2 幻の村
林の中は、いつの間にか村の中になっていた。
ぽつぽつと建つ家に、小さな畑、はためく洗濯物。まるでタイムスリップしたかのような、時代にそぐわない村。
唐突に現れた村に驚く私、そんな私に声をかけた少年に返す言葉が見つからない。
「え?」
「外から来たんだよね?」
「・・・うん?」
よくわからないが、この村の人間ではないことは確かなので、私は頷いた。すると、少年は笑って手を差し伸べてきた。
「おいで、一緒に遊ぼう。」
「なんで?」
「なんでって、君はまだ子供みたいだから。子供は、子供たちの中に混ざって遊ぶものだよ?だから、僕と遊ぼう。」
戸惑う私にかまわず、少年は私の手を取って引っ張った。
「今はね、かくれんぼをしているんだよ。君は初めて村に来たようだから、今日は僕と一緒に隠れよう。いい場所を特別に教えてあげるよ。」
「かくれんぼ・・・」
胸が高鳴る。久しく聞いていなかった子供の遊びに、童心に返ったかの様で・・・これが私のするべきことだと思った。
変わりたくないのなら、子供でいたいのなら・・・遊ぼう。
少年が案内してくれたのは、納屋と呼ばれる小さな家みたいな場所。
入ってみると、土の匂いがしたけど嫌な感じはしなかった。
「ここはね、意外と探しにくる子がいないんだ。みんな草むらとか、洞穴とか、草木があふれている場所を探すんだよ。それでね、いつもここを最後に見て、僕が見つかるってわけ。」
「いつもここに隠れているの?」
「そうだよ。だって、ここに隠れていれば、僕が最後まで残るからね。」
「いつも隠れているのに、いつも最後まで残るの?」
「そうだよ。とってもいい場所でしょ?特別に君もここに隠れることを許してあげる・・・ううん、ここで隠れたほうがいいよ。だって、すぐに見つかってしまうのはつまらないでしょ?」
でも、一人でここにいるのは、寂しいような気がする。少年は寂しくないのだろうかと考えて、気づいた。
寂しいから、私をここに連れてきたんだと。
「そうだね。これから一緒にここに隠れさせて?」
「もちろんだよ。」
そう言って、少年は嬉しそうに微笑んだ。
それから、少年はこの村のことを話してくれた。まるで、私がこの村の住人になっても不便しないようにと、話してくれているようだった。
「井戸水は、使っていい順番が決まっていて。」
「鬼ごっこをするときは、最初のじゃんけんでパーを出すんだ。すると、いつもの奴が必ず鬼になる。」
「朝は、角の家のおばさんがおやつにクッキーを渡してくれるから、必ず受け取るんだよ。おやつだから、朝に渡されたからってお昼に食べちゃダメだからね?」
「午前中は家の手伝いをして、午後は夕日が沈むまで遊ぶんだ。最後はかくれんぼって決まっていて、いつもの鬼がみんなを見つけて終わるんだよ。」
どうやら、ここの子供たちの遊びは、鬼がいつも決まっているらしい。一応じゃんけんはするが、いつもみんな同じ手しか出さず、鬼はもう決まっているも同然だった。
この子たちと遊ぶなら、そのルールに従わないとね。
そして、村の説明を聞いているうちに時間は過ぎて、私たちは鬼に見つかった。鬼役の小太りの少年が私達を見つけて、私は一緒に隠れていた少年と一緒に納屋を出る。
「お前たちが最後だぞ。」
「なら、今日はもうおしまいだね。また明日。」
「おう、また明日な。」
夕日が沈む。小太りの少年と別れて、少年もまた去ろうとしていた。
「また明日も来るといいよ。そしたら、いつかきっと君も仲間になれるよ。」
「うん。今日はありがとう。」
「どーいたしまして。また、明日。」
「バイバイ。」
小さく手を振れば、少年は走って、離れたところで立ち止まって、振り返ってから大きく手を振ってくれた。
それにまた手を振って、私はどうやって帰るかと考えながら後ろを振り返る。
「え?」
振り返った先には、先ほどの道はない。
いつの間にか、私はまた林の中にいた。
「なんだったんだろう?」