6 いけない
橋本さんのおかげで、分数の宿題プリントはなんとかすべて埋めることができた。理解できたとはいいがたいけど、少しだけ分数のことが分かった気がする。
私は、先生にプリントを提出して、橋本さんと別れた。帰り道が違ったので、校門前で分かれるまで話をしたけど、いい人だった。
また明日・・・なんて会話をして、なんだか友達みたいだ。
そして、いつもとは遅い時間に、でも夕暮れまでは少しある時間に、私はいつもの林の中に入った。
「きっと、かくれんぼは始まってるだろうな・・・待っていてくれているかな?」
林の中ほどまで来て、私は立ち止まって辺りを見回した。でも、何も起こらない。
細い道、両側にぽつぽつとある木。さわさわと、静かに風が流れているだけで、何も聞こえてこない。
「・・・」
いつもなら、少年が声をかけてくれるのに・・・誰も私に声をかけてこない。
タイムスリップしたかのような村の景色も、現れる気配がない。
「なんでだろう?ちょっと遅かったのかな・・・」
こんな時間に来たことはなかった。もしかしたら、いつもの時間帯でないとあの村には行けないのかもしれない。
勝手な思い込みだけど、かくれんぼが終わる夕暮れ時までは、村に行けるような気がしていた・・・
「・・・帰ろう。」
少しだけ寂しく感じたが、ここにいても今日はあの村に行ける気がしない。なので、私は帰ることにした。明日は、土曜日・・・少年と約束をしている日だが、明日は村に行けるだろうか?
わからないけど、明日はまたここに来よう。
他の遊びを少年としたいし、また少年に会って話がしたかった。
夕食時。別に反抗期ではないけど、父さんと話すことが少なくなって、父さんからも私に話しかけることは少ないのだが、今日は進路について聞かれた。
「お父さんの同僚の息子さんの話なんだが・・・進学するそうだ。なんでも、トリマーになりたいらしくてな・・・進学とは言っても、専門学校だが・・・目的がしっかりしていることはいいことだ。」
「ふーん。」
「他人事じゃないぞ?お前も今から自分が何になりたいか、よく考えて勉強したほうがいい。大学に入ってから見つけるなんて、遅いからな。」
そうだろうか?世の中の大半の高校生が将来の夢なんてもの、もっていないと思う。私は進学するつもりだが、特に何になるというものは考えていない。
ずっと、このままでいたい・・・だから、未来のことを考えるのは嫌だった。
他の人がどういうつもりかは知らないが、クラスメイトの中でも将来の夢がある人は一握りだ。それでも、進学を希望している。
別に、それでいいと思う。
なんで、将来のことを決めないといけないの?
なんで、変わらないといけないの?
嫌だ、嫌だ。
考えたくないから、私は親の言う通りの道を進む。
進学するつもりだ・・・それは、親が大学に行くことを望んでいるから。高卒よりは大卒がいいという。何の違いがあるのかはわからないけど・・・考えてみれば大学に行かなければ社会人にならなければならない。それは嫌だ。
変わりたくない。
「ずっと、このままで・・・」
学生から社会人なんで・・・変わるのは嫌だ。
だったら、高校生から大学生の方がまだいい。だって、一応学生だから。
そうやって、どうにか私は逃げようとした。