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8:異世界のエルフと別世界のエルフその他

 先日の噂が上手く流れたお陰か、交易途中での襲撃件数が減ったという。

もちろんユガの顔は喜色とは言いがたい表情ではあったが

下手に取り繕うと普通に鬼じゃないが鬼でいややっぱり鬼なユガ光臨なので

その辺は当たり障りの無い対応で流したソウタは、現在イオヤム樹海東部の

特に名前も無いらしい平地をフラフラしていた。名前も無いとはいえ

南にはアンデッドモンスターの巣窟であるダグズア大丘陵があり、

東部の向こうには衰えこそ見せども未だ東国連合と肩を並べる大国である

魔法騎士国もあるので、普通ならば決して気軽にフラフラして良い場所ではない。


「…良い天気だ」


 こちらの世界でも太陽は大体東から西へと動くので地球人感覚で動ける。

なのでソウタは最近ヒブリドで主食としての地位を築きつつある

大赤花空豆の食感を残したペーストを混ぜ込んだ大麦小麦混合生地無発酵パン…

正式名は住人達の主要言語がルスカ王国語とグランリュヌ帝国語なので

意味は同じ"ヒブリドのパン"を意味する「ヒブリドヴリィフレップ」に

「イブリード・プワン」と二つあるのだが今後の為に通称は「赤豆ガレット」

と呼ばれているパンで作った特製魔物肉サンドイッチもどきを齧る。


「順風満帆(?)で…退屈すら感じられる人生……良いじゃないか…!

取り立てて急ぎ何かをしなくてもいい(・・・・・・・)という素敵な退屈…

凄く…楽しいです…!」


 思えばロクに身にならない苦労ばかりの人生、時間はあれど何もできない日々…

しかしそれもこちらの世界に迷い込むまでの話…今ではもう見た目からして

人間をやめているソウタ。気が付けば肉も草も隔てなく喰らう雑食の渇望から

最初に迷い込んだ樹海中央深部で半人種たちの大町ヒブリドを造り、

見た目からして個性豊かな面子に囲まれ、あまつさえ一部からは信頼されている。

多忙で充実した日々をつまらないと抜かすヤツは笑顔でぶん殴ってやる、と

ニコニコしながらソウタはあっちへフラフラこっちへフラフラ…。


「………そういえば大分ヒブリドも騒がしくなったな」


 ヒブリド内の東部で主要言語がルスカ王国語、西部はグランリュヌ帝国語と

カッチリ住み分けするくらいには住民の数が増えてきたのでいい加減そろそろ

真面目に都市計画…ある程度の区分けくらいはしておかないと言語の壁による

思わぬトラブルを生むかもしれないとか玄人知者の思考真似をしてみたソウタ。


「…西方か…」


 思い返してみればイオヤム樹海の西にあるというグランリュヌ帝国も

名前以外は西方出身の移民たちから口伝で聞いたくらいである。

そして話を聞くに広大でそれなりに煌びやかではあったという話もチラホラ…

それはつまり上手いこと近づいて観察すれば都市計画の参考になるのでは? と、

ソウタは思い至る=簡単な言伝して西方へ出奔である。


「グランリュヌ帝国とやらは人間族至上主義と聞いたが…」


 どれ程のレベルなのかは口伝で聞いた限りではかなり主観的であり、

色々と情報に明るいユガ達も「自分達を優人種と称する高慢な連中」と

なかなかに毛嫌いしているせいか大した差分が無い。


「ともすれば俺は帝国人に見つかったら魔王扱いでもされるのだろうか…?」


 今更だが「元人間」と言ってもヒブリドの住人達は毛ほども信じてはくれない。


「…はぁ(魔王扱いといえば…この間ダグズア大丘陵で…)」


<<<


 いつだったかナージャが苦手だと言っていた雷電泥河大鯰ブリッツカツェフィシュとやらが気になって

それを求めてアイチェブ湿地を右往左往してやっと見つかってちょいと悶着して

いざ実食からのゲロバースト祭りには真面目に凹まされたのも今は良い思い出だ…

とはいえゲロバースト祭りのままでは終われない…やはり魔石…!

ということで帰りついでのダグズア大丘陵にて丘巨霊ヒルギガースの上位アンデッド種とされる

霧巨霊ヨートゥンやミストエレメンタルに沼ゾンビことスワンプコープスといった

普通だったらこの世界の住人の猛者もマトモに戦おうなんて思わない

最低難度白金級なアンデッドから魔石を狩りまくるのであった。


「…ゅけ…っ!」「ぁし…っ!」「俺たちに構うな…ッ!」


「…ん?」


 未だピクピク痙攣しているスワンプコープスから魔石を引きずり出しつつ

耳に聞こえてきたのはルスカ王国語ともグランリュヌ帝国語とも違う感じの発音…

どういうわけかソウタには言語の壁が有って無いに等しい状態らしく、

少し聞いていれば直ぐに異国語を超級学習スーパーラーニングしてしまうのだ。


「中々に勇ましい印象を覚える…」


 そんな事を呟きながら遠巻きに観察していたら最初のスーリャ達以来の…

それこそ地球の絵物語で出てきそうな甲冑姿のエルフ騎士団であった。

彼らは過半数が満身創痍で、目の前に立ちはだかるヒルギガース複数体相手に

「無事な新米は逃げろ」「怪我した先輩を放置できません」「バカ野郎!」

な熱い友情シーンを繰り広げながら睨めっこしていた。


「オォォオオオオン…!」


「くぅっ…!!」


 隙と見た一体のヒルギガースがこっちのエルフでは殆ど見ない(ソウタ主観)

赤毛の隊長らしきエルフ騎士に打ちかかるが、必死な赤毛ルフに弾き返された。


「クソッ…せめて後一体だけ少なければ…!!」

「だ、団長…!」

「バカモノ!! 少しづつ退けと言っただろう!?」


 なんとなく魔石をパリポリしながら観察してたソウタ。エルフの女騎士とか

いないかなーとオッサン根性丸出しで見ていたら…何処と無く嫌な感じがしたので

自重することにした。


「づあああああああっ!!」


―バシュウウウウン!!


 赤毛エルフ騎士団長がヒルギガース相手に何らかのスキル攻撃だと思われる、

言うなれば閃光剣のような攻撃を繰り出せば、それに少しヒルギガース達は怯む。


「今だ!」

「ッ!?」


 赤毛エルフ騎士団長の言葉から察した後方の新米らしきエルフ騎士たちが

パッと複数集まって何やらゴニョゴニョしたかと思えば、足元に魔方陣を展開させ

あっと言う間にヒュパッと消え去ってしまった。


「む…!(こんなにアッサリと転移魔法的な何かに遭遇してしまった…!)」


 何がアッサリなのかはソウタの価値観から来ているので察するしかないが、


「…ここを死に場所にする気は無いが…まぁ…詮無いな」

「そう言うなや団長」


 赤毛エルフ騎士団長の近くでグッタリと臥せっていたエルフ騎士の一人が

ぽつりと零した彼の言葉を拾うようにのそりと起き上がって応える。


「ユゼス…お前…!」

「へへへ…まぁた死に損なっちまったぜ…」


 赤毛エルフ騎士団長にユゼスと呼ばれた何処となく年嵩なエルフ騎士は

しっかりと己の得物であるメイスと手斧を構え直した。


「今度こそ終りかも知れんな」

「ったく…むさ苦しい最期だぜ…」

「ふっ…そうだな…だが…まぁ…悪くない!」


 目くらましから持ち直したヒルギガース達はどうみても分かる憤怒の顔色で

怒号を上げつつ、最後の力を振り絞って立ち上がった悲壮なおとこ達を

捻り潰さんと飛び掛ったが。


「誰得ゥ!!」


 乱入してきたソウタにプチプチっと倒された。


「「………」」


「……おっ、と…」


 このパターンは宜しくないとソウタはヒルギガース達が遺した魔石を

ヒョイヒョイ拾い集めて颯爽と立ち去る…………フリをして遠巻きに

まだポカーンとしているエルフナイツを見やる。


「え…?」


 先の展開からして他の臥せっている面子を助け起こすのかと思いきや

一人だけ連れて残りの負傷者を置いて新米たち同様に撤退してしまったのだ。


「……ぬぅ」


 仕方ないので「あとちょっとだけ魔力さえ残ってりゃ…」等と吐血しながら

うわ言を述べていた満身創痍なエルフ騎士たち全員をホイホイ抱えて

スルスルとヒブリドへ連れ帰ってスーリャ達に治療などを丸投げしたのだった。


>>>


 と、歩きながら「そして起き上がってスーリャに求婚したかと思えば、

俺を見て"ぎゃあああ大悪魔王グロストイフェルるるるるるるッ!?"とか

叫んで案の定失神したなぁ…」等と零していたソウタだったが、

ふと、ここで何だか匂いが変わった気がしたので、周りを見回してみる。


「植生云々は門外漢ってレベルですらないので何とも言えんが…」


 ただ、真面目に嗅覚も超人ではあるので本当に変わった周囲の匂いに

ソウタは「狼とかは別なヤツのナワバリに入ったらこんな感じなのか?」と

感慨に耽りながらスタスタと歩を進めていた。


―ゥロロロロロ…!


「!?」


 その音を拾った事でソウタは若干硬直した。してしまった。何しろ

こっちではまず聞けるはずも無いであろう排出音である。


「オートバイ…というかハーレー的な…!!?」


 こちらに慣れても地球に居たころにそれなりに聞き慣れていた音である。

もしも聞き間違っているとしたら幻聴=疲労蓄積かと考え、

とりあえず真偽を確かめるべく音がした方を注視してみたら…

ちょっと思考さえ停止してしまったソウタ。


「……………………………………………………………………………は?」


 真面目に幻覚でも見たかと思うレベルで二度見をしたその先に…

どう見てもハーレーっぽい大型オートバイ跨りドゥルルルルンとアクセル全開で

疾走してるらしき人物が…めちゃくちゃヤンキー風の格好で

矢鱈と筋骨粒々でサングラスかけた"エルフ"+日本の女子高生らしき子の

二人乗りを特徴的な鈍色の騎馬装備なキメラが戦車チャリオット軍隊が

殆ど引き離されずに追っている…という色々突っ込みたい光景があったのだ。


「これで予想が外れてたら俺は脳の病気を疑えるな…!」


 どう転ぶかはサッパリだが、ソウタは二人乗りハーレーの側につく事にした。



 ヤンキーエルフこと大上おおがみヨハンは愛用のハーレーのアクセルを限界まで回す。

リミッターも解除してあるため警察も早々追いつけないはずの速度が

出ているのだが、サイドミラー越しに見る何かよくわからん獣(ヨハン主観)が

引っ張っているこれまたよくわからんゴツイ馬車の追っ手が殆ど引き離せない事に

苛立ちを隠せないのだが、今自分にしがみ付いている同郷らしき女子高生の

日野美晴ひのみはるが一層自分の腰に回している腕に力を込めるので…

悪態を吐くに吐けない。何だかんだで美晴とヨハンはよくわからん外国で出会って

まだ数時間の関係であり、ここで下手に脅かすようなことになって

彼女が腰にまわしている手を離すような事があれば己の仁義に反する展開が

予想されたのでどうにか堪えつつ「ぜってぇ離すんじゃねえぞ!!」と飛ばした。


「ふぁ…ふぁい!!」

「…ッ…!」


 ギュッとされてビクリとしそうになる…見た目に合わずヨハンは女性が苦手だ。

それは幼い頃彼の母であるエルフの超美人な母が今は天国の人間の元ヤンな親父を

笑いながらフルボッコにして尻に敷く光景を見まくったせいだが。


「ったく! アメリカってのはどうなってやがんだ全く!!」

「どう見てもアメリカじゃないと思いますううううう!!」


 何やかんやで混乱が止まらないヨハンはこれなら大丈夫かと叫んだら

美晴が意外と冷静に応えるので「どうしろってんだ…!」と零すしかない。


「!!」


 前方に何だかわからんが間違いなくヤバいのをヨハンは見つけてしまった。


「おいミハルっ! グルンと回って止まっから気張れよ!!」

「ふぇぇ!?」


 ヨハンは宣言通り"ヤバいの"の前方でドリフト停止した。


= = =


 そんなに急に飛び出した訳でもないのにヤンキーエルフことヨハンが運転する

オートバイが見事なドリフト停止したので思わず拍手してしまうソウタ。


「んだァテメーはぁ!? あ゛ぁ!?」

「おお…流石は不良ヤンキー…なのか?」


 自分を見ても左程顔に出さず怒声を浴びせたヨハンに何となく感心してしまう。


「このクソ忙しい時に邪魔すんじゃねえ!! き殺すぞオルァ?!」

「うむ…何だかとても新鮮な感じがする…」


 世界観が色々闇鍋レベルになってたのでソウタも何処か冷静さに欠ける反応だ。


「え…? に、日本語ぉ…?!」

「…マジか? そーいやアンタ…フツーに日本語じゃねえか…? 何者ナニモンだ?」


「…元・日本人のものとでも言っておくか」


「「!?」」


 そうこうしている内に戦車軍隊に包囲されていたことに三人は気付く。


梃子摺てこずらせおって…! エルフの蛮族の分際で小癪である!!』


「チッ…!」

「か、囲まれ…」


『ん…? 何処かで聞いたことがあると思ったら…帝国語だな。ということは

貴様らはグランリュヌ帝国の兵士…で、良いのか?』


「「?!」」『…ッ!?』


 不意にソウタがヨハンと美晴には謎言語、追っ手の隊長格らしき兵士は

しれっと帝国公用語で語りかけてきたので内情こそ別だが驚愕に染まる。


『き、貴様は一体…!?』

『答える意味がない。何故なら悪いがお前らは此処で死ぬからだ』


 隊長格が二の句を告ぐことは無かった。キメラ戦車もろともに愛用の

巨大骨棍棒で横殴りに殴られて合体肉団子になってしまったからだ。


『ひっ!?』


 目の前で隊長格の無残な姿に残りの兵士達の誰かが声を上げた。

それを見たソウタはその兵士目掛けて棍棒を投げつける。

反応するも空しく兵士は棍棒が命中して潰れて死んだ。制御から解き放たれた

キメラの一体が暴れ始めたが、そちらは無視して別な兵士達を蹂躙していく。


「す、すご…」

「パネェな…!」


 あまりにも圧倒的過ぎて目の前で繰り広げられる蹂躙劇に必死の逃走中で

色々と張り詰めて感覚が麻痺していたらしいヨハンと美晴の二人は

その光景に対して相当に素っ頓狂な反応である。


>>>


 初対面の相手には魔石タイムを見せないよう自重できるようになったソウタだが

だからと言って初対面の相手の態度が軟化するかといえばそれは違う。


「…で、ココは結局アメリカのどの辺なんだ?!」

「いやもうアメリカから離れようよヨハンくん!」

「………」


 しかし今回に限っては色々とイレギュラーである。特に相手と日本語で

マトモな会話が出来ると分かった途端見た目なんぞお構いなしなヨハンの反応が

SAN値チェックうんぬん色々な展開を上手いこと封印してくれたのである。


「あーと…そういやアンタの名前…いや、オレが先に名乗るのがスジか…!

オレぁ大上ヨハン! 黒亜神宮くろあじんぐう工業高校1年だが早生まれなんで

まだ15のジャリ坊だ」

「えっ、ウソそんな筋骨隆々な見た目で私の2コ下…っと…?! …あ、えと…

皇国立桜花旭日学園女学部二年の日野美晴です…」

「…女子は兎も角…二人とも十代か…なんというか……ああ、いや、すまん。

俺は駆緒カリオ双太ソウタ…色々あって此処でこんな見た目に変異して

35を過ぎてしまった男だ」


「あっ…思ってたより結構年かs…」

「おいミハル! それくれーの年頃の男ってのは傷つきやすいんだ察しろ!!」


 何かもう面倒くさくなってソウタは魔石を齧った。


>>>


 とりあえずその後それぞれ日本関係で情報交換してみれば、三人とも

日本人ではあるが、全く別の世界線の日本国民という話であった。


「オレんトコは…あー確か元号がメイジってヤツから別で…天成だったか?

んで日本…皇国コーコク? ってのが正式名だった気がすんなぁ」

「気がすんなぁって言われても修正出来ないからね…? …あ、私も元号は

明治からは大光たいこう光葉こうは閃永せんえいで日本連邦皇国です」

「何とも…いや、俺の状況を考えれば別にそうでもないのか…? 世界大戦は?」

「オレはその辺ちょっとわからねーッス。確かオフクロがテンノーヘーカに

カバネってーのを貰ったのが人魔ナントカ大戦後だってのは聞いた気が…」

「ナニ、ソレ…? 私は世界大戦とか言うほど大きなのは無かったですね。

ルーシ帝国連盟と迅国・宝仙連合が戦争して財政破綻から崩壊…が最後かな…?」

「俺からしてみればお前たちの話が両方ともナニソレ謎百景モノだが…まぁいい」


 ちなみにヨハンは普通に全身から雷を出したりできる異能持ちで、

その件に関してミハルから「結構使えるタイミングあったんじゃ…?!」と

突っ込まれるも「気遣いとか手加減できねえが大丈夫か?」と返して終わった。



 そしてヒブリド入りしてからまぁ"いつもの"一悶着である。


「オマエはナンだかアヤシイね…?」(注:ネネ)

「ひっ…!? わ、私は普通の人間の男の人が好きですからッ!!」

「ふーん…? 兄様と知らない言葉ニホンゴで内緒話してるクセに…?」

「ど、どどどどど同郷のようなそんな感じってだけです!! 普通に私の

好みじゃないですから!!」

「ヴァイス…?」

「ウソ0パーどころかブッチギリでマイナスだぬ。ぶっちゃけ常識的な反応だぬ」


「はー…なんか伯父貴おじきパネェっすね!」

「おいヨハンその呼び方に何か妙な気配を感じるんだが」


 理由は不明だが何故かルスカ王国語で会話が出来てしまった

ミハルとネネ達の問答を眺めてたヨハンの物言いに真顔で詰め寄るソウタ。


「え、いやぁ伯父貴ってオレの死んだ親父の一コ上ッスからスジ的に」

「伯父貴はヤメロ。普通にソウタで良い」

「いや、それはなんつーかスジg」

「名指しで構わんと俺は言っている」

「へ…へい! ソウタの旦那! …あっ! さーせんしたっ!!」

「…まぁ、伯父貴呼ばわりよりは全然いいか」


 ふと視線を感じたのでソウタは自分の目線を動かしてみれば…

まぁこれも見慣れた光景である腕を組んで目を瞑ってカタタタと小刻みに揺れて

間違いなく激情エネルギーをチャージ中なユガの仁王立ち。


「ハァ…最近は逆にホッとしてしまうな…」


 と言ってたソウタの横を突っ切ってヨハンの前に立つユガ。


「な…なな、何スか!?」


 綺麗だが見た目に相応しくない武闘派の実母によく似た雰囲気を漂わせるユガに

ヨハンは思わず後ずさってしまう。


「…なんなの貴方…?」

「え、な、何がスか…?」


「ん?」


 予想外の展開にソウタはつい二人の傍に近寄る。


「何をどうしたらそんな…! 基本的に筋肉がつき難いからこそ魔術で

身体強化するのが常なエルフなのに何でそんなフザケタ筋肉ダルマになれるの?!

言動だってそう!! 私の知ってるアルプ騎士の堅苦しくも優美な品性を

真っ向から粉砕するようなチンピラじみた喋り方ぁあああああ!!」


 ちょっとユガの目の焦点がおかしかったのでソウタはスススーっと離れて

遠巻きに見てたリヒャルトらに聞くことにした。


「リヒャルト…ユガの様子がいつもよりオカシイんだが」

「いや…大将…いくらなんでもその物言いはヒデェよ…」

「えっとですね…ユガさんってこの間助けたアルプ騎士のお仲間さんに

子供の頃それはそれは颯爽と助けて貰った事があるらしくて…」

「あー…何となく理解した」

「トビア、何で知ってるんゴブ?」

「何回か絡み酒された時に…」

「とりあえず爆ぜモゲろゴブ」

「えぇっ…?!」


 そうこうしている内に血走った目に魔術でパンプアップした両腕で

掴み掛かるや否やぐわんぐわんとヨハンを揺らしにかかるユガ。


「私の中の思い出の美しいエルフ像を一々ブッ壊さないでよおおおおおおッ!!」

「…ヒェッ…あばばばばばばッ!」(注:ヨハン)


「あー……ユガ、とりあえず一旦おちつk」

「んずぁりゃあ!!」


 ユガの嘗て無い奇声と共にメメタァ…! と変な音がしたと思えば股間に

激痛を感じたので顔面蒼白になりつつも見ればユガの見事な金的が

クリーンクリティカルヒットしていたソウタ。


「…カ…は…ッ…!」


「「「「「!?」」」」」 

「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!?」」


 まさかのソウタ撃沈に成り行きを見ていた一同は絶句し、今ので

ネネとナージャは完全なる狂騒状態に陥ったらしくユガを害さんと飛び掛る。


「「「ひぇぇぇッ!?」」」

「うわああああああソウタ兄ちゃあああああああん!?」

「やっべ!! これは流石にアタシも笑ってる場合じゃねーわ!!」

「オイオイいろんな意味で洒落にならねーぞ?!」


 この出来事は後に『ヒブリド大狂騒』として記されることになる。

ちなみにソウタの男としての人生は一命を取り留めたが、

しばらくの間、ユガを見る度に股間に幻痛を感じたとか感じなかったとか。


 そして「やはりヒブリドの裏番長はユガ説」が流布し、彼女の

頭痛薬の使用量が増したのは言うまでも無いことである


8:異世界のエルフと別世界のエルフその他(終)

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