4 季節は変わる
気持ちのいい風が吹く。
はためく洗濯物、畑の付いた家・・・タイムスリップしたかのような風景だと前に感じたが、それはこの光景を見てなぜか懐かしいと思うからでもある。
まだ、今回で訪れたのは2回目なんだけどね。
「やっぱり来たね。また来るって思ってた。」
声をかけられて振り返れば、私の予想通り笑顔をこちらに向けた少年が立っていた。
「うん、だって約束したから。」
「そうだね。それじゃ、行こうか。」
差し出された手を掴んで、私は彼と共に昨日も隠れた納屋の方へと走った。
冷たい床に、置いてある布を敷いて座った少年は、私に隣を勧めた。私はそれにお礼を言って座るが・・・近い。
何がって、少年との距離だ。
布を敷いているとはいえ、床の冷たさは感じる。だが、それ以上に肩に触れる体温が、なんだか恥ずかしくて・・・体温が上がる。
そんな私に気づかず。少年は話し出した。
「最近は少し暖かくなってきたけど、この前まで寒かったんだ。この村でも季節は変わるからね。」
「季節が変わるなんて、当り前じゃない?」
「うん、そうだね。でもさ、この村がおかしいってことは、最初からわかってるよね?」
「それは・・・」
それはそうだ。林の中に突然現れて消える村。それがおかしな現象なことはわかっている。確かに、そんな村だったら季節が変わらないと言われても、そうなのだろうと納得した。
ま、変わるらしいけど。
「こんなおかしな村でも・・・季節は変わる。今年は、暖冬だったね。この納屋で一人隠れている時に、前の冬よりも寒いと感じることが少なかった。」
「そうだね。私もカイロが必要ないくらいだったよ。・・・ここに、一人で隠れていたの?」
「そうだよ。最初に言ったよね?いつもここに隠れているんだって。」
「そうだけど・・・」
まさか、昨年の冬からずっと隠れているとは思わなかった。しかも、一人で。寂しくなかったのかな?
いや、寂しいから・・・きっと、ずっと寂しかったから私をここに連れてきたんだ。
「これから先も、ずっとここに隠れるの?」
「そのつもりだよ。」
「そっか・・・なら、これからは私も一緒に隠れるよ。」
私がそう言うと、少年は嬉しそうに微笑んだ。
少年・・・私はそう呼んでいるが、彼の年齢はわからない。背は私と同じくらいだが、醸し出す雰囲気は同い年かそれ以上にも思えた。
背だけ伸びなかったのか、頭が大人なのか・・・
少しだけ気になったが、私は少年について聞くことはしない。
名前すら聞いていないのに、年齢を聞く気にはなれないからだ。それに、おかしな村の村人である少年が少し不思議だとしても、それが普通なのだと思う。
「そうだ、明日は何曜日?」
「え・・・金曜日だけど。」
「なら、明後日か・・・学校休みでしょ?昼から村に来なよ、最初から遊ぼう。」
最初から・・・いつも、少年たちの一日の遊びの最後、かくれんぼしか参加していないから、他の遊びに興味があった。最初は何をやるんだろう?
「わかった。土曜日も、遊びに行くよ。」
「うん。待っているよ。」
それから、少年は毎日の遊びについて語った。昨日聞いたことと重複していたけど、楽しそうに話す少年を見ていると嬉しくて、聞いている間ずっと楽しかった。
少年といると、なんだか安心する。
なんだろう、居場所がここにあるような、そんな気がした。
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