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裁きの炎  作者: 山川海のすけ
11/24

告白

水無月は昔何をやったのか?

「……痛いところを突いてくるね。北條君は」


三角座りのまま。

水無月は苦笑していた。


「……ゴメン。でも、どうしても聞いておきたかったんだ」


「結構苦い記憶なんだよ?」


顔を自分の膝に押し付けて。

水無月はそうポツリと言う。


「絶対嫌だったら無理強いはしないけど、できれば知りたい」


何故って、一緒に戦うことになるかもしれない相手が、過去に何をやったのか。

知っておかないといけない気がしたからだ。


水無月はしばらく沈黙し。


「分かった。話してあげる」


話してくれた。


私ね、バロールシンドロームの奥義のひとつ、通称「時の棺」が使えるの。

狙った相手の時間を、ほんの一瞬だけだけど、停めることが出来るエフェクト……すごいでしょ?

まぁ、数日に1回くらいが限度だから、連発できないんだけど。


でも、それで重宝されて、結構上のランクのチームのメンバーに入ってた。

敵ジャーム、敵エージェントが何か致命的な技を繰り出して来た時、それを失敗させるための奥の手として。


でもね。


ある作戦の時、チームで仲の良かったメンバーが、重傷を負ったのね。

そこに敵の追撃が来た。


そのときにね、使っちゃったの。

「時の棺」


その子を救う手段は、他のメンバーが持ってた。


でも、使っちゃった。

信じ切れなかったんだね。


私の役目は、誰か一人を守ることじゃなくて、チーム全体を守ることだったのに。


そのせいで、結果は作戦失敗。

肝心なときに、敵の奥の手を封じることができなくて。


死人は幸い出なかったんだけどね、言われたわ。


「残念ながら、キミをチームに入れておくのは危険だ。抜けてもらう」


そして、この街に転勤になったのよ。

まぁ、自業自得なんだけどね。


「自分に与えられた役目を正しく理解しないで、感情で先走った結果よ」


そう自嘲気味に笑って、水無月はその話を終えた。




水無月には悪いことをしたと思う。

でも、聞いておきたかったんだ。


水無月が何で失敗したことがあるのか。それが分からないと、信用して背中を預けるのは難しいんではないかと思ったから。


「ただいま……」


支部での訓練での出来事を思い返しながら、俺は自宅の玄関に入った。

靴を脱ぎながら、姉さんにも悪いことをしていると思う。


早く帰るってあの日約束したのに、訓練をしてもらうために完全に破っている。

初日は怒られた。

何かあったと思った!連絡くらいしなさい!って。

もっともだ。


俺は平謝りした。

したけど。


明日も似た感じになる、と伝えたんだ。

猛反発された。理由も聞かれた。


でも、答えられないから黙ってた。


最後に姉さんが折れて、もう勝手にしたら?って悲しそうに言った。

胸が痛んだよ。


でもさ。

ここで訓練を積んでおかないと、大林さんの仇を討つときに、手を貸せないかもしれないんだ。

ゴメン、姉さん。


理由は言えないけど、許して欲しい。


靴を脱いで家に上がると、家の中が暗い。

もしかして誰も居ないのかと思ったが、玄関に姉さんの靴があったことを思い出す。


だったら、これは一体……?


そのとき、すすり泣きが聞こえた。


姉さんだ!


直感したので、俺は走った。

そして、すすり泣きの聞こえた部屋を開ける。


そこは居間で、部屋の中央で姉さんが座り込み。制服も着替えずに明かりも点けず一人泣いていた。


「姉さんどうした!?」


俺はそう言って駆け寄る。

俺の声で俺が帰って来たことに気づいたのか「あれ?もう、帰って来たの?」と姉さん。


「何かあったの!?」


「ううん……ただ、杏子ちゃんのことを思い出していただけ」


帰宅して一人になったとき。

ふと、親友の大林さんとの思い出が頭の中に蘇ってきて。

思わずその場で泣き崩れてしまったとのことだった。


姉さんは語った。

彼女との思い出を。



あれは、今から2年くらい前だったかな。

杏子ちゃんと一緒に、学校から帰っていると、私たちの道を塞ぐように、高級そうな車が停まったの。


すると、そこから一人のおばさんが降りてきて。


身なりはだいぶ良かったよ。

一目で「お金持ちだ」って分かった。


そのおばさん、私たちの方に大股で歩いて来て、いきなり封筒を突き出して来たのね。


それでね、言ったの。


「これで、息子の悪評を言いふらすのやめてもらえる?」


封筒の中には、一万円札がぎっしり入ってた。

それでわかっちゃった。


ああ、このおばさん、お兄ちゃんを殺したやつの母親だって。


「あなたたちが済んだことを言いふらすから、息子がいつまで経っても就職できないのよ」


「もうちょっと大人になったら?はっきり言ってゴキブリみたいよ?あなたたち?」


「お金が欲しいんでしょ?ホラ、受け取りなさいよ」


許せなかったけど、ものすごく怖かった。

どうしてこんな、メチャクチャなことが言えるんだろう?

この人、人間の心持ってないんじゃないの?


鬼か悪魔が目の前に立ってる気分だった。

だから、私は何も言えないで固まってた。


そこに。


「ゴキブリはあんたでしょ!?」


杏子ちゃんがね、私を守るみたいに一歩出てくれたのよ。


「金が欲しいんだろ、ですって?最低だわ。アンタの息子とやらが就職できないのも、それは全部心の醜さが招いたことじゃないの!?」


「なんですって!?」


「取り消さないからね!?ワタシ、間違ったことなんて一言も言ってないし!いこ、琴美!こんな汚い人と関わる必要無いよ!」


私の手を引っ張って、助けてくれた。



「……あんな、強くて、かっこよくて、優しい杏子ちゃんが、なんで、あんな無惨に殺されなきゃいけないの……?」


そういって、姉さんはまた泣いた。


「犯人は捕まらない……お兄ちゃんのときみたいに、また、私の大切な人を奪ったやつは何の裁きも受けないんだ……きっと」


姉さん……


姉さんの気持ちは、手に取るようにわかる。

でも、今回の事件の真相の一部を教えられている俺は、おそらく正規の法で犯人を裁くことはできないだろう、ということを知っている。

何故なら、相手はジャームだからだ。

真相を公表することが出来ない以上、表向きはおそらく迷宮入りになってしまうだろう。

その場合、姉さんにどれほどの苦しみを与えてしまうのか。


何も出来ない自分に、また、怒りが湧いた。

TRPGでこの話やったとき、このオバサンのシーンはだいぶノリノリでやった記憶。

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