表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/204

十年【子ども達】《ジュウネン【コドモタチ】》

おはようございます。

今日は雨です。

砂と(ホコリ)(マミ)れて媟雅(セツガ)忋抖(カイト)啝珈(ワカ)は宮に戻った。幾度(イクド)と通った玄関(ゲンカン)の戸ではなく直接中庭に降り立つと縁側(エンガワ)に座っている母の姿が見えた。降り立つ直前に母の目の前からふうっと消え去る(カゲ)も見えたがすでに姿はない。子ども達を見留(ミトド)めて母が優美(ユウビ)な笑みを浮かべる。


「お戻りやし」


(ヤワ)らかな声音(コワネ)にほっと三人は安堵(アンド)の息をついた。三人の母は里の(カナメ)となる(オサ)悧羅(リラ)だ。(オサナ)(コロ)は良く分からず、ただ優しく美しい母が自慢(ジマン)だったけれど成長するにつれその偉大(イダイ)さが分かってきた。さすがに幼い頃のように飛びついたりはしないけれど、飛びつきたくなる気持ちは母を見ると出てきてしまう。母の(ソバ)に歩いて寄りながら、ただいま、と言うと立ち上がってそれぞれの(コロモ)や顔についた(ホコリ)や砂を(ハラ)ってくれる。(ヨワイ)十九になる媟雅や十七になる忋抖(カイト)啝珈(ワカ)にとれば少しばかり()(クサ)いけれど、(イツク)しみを込めた手で触れられると幼子(オサナゴ)に戻ったような気がして嬉しくなる。


大分(ダイブン)気張(キバ)ってきたようじゃの。怪我(ケガ)はないかえ?」


それぞれの(ホオ)に触れながら微笑(ホホエ)む悧羅に、大丈夫、と三人が(コタ)えると、そうか、と笑みを深くする。痩身(ソウシン)だが上背(ウワゼイ)もある悧羅は媟雅(セツガ)啝珈(ワカ)よりも少しばかり大きく、忋抖(カイト)よりも少しばかり小さい。この母を護るために三人は日々(ヒビ)鍛錬(タンレン)や学びを()かすことをしないのだ。


「今日は舜啓(シュンケイ)に相手してもらったんだ。でもねぇ、舜啓ってば姉様(アネサマ)相手だと本気出さないから、もうぼっこぼこにされてたよ」


忋抖(カイト)が笑いながら悧羅に(シラ)せると、おやまあ、と悧羅が笑っている。


「舜啓は姉様(アネサマ)をお(ヨメ)様にするってずっと言ってるもんね。啝珈(ワカ)達には本気でやってくれるけど姉様(アネサマ)だと本気出せなくてやられちゃってんの。可哀想(カワイソウ)


冷やかすような忋戸(カイト)啝珈(ワカ)に悧羅は、そうか、と笑っている。苦笑するしかない媟雅(セツガ)は小さく舌を出して見せた。あまり(イジメ)てやるでないよ、と悧羅に言われて、分かってる、と返す。物心(モノゴコロ)ついた時から舜啓は自分の嫁になるのだ、と媟雅(セツガ)に言い続けていた。小さい頃は(ワケ)も分からず媟雅(セツガ)もそうなるのだろうと思ってはいたが、大きくなるにつれてそれで良いのかと思うようになった。別に舜啓の事を好いていないわけではないのだけれど、悧羅の(ハラ)にいた時から決められていたと聞いては、それは自分の為人(ヒトトナリ)を知っての事ではなく、悧羅の娘だから嫁に取りたいのではないかと考えるのだ。そう思えば簡単(カンタン)に言われた通りに嫁に行くわけにもいかない。


父である近衛隊隊長(コノエタイタイチョウ)(シン)も、母である悧羅も特段(トクダン)押し付けるような事を言わないのが(スク)いだ。


媟雅(セツガ)の思う通りにすれば良い」


二人にそう言ってもらえて安堵(アンド)したのは秘密にしている。媟雅(セツガ)にも理想(リソウ)の相手がいる。紳と悧羅の様に唯一無二(ユイイツムニ)の相手を(サガ)したい。舜啓に、紳以上の男でないと駄目だ、と言ったのもそういう意味だ。強さは()(ツギ)で良い。(ヨウ)は相手を(イツク)しみあえるかどうか。そういう相手と共に過ごしたいだけだ。冷やかし続けている弟妹(テイマイ)(ホウ)っておくことにして、下の三人の弟達は?、と悧羅に(タズ)ねる。


「湯を使っておるよ。皓滓(コウサイ)灶絃(ソウゲン)玳絃(タイゲン)を入れてくれておる。お前たちも湯を使っておいでやし」


柔らかな微笑みを浮かべたままで優しく言われて媟雅(セツガ)は笑ってしまう。忋抖(カイト)、と弟に声を掛けると、分かってるよ、と下の弟達が入っている湯殿(ユドノ)に向かった。


「じゃあ姉様(アネサマ)啝珈(ワカ)と一緒に入ろうよ。露天(ロテン)で良いよね?支度(シタク)しとくから」


啝珈(ワカ)が飛びついて媟雅(セツガ)(サソ)う。いいよ、と媟雅(セツガ)が言うと、やった!、と嬉しそうにぱたぱたと走って行った。十七にもなって姉と湯を使いたがる妹に媟雅(セツガ)は苦笑するしかない。走って行く姿を小さく笑いながら悧羅は見ている。幼子(オサナゴ)のようだ、と言う悧羅に、甘えん坊はなおらないみたいだね、と媟雅(セツガ)も笑った。


母様(カアサマ)王母(オウボ)様がおいでになってた?」


中庭に降りる直前に見た(カゲ)が気になって聞くと、先程(サキホド)の、と悧羅がまた縁側(エンガワ)に腰を降ろした。


(イソ)ぎのこと?危なくない?」


(タズ)ねる媟雅(セツガ)に、悧羅はゆっくりと首を振って見せた。


「少しばかり霊峰(レイホウ)中腹(チュウフク)(アヤカシ)どもの(イサカ)いが()えぬらしい。急ぎではないが(イマシ)めよ、と言うてきただけじゃ。どうにも大国(タイコク)大妖(タイヨウ)たるモノが()に渡ったようでな、均衡(キンコウ)(クズ)れかけておるのであろ。(アヤ)ううはないで(アン)ずるな」


簡単(カンタン)に言ってる、と媟雅(セツガ)嘆息(タンソク)する。媟雅(セツガ)達の住まう場は十年前に悧羅がそれまで(キョ)(カマ)えていた()の地上から里ごと()()(ウツ)した。(トオ)にもならない媟雅(セツガ)だったけれど、その時の悧羅の能力(チカラ)()せられて身震(ミブル)いしたのを覚えている。ただ能力(チカラ)を使い過ぎると悧羅が(ツカ)れて()せってしまうことが心配だった。()()()も丸一日寝込(ネコ)んだのだ。目を開けてくれるのかと子ども心に泣きたくなったのを思い出す。


「本当に無理しない?大丈夫(ダイジョウブ)?」


大事(ダイジ)ない。少しばかり(イマシ)めてくるだけじゃて。無理(ムリ)はせぬと約束しようかえ?」


心配する媟雅(セツガ)に悧羅は微笑(ホホエ)むばかりだ。でも、と言う媟雅(セツガ)にもう一度悧羅は、大事無い、と言って聞かせる。


(ワラワ)が一人で行かぬことは知っておるであろ?父様(トウサマ)が許してくれぬのでな。(シン)がおって妾が無理を出来るとおもうかえ?」


笑って言われて、確かに、と媟雅(セツガ)も肩の力を抜いた。父が共にいくのはいつものことだ。共に行って母に無理をさせるような父ではない。


「でも、行く時は教えてね?心配するから」


「あい分かった。おや?(ウワサ)をすれば…」


くすくすと笑う悧羅を見ていると媟雅(セツガ)の後ろで、とん、と地に降り立つ音がした。振り向くと父である(シン)が立っている。お戻りやし、と立ち上がる悧羅に紳は真っ直ぐに歩いて寄り添うと、ただいま、と悧羅の(ホオ)に口付けている。媟雅(セツガ)達、二人の子どもにとっては見慣れた光景だ。


「二人してどうしたの?何かあった?媟雅(セツガ)はまだ湯も使ってないじゃない」


笑う紳に王母(オウボ)の話を悧羅がすると、なるほどね、と紳は笑った。媟雅(セツガ)の気持ちを(オモンバカ)ったのだろう。大丈夫だ、と媟雅(セツガ)の頭を()でる。


「里を移した時に悧羅が寝込(ネコ)んだから、余計に心配になるんだよな。媟雅(セツガ)忋抖(カイト)啝珈(ワカ)も分かる年頃(トシゴロ)だったから」


うん、と(ウナズ)媟雅(セツガ)に紳が笑う。


「あれ以来寝込むなんてことなかったろ?俺が(ソバ)にいるんだから大丈夫。媟雅(セツガ)が思う様なことにはさせないからね」


うん、と(フタタ)び頷いていると、良い子だ、と紳が媟雅(セツガ)の頭をくしゃりと混ぜた。それはそうと、と悧羅に紳が向き直る。


闘技(トウギ)(ケン)枉駕(オウガイ)も乗り気だったよ。荊軻(ケイカツ)にも了承もらってきた。ただ、出る年頃(トシゴロ)だけはきちんと示してくれってさ。でないと、うちの下三人も出るって言い出すからって」


「おや、それは(ヨロ)しゅうことだの。なれど余り無理はさせてくれるな。妾は気が気でならぬ(ユエ)


分かってるよ、と悧羅の(ホオ)に触れる紳の後ろから、何の話?、と声がかかった。三人で振り向くと濡れた髪を()きながら忋抖(カイト)皓滓(コウサイ)灶絃(ソウゲン)玳絃(タイゲン)を連れてやってきている。その後ろには啝珈(ワカ)がいて紳を見つけるなり、おかえりなさい!、と飛びついた。


「ただいま。何だよ、啝珈(ワカ)もまだ湯を使ってないのか?」


勢いよく抱きつかれても(ドウ)じずに啝珈(ワカ)を抱きとめて紳は笑ったが、足元にも父様(トウサマ)!、と下の子三人にしがみつかれて少しばかり紳もよろけた。おっと、と言いながらも紳は笑っている。子ども達は紳が怒っているところを見たことがない。いつも優しい父が皆大好きなのだ。


「だって姉様(アネサマ)と一緒に入ろうって言うのにぜんぜん来ないんだもん。支度(シタク)したのに遅いから(ムカ)えにきたの」


(ホオ)(フク)らませる啝珈(ワカ)媟雅(セツガ)は、ごめんごめん、と(アヤマ)った。


「で、なんの話してたの?」


弟達を呼び戻して濡れた頭を拭いてやりながら忋抖(カイト)がもう一度(タズ)ねる。闘技(トウギ)が何とか言ってたよね?、と(ウナガ)されて、地獄耳(ジゴクミミ)め、と紳が苦笑する。


「若い鬼達で力試(チカラダメ)しの大会を開こうと思ってさ。自分の実力がどの程度か知るのに丁度(チョウド)いいしね」


「え?そんなのあったの?俺知らなかったよ?昔からあったの?」


きょとんとする忋抖(カイト)に先代のときは毎年あってたね、と紳が(コタ)える。


「悧羅が立ってからは二回かな。悧羅は不要(フヨウ)いに民達が(キズ)つくの嫌がるから。何かあれば自分が動くってさせなかったんだよ」


ね?、と聞かれて悧羅は苦笑する。闘技(トウギ)といえど真剣勝負(シンケンショウブ)になる。多少の怪我(ケガ)は仕方ないが出来れば民達には傷ついてほしくはないのが本音(ホンネ)だ。


「ならどうして母様(カアサマ)が許したの?矛盾(ムジュン)してない?」


問う忋抖(カイト)に悧羅は苦笑するしかない。


「悧羅のためだって俺がお願いしたんだよ」


悧羅の代わりに紳が応える。母様(カアサマ)のため?、と子ども達は皆きょとりとしてしまう。


「悧羅が無理しちゃうのはみんな知ってるだろ?大きな事は悧羅が動かなきゃならないからね。でもその悧羅を護るのは俺たちでも出来る。特に里も大きくなってきてるし、優秀なやつは隊に引き入れて、四方八方(シホウハッポウ)(マカ)せられるようにしたいんだ」


ふうん、と啝珈(ワカ)が紳から離れた。


「でもさ、先代までは毎年のようにやってたんでしょ?じゃあ、母様(カアサマ)も出たことあるの?(オサ)なのに?」


素朴(ソボク)疑問(ギモン)だったのだろう。考えあぐねるように首を(カシ)げて聞く啝珈(ワカ)に、仕方なかったからの、と悧羅は頷いた。


「妾は次代(ジダイ)(オサ)とならねばならぬことを(カク)しておったに。出らねば不信(フシン)がられるでの」


「でも母様(カアサマ)出ちゃったら瞬殺(シュンサツ)じゃない?」


媟雅(セツガ)にまで聞かれて悧羅はますます苦笑する。隠しておったというたであろ?、と笑って言う。


「当たった奴が可哀想(カワイソウ)だよね」


忋抖(カイト)の言葉に、悪かったな、と紳が苦笑する。父様(トウサマ)なの?、と驚く子ども達は次には母様(カアサマ)強かった?、と聞いてくる。強いも何も、と紳は()(セマ)られて、ちょっと落ち着け、と子ども達を(タシナ)めた。


「悧羅、本気なんて出さずに俺に負けたんだよ。(ヒド)くない?俺の面目(メンモク)丸潰(マルツブ)れだよ」


「…わざと負けたの?母様(カアサマ)が?」


目を丸くする啝珈(ワカ)に、悧羅は、目立たぬようにしておきたかったのだ、と笑う。


見破(ミヤブ)られるなど思うておらなんだがの。紳には通用(ツウヨウ)せんだったようでな」


小さく笑いながら言う悧羅に、ええ?、と子ども達は不服(フフク)そうにする。


「そんなんで勝っても父様(トウサマ)(ウレ)しくないよねぇ」


皓滓(コウサイ)が声を上げると灶絃(ソウゲン)玳絃(タイゲン)まで、そうだよねぇ、と声を(ソロ)えている。悧羅が苦笑していると紳までも、だってさ、と笑ってくる。妲己(ダッキ)に助けて欲しいところだが、子ども達が戻ってくる前に咲耶(サクヤ)(ヤシキ)使(ツカ)いを(タノ)んでしまった。


仕方(シカタ)なかったのだよ。出らねばならぬならキリの良いところで負けておこうと思うておったでな。たまたま相手が紳であっただけのこと(ユエ)。誰が相手であろうとそこで帰ろうと思うておったに」


そう責めてくれるでないよ、と小さく笑いながら悧羅は子ども達に頼んだ。でもねぇ、と納得のいかない子ども達に今度は紳が笑い始める。


「だけどそれがあったから俺は悧羅を嫁にとれたんだよ。悪いことばっかりじゃないでしょ?」


そうなの?、と媟雅(セツガ)が目を丸くする。それは初めて聞く話だ。そうだよ?、と紳はいともなげに笑っている。


「悧羅はその頃から(ヒイ)でて綺麗(キレイ)だったからね。妲己(ダッキ)も連れてたから目立つ目立つ。ちらちら悧羅の事見てる奴は多かったね」


母様(カアサマ)だもんね。それは仕方ない」


座った膝に灶絃(ソウゲン)玳絃(タイゲン)に座られて身動きの取れないまま忋抖(カイト)が笑っている。だろ?、と紳も同意している。


「じゃあ父様(トウサマ)母様(カアサマ)(オサ)だって知ってたの?」


啝珈(ワカ)に聞かれて紳は、いいや、と応える。


「その時は知らなかったよ。打ちあって、こいつだ!、って思っちゃったんだよね。でも俺が勝っちゃったから試合してる間に悧羅帰っちゃってるしさ。探した探した」


思い出して可笑(オカ)しくなり紳は声を上げて笑う。よく見つけられたもんだ、と笑う父に子ども達は呆気(アッケ)にとられた。簡単そうにみえるが(イク)ら里が荒廃(コウハイ)しつつあったとはいえ民達はまだ多くいたはずだ。


「なんでそこまでして探したの?」


媟雅(セツガ)の問いに紳は笑って、一目惚(ヒトメボ)れしてたから、と肩を(スク)めてみせた。それって何年前?、と聞いたのは皓滓(コウサイ)だ。いつのまにか悧羅の横に立って手を(ツナ)いでいる。


「500年かな?」


はあ?、と子ども達から今度は驚愕(キョウガク)の声が上がって紳はますます声をあげて笑っている。父母が(ツレアイ)になったのは媟雅(セツガ)宿(ヤド)ったのがきっかけだと聞いていた。だとすれば二十年程度のはずなのだ。よもやそんなに長く紳が悧羅を想っていたとは知らなかった。何でそこまで、と(アキ)れたように言う忋抖(カイト)に紳は指を立てて見せる。


「こんなにいい女ほかにいるか?俺には悧羅がどうしても必要だったんだよ。それだけの事だ」


「それだけって…」


言葉を失う子ども達に、まあ良いであろ、と悧羅が笑った。その500年の間に何があったのかなど知らなくても良いことだ。笑いながら悧羅の(ホオ)に触れてくる紳を目で(タシナ)めると、ごめんごめん、と笑いを含んだ()びが返ってきた。悪いなどと思うておらぬくせに、と思いながら悧羅は闘技(トウギ)の話に戻す。


「して、(ヨワイ)(イク)つからにするつもりなのじゃ?」


小さく息をつく悧羅に、こいつら出たがるでしょ?、と紳が媟雅(セツガ)忋抖(カイト)啝珈(ワカ)を指差した。出る!、と手を挙げた忋抖(カイト)啝珈(ワカ)を見て、ね?、と紳が苦笑する。


「だから十七が頃合(コロアイ)かな?」


「まあ仕方あるまいな」


嘆息(タンソク)する悧羅に、やった!、と忋抖(カイト)啝珈(ワカ)破顔(ハガン)した。その二人に、でも、と紳が釘を刺す。


「本気でやれよ?お前達の力が今どの程度なのか見極めることにもなるし、見習(ミナラ)うことも沢山(タクサン)あるだろうから。媟雅(セツガ)もだぞ?もしも舜啓(シュンケイ)と当たっても手加減(テカゲン)してもらえると思うなよ?俺たちの子だからって遠慮(エンリョ)する必要はないって前もって(シラ)せは出すつもりだからね」


分かった、と(ウナズ)く三人に、よし!、と紳はまた笑った。僕も出たかったなあ、と言う下の三人に悧羅が、もう少し大きくなってから、と(サト)すと、はあい、と(アキラ)めた返事が返ってきた。良い子じゃ、と皓滓(コウサイ)の頭を()でてから、まだ湯を使っていない三人に湯殿(ユドノ)に行くように(ウナガ)した。


「悧羅は?入ったの?」


紳に聞かれて、まだだ、と応えると空いた手を引かれた。


「じゃあ一緒に入れるね」


破顔(ハガン)する紳に悧羅は苦笑する。子ども達も、また始まった、と笑うしかない。悧羅の手を(ツナ)いでいる皓滓(コウサイ)忋抖(カイト)が戻ってくるように言うと悧羅の手を離して忋抖(カイト)の側に歩いていく。


「見とくからゆっくり入ってきていいよ」


悪戯(イタズラ)な笑いを浮かべられて紳は、ばぁか、と笑いながら悧羅の手を引いて湯殿(ユドノ)に向かった。


「じゃあ姉様(アネサマ)啝珈(ワカ)達も入ろうよ。もう啝珈(ワカ)べったべたで気持ち悪い」


手を引かれながら媟雅(セツガ)は思う。500年もの長い間、母だけを想い続けた父のことを。どれだけの想いだったのか媟雅(セツガ)にははかりしれない。父母は何も言わないが、きっと互いにしか分からない何かがあったのだろう。今はまだ知れなくともきっといつか話してくれるはずだ。


その時にその想いを理解できるような者になっていたい。


やはり父母のような(ツレアイ)を自分も見つけたいものだ、と妹に手を引かれながら媟雅(セツガ)は思いを()せた。

秋になってきたのでしょうか?

少しばかり冷え込むようになりました。

皆様もご自愛くださいね。


お楽しみいただけましたか?

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ