かくしん
と、寒気がした。私は慌ててその場から離れる
「ちょ、ちょっとー。何処行くの?」
「は、早くそこから逃げ―――」
遅かった。
「きゃー――」
短い悲鳴とともに、彼女は消えた。数字の羅列に包まれて、友人が消え
ていく。そして、完全に消えた。
「…な、なにが」
「なにが起こった?って顔をしているね」
「!?」
背後から声がした。身を翻す。そこにいたのは、先ほどの、気の弱そう
な人だった。
「彼女らはね、僕らの作戦に見事に引っかかったよ。見たところCラン
クだったね。まだまだ甘いな」
今度は別の声が、頭上から。最初の場所へと急いで戻り、フードをかぶ
る。
「君らは、戦いなれていないから」
…囲まれた。数秒で、私は身動きが取れなくなった。
「やはり、俺達の作戦は正しかった」
「みたいだな。さて、それじゃあ最後は」
「男同士の戦い(・・・・・・)といきますか」
くそっ、三対一は圧倒的に不利だ。
相手はチームを組んでいるから、私がやられれば……それでクリアだ。
「…って僕は男じゃない!確かに、僕って言うけど……」
違う!こんな変な所に突っ込みを入れている場合じゃない…けど、ど
うしてこんなに熱くなれるんだろう?
楽しいのか…
「…そうだったのか、まぁいい」
くそー。手も足も出ないよ……。
とりあえず、相手の情報を今のうちに見ておこう。
一人は太刀、長さは約二メートルか。
次の人は…何も持ってない?いや、手に小さい何かを持っている…多
分あれは、爆弾。超小型の手榴弾みたいなものか……
三人目、小刀を何本も……飛び道具か。
相手はわかった。でも、どうする?こっちには武器も何もない…
「怖がるなお嬢ちゃん、すぐに終わる」
太刀の男が、猛スピードで突進してきた。
「…うぅ、どうすればいいんだぁー」
叫んでも何も始まらない、悔しいな…何もしないで、負けちゃったよ。
斬られるのを待つように、私は目を瞑る。
『……まだ眠ってんの?』
…………あれ?
「声が、聞こえた?」
確かに声がした…でも………
『……いい加減に起きてくださいよ…我が主人』
その言葉で、何かに目覚めた気がした。
刹那
私は、閉じた目を思いっきり開く。
手を横に突き出し、頭の中に流れてきた情報を、聴いたことのない言葉を、
まるで知っているかのように、口に出す。
〔空より降りし白き輝きよ、地より生まれし黒き影よ、(El olarobu ginqesta sideu )対となり虚栄(Jyaps kahi‐)
となり(ftya)、我が許へ集いたまえ。(Kiolaeranfi azam )契り従誡を、ここに結びたまえ(Qoigvya jkapou)〕
その言葉を言い終えるとともに、光が私を包んだ。
両手には、先ほどのシルエット、白と黒の二本の剣を持っていた。
ここまでの時間、わずかに四秒
「らぁ!」
太刀の一撃を、かがんだ状態で、右手の白い剣で受け止めた。
〔天空の右(MEATOR)・白剣(poro)・損墜の振り子〕
声が、勝手に生まれる。なんだろう、動ける。
受け止めた状態から、おもいっきり相手を弾く。
相手は私の正面のビルへと飛んでいく。
彼の激突と同時に、ビルが崩れた。
「な、なんだと!ランカーの籐矢を、投げ飛ばしやがった…」
明らかに、相手は動揺していた。
無理もない
私は今、彼らよりも強いと確信できるほどの力を持っている。
「こ、このやろー!」
二人目は、小刀の男だ。一気に十本の刀を投げてきた。
「…」
何も言わずに、左手の剣を回す。
すべての小刀が音を立てて地面に落ちた。
〔帝地の左(FORBIDDEN)・黒剣(TRET)・饒舌な経典〕
両手の剣先を地面に向ける。
〔双対剣(TUINS SWORDS)・ロロトラクター〕
「…くっそー、ビギナーズラックに油断するな!三人で一斉に攻めるん
だ!」
往生際が悪いな。もう、終わらせよう。
三人が、私のところまで走ってきた。
攻撃が当たるその紙一重を避け、私は彼らの前から姿を消す。
人間離れした脚力で後方宙返りをして、暫し空中に留まる
「き、消えたぞ!どこ行った?」
「わかんねぇ、どこにもいない!」
…あなたたちのおかげで、いい暇つぶしになった。ありがとう。
『なっ!』
三人の声が重なる。私は、一瞬のうちに彼らの中心に戻ってきた。
彼らが私を見つけて、瞬きをするよりも早く、私は剣を振った。
私を中心に、同心円状に衝撃と斬撃が広がる。
見事に、相手を巻き込む。
そこで、ゲームは終了した。
「う、うぅ。まさか、君が上位ランカーだったとは…負けた」
…どうやら勝ってしまったらしい。彼らの話では、三人とも、
何度か大会にも出ていた凄腕らしい……知らなかった。
「…いい暇つぶしになりました。ありがとうございました」
それだけ言って、私は怯える友達を引き連れ、戻っていた。どうやら、
二人とも怖かったみたいだな、あのゲームが……トラウマが一つ増えた。
でも、私はとてつもない力を手に入れた。このゲームで…
そもそも、ランクという存在を私は知らない。何せ、私のカードには何
もないからだ。唯一、ローマ数字で書かれた0/X(虚無)という文字と、武器の
欄に書かれた、ロロトラクターという名前以外は…。
「…だから、このカードを使ってみたかった」
小さく呟いてみたが、誰も聞いていなかったと思う。