表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/204

追憶【弐】《ツイオク【ニ】》

過去編続きます。

____________一体(イッタイ)なぜ、こうなった?


悧羅(リラ)夕餉(ユウゲ)を作るために炊事場(スイジバ)にいながら、頭を(カカ)えた。(ミズウミ)での状況(ジョウキョウ)を、もう一度思い出す。妲己(ダッキ)は、悧羅の(ソバ)(アヤカシ)(テン)じた(キツネ)のため、鬼達と十分に(ワタ)り合えるだけの能力(チカラ)がある。二人で、(シン)を巻くことなど容易(タヤス)かったはずだ。


それなのに、なぜ。


強引(ゴウイン)(ヤシキ)まで手を引かれて歩かされている間、悧羅は溜め息が()きなかった。


悧羅の(ヤシキ)質素(シッソ)だ。普通の里の(タミ)と変わらないか、少し小さいだろう。土間(ドマ)炊事場(スイジバ)湯殿(ユドノ)(カワヤ)。それに座敷(ザシキ)が二つ。両親が(ソロ)っていた頃は手狭(テゼマ)に感じていたが、妲己(ダッキ)と二人になってしまうと悧羅には十分すぎる広さだ。

(ヤシキ)の前で一旦止まった紳が、ようやく手を離したので、悧羅は仕方なく戸を開けて(マネ)き入れた。人気(ヒトケ)のない様子に、両親は?と紳がたずねる。それに、最近亡くなったと答えると、そっか、とだけ返ってきた。つかつかと(ヤシキ)の中に入り、一通りの場所を確認したのだろう。笑顔で戻って来た紳は悧羅の肩を(タタ)いた。


「じゃあ、暗くならないうちに色々やっとかないとな。俺、湯殿(ユドノ)の水溜めてくるから、悧羅はゆっくりしてろよ。水瓶(ミズガメ)借りるぞ」


言うなり、湯殿(ユドノ)の方に向かう。


予想外のことが立て続けに起こって、悧羅は(ホウ)けるしかない。(アルジ)よ、と妲己(ダッキ)に声をかけられて、無茶苦茶(ムチャクチャ)だ、と笑いあった。土で(ヨゴ)れた妲己(ダッキ)の足を綺麗(キレイ)()き取って座敷(ザシキ)に上げてから、自分もあがる。湯殿(ユドノ)の方からは水瓶(ミズガメ)から水を(ウツ)す音が聞こえて来る。流されていることは分かっていた。だが、どうにも紳は引き下がらない。何より、心配なことがあった。妲己(ダッキ)、と声を掛けると横に座っていた妲己(ダッキ)は、言葉にしなくても分かったようだ。


“ご(アン)じなされずともよいかとは思います。一瞬(イッシュン)でございましたし、(ワレ)も立ち(フサ)がったつもりです。(アルジ)も、すぐ水に()かられましたし…”

うん、と悧羅も(ウナズ)く。


そうだ、一瞬(イッシュン)だったのだから、見られているはずがない。(タト)疑念(ギネン)を持たれても、知らぬ(ゾン)ぜぬで通せば何とかなるはずだ。思い直して、悧羅は左肩に手を当てた。そこには、(ハス)の華が咲いている。


見られてはいけなかったし、知られてはいけないものだ。出来れば、(ハカ)まで持っていきたい。唯一(ユイイツ)()()を知っているのは(オサナ)い頃からの友である鬼女(キジョ)一人だけだが、彼女は、絶対に口を割らないと知っている。


鬼の里では、滅多(メッタ)なことでは世襲(セシュウ)はない。当代(トウダイ)(オサ)寿命(ジュミョウ)が近くなると、そこから100年の間に、次の(オサ)たる者が生まれ落ちる仕組みになっていた。(オサ)の子どもであることもあったが、それは数えるほどしかなかった。どこに生まれ落ちるのかさえ(ダレ)にも分からず、只、天からの示しとして身体のどこかに華の(シルシ)を持って生まれることだけが知られていた。


悧羅が生を受けたのは21年前になる。両親ともに2本角だったため、一本角で華の(シルシ)の子が産まれた時歓喜(カンキ)したと聞いている。だが、すぐに(ワレ)にかえり、決して悧羅がそうであることが(ホカ)に知られないように過ごすようになった。それは、(オサ)になるということがどんな事を(シメ)すのか知っていたからだ。悧羅も幼い頃から決して知られぬように、能力(チカラ)を使いすぎないように強く言いつけられている。


知られてはいけない、どんなことがあっても。


肩を(ツカ)む手に知らず知らずのうちに力が入る。そんな悧羅に、妲己(ダッキ)(イツク)しみを込めて()り寄った。



「そんなに作んの?」


不意(フイ)に背後から声を掛けられて、悧羅は心の臓が飛び出るかというほど(オドロ)いた。持っていた包丁(ホウチョウ)を落としそうになり、(アワ)てて(ニギ)り直す。作った夕餉(ユウゲ)品数(シナカズ)を見て、悧羅も(アワ)てるしかなかった。すでに6品出来上がっており、それでもなお包丁を動かしていたらしい。考え事をしながら炊事(スイジ)をすると、いつもこういう状況になる。


また、やってしまった、と溜め息を吐くと、紳が真横で出来上がったばかりの夕餉(ユウゲ)をつまんでいる。美味(ウマ)い、と言って又、別のものにも手を出そうとするので、悧羅はその手をはたいた。


行儀(ギョウギ)が悪い。ちゃんとよそうから」


言われて、紳も、はいはいと返事はするが、その手はまた別のものをつまんで口に(ホウ)り込んでいる。もう、と(トガ)めるが意に(カイ)していないようだ。外を見ると、あれほど暑かった日差しは陰り、夕闇(ユウヤミ)が押し寄せてきている。悧羅は手早く支度(シタク)を済ませ、紳を座卓(ザタク)に案内した。口に合うかしらないわよ、と言って白米をよそぎ、紳に手渡す。一度手を合わせて、紳が箸を取った。用意された物は、質素だがどれも美味しかった。ついつい、箸がすすんでしまう。その姿を見ながら、茶を()れて、紳の前に置いてから悧羅も箸を手にした。


「…ねえ、本当にここで暮らすの?」


(タズ)ねると、うん、とさも当然(トウゼン)のような(コタ)えが返ってくる。


大丈夫(ダイジョウブ)だよ。寝込(ネコ)みを(オソ)うほどの馬鹿(バカ)じゃないから」


笑いながら言われて悧羅はまた嘆息(タンソク)する。


本当に何をしているのだろうか、と思ったが目の前で美味(オイ)しそうに自分の作った夕餉(ユウゲ)を食べている紳を見ていると、とりあえずはこの状況を受け入れようと思うことにした。

子どものあらしがさりました。

飼い猫も追い回されてぐったりしてます。

悧羅と紳の出会い。ぐいぐいくる紳は、今で言う肉食系なのでしょうね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ