だから欲しいんでしょう?」


身体の(フル)えが声にまで伝わって(ツム)ぐ言葉まで(フル)えてしまう。(コロモ)(ツカ)んだまま強張(コワバ)った媟雅(セツガ)の手を(ホド)いて(ツツ)みながら、最初はね、と舜啓(シュンケイ)が笑う。


「最初はそうだったよ。何の(ウタガ)いも持たずに悧羅が産んでくれたから媟雅(セツガ)は俺の嫁にするって決めてた。でもね?それだけでこんなに長いこと想ったりしないよ?」


「だって…」


言葉を失う媟雅(セツガ)舜啓(シュンケイ)は一歩分の距離(キョリ)(チヂ)めた。


「俺はちゃんと媟雅(セツガ)っていう鬼女(キジョ)が好きなだけなの。悧羅の子とか関係ないんだ。そうだったら、悧羅にそっくりの啝珈(ワカ)に乗り換えてるはずだろう?」


「それはそうだけど…」


言葉に()まる媟雅(セツガ)の頭をもう一度舜啓(シュンケイ)が、ぽんぽんと撫でる。媟雅(セツガ)は紳と悧羅の良いところを全て半分ずつ持ったような容姿(ヨウシ)をしている。けれど啝珈(ワカ)(オサナ)い頃の悧羅はこうだったのだろう、と思わせるほどに悧羅そっくりなのだ。性格は別にしても成熟(セイジュク)すればますます悧羅に似るだろう。


「俺にとって悧羅が特別なのは否定(ヒテイ)しないけどね。なんていうか、小さい頃からの(アコガ)れっていうか、第二の母っていうか…。複雑(フクザツ)なんだよね、言葉にするの。だけど悧羅は悧羅。媟雅(セツガ)媟雅(セツガ)なんだから。そんなの忘れていい」


頭を撫でていた手で媟雅(セツガ)(ホオ)に触れると、びくりと身体が震えたのが分かった。それに苦笑して、無理しなくていい、ともう一度伝える。


「俺は待てる。…まあ、その間に誰とも(ジョウ)()わすなって言われたらちょっときついけどね。媟雅(セツガ)がそれを望むならそれでもいいよ?俺が()えればいいだけのことだしね」


(カタ)(スク)めて笑いながら、ほら戻ろう、と舜啓(シュンケイ)三度(ミタビ)媟雅(セツガ)(ウナガ)す。(ツツ)んでいた手を引いて立ち上がらせようとするが媟雅(セツガ)は動かない。媟雅(セツガ)、と声をかけると立ち上がった舜啓(シュンケイ)()(アオ)ぐ。真っ直ぐに視線を向けて、(イヤ)、と媟雅(セツガ)が首を振った。


(イヤ)って言われても…」


苦笑する舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)がまた首を振る。小さく嘆息(タンソク)する舜啓(シュンケイ)の手が引かれた。媟雅(セツガ)とて何も考えずに()()に来たわけではない。考えて考えて考え抜いて覚悟(カクゴ)を決めて来たのだ。戸の前で声をかけて舜啓(シュンケイ)が起きなければそのまま戻るつもりだったけれど、戸は開かれた。


(タメ)したいって言ったのが気になってるなら(アヤマ)る。だけど、私も考えてここに来たの。舜啓(シュンケイ)に全部(アズ)けようと思ってここに来た。他の(ヒト)(ジョウ)()わすな、なんてそんな自分勝手なことは言えないし言うつもりもない。だけど、私の最初の相手は私を大事に思ってくれてる舜啓(シュンケイ)がいい」


真っ直ぐに見つめられて(ツムガ)れる言葉に舜啓(シュンケイ)は大きな溜息(タメイキ)をついた。引かれた手はそのままに媟雅(セツガ)の前にしゃがみ込んで、頭を()く。ここまで言われて(イナ)と言う事など出来ないし、かといってもう自分を(リッ)するのも限界(ゲンカイ)だった。もう一度息をついてから舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)を見る。不安なのだろう。身体(カラダ)は小さく震えているし、強張(コワバ)っているのも見て取れる。


紳に殺されるかもしれないな。


自嘲(ジチョウ)しながら媟雅(セツガ)(ツナ)がれたままの手を自分の方に引き寄せる。え?、と声を上げる媟雅(セツガ)の身体が胸についたと同時に強く抱きしめた。


「もう一度言うけど俺は離せなくなるよ?媟雅(セツガ)(ジョウ)()わすなら他とは()わさないし、媟雅(セツガ)が他の奴と()わしたいって言っても許してやれない。俺の想いを知っててそれでも俺が良いって言うんだったら、恋仲(コイナカ)になる覚悟(カクゴ)がある?」


耳元(ミミモト)(ササヤ)くような舜啓(シュンケイ)の声に媟雅(セツガ)は感じたことのない(シビ)れが身体を伝うのがわかった。(ササヤ)きに混じってかかる吐息(トイキ)強張(コワバ)っていた身体が(ユル)むのもわかる。(ツツ)まれた腕の中で舜啓(シュンケイ)鼓動(コドウ)が速まっているのも聞こえて、同じなのだ、と媟雅(セツガ)はどこか安堵(アンド)した。


怖いのは媟雅(セツガ)だけではない。(ジョウ)()わした後に、やはり違う、と言われては舜啓(シュンケイ)も耐えられない。恋仲(コイナカ)になることを約束してくれるならば、その不安も如何許(イカバカ)りかは(ヤワ)らぐというものだ。


(ワレ)ながら卑怯(ヒキョウ)だな。


そうは思ったけれど一度腕の中に収めたものをすぐに他の男に(マカ)せられるわけがない。これまでのようにお互いが一夜限(ヒトヨカギ)りだ、と思っているわけではないのだから。


「そうでないなら俺はしない。媟雅(セツガ)一夜限(ヒトヨカギ)りの者達とは違うから。どうする?」


(タズ)ねられた媟雅(セツガ)は腕の中で動けない。けれど、この腕の中が嫌なものではないのは確かだ。こんなに近くで舜啓(シュンケイ)(ニオ)いに包まれた事などなかったけれど不思議(フシギ)と落ち着いて身体の震えも止まってしまっている。ゆっくりと腕を動かして媟雅(セツガ)舜啓(シュンケイ)を抱きしめる。


「…それでいい…」


(コタ)えた媟雅(セツガ)の身体がそのまま(カタム)けられて背中がふわりとした布団(フトン)に当たった。え?、と声を上げたがそれは言葉になっていたか分からない。(タオ)れこんだと同時に媟雅(セツガ)は口付けられていた。(ツイバ)むように確かめるように何度も口付けられて媟雅(セツガ)の身体の奥が熱くなっていく。


「…卑怯(ヒキョウ)でごめんな」


長い口付けの後で少しばかり息の上がった媟雅(セツガ)(ヒタイ)に口付けながら()びる舜啓(シュンケイ)媟雅(セツガ)は首を振った。


恋仲(コイナカ)になってそれでも媟雅(セツガ)が俺じゃないって思ったら言ってくれていいから。それまでは俺のものでいて」


「分かった。じゃあそれまでは舜啓(シュンケイ)も他の(ヒト)(ジョウ)()わさないの?」


微笑(ホホエ)媟雅(セツガ)に、当たり前だろ?、と舜啓(シュンケイ)も笑った。そのまま又確かめるように口付ける。


「出来るだけ優しくするけど、(コワ)かったり(イタ)くて(コラ)えられないならすぐ言うんだぞ?ちゃんと()めるから」


うん、と(ウナズ)く媟雅の頭を撫でてもう一度口付けながら寝間着(ネマギ)(ヒモ)舜啓(シュンケイ)(ホド)いた。肌が触れ合う初めての感覚(カンカク)(フル)え上がりそうになりながら媟雅(セツガ)舜啓(シュンケイ)に身体を(アズ)けた。





_______________________________________


口付けられたまま奥深くで()てられて大きく()り返る悧羅(リラ)の身体を紳は強くて抱きしめて逃がさなかった。一度の(ジョウ)で何度も(ノボ)らせられて()てさせられると、いつも悧羅は無意識(ムイシキ)の内に身体を(ニガ)そうとする。これ以上はおかしくなる、と哀願(アイガン)されてはいるのだがその顔さえも紳を(タギ)らせるのだから仕方がないのだ。湯殿(ユドノ)では一度で互いに我慢(ガマン)した分、寝所(シンジョ)の中では(コラ)えることはしない。


あまりに疲れさせすぎては、と思う時にはもう遅いのもいつものことだ。少し自制(ジセイ)しようとすると、それを分かっているかのように悧羅は紳に、もっと、とせがむのだ。乱れた息と少し触れれば震える身体と(ナマメ)かしい表情で()われては紳に(アラガ)(スベ)などあるはずもない。


結局は互いに求め合って心地よい微睡(マドロ)みに落ちるのはいつも(ウシ)(コク)を過ぎてしまう。紳の(ツト)めが休みの時は眠ることさえ(ジカン)勿体(モッタイ)なくて朝まで求め合う。朝になれは朝議(チョウギ)と子ども達を見送るまでは父母として過ごすが、送り出すとすぐに紳は悧羅を寝所(シンジョ)に引き込む。


悧羅は自分のものだと(キザ)みつけるように、幾度(イクド)となく()()かずにはおれないのだ。(ツト)めに出ている時に(コラ)えているだけでも褒めて欲しい。早く自分の後を()げるような鬼神(キジン)を育てあげて悧羅とゆっくり過ごしたいものだ、とはいつも思っている。だがなかなか後進(コウシン)とは育たないものだ。


ぐったりと身体を紳の胸に預けて乱れた息をしている悧羅をもう一度(イツク)しみ始めると、しばし待て、と身体を震えあがらせながら哀願(アイガン)されてしまう。その声さえも紳を(タギ)らせるには十分なのに、毎回分からないのも困ったものだ。つい先程(サキホド)まで(イツク)しんでいたのだ。まだ余韻(ヨイン)も息も整っていない悧羅は少し(イツク)しむだけであっという間に(ノボ)っていく。紳、と荒れる息と甘い声の中から名を呼ばれて苦笑しながら深く口付けて紳は浮き上がっていた悧羅の腰を支えてゆっくりと降ろしながら中に入りこんだ。


奥まで入り込むとそれだけで悧羅の身体が震えたのが伝わった。唇を離す事をせずにそのまま動き出すと悧羅のくぐもった声が聞こえてくる。息苦しくなると唇を離して、もう無理だ、という悧羅の唇を追いかけて(フサ)ぐ。無理だ、と言われて言うことをきいたことなど紳にはないし、ここでやめたとしても悧羅は、もっと、とせがむだろう。もうすぐ(ウシ)(コク)を過ぎる。今宵(コヨイ)はこの(ジョウ)が最後だろう。であればこそ、心ゆく(マデ)悧羅を堪能(タンノウ)したい。


紳にしがみついて何度も身体を()らしながら()てる悧羅を逃がさないように抱きとめて(トド)め置きながら口付けを繰り返して動きを最大まで速める。その間も何度も()り返る悧羅は紳の胸に腕を当てて身体を離そうとした。


「駄目だよ?」


苦笑しながら悧羅の動きを止めると(アキラ)めたように紳の胸に当てていた腕を離して代わりに首に廻した。だがもう、と(アエ)ぐ声にもう一度身体が()り始めた悧羅の身体を見やって()てるのが近いことが紳にも伝わる。甘い声の中から、また名を呼ばれてしがみつかれると紳は悧羅に深く口付けた。そのまま動きを更に速めるとくぐもった声の中で悧羅の身体が跳ねた。上に逃げようとする悧羅の身体を引き留めて一番奥深いところで果てると、唇を離した悧羅の口から甘く大きな声が響いた。


くったりと身体を紳の胸に(フタタ)び預ける悧羅の身体をそのまま寝所(シンジョ)に横たえて(ヒタイ)に口付ける。


「大丈夫?」 


笑いながら悧羅の身体に肌を重ねて聞く紳に悧羅も苦笑する。


其方(ソナタ)はほんに(ワラワ)をどこまでも(サイワイ)にしてくれるのだな」


荒れた息の中から言われて紳は笑う。どうやら満足したようだ。


御満足(ゴマンゾク)(イタダ)けたかな?頑張った甲斐(カイ)があるよね」


笑う紳に、十分じゃ、と悧羅が微笑んで紳の顔を引き寄せて口付けた。


「出来ればずっとこうしていたいが、そうもいかぬのが難儀(ナンギ)じゃな。なれど夜まで待てばまた紳は(ワラワ)だけのものじゃて。楽しみも増えようしの」


「そう言うこと言うと又離してやれなくなるよ?いい加減(カゲン)に眠らないと、明日がきつくなる。いつまた王母(オウボ)様から(ツト)めを(マカ)されるか分からないんだからね」


髪を()いてやりながら語りかけているとすでに悧羅の目は微睡(マドロ)み初めている。その姿に小さく笑って、紳は悧羅の横に身体を降ろして横手(ヨコテ)に悧羅を抱きしめた。寝惚(ネボ)けながらも紳の胸に顔を()り寄せる悧羅を笑いながら抱きしめて、本当に離せないな、と紳も目を閉じた。






______________________________________


ふと目を()ました媟雅(セツガ)は見えた肌に一瞬(イッシュン)戸惑(トマド)った。その肌との間には(ヘダ)てる物が何もない。それどころかその肌の(ヌシ)媟雅(セツガ)は包まれている。そっと身を起こそうとして下腹(シタバラ)(ニブ)い痛みを感じた。動けないほどではないのだが何とも重苦しく感じる。


「…身体がきついの?」


隣で寝ていた舜啓(シュンケイ)が目を覚まして起きあがろうとした媟雅(セツガ)の腕を(ツカ)んだ。ううん、と首を振った媟雅(セツガ)に、おいで、と(カイナ)を広げてくれる。ゆっくりとその腕の中に戻ると、優しく抱き止められた。


「優しくしたつもりだったけど、やっぱりきつかったかな?ごめんな」


ぎゅうっと、抱きしめられて媟雅(セツガ)はそんなことはない、と応えながら、そうだった、と思い出した。舜啓(シュンケイ)破瓜(ハカ)の相手を願い出たのだ。恋仲(コイナカ)になるのであれば、と条件(ジョウケン)をつけられたが媟雅(セツガ)異論(イロン)はなかった。実際(ジッサイ)舜啓(シュンケイ)は優しかったし、とても丁寧(テイネイ)媟雅(セツガ)の身体を開かせてくれた。押し入られる痛みはあったけれど、それも媟雅(セツガ)の表情が(クモ)るといったん動きを止めて馴染(ナジ)むまで待ってくれた。全てを媟雅(セツガ)の身体が()みこむまでには(ジカン)(ヨウ)したけれど舜啓(シュンケイ)はそのたびに、大丈夫か?、と聞いては口付けてくれた。それだけで安心してしまって(ウナズ)くと奥まで入り込んで動き出した舜啓(シュンケイ)翻弄(ホンロウ)された。最初は痛みしかなかったのに、どんどんと感じたことの無かった官能(カンノウ)が押し寄せて来て(コラ)えきれずに舜啓(シュンケイ)にしがみついてしまった。


(コラ)えなくていいよ?」


優しく言われて()れでる声を必死に(コラ)えていた媟雅(セツガ)は力を抜いた。途端(トタン)に自分のものとは思えない甘い声が耳に届いたが、あまりの官能(カンノウ)の強さに(アラガ)えず()ててしまった。思い出せば恥ずかしくて顔が赤くなるが(サイワイ)にもまだ部屋は暗い。今この時に舜啓(シュンケイ)に顔を見られていないことだけが救いだった。


舜啓(シュンケイ)の腕に包まれて安堵(アンド)の息をつくと、もう少し休め、と頭を撫でてくれる。


「それとも皆が目覚める前に部屋に戻る?」


知られたくないだろう?、と聞かれて媟雅(セツガ)は苦笑した。確かに気恥(キハ)ずかしくはあるが、この腕の中から出るのは何となく嫌だった。


「戻るなら朝早く戻るから。今はこのままがいい」


「そっか」


笑いを含んだ舜啓(シュンケイ)の声が降ってきて媟雅(セツガ)微笑(ホホエ)む。そのまま包まれて眠りにつきながらこんなに(サイワイ)な事があったのか、と媟雅(セツガ)は思った。だが、舜啓(シュンケイ)以外に(マカ)せていたら、こんなにも満たされていただろうか、とも思う。


やっぱりこれは恋慕(レンボ)だったのだ。


優しい(ニオ)いを感じながら媟雅も眠りにつく。朝方には自室に戻らなければならない。あと少しの(ジカン)は満たされたままでいたかった。

やっと舜啓の想いが届いたのでしょうか?

こればかりはわかりませんね。


お楽しみいただけましたか?

ありがとうございました。

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