閑寂【弐】《カンジャク【ニ】》
ギリギリラインばかりです。
苦手な方はご注意下さい。
唐突で意外な一言に舜啓は目を見開いた。以前佟悧に媟雅の前で暴かれているので虚言を言うことは出来ないが、何故それを聞きにこんな夜更けに部屋まで来るのかが分からない。えっと、と言葉を濁して頭を掻くしかない舜啓に眼前に座ったままの媟雅の視線が刺さる。
「…黙ってるってことは、そういうことなんだよね?」
身体を近付けて舜啓を覗きこむように媟雅が追い討ちをかけるように呟いた。可愛らしい顔が目の前に来て舜啓は思わず後ろに身体を退いた。さすがに寝間着姿のままで近寄られては舜啓も戸惑ってしまう。ええっとね、とまた言葉を濁す舜啓から身体を離して、そっか、と媟雅が小さく息をついた。その姿にやはり違和感を覚えて舜啓も息をつく。
「どうしていきなりそんな事聞くの?」
逆に尋ねてみると今度は媟雅のほうが黙ってしまう。
なんなんだ?
よく分からないがとりあえず聞かれた事に応えなければ媟雅は部屋から出て行かないのだろうという事だけは分かった。
「…情を交わすだけの相手はいる。俺だって男だからね。聞きたいことはそれだけ?」
少し笑いながら媟雅を見ると、小さく頷いている。どうして唐突に舜啓の情の相手の事など知りたがったのかは分からないが媟雅の疑問は晴れたようだ。
「じゃあそろそろ休まなきゃ。せっちゃんもそんな格好してたら身体壊すよ?部屋まで送るから戻ろうか」
よいしょ、と立ち上がろうとする舜啓の衣の裾が引っ張られてよろけそうになってしまった。どうにか踏み留まって媟雅を見ると舜啓の衣を引っ張ったままで下を向いている。せっちゃん?、と声をかけると衣を引っ張る力が込められたのが分かった。諦めてもう一度座るが媟雅は衣を離さない。
「どうしたの?せっちゃん?」
柔らかく聞くと、ない、と呟くような声がした。何が?、と尋ねる舜啓にはまだ媟雅の顔は見えない。いつも見ている媟雅からは想像出来ないほどのか弱さが見えて心配になる舜啓にまた声が届いた。
「…私は、ないの…」
うん、と舜啓は頷いた。媟雅の身持ちが硬いことは知っている。これ、と決めなければ身体を許すことはしないだろうことも分かっている。だからこそ舜啓も媟雅に情を交わして欲しいとは言えなかったのだから。もしかしたら媟雅を嫁にしたいと言い続けている舜啓の事を軽蔑してしまっているのかもしれない。
「…なんか、ごめんね?でも、俺もいい歳した男だからね。そういう事もしないと、もたないこともあるんだよ。軽蔑したの?」
謝ると下を向いたままの媟雅がそのままで首を大きく振った。それなら良かった、と微笑えんでからもう一度部屋に戻ろうか、と言う舜啓に又しても媟雅は首を大きくふる。続くように、あのね、と小さな声がした。うん?、と応える舜啓の前でまだ媟雅は下を向いたままだ。
「…今日、啝珈が言ってたでしょ?前には佟悧も言ってた。『試してみないと分からないこともある』って…」
「うん、そういえば言ってたね。それがどうかしたの?」
衣を握る手に力が込められた事が分かって出来るだけ優しく舜啓は声をかけるように努める。
「舜啓が私を嫁にするって言ってるのは私が母様の子だからっていうのも分かってる。まだ、お互い成長途中だし、舜啓が情を交わしてる鬼女がいるならいつかその鬼女達の中から契りを結びたいって思う女が出るんじゃ無いかっても思うの」
うん、と舜啓は頷いた。確かに媟雅を嫁にとると言ったのはまだ悧羅の腹の中にいた頃だ。悧羅を紳に譲るから女児を産んでくれと頼んだ。その通りに媟雅が産まれたのは偶然に過ぎないが紳の腕の中に抱かれている媟雅を嫁にする、とその時に決めた。悧羅の子だから嫁に貰われるのだ、と思われていても仕方の無い事だろう。
「確かに悧羅にそう願ってたけどね。でも、俺はせっちゃんだから欲しいんだよ?」
幼い頃はただ漠然と嫁にするのだと思っていた。けれど歳を重ねるにつれ美しく成長していく姿を間近で見ている内に、それは確かな恋慕に変わった。咲耶に言わせれば刷り込みのようなものではないのか、と疑念を持たれるが誰と情を交わそうが、恋仲のように共にいようが媟雅を一目見ると引き戻されてしまう。特に近頃は長の子である、という重責を自覚して悧羅の役に立つために日々鍛錬や学びに励む媟雅が眩しくみえていた。
間違いなく舜啓は媟雅に恋慕しているのだ。例え最初のきっかけがなんであったとしてもそれは舜啓の意思であり本音だった。だからこそもっと強く、もっと良い男になるために励まなければならない。媟雅の理想とする紳に少しでも近づくために。
だからね、と考え込む舜啓の耳にまた小さく呟くような声が届く。
「だからね、試してみたいの…」
届いた言葉の意味が一瞬分からなくて首を傾げた舜啓は次には、は?、と声を上げてしまった。
それは、つまり…、そういうことなのか?
目の前の媟雅を見ると衣を掴んだ手も下を向いたままの背中も小さく震えている。
「交わさないと分からないことがあるんだったら、私もそれを知りたい。知らないままでいたくない」
「それはそうかもしれないけど…。別に無理しなくても良いんじゃ無いの?せっちゃんがそういう気持ちになる時まで考えて決めてもいいと思うよ?」
震えている媟雅の背に手を当ててぽんぽんと撫でながら諭すように舜啓が言う。震えるその背中が焦っているようにも見えたからだ。破瓜の相手に選んで貰えたことは嬉しくないわけでは無いが、試したい、と言われては素直に喜べない。かといって他の相手に任せるのも嫌なのだが。矛盾する自分の心に自嘲している舜啓に、考えた、とまた小さな声がした。
「考えたよ、ずっと。闘技で舜啓に負けた時からずっと考えてた。粛清の騒ぎの後に佟悧が舜啓にもそういう相手がいるって言った時に、…なんだかもやもやして…。それからもずっと考えてた。…これが恋慕なのかは分からないけど、分からないからこそ知りたいの」
事実そうだった。舜啓とて良い年頃の鬼だ。媟雅を嫁にするとは言ってくれていても、媟雅にその想いが無かったから情を交わしてくれ、と言われた事などなかった。それは他にそういうことの相手がいるのだろうとは薄々分かってもいた。時折宮にも媟雅の前にも姿を見せないこともあったから、恋仲になっている者もいるのだろうとも思っていた。
それはそれで構わない。
そう思っていたのに、この八月学舎や里を見廻るたびに闘技で三番手になった舜啓へ恋慕する鬼女が多いことに気づいたのだ。気づいてしまうと何故だか焦る気持ちと鬱々とした気持ちが心の中に渦巻くのだ。悧羅に稽古をつけにもらいに舜啓が宮に来る事も以前より増えている。姿を見ると何故かほっとしている自分にも媟雅は驚いた。
宮に来るということは今舜啓が恋仲になっている相手がいないという事なのだ、と気づいた時には安堵している自分にも驚いた。それと同時にひたすらに忋抖と情を交わしたい、と動いている佟悧を見ていると羨ましくもあったのだ。舜啓の衣を掴んでいる手や身体の震えが大きくなるのを必死に堪えて媟雅は下を向いたまま、ぎゅうっと目を閉じた。
舜啓の応えがどうなのか分からない。こんなことを言い出した自分に呆れるかもしれない。
それでも最初の相手は媟雅を大切だと言い続けてくれている舜啓に任せたかった。
長い沈黙が身体を刺すようで痛みを感じてしまう。祈るような心持ちで応えを待つ媟雅に大きな嘆息が聞こえて、やはり駄目か、と媟雅も小さく息をついた。薄く目を開けると、ぽん、と頭に手が置かれた。せっちゃん、と呼ばれるが震えて硬くなった身体を動かすことができない。ただ舜啓の衣を握る手にだけ力を込めると、媟雅、と名を呼ばれた。いつも愛称でしか呼ばれていなかった媟雅は驚いて弾かれたように身体を起こした。ようやく視線が合って、舜啓が苦笑する。
「先に言っとくけど俺、多分離せなくなると思うよ?媟雅は分からない事を知りたいからって言ってるけど、俺はずっと媟雅が欲しくて堪らなかったんだからね?それに文句言ったりしない?」
媟雅の頭を優しく撫でながら微笑む舜啓に媟雅が目を見開いた。
「でも…。舜啓は私が母様の子だから欲しいんでしょう?」
身体の震えが声にまで伝わって紡ぐ言葉まで震えてしまう。衣を掴んだまま強張った媟雅の手を解いて包みながら、最初はね、と舜啓が笑う。
「最初はそうだったよ。何の疑いも持たずに悧羅が産んでくれたから媟雅は俺の嫁にするって決めてた。でもね?それだけでこんなに長いこと想ったりしないよ?」
「だって…」
言葉を失う媟雅に舜啓は一歩分の距離を縮めた。
「俺はちゃんと媟雅っていう鬼女が好きなだけなの。悧羅の子とか関係ないんだ。そうだったら、悧羅にそっくりの啝珈に乗り換えてるはずだろう?」
「それはそうだけど…」
言葉に詰まる媟雅の頭をもう一度舜啓が、ぽんぽんと撫でる。媟雅は紳と悧羅の良いところを全て半分ずつ持ったような容姿をしている。けれど啝珈は幼い頃の悧羅はこうだったのだろう、と思わせるほどに悧羅そっくりなのだ。性格は別にしても成熟すればますます悧羅に似るだろう。
「俺にとって悧羅が特別なのは否定しないけどね。なんていうか、小さい頃からの憧れっていうか、第二の母っていうか…。複雑なんだよね、言葉にするの。だけど悧羅は悧羅。媟雅は媟雅なんだから。そんなの忘れていい」
頭を撫でていた手で媟雅の頬に触れると、びくりと身体が震えたのが分かった。それに苦笑して、無理しなくていい、ともう一度伝える。
「俺は待てる。…まあ、その間に誰とも情を交わすなって言われたらちょっときついけどね。媟雅がそれを望むならそれでもいいよ?俺が耐えればいいだけのことだしね」
肩を竦めて笑いながら、ほら戻ろう、と舜啓は三度媟雅を促す。包んでいた手を引いて立ち上がらせようとするが媟雅は動かない。媟雅、と声をかけると立ち上がった舜啓を振り仰ぐ。真っ直ぐに視線を向けて、嫌、と媟雅が首を振った。
「嫌って言われても…」
苦笑する舜啓に媟雅がまた首を振る。小さく嘆息する舜啓の手が引かれた。媟雅とて何も考えずにここに来たわけではない。考えて考えて考え抜いて覚悟を決めて来たのだ。戸の前で声をかけて舜啓が起きなければそのまま戻るつもりだったけれど、戸は開かれた。
「試したいって言ったのが気になってるなら謝る。だけど、私も考えてここに来たの。舜啓に全部預けようと思ってここに来た。他の女と情を交わすな、なんてそんな自分勝手なことは言えないし言うつもりもない。だけど、私の最初の相手は私を大事に思ってくれてる舜啓がいい」
真っ直ぐに見つめられて紡れる言葉に舜啓は大きな溜息をついた。引かれた手はそのままに媟雅の前にしゃがみ込んで、頭を掻く。ここまで言われて否と言う事など出来ないし、かといってもう自分を律するのも限界だった。もう一度息をついてから舜啓は媟雅を見る。不安なのだろう。身体は小さく震えているし、強張っているのも見て取れる。
紳に殺されるかもしれないな。
自嘲しながら媟雅と繋がれたままの手を自分の方に引き寄せる。え?、と声を上げる媟雅の身体が胸についたと同時に強く抱きしめた。
「もう一度言うけど俺は離せなくなるよ?媟雅と情を交わすなら他とは交わさないし、媟雅が他の奴と交わしたいって言っても許してやれない。俺の想いを知っててそれでも俺が良いって言うんだったら、恋仲になる覚悟がある?」
耳元で囁くような舜啓の声に媟雅は感じたことのない痺れが身体を伝うのがわかった。囁きに混じってかかる吐息に強張っていた身体が緩むのもわかる。包まれた腕の中で舜啓の鼓動が速まっているのも聞こえて、同じなのだ、と媟雅はどこか安堵した。
怖いのは媟雅だけではない。情を交わした後に、やはり違う、と言われては舜啓も耐えられない。恋仲になることを約束してくれるならば、その不安も如何許りかは和らぐというものだ。
我ながら卑怯だな。
そうは思ったけれど一度腕の中に収めたものをすぐに他の男に任せられるわけがない。これまでのようにお互いが一夜限りだ、と思っているわけではないのだから。
「そうでないなら俺はしない。媟雅は一夜限りの者達とは違うから。どうする?」
尋ねられた媟雅は腕の中で動けない。けれど、この腕の中が嫌なものではないのは確かだ。こんなに近くで舜啓の匂いに包まれた事などなかったけれど不思議と落ち着いて身体の震えも止まってしまっている。ゆっくりと腕を動かして媟雅は舜啓を抱きしめる。
「…それでいい…」
応えた媟雅の身体がそのまま傾けられて背中がふわりとした布団に当たった。え?、と声を上げたがそれは言葉になっていたか分からない。倒れこんだと同時に媟雅は口付けられていた。啄むように確かめるように何度も口付けられて媟雅の身体の奥が熱くなっていく。
「…卑怯でごめんな」
長い口付けの後で少しばかり息の上がった媟雅の額に口付けながら詫びる舜啓に媟雅は首を振った。
「恋仲になってそれでも媟雅が俺じゃないって思ったら言ってくれていいから。それまでは俺のものでいて」
「分かった。じゃあそれまでは舜啓も他の女と情は交わさないの?」
微笑む媟雅に、当たり前だろ?、と舜啓も笑った。そのまま又確かめるように口付ける。
「出来るだけ優しくするけど、怖かったり痛くて堪えられないならすぐ言うんだぞ?ちゃんと止めるから」
うん、と頷く媟雅の頭を撫でてもう一度口付けながら寝間着の紐を舜啓が解いた。肌が触れ合う初めての感覚に震え上がりそうになりながら媟雅は舜啓に身体を預けた。
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口付けられたまま奥深くで果てられて大きく反り返る悧羅の身体を紳は強くて抱きしめて逃がさなかった。一度の情で何度も昇らせられて果てさせられると、いつも悧羅は無意識の内に身体を逃そうとする。これ以上はおかしくなる、と哀願されてはいるのだがその顔さえも紳を沸らせるのだから仕方がないのだ。湯殿では一度で互いに我慢した分、寝所の中では堪えることはしない。
あまりに疲れさせすぎては、と思う時にはもう遅いのもいつものことだ。少し自制しようとすると、それを分かっているかのように悧羅は紳に、もっと、とせがむのだ。乱れた息と少し触れれば震える身体と艶かしい表情で乞われては紳に抗う術などあるはずもない。
結局は互いに求め合って心地よい微睡みに落ちるのはいつも丑の刻を過ぎてしまう。紳の務めが休みの時は眠ることさえ刻が勿体なくて朝まで求め合う。朝になれは朝議と子ども達を見送るまでは父母として過ごすが、送り出すとすぐに紳は悧羅を寝所に引き込む。
悧羅は自分のものだと刻みつけるように、幾度となく組み敷かずにはおれないのだ。務めに出ている時に堪えているだけでも褒めて欲しい。早く自分の後を継げるような鬼神を育てあげて悧羅とゆっくり過ごしたいものだ、とはいつも思っている。だがなかなか後進とは育たないものだ。
ぐったりと身体を紳の胸に預けて乱れた息をしている悧羅をもう一度慈しみ始めると、しばし待て、と身体を震えあがらせながら哀願されてしまう。その声さえも紳を沸らせるには十分なのに、毎回分からないのも困ったものだ。つい先程まで慈しんでいたのだ。まだ余韻も息も整っていない悧羅は少し慈しむだけであっという間に昇っていく。紳、と荒れる息と甘い声の中から名を呼ばれて苦笑しながら深く口付けて紳は浮き上がっていた悧羅の腰を支えてゆっくりと降ろしながら中に入りこんだ。
奥まで入り込むとそれだけで悧羅の身体が震えたのが伝わった。唇を離す事をせずにそのまま動き出すと悧羅のくぐもった声が聞こえてくる。息苦しくなると唇を離して、もう無理だ、という悧羅の唇を追いかけて塞ぐ。無理だ、と言われて言うことをきいたことなど紳にはないし、ここでやめたとしても悧羅は、もっと、とせがむだろう。もうすぐ丑の刻を過ぎる。今宵はこの情が最後だろう。であればこそ、心ゆく迄悧羅を堪能したい。
紳にしがみついて何度も身体を反らしながら果てる悧羅を逃がさないように抱きとめて留め置きながら口付けを繰り返して動きを最大まで速める。その間も何度も反り返る悧羅は紳の胸に腕を当てて身体を離そうとした。
「駄目だよ?」
苦笑しながら悧羅の動きを止めると諦めたように紳の胸に当てていた腕を離して代わりに首に廻した。だがもう、と喘ぐ声にもう一度身体が反り始めた悧羅の身体を見やって果てるのが近いことが紳にも伝わる。甘い声の中から、また名を呼ばれてしがみつかれると紳は悧羅に深く口付けた。そのまま動きを更に速めるとくぐもった声の中で悧羅の身体が跳ねた。上に逃げようとする悧羅の身体を引き留めて一番奥深いところで果てると、唇を離した悧羅の口から甘く大きな声が響いた。
くったりと身体を紳の胸に再び預ける悧羅の身体をそのまま寝所に横たえて額に口付ける。
「大丈夫?」
笑いながら悧羅の身体に肌を重ねて聞く紳に悧羅も苦笑する。
「其方はほんに妾をどこまでも倖にしてくれるのだな」
荒れた息の中から言われて紳は笑う。どうやら満足したようだ。
「御満足頂けたかな?頑張った甲斐があるよね」
笑う紳に、十分じゃ、と悧羅が微笑んで紳の顔を引き寄せて口付けた。
「出来ればずっとこうしていたいが、そうもいかぬのが難儀じゃな。なれど夜まで待てばまた紳は妾だけのものじゃて。楽しみも増えようしの」
「そう言うこと言うと又離してやれなくなるよ?いい加減に眠らないと、明日がきつくなる。いつまた王母様から務めを任されるか分からないんだからね」
髪を梳いてやりながら語りかけているとすでに悧羅の目は微睡み初めている。その姿に小さく笑って、紳は悧羅の横に身体を降ろして横手に悧羅を抱きしめた。寝惚けながらも紳の胸に顔を擦り寄せる悧羅を笑いながら抱きしめて、本当に離せないな、と紳も目を閉じた。
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ふと目を覚ました媟雅は見えた肌に一瞬戸惑った。その肌との間には隔てる物が何もない。それどころかその肌の主に媟雅は包まれている。そっと身を起こそうとして下腹に鈍い痛みを感じた。動けないほどではないのだが何とも重苦しく感じる。
「…身体がきついの?」
隣で寝ていた舜啓が目を覚まして起きあがろうとした媟雅の腕を掴んだ。ううん、と首を振った媟雅に、おいで、と腕を広げてくれる。ゆっくりとその腕の中に戻ると、優しく抱き止められた。
「優しくしたつもりだったけど、やっぱりきつかったかな?ごめんな」
ぎゅうっと、抱きしめられて媟雅はそんなことはない、と応えながら、そうだった、と思い出した。舜啓に破瓜の相手を願い出たのだ。恋仲になるのであれば、と条件をつけられたが媟雅に異論はなかった。実際に舜啓は優しかったし、とても丁寧に媟雅の身体を開かせてくれた。押し入られる痛みはあったけれど、それも媟雅の表情が曇るといったん動きを止めて馴染むまで待ってくれた。全てを媟雅の身体が呑みこむまでには刻を要したけれど舜啓はそのたびに、大丈夫か?、と聞いては口付けてくれた。それだけで安心してしまって頷くと奥まで入り込んで動き出した舜啓に翻弄された。最初は痛みしかなかったのに、どんどんと感じたことの無かった官能が押し寄せて来て堪えきれずに舜啓にしがみついてしまった。
「堪えなくていいよ?」
優しく言われて漏れでる声を必死に堪えていた媟雅は力を抜いた。途端に自分のものとは思えない甘い声が耳に届いたが、あまりの官能の強さに抗えず果ててしまった。思い出せば恥ずかしくて顔が赤くなるが倖にもまだ部屋は暗い。今この時に舜啓に顔を見られていないことだけが救いだった。
舜啓の腕に包まれて安堵の息をつくと、もう少し休め、と頭を撫でてくれる。
「それとも皆が目覚める前に部屋に戻る?」
知られたくないだろう?、と聞かれて媟雅は苦笑した。確かに気恥ずかしくはあるが、この腕の中から出るのは何となく嫌だった。
「戻るなら朝早く戻るから。今はこのままがいい」
「そっか」
笑いを含んだ舜啓の声が降ってきて媟雅も微笑む。そのまま包まれて眠りにつきながらこんなに倖な事があったのか、と媟雅は思った。だが、舜啓以外に任せていたら、こんなにも満たされていただろうか、とも思う。
やっぱりこれは恋慕だったのだ。
優しい匂いを感じながら媟雅も眠りにつく。朝方には自室に戻らなければならない。あと少しの刻は満たされたままでいたかった。
やっと舜啓の想いが届いたのでしょうか?
こればかりはわかりませんね。
お楽しみいただけましたか?
ありがとうございました。