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LIMIT  作者: MII
8/8

A.D.DW

最終更新日から、100日以上が経過してしまいました。

読んでくださっている方々に迷惑がかかっていたなら、今ここでお詫びしたいと思います。


今後もがんばりますので、よろしくお願いします。

 隣にいるC君が、ゆっくりと立ち上がる。

私のお腹の痛みも、さっきよりは大分楽になっていた。

「…俺たちはこの2年間、誰一人として欠けること無く、

誰一人増えることなく、同じ人数で行動してきた。

今更新人が入ってこられると、こちとら色々と面倒なんでな、この場で

大人しく消えて、二度とこの世界(stargazer)には入ってこられなくする」

大柄の男が、手に持った大剣を肩に担ぐ。

その動作だけでも、風の切れる音が聞こえた。

相当な重さであることが伺える。



「簡単に同意すると思ってるのか?」

C君も、相手の勢いに負けじと、男を睨みつける。

「…ま、普通は思わないな。だから、力ずくでも…といっても、

力を行使した時点で、勝負に勝つっていう前提条件が必要なんだがな…まいったぜ」

敵意むき出しのC君とは正反対に、冷静な口調で話す男。

遠くでは、レイナともう一人の青年が、何か言い争っているようにも見える。


…怒られてる?




 「……長居は嫌いだ…そろそろ始めようぜ、新人君」

「望むところだ」

二人が間合いを確認する。

距離は三十メートル。それでも、ここにいる全員にとっては三センチにも

満たない程なのかもしれない。


 小さな恐怖心が生まれた。





『やっと来たね…』

声がした

初めて力が覚醒したときのあの声だ。

『ここは駄目だ……やりたいことが出来ない。あいつの所為で…

いや待てよ……どっちが得なんだ?』

以前よりもはっきりと、その息使いまでもが聞こえてくる。

と言うより…この声の主は、何を言っているんだ。


やっと来た?

ここじゃやりたい事が出来ない?

あいつの所為?



これの意味する言葉は、前に居る彼らに向けられた言葉なのだろうか…

考えてみる

『…考えようとしても無駄さ』

「…っ!」

読まれた!

……心を…

そんな、なぜ…

『何故って……あんたが今のオイラの器だから…なぁ、ジャン』

『…デモ、オ前ハ此処デ移ルノダロウ?向コウノ入リ易イ器ニ…ソレナラ最早、器デハナイナ』

片言のような声。ちょうど、サスペンス物に出てくる音声変換機で、

声色を変えた犯人のような声だ。

『あぁ、だが力もちょうどいい。ジャンはこっちで暴れてくれ』

『…無理ダ……イツモミタイニ、完全ニ使イコナサレル』

いつも……?いつのことだろうか?



『お前が暴れて、どうにかするまでの時間は耐えられるだろ』

暴れる…私の体で?

そんなことさせない…

『それが出来ちゃうのが、オイラ達さ』





 「おらぁー、さっさと武器出せー!

武器の無い奴と戦うのは俺の性分じゃねー!」

「うっさいデクシルト!こっちは五也がどっかいっちゃって、探索に必死なんだから!」

デクシルトの出した大声に負けないような声で、レイナが返した。

かなり遠くにいるはずなのに、その声ははっきりとしていた


「っとーにさっきからお前は!何か俺に恨みでもあんのかよ!」

「……ないわ!」

少し間を空けて叫ぶ。

「無いのかよ!何で偉そうに言ってくるんだよお前…」



「…夫婦漫才は済んだか」

C君が呆れたように言う。片手を腰に当て、仁王立ちしていた。

「…漫才ってほど面白くは無い……アイツの愚行については謝罪しよう」

遠くのほうでレイナが何か言っていたが、無視することにしたらしい。




「…それじゃあ、今度こそはじめるぞ」

デクシルトが剣先をC君に向ける。

あんなに重そうな剣を軽々と……


「当然」

C君の方は、両手を胸の前に出して、手のひらを下に向ける。

手が淡い光を放ち、光の柱がへと伸びた。

そのまま、手の間隔を広げていく。

手の下から、鍵盤が生まれた。


…鍵盤……ピアノの鍵盤?

「…音律戦闘士(メロディアス)か……ちっ…苦手なタイプだな」

「始めよう」

C君の声色が変わる。

二人が睨み合う。そして…



『そろそろオイラの出番かな。援護するからとりあえず出て来い』

『…ツェレム達ニ本気ニナラナクテモヨカロウ』

『後で何かあったら嫌だからな』

『…ワカッタ』

…わたしの脳裏から、二人の感覚が消える。



刹那



間合いを詰めるデクシルトとC君との間に、人影が見える…

まだぼんやりとしているが、着ているその服の色はハッキリとわかった。






純白






それが見えた途端、戦う二人の男は、それぞれ後方へ飛んでゆき、壁へとぶつかった。


まるで何か大きなバネで押し戻された様に、文字通り吹き飛ばされていた。


突然起こったその事態に、その場に居る誰もが息を呑む。

『…ごきげんよう、ツェレムの諸君』

あの、私の心の中に響く声が、正確にはその声の主が、

私たちの眼前に現れた。





 『木を隠すには森の中。人が隠れるなら人ごみ。光を消すには闇の中……』

純白のそれは、ゆっくりと話し出した。

張り詰める空気に似つかない、楽天的な声だ。


純白のフード、私たちが纏うものをそのまま白くしたもののようだった。


 飛ばされた二人が、埃を払いながら、何事も無かったかのように立ち上がり、

目の前のそれを睨む。

『それでは……血はどこに隠せば良いでしょうか?』

「……んどくせぇー事…言ってんじゃねぇー!」

叫んだのは、デクシルトだ。

地面を蹴り、爆ぜるように、その白い人型に突進していく。




………突進していく?

「……あれ…見える……」

私の心の声を、口に出していってしまう。

そう、先ほど…本当に少し前まで、彼らの動きは見えなかった(・・・・・・)のに、

今は、彼が突進しているのが見える(・・・・・・・・・・・)のだ。

一瞬で、私そのものが別人になったかのようだった。



「邪魔すんなー!」

大きく振りかぶり、デクシルトが切りかかる。

その場所にいる者の視線が、全て二人に集まる。

『…残念。オイラを殺すことはルール違反だ』


未だ、顔の見えないそれが、悲しそうに言った。


声に、違和感を感じた。

拡声器で話しているような、マイクを使っているような。

とにかく、何か聞こえが違ったのだ。



 デクシルトが接近するにつれて、空間がブレていく。

彼らの周りだけ、別の場所にあるかのようだった。


『ルール違反は…問答無用に』

それが、ゆっくりと手を伸ばす。


高速で近づくデクシルト。

しかし、私の見る限り、彼の手はゆっくりと進んでいた。

デクシルトの速さとは明らかに違う、それなのに……

二つは等速に進んでいるような錯覚に見舞われた。



剣先がそれに触れるか触れないかの瀬戸際。

デクシルトの頭、性格には額の辺りに、白い袖から伸びる五本の指が触れた。

削除(ゲームオーバー)だ』



キンッ



 抉るような金属音が、一瞬だけ轟く。

見えるのは、白いコートのみ。



それも、その場にいたのは一瞬だった。

転じて、C君のいる場所付近に純白の人型

『そして、君はオイラのもの。

時が来るまで居させてもらうから』


呆然と立ち尽くすC君の頭に、ゆっくりと手を乗せた。


助けなくちゃ…そう思うものの、体が一向に動かない。

まるで金縛りにでもあったかのように、硬直している。


他の二人も、何がなんだか分からないような、しかめっ面をしていた。



『…戴きます』

怯えるC君の顔が歪む。


静寂の中、C君は姿を消した。






 「……くそっ、あの関西ヤロー…」

「…しょうがないわよ……あの人たち、なんかすごく強いみたいだし…」

岼たち5人がゲームに参加した、友人の部屋。

既にやられて元の世界に戻ってきた3人が、ゲームオーバーという表示の出たエントラを抱え、座りこんでいた。


「……大体…黒いコードの奴って……」

B君が俯きながら言う。

「…考えても…仕方ないだろ……」

横にいるA君が、B君の肩をポンと叩いた。

また、静寂が生まれる。


未だゲームに参加している二人のエントラが、規則正しいモーター音で駆動している。



「…ゆりちーたち…大丈夫かな…」

不安そうな声を上げる。

その声で、男子二人もまた、同じ気持ちになった。



「でも…あいつらがまだ帰ってこないって事は、どうにか生き延びてるんだよ。まだ負けるって言うことは―――」

A君が話している最中

「キャーッ!」

耳を劈く悲鳴が、すぐ近くで聞こえた。


声の主は、岼の友人だ。

男子二人は、理由を聞くまでも無く、絶句した。


「…消え……」

その部屋にいた人数は5人


しかし今は


4人


その場にいたC君が、エントラごと、この場から消えたのだ。



「……」

誰もが、言葉を失っていた。



「…許さない…」

清閑な空気を破ったのは、A君だ

「…へ」

B君も、素っ頓狂な声をあげる。


「…許さない」

膝元に転がっているエントラを持ち上げ、頭に装着する。


「…お前……」

「……今…使い時なのかはわからないが……少なくとも…こうしないと…」


エントラから、ゲームのエントリーカードを抜き取る。

ポケットから別のカードを出し、セットした。


「仕事に…行ってくる……」

泣いている彼女を尻目に、B君はああと頷く。

そのまま、A君は再びゲームに入っていった。






「…なん…で……あんな所に…行っちゃった…の?」

嗚咽を漏らしながら、彼女が聞く。

「…アイツ、あれでもランキング4位なんだよ…」

「!!」

当然というように、しかし何処と無く悲しそうなB君が、ゆっくりと話す。

「4位以上は、何か特別な機関に入らなきゃいけないらしいんだ…

そいつら…かなり強いらしい」

「…じゃあ……」

「あぁ、こいつは世界中で、これ(ゲーム)に参加している人間の中で、4番目に強いんだ…」



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