襲撃
あいつの母親がジャームで、恨みを買った。
俺はすぐさま姉さんのスマホに電話をかけた。
しかし、全く繋がらない。
無情に呼び出し音だけが続いていく。
頼む……姉さん……出てくれ……!!
「どう!?北條君!?」
「ダメだ……全く繋がらない」
水無月の焦り顔が、俺の焦りを増幅させる。
姉さん……無事で居てくれ……!!
姉さんまで殺されるなんて、絶対に嫌だ……!
「北條君!お義姉さんの居場所は、普通に考えるなら自宅でいいのね!?」
水無月は切羽詰まったように言った。
俺は頷く。
こんな時間に、姉さんは出歩いたりしない。
家に居るはずだ。普通なら。
「だったら、任せて!」
水無月は、片手の上に魔眼を出現させ、地に片膝をついてしゃがみ込む。
そして地に空いている手をついて、叫んだ。
「ディメンジョンゲート!」
水無月の宣言と同時に、空間が歪み、穴が開いて。
俺の自室が、穴の向こうに出現した。
「重力で空間を歪めて、北條君の自室とここを繋げたわ!早く通って!」
すごい……水無月って、こんなことまで出来るのか……!
ありがとう……!感謝しきれないよ!
「ありがとう水無月!助かった!」
俺は空間に開いた穴を潜り抜けた。
穴を潜ると、自室だった。
パソコン一台、学習机、そしてベッド。
本棚ひとつ。
すごい……本当に自室だ……!
エリートオーヴァードだったって、水無月の言葉。
本当なんだな。すごい女の子だ。
そこで、自分が靴のままなのに気づく。
でも、そんなことを言ってる場合じゃない!!
自室を飛び出し、すぐさま、姉さんの自室をチェックする。
……いない!
もぬけの殻。
姉さんの部屋は、部屋の主が不在。
俺と違って、繊細な感じのインテリア。小物なんかも洒落ていて、女の子の部屋だ。
姉弟とはいえ、女の子の部屋なので、あまりじっくり見たことは無いが、今はそんなことを言ってる場合じゃない。
ベッドの布団の中も確認した。
洋服ダンスの中も開けてみた。
どこにも居なかった。
……次だ!!
居間をチェック。
……いない!
そして居間は、大窓がぶっ壊れて、ガラスの破片が周囲に飛び散っていた。
探すまでも無い。
ここで何が起こったのか、すぐに分かった。
やっぱり、襲撃があったのだ。
居間のテーブルの上に、ガラスの破片が散っている。
俺の日常が、侵された象徴のようだった。
俺の焦りが最大限になり、俺は頭を抱えて崩れ落ちた。
そんな……俺はまた、家族を失うのかよ……!?
そのとき、空間が歪み、開いた穴から、水無月、泉先生、その肩に乗ったブラックさんが現れる。
瞬時に、事情を察したらしい。
「……遅かったか」
「どうしよう……姉さんが……!ブラックさん!?」
「落ち着け。まだ殺されたと決まったわけじゃない!」
ブラックさんの声は焦ってはいたが、俺よりは落ち着いていた。
「藤堂一美については一夫を調査するときに少々調べている。自己中心的で、息子以外の他人について、全く思いやりを持っていない人物だったようだ」
小6の一夫がカメラを万引きしたときに、彼女は「万引きされるようなところにカメラを置いていた店が悪い。息子は悪くない」と触れ回り、執拗に店を侮辱する発言を繰り返したらしい。
モラルが元々全くなく、加えて執念深い人物だったらしい。
「だから、彼女がキミの姉さんを攫ったとして、あっさり殺すとも思えない。まだ間に合う可能性がある」
それでも、危険なことには変わりない。
早くしないと。しかし、どこに……?
焦る俺に、ブラックさんが続けてくれた。
「多分だが、藤堂家の可能性が高い。お楽しみは、自分の巣でじっくりと行いたい。そういう心理が働くだろうからな」
あいつの家か……!!
ここからだと、走って30分はかかるぞ。
車か何か……あ、そうだ。水無月に言えばなんとか……?
しかし。
「クリスタルオーブ、藤堂家に飛ぶことは可能?」
俺が言う前に泉先生が水無月に言った。
しかし、水無月は、悔しそうな顔をして
「すみません。そこは無理です」
首を左右に振った。
無理なのか……!
多分、何かしら条件があって、それに合わないんだろう。
悔しい……!
でも、これは水無月のせいじゃない。
彼女を責めるのはお門違いだ。
それに、彼女自身があんなに辛そうにしてくれている。
そんな彼女にそんな筋違いの恨み言、言えるかよ!
「そう。……じゃあ、しょうがないわね!!」
先生は、腕をクロスさせて、息を大きく吸い込んだ。
次の瞬間。
クアアアアアアッ!!
先生の完全獣化。
体中に鱗が浮かび上がり、腕は太く、太腿も肥大する。
両手は鉤爪に変わり、脚も恐竜のように変化。
口が裂け、歯が牙に変わっていく。
変化についていけない衣服が、どんどん裂けていく。
そして前と違ったのは、背中から巨大なドラゴンのような翼が生えてきたことと。(これでTシャツが完全に弾け飛んだ)
お尻から同じく、ドラゴンのような尻尾が生えてきたこと。(ジャージも同じく、これで完全に弾け飛ぶ)
これが、先生の、本当の完全獣化なのか。
そこに居たのは、直立したドラゴン人間。
そういえば、ヴィーヴルって、牝ドラゴンの名前だったっけ……
「行くわよ!私が運ぶから!自動車より早くいけるわ!しっかり掴まるのよ!!」
ガシッ
先生は、俺と水無月を両腕で抱えて、背中の翼を羽ばたかせた。
俺たちは、夜空に舞い上がった。
そして、瞬時に、急加速する。
!!!
先生はしっかり抱いてくれているが、俺たちもしがみ付かないとヤバイ。
そんな速度だ。
しかし、これなら……!!
無事でいてくれ、姉さん!!
ディメンジョンゲートは、知ってる場所へのワープポイントを作成するバロールのイージーエフェクトです。