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 女性に案内されて部屋に入って来たのは長身でややがっしりとした体格の男性だった。

 【騎士】と言われていた通り装いもあまり華美ではなく、動きやすさに重きを置いたもののようだ。

 顔立ちは整っているとはいえその表情は硬く、彼が視線をこちらに向けると真珠は小さく肩を跳ねさせた。


「驚かせたようだな。体調はもう平気だろうか」


(表情は怖い、けど、言葉は優しい)


 世話を焼いてくれた女性同様、こちらを気づかう言葉に力が抜ける。

 真珠がベッドを降りようとするとそれを制止され、代わりに彼自身が部屋の椅子を近くまで持ってきて腰かけた。

 あの女性は、と視線をさ迷わせると彼女は入り口近くに静かに佇んでいた。


「気を失って倒れたんだ。頭は打たなかったとはいえ、もう少し休んでいるといい。俺はデリス・クレーエ。君をここへ運んできた騎士だ」

「あ、ありがとうございます。私は真珠です。高校生――ええと、学生?でいいのかな」


 コーコーセー?と首を傾げたデリスに慌てて言い直すと、意味が通じたのか頷いてくれた。


「なるほど、学生か。こちらにも学舎はあるのだが、いかんせん間口が狭くてな」


 ある程度の身分あるものしか入れない、と言われて真珠はなるほど、と相づちを打つ。


「俺もそんなに高い身分ではないから、そう畏まらなくてもいい。名はデリスと呼びすててくれ。マリ嬢、まずは無理にこの世界へ招いてしまった事を、あの場にいた者たちの代わりに謝罪する」


 そう言ってデリスは真珠に頭を下げた。


「ええと、あのっ、何でデリスさんが」

「王は絶対に非を認めないだろうし、あの鑑定の後だ。他の貴族連中や関係者どもは、君に悪いことをしたとは露ほども思っていないだろう」


 真珠が慌てて頭を上げるように促すと、デリスは首を振って更に頭を深く下げた。


(どうしたらいいんだろう。デリスさん頭を上げてくれない)


 勿論、この状況に怒りを感じないわけではない。起きた直後、混乱中の真珠なら間違いなく八つ当たりをしていた。

 しかし泣いて多少は落ち着いた今、デリスへその怒りを向ける気にはならなかった。気絶した真珠をここまで運んでくれたのはもちろん、あの女性に世話をお願いしてくれたのも彼だろう。

 困った様子の真珠を見かねて女性が小さく咳払いをすると、ようやくデリスは深々と下げた頭を元の位置に戻した。


「失礼した。困らせるつもりは無かったのだが」

「いえ、今のでデリスさんの気持ちは伝わりましたから」


 真珠がはにかむように笑うと、デリスもほんの少し目元が和んだ気がした。




「王は側近たちと話し合いの最中だ。君をどういう扱いにするのかは、まだ決まっていない」

「そう、なんですね……」

「その間は俺預かりという事になっている。ここは王城の一角だがあまり人は来ないし、君が好奇の視線に晒される事もないだろう」


 少し寛いだ雰囲気になった所で、デリスは話を切り出した。

 まだ何もわからない事に不安は募るが、続くデリスの言葉に真珠は少しだけ救われた気がした。

 あの部屋でじろじろと遠慮なく向けられた視線は、とても居心地が悪かった事を思い出す。


「それと、彼女も紹介しておこう。彼女はこの王城の下働きで、元々は俺の家で働いていた知り合いでもある」


 デリスが手招くと、女性は入り口から移動して真珠の近くに来た。


「マリ嬢、彼女の名前はリナだ。リナ、自己紹介を」

「お嬢様、私はリナ・マルシュと申します。しばらくの間マリお嬢様のお世話をさせていただきます」


 リナは真珠の前で綺麗なお辞儀をした。さっきは気が動転していたからそのまま受け入れてしまったが、真珠は自分がお嬢様と呼ばれるのはなんだかこそばゆいような気持ちになる。


「お、お嬢様はちょっと……正気に戻ると恥ずかしいと言うか」

「デリス様のお客様ですし、お若い女性となると通常はお嬢様とお呼びするのが妥当だと思うのですが……」


 できれば別の呼び方が無いかとやんわり尋ねると、リナは考えているのか口元に手を当てしばし無言になる。


「む、無理にとは言わないです」


 自分が慣れないだけで、こちらの一般常識としてはそうなるのだろう。困らせてしまっていると思い真珠が声をかけると、リナは一つ頷いてこちらを見た。


「そうですね……それではマリ様とお呼びすることに致します。あくまで私は使用人ですので、立場上これ以上の譲歩は難しい事をご理解頂けると幸いです」

「こちらこそ、ワガママを言ってごめんなさい。よろしくお願いしますね、リナさん」

「いえ、主や客人が心地好く過ごせるよう気を配るのが使用人のつとめです。慣れない国で、大変な目にあってお疲れでしょう。お腹の調子はいかがですか?よろしければ軽く食べられるような物をご用意致しますが」


 呼称問題が程よい所に着地したのも束の間、真珠のお腹がクゥ~と情けない音を立てる。


(うわー、こんな時に!お腹が空いてるって口に出すより恥ずかしい……)


 いったいどれくらい寝ていたのかは分からないが、学校で昼食を食べてからは何も口にしていない。

 お腹を押さえながらふとデリスを見ると、真珠からは顔を反らしているが口元が弧を描いているのが見えた。リナは逆に平然としている。


「俺も何か腹に入れたい。リナ、悪いが二人分用意してくれ。運ぶのは手伝おう」

「かしこまりました。マリ様、すぐにご用意致しますので少々お待ちくださいませ」


 デリスのその気づかいが今は逆に恥ずかしい。

 顔を真っ赤にした真珠を残して、二人は部屋を出ていってしまった。

しばらくほのぼの展開

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