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一章

 別に、友達と一緒にいるのが楽しいわけでもない。かと言って、つまら

ないわけでもない。

それこそ、私の心に生まれたこの矛盾が、何かを意味するというのも、考

えがつかない。つまりは、別にどうでもいいのだ。そうだ、それでいいの

だ。

うん。


何をするでもない、ただ話しているだけ。会話が盛り上がるときもあれば、

何も話さない静かなときもある。山あり谷ありの、山脈のような感じ。

とは言っても、静かになるときは少ない。ずっとわいわい話している。

もちろん、私はついていけてない。

ただ聞き流すだけ……それが精一杯だ……


 そんなことを思いつつ、私は友人と一緒に、ちっぽけな商店街を歩いて

いる。私を含めても、人数は五人である。友達いわく、これでも少ない方らしい。



 私は、水鶏(くいな) (ゆり)。どこにでもありふれた、至って普通の、平凡な、高校

生だ。本当に、変わった所などない。まぁ、よく変な癖があるといわれるが……


 髪は所謂(いわゆる)ショートヘアー。身長は155センチと、まぁ普通。目はパッチリと

は開いていないが、半開きまではいかない。ま、その中間…かな。

私の説明は、そんなところでいいと思う。というか、もう説明する所が見つからないのだ。



 第一、洋服を買うときぐらい、一人で選べばいいのだ。もう高校生にもなって……、でも、そんな反論を言えずに、ついて来てしまっている私も私なのだけれども……

本当に、どうしてこんな面倒くさいものに、ついて来てしまったのだろう?



…愚痴を言うのも退屈なもんだな。



 今日の予定は、特に決まっていなかった。学校帰りに、買い物に付き合ってくれないか?の一言を、すんなりと受け入れたのも、そのためだ。

用は暇つぶし。


 「ん〜…もう買うものも買ったし、そろそろ帰ろうか?」

友人の一人が言った。よかった、やっと開放されるようだ。

「そうね、そうしよ」

「さんせーい」

はぁ、やっと家に帰れるよ…


私達は、学校の寮が、それぞれの家みたいなものだ。皆、身寄りに何かと

問題ありだからだ。理由は深追いしない

何かと面倒な面もあるから…。




 私の場合、父の酒癖がとても悪く、毎度毎度、母が殴られていた。

少なくとも、お酒が入って殴られなかった日は無い。


六年前、小さいながらも、私は父を恨んでいた。

母は、何も悪くなかった、完全に被害者だ。


私も、何回か殴られた。

その度に、庇ってくれた母が殴られた。泣こうにも、そんな状況下の中、

涙なんて流してしまったら父親が逆上するだけだ。


 そんな毎日が、ある日終わった。


「もういい加減にしてよ!」

母のその一言が原因だ。被害者の言葉としては、至って普通の言葉にしか聞こえない。

事実、問題点はこの言葉自体ではない。言葉に過剰に反応した父が、一升瓶で母を力任せに殴った。

一度ではない、数十回だ。

もちろん、それで助かるものなどいない。母は、そのせいで、命を落とした。父に殺されてしまった……


 そんな父から逃げるように、私は家を出た。というより、中学から寮のある学校に、入学したのだ。

もちろん、入学金・学費・生活費は私一人では払えない。

だから、死に物狂いで勉強をして、奨学金を受け取るほどにまで……

あんな父親の助けなんて借りたくないと思った。


 まぁ、そんなところだ。


寮暮らしは悪くない。学校の方は私服で、特に指定はされていない。とい

っても、限りなく自由というわけでもない。多分、田舎だから…ねぇ。

もちろん、常識の範囲内で許される服装しか、許可はされていない。

わたしは、至って普通の格好をしている…まぁ、他の生徒が奇妙な格好で

登校するため、私の格好が不自然に見えるわけなのだが……



 「ねね、この先にあるゲームセンターで、プリクラ撮ってかない?」

…なんだって?この期に及んで、まだどこかに行くというのか?しかも

プリクラ?なんだってまた…女の子は本当にそういうのが好きだなぁ…

ま、私も一応女の子なわけだが……そういうのは、あまり好かない。

とにかく、早く帰りたい。適当に付き合って、さっさと帰ろう。うん



 このゲームセンターには、一度だけ来たことがある。もちろん暇つぶし

であるが…

そういうと、趣味は?とか、将来何がしたいの?とか、よく聞かれるが…

これといって思い当たるものが無い。もちろん、特技もだ。

夢がないといわれても、反論はしない。それが現実だ。夢なんて見るだけ

でいい、持つと厄介だ。



 さて、ゲームセンターに着いた。“デモクラシー”とか言う名前で、聞

いただけで人気の無いイメージがある。しかし、設備は至って最新。屋内

も掃除が行き届いている。きれいなものだ。


十分後


 何とか撮り終わった。

でも、最後まで笑えなかった…。

母が死んでからは、笑ったことが無いと思う。

何度か友達に促されたが、やはり無理である。

写真に写った私は、どれも仏頂面だ…仕方ない。


 撮り終わったは良いが、今度はそれに絵を描くのだという…どこまで

こだわるのか……まったく…

「…ちょっと、その辺見てくる」

「あれ?岼は描かなくて良いの?写真イッパイあるヨ」

だから、描きたくないから、暇をつぶそうと思っていたのに……


「…うん。いいよ、僕は皆のを少しずつもらって、それを楽しむから」

これが、変な癖。自分の事を『僕』といってしまう。中学からずっとこう。

……別に気にしたことは無い。

「そう?ならいいけど」

なんとか、かわせたみたい……


 見るものといっても、UFOキャッチャーの景品をただひたすら眺める

だけのこと……つまらない………


男の子が好きそうな、格闘ゲームやらなんやらがあるエリアに来た。

もちろん、遊ぶ気は無い。というより、目の前にいる集団に絡まれたくな

いだけなのだが……

 眼鏡にリュックサック、頭にはバンダナをして、手にはなにやら紙を持っ

ている。私から言わせれば、仕事をしない金持ちだ。彼らは特に……

それがまさに目の前にいる。こんな間近で見たのは初めてだ…ヲタクを…

三人も……


 と、そこですぐにいなくなればよかったのに、眺めていたせいで、一人

と目が合ってしまった。彼は目を輝かせていた。もちろん、私は引く…

面倒なことになる前にさっさと帰ろう、よし。


 「…あ、あぁ」

何かを言おうとしているようだ、私が踵を返したその瞬間

「き、きき、君!ちょっといいかな?」

あぁ、呼ばれてしまった。しかたない、話してやるか…暇だし。彼女らは

後三十分は動かないだろうし…。


「…僕ですか?」

あえて疑問形で返した。と、言った後、後悔した。こんな変な癖に。

「そ、そう君!ちょ、ちょっとこっちに来てくれ」

ため息が出そうになった。三人とも、目がキラキラしている。いやな予感

が……


 「き、君!ゲームは得意?こ、このゲームやったことあるかな?」

挙動不審なその人に対し、冷やかな目線を送りつつ、示されたゲーム機を

見る。

五つの縦長のブースを持った、柱形の機械だ。そこから、モニターの付い

たやや小さめの機械へと、何本ものコードが繋がっている。全体的に真っ

黒だ。唯一、ブースの入り口だけは、アクリルでできているため、濃い茶

色をしている。


 「…ゲームは…苦手じゃないですけど……これは、やったことが無いの

で……すいません、僕には無理です」

顔色は変えず、表情も変えず、静かに言った。

「そ、そうか…いや、いいんだ。すまない」

「いえ、別に。暇でしたし…それでは」


軽くお辞儀をして、私は再度その場を去ろうとした。しかし

「き、君!い、今、暇って言ったかい?」

きょとんとした顔で、私は振り返る。

「…はい?」

まぁ、まさかとは思うが……

「い、いや。暇なら、このゲームに付き合ってくれないか?」

…予想通り、か。ま、なにもすることないしなぁ、


「…いいですよ。僕でよかったら。ところで、なぜ僕を?」

まぁ、私なりに、機転の利いた質問だったと思う。

「そ、その…このゲーム…まぁやってみてくれ。単に他の人とも戦って

みたいだけなんだ…」

後ろの二人とシンクロしたように、同時に困ったような、満面の笑みを

返してきた。


 ふーん、おもしろそう。ま、適当に終わらせてもらおう。どうせ、私

がやることは無いし。操作とか、苦手だし…

「…どうすれば?」

「お、おお!やる気になってくれたかい!そ、それじゃあ、まず登録か

らしてくれ!こ、この機械で」

うれしそうだなぁ。そこまでして、戦いたいのか。でも、このゲームの

趣旨がわかんないなぁ。

見た目格闘ゲームには見えない。操作盤はおろか、画面すらない。



 先ほどの、モニターのついた機械の前に連れて行かれる。構造として

は、説明がないと何も出来そうにないほど、複雑だ。

「じゃあ、お金は俺が払う」

それはありがたい。私は、今日、あまり持ち合わせがなかったから。

「後は、手順どおりだから。頼んだよ」


 モニターに光がともる。ゲームの名前は…《白日夢(スターゲイザー)》か。いや、意

味は分からない。



 なになに、本名と住所、このゲーム中で使う名前、とそれから…それだ

けか。住所って………なんで?まぁいいか。

 水鶏岼  住所は…学園の住所でいいか  ハンドルネームは…適当。

ラ行だと神秘的かな?(意味不明)

“ロロ”でいいや。

 「ええと、次は……ん?手のひらを置け?ああ、ここか」

縦横の線の入った小さなモニターに手を置くと、緑色の光が読み取った。

《ピピピッ》


「…よし、読み取り完了、か。次は、全身を構成…ね」

意外と面倒くさい…

白い光と緑のラインが、頭のてっぺんから足の先まで、しっかりと読み取

った。いや、読み取られた。

…正直、目は瞑っていたので、実際何が起こったのかは分からない。

《ピッピピピピ》

「ん?」

大きなモニターに、文字が写された。

『あなたに効果的な武器を選出します』

ふうん…武器ね……。なにかな?


『剣』

「……ん、剣?僕が?しかもこれだけ…」

モニターに絵が写される。黒と白の二つの剣、双剣である。

見た目はたしかに剣なのだが、剣先から横に飛び出た突起がある。


一方はの突起は四角く、内部が不思議な模様にくりぬかれている。

もう一方は、等間隔の半同心円状に、短い突起が付いている。


いずれも、柄の部分からグリップの端にかけて、持ったとき鈍れないため

の細工がされていた。


 「……なるほどね。まぁ、いいか」

最終チェックを終えて、決定キーを押す。特に何の音もせず、右の小窓か

ら、カードが飛び出てきた。どうやらこれが、参加登録らしい。




 「終わりましたよ。これでいいんですね?」

振り返りざまにカードを見せる。

まぁ、見たところで私には分からないし……

「あ、ああ。ありが……ん?これは……」

はぁ、何か疑問点があったようだ。


「これは、ミスプリだねぇ」

なんと!ここまで来てミスと!あぁもう、これだから機械は!

「ほらこれ。俺のカードにはしっかりと数値が書かれてるだろう?これ」

確かに、指された所には、1004/110039と書かれていた。

「君のには、数値どころか、使う道具すら書いてない。やり直した方がい

いよ。うん」

確かに、“ロロ”という名前以外は、他に一切かかれていない。全部破線

である。さっきの武器選択は、何の意味もなかったということか…


「…ん?」

と、あることに気づいた。カードの左上に、唯一の数字が書かれていた。

それは、ローマ数字なのだが…


「あの、もう一度見せてもらえますか?」

私は、カードを受け取る…やっぱりだ。

「どうかしたのかい?」

「いえ、何でも。ありがとうございます。これで動かなかったら、もう一

度登録しなおしますから」

丁寧にお礼を言って、カードを返した。私はもちろんこのカードで参加。

作り直すのが面倒だ。





 「そ、それじゃあ始めようか…うん」

顔がにやけてる……もう勝った気でいる…まぁ外れてはいないが……

ブースに入ろうとした、その瞬間。

「あ!いたいた。岼ぃー」

友達だ。どうやら探していたらしい。


「どうしたの?」

まぁ、普通の質問であろう。

「ん?いや、私達はもう終わったからさ。後は問題の二人だけ」

そうか、あの二人か……友達のうち、二人は妙に凝ってしまうのがいる、

ベタなパターンだ……だから、来たくはなかったのだが。


「で、岼はなにしてんの?」

「ん?あぁ、お手伝いかな」

…多分違う。言ってから思っても、遅いのだが……


「あれ、友達?」

やっと気づいた。目の前のゲーム機に集中して、こっちには目もくれてい

なかったから。

「はい……え?」

目、目が輝いてる……もしかして…………このパターンは…

「き、君たちも、参加しないかい?」

…予想通り…か


 「ええ!良いんですか?!やったー、面白そう!」

…そこまでテンションが騰がるものなのか……まだ内容も聞いてないのに。

というよりも、この二人は不審者にだまされるタイプのようだ。ここは引

き止めるべきか?友達として……

…ま、今の私が言っても…説得力ないか…

「も、もちろんだよ!ささ、早く登録を!」

あーあ、行っちゃったよ。物好きだなぁ、皆お金がかからないから…


「じ、じゃあ、あの二人が登録終わるまで、これを読んでてくれ。一応

簡単なマニュアルだから」

今更かい!先に渡せよ!

「…分かりました」



 とりあえず、マニュアル読もう。薄いし……厚いと読む気にならない。


えーっと、なになに……このゲームは、あなたの遺伝子情報を元に造られ

た、もう一人のあなたが、中枢サーバー内の架空世界内で、他の参加者と

対戦するゲームです。参加方法は、ブース内のヘルメットをかぶって頂け

ば、コンピューター処理により意識情報、感覚情報、思考、感情など、脳

そのものの機能をコンピューター内に移します。


か、なるほど……意外にハイテクだな…

後日、お送りいたします簡易参加ゴーグルを使えば、店内で繋いで参加

はもちろん、電波の届く範囲なら、どこでも参加できます(料金は、月ご

とに回収されます)

 

ええと、次のページね。


 架空世界のあなたは、あなたが選んだ道具で戦います。約千種類の道具か

らあなたに合ったものを、十数個まで減らして表示いたしますので、そこか

ら選んでいただきます。


 …ちょっと待って、十数個?私一個しかなかったけど…まぁ、まだカード

が読み取られるかどうかも分からないしね……ミスプリ…


 試合は、体力制。ですが、参加者の精神状態が危険だと判断された場合は

参加者の敗北が決まります。


 そんなところか、裏にも写真しか載ってないし…

「終わりましたよ!」

意外と早かったな。もうちょっとかかると思ったけど…



「それじゃあ、始めよう。六人いるから、俺はこれを使う…あぁ、もうち

ょっとしたら、君らのところにも届くから」

黒光りする、いたって怪しいゴーグル…というよりヘルメットを持っている。

なるほど、これがさっきのゴーグルか…これを届けるために住所が必要だっ

たのか…納得。


 今度こそ、ブースの中に入る。少し狭いのが気になるが…まぁ、椅子のせ

いであろう。

椅子に座って、右の読み取り口にカードを入れる。ブースの入り口が閉まり、

個室になった。後頭部にある機械が、一度上にあがると、頭の位置まで下が

ってきた。まだ何も見えない。

と、そう思った瞬間だった。


 全視界が開ける。いつの間にか、ビルの立ち並ぶ街に立っていた。


もう、ゲームが始まったのだ。


 ちょ、ちょっと待って。なに?操作(・・)じゃなくて、本当に自分が行動(・・)するの?!

…まぁ、脳そのものが読み取られるって書いてあったし……

とりあえず、今、自分が置かれてる状況を確認しないと。


 私は今、ええと、服が、変わってる……真っ黒いコートで、同じ色のフー

ドをかぶっている。でも、なぜだろう…見てもいないのに後ろにあるものが、

全部分かる……これは、このゲームのせいなの?


 …手には何も持っていない……剣は?

この場所は…どれくらい広いのか……見当もつかないや。

「…とりあえず、移動かな」

右足を一歩前に出した、すると。


「そこにいるのは誰!」

いきなり敵に出くわした。そんな早く会うものなのだろうか?

…まぁ、確認するまでもなかったが、私の友達である。振り向いて、確認し

たら…やっぱりそうだ

「僕だよ。水鶏岼」

フードのせいで、相手には顔が見えないためか、まだ警戒されているらしい。

「…フードを取って」

…はぁ

「声でわから――」

「いいから取りなさい!撃つわよ!」

手に持った小銃の銃口が、こちらを向いていた。つくづく面倒くさい


 私はフードをとる。黒い服のせいで、顔だけがやけに目立っているのは、

言うまでもないだろう。

友人は、顔を確認すると、小さく安堵した。

「…よかったぁ、誰にも会わずに終わったら、どうしようかと思ったよ」

それは、私も同じである。

彼女はどうやら小銃を選んだらしい。黒と銀の銃…ありがちなパターンだ。


「ところで、岼はどんな武器なの?」

「それが…何も持ってなかったの」

真実である

「…へぇ、そんなことってあるんダァ」

いやいや、あなたはこれやったの初めてでしょうが!



 五分ぐらい何も行動せず、ただこのゲームについて話していた。

「第一なんなのよ!これは!」

…急にキレられてもなぁ、対処のしようがないよ。

「ま、私にかかれば、こんなゲームで勝つのなんて容易いけどね」

始めたばかりでこの自身は…一体どこから……

「どっからでもかかってこーい!」


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