2:彼らは己の成している事の大きさをイマイチ理解していない。
時計など無いソウタの縄張り…今や村規模になっていたので
「大樹の根元街ヒブリド」と改めた街の朝は早い。
奴隷達…いや今はもうヒブリドの住民とでも言うべき彼らは
誰に言われることもなく…いや、染み付いてしまった習慣で日の出と共に起き、
ソウタが樹海の魔物素材や木材石材で頑張って作成した農具うんぬんを片手に
彼らより誰よりも早く起き…ようとしたがそれは住民が辛いだろうという事で
住民が仕事を始めたころぐらいに起きてきたソウタと共に畑をいじっていく。
「うん…やはり俺では出来ない細かい作業を任せてよかったよ」
「あー…まぁボスは力加減限界まで手加減しても辛いでしょうし」
「ああ、うっかり小麦の種籾を地中深く埋めてしまったりな…」
「逆に、すごい、と…おで、思う…ここ…親方が耕す…しないと硬い」
「そんなに硬いのか?」
ソウタは全く耕してない地面に鍬を打ち込むとサクッと掘れる。
「…失礼を承知で言わせていただきますが…ソウタ様…樹海の地面は
地面そのものにも強い魔力が満ちており…それゆえ岩の如く…」
「ああ、すまんすまん…普通のお前達にはやはりそうなのだな…」
スーリャ、モーガン、ドルクはこのように恐れを感じつつもソウタと
会話をすることが出来るが、他の新住民達は目線すら向けようとしない。
まぁそれが普通の反応なのだからとソウタはまるで気にしないが…
「おいお前ら! ボスに失礼だって何度言わせんだよ!?」
「すまねえモーガン…わかっちゃいるんだが…その…」
「お前なぁ…! 誰が俺らをこの樹海のド真ん中で
滅茶苦茶安心して暮らせるようにしてると…」
「構わん。恐れられるのは慣れきっている」
「親方…ごめん、な…さいで、す…」
「ドルク。謝るな。というかお前達がもっとフランクになったほうが良い」
「ソウタ様…」
「あー…すまんすまん…それが普通の反応だと自分で言った手前で
これではダメだな…酋長なんぞ柄じゃないんだが…」
最初はあの奴隷商にそれ系の権限でもと思ったのだが…件の奴隷商が
「やめてください死んでしまいます」とガチ泣きしたので、
仕方なくヒブリドの酋長を務めることになったのだ。ちなみに
その奴隷商は奴隷商で一番ソウタと面談する危険いや回数が少ない
新設した高床式の食料倉庫番を勤めている。
「ところでボス。何で王じゃなくてシカリとかっていう役なんです?」
「こんな集落で王なぞ阿呆も良い所だろう」
「それは…どうなのでしょうか…?」
「う、ん…おで、親方がここの王様でも全く違和感無い、ぞ」
「……ハァ……」
流石にこれ以上畑の面積を増やしても無駄にしかならないので
ソウタはソウタで畑から少し離れつつ…それでも畑を見渡せる場所で
寝転んで住民達の畑仕事を見守りつつ…遠巻きから様子を伺っているであろう
ケモノ根性たくましい樹海の魔物たちの気配を探る。
「…猿型が三十五匹に…虎、狼、ほう…豚肉共も…
流石は樹海の畜生共だ…うん…この匂いは…はははグランドウルフめw
良いぞ、好きなだけ畜生共を食らうといい…貴様は今後オオクチノマカミと
敬称でも付けて識別してやるw」
―キャン!?
―ザザザザザザザザッ!!
ソウタの何気ない笑いながらの声掛けにうっかり反応してしまった
いつぞやのグランドウルフの情けない声に様子見していた
樹海の魔物たちの気配がすさまじい物音と共に消えた。
住民達は住民達で脱兎の勢いでソウタの周りに集まった。
「…ああ、すまんな。遊びが過ぎた」
「ソウタ様…お戯れも大概にしてください…」
「うん…気を付ける……っと、おい! オオクチ!! こっちに来い!!」
―キュ、キューン!?
い、嫌だぁ!! とでも言っているかのような叫び声を上げる
いつぞやのグランドウルフ改めオオクチノマカミ。
「おいオオクチ。お前は俺がお前に追いつけないと本気で思ってるのか?
だとしたら…」
ソウタの姿が消え、住人達は戸惑うが…
「キャイーン!! ギャオンギャオンギャオン!! キュイイイイン!!?」
どこからともなくズルズルとソウタよりも大きなオオクチノマカミが
必死に抵抗するも後ろ足を掴まれこちらに引きずられてくる。
住人達の何人かは気絶した。
「おいオオクチ。お前は仮にも狼だろう? どうして群れを作らんのだ?
……さては貴様…俺と同じでボッチか? どうなんだ? ん?」
「くぅ~ん…きゅぅ~~ん…」
違います…違うんです…とでも言いたそうなオオクチノマカミ。
「ぬ~…ゴワゴワだぬ…」
「わう!?」
「そりゃあそうだろ。それくらい硬くなきゃこの樹海で一匹狼なんて
できるわけもないさ」
「……ソウタのかみのけはいいにおいがする…興奮する…あかちゃんできそう」
いつの間にかオオクチノマカミに引っ付いて何だかんだ言ってる
ヴァイスとルヴァル。ネネはソウタに強制的肩車して天辺の匂いを嗅いでいた。
「………なぁネネ」
「だまれルヴァル…邪魔をするな…眼力を使うぞ?」
「…!? と、か…言いつつ…使って、んじゃ…ねぇ…!!」
「ぬ~…ルヴァルの実力では自力解除無理ぬ。レベル差ⅩⅩⅩは不可能だぬ」
ネネの瞳孔開きっぱなしの双眸に睨まれたルヴァルは凍りついたように
動けなくなっており、ヴァイスは極めて冷静に鑑定能力で分析している。
「ネネ。乱用は止めろ。麻痺瞳術はここ一番でフルパワーを出さねばならん」
「……でもソウタ…この片腕無しは…」
「…わかった。今後はもう一切の接触を禁j」
「ぶはぁ…!? くっそ…! 心臓が止まるかと思ったぜ…!
お前マジでふざけんなよネネ!! 普通だったらとっくにお陀仏だぞ!?」
「そのまましねばいいのに」
「ネネちー…流石にそれは酷いんだぬ…ソウタが本気で怒るんだぬ」
「ごめんなさいソウタ。嫌いにならないでネネは沢山産むから」
謝りつつソウタの頭に顔面を押し付けフゴフゴハスハスしているネネ。
「………なあネネ」
「何? ソウタ?」
「………目玉焼きには何を掛ける?」
「もちろんソーs…ゴッホォ!? げぇっほ!? …なんのことかわからない」
「や、はりお前は…」
そこでソウタは言葉を止めた。何故ならネネがポロポロ涙を零すからだ。
「いうこときくから…なんでもするから…ネネを捨てないで…!」
「グギギ…!」
何となくネネのある意味恐るべき正体を掴んではいるが…傍目からすれば
素は盲目な幼女であるネネである…そんな幼女が涙を流すのは反則である。
流石ょぅじょ、ょぅじょキタナイ。
「…何にしても罰は与える。ネネ。当分は宛がってある寝床に一人で寝ろ。
もしも俺の寝床に潜り込んできたら…後は分かるな?」
「うぅ…ひどい…ソウタひどい…ネネは…ネネななさいなのに…」
「何言ってんだぬネネちーさんじゅっさ…うげげぇあ?!」
「しにたいらしいな、ころしてやるよ」
「…ネネ」
「…ごめんなさい…五人追加するから許してソウタ…」
今度はヴァイスに麻痺瞳術をブチかましたので、少しばかり低い声で
ネネを静止するソウタ。今ので色々と確信が持ててしまったのが凄く嫌だ。
どうして自分にはヴァイスのような鑑定能力が無いのかと悔しく思うばかりだ。
ちなみにこのやり取りは他の面子にはどこと無く微笑ましく見えるようだ。
「ネネちゃんはホントにボスが好きだなー」
「だいすき。ソウタはネネの全て。ソウタはネネに沢山のモノをくれたの。
だからおっきくなったらソウタの一番のお嫁さんになるの」
「うん…親方とネネちゃ、ん…年の差が気になるけ、ど…まぁ、親方だか、ら…」
「…何と言いますか…ドルクの言う事とは違う意味で不穏を感じるのですが」
「……スーリャ…お前…ヴァイスとネネと一緒に夜眠ってくれないか?」
「え…? いえ…義理とはいえソウタ様のお子様であるネネ様や
ヴァイス様に私など…」
「ぬぇ~…あたいは歓迎するんよ? 正直ネネと二人とか、
生きた心地しないんだぬ…」
「……ネネ、なにもしないよ?」
「ガッチリ鑑定に嘘判定出たぬ」
「…チッ…!」
「ぶぉい!?(おい!? と言いたかったようだが噛んだ)」
「ボス…? オレどこから突っ込んでいいのかサッパリなんだけど?」
「安心しろ。俺もだ」
ふと空を見上げれば、そろそろ中天と思わしき時間帯である。
「…よし、今日はこのまま昼休憩に入ってしまうか」
「え? あ、んじゃオレ竈に火を入れてきますぜ?」
「ああ、一緒に行くか」
ソウタはネネを地面に降ろしてモーガンと共に行こうとするのだが、
ネネはソウタの足にビッタリと張り付いた。
「ネネもお手伝いする」
「……そうだな…そろそろコカトリスの卵も腐りそうだし…
目玉焼きでも作ってもらおうか」
「まかせて…ソウタの好きなWサニーサイドアッpゲェホ! げえっほ!!
…こがさないようにがんばる」
「……がんばれ」
ソウタは常に携帯している魔石を何粒か摘んだ。
>>>
ヒブリドの住民は夜も早い…とはいえ元は現代人であるソウタなので
頑張って作った松明や行灯モドキを駆使してリッカルディッギーの元の寝床の
一つ上の大枝に新たに設えた自室にて、奴隷商もとい倉庫番と
興味ありそうだったモーガンも招いて家計簿みたいなものを編纂していた。
「く、件の空豆なのですが…!」
「ああ…大丈夫だ…減り具合は予想範囲内だ」
「ほぇー…管理ってこうやってたんだなぁ…っていうかボス。
読み書きどころか四則演算も余裕なのね…人間だった頃お貴族様だったのか?」
「今は帰る見込みも希望も無い俺の祖国じゃ普通…いや、
強いて言えば俺は落ちこぼれに属する」
「お、大旦那様の祖国は大帝国か何かなのですか…?」
「いや、七十年位前に造ろうとして失敗したが…まぁそんなことはどうでもいい」
「申し訳ありません!!」
面倒くさいので倉庫番が平謝りするのはもうスルーすることにしたソウタ。
「んと…? ってことは…この減ってる分を如何にかして
差し引きゼロにしないと…最低供給ってのがヤバい?」
「いや、モーガンよ…食料そのものは最悪大旦那様がご調達なされるだろうが…」
「けどさー倉庫番氏…そーいうのはボスを当てにしちゃダメだって自分で…」
「そこはそこ、それはそれで考えておくのも重要なのだ…はぁ…もう少し
お前を勉強させておくべきだったな…単なる農奴に納まる器では無さそうだとは
どこと無くわかってはいたが…」
元奴隷と元奴隷商に任せても良さそうな感じである。
「…あまり根を詰めても良い結果にはならないぞ。どうしても気になるなら
さっさと寝て夜明け前にやる事を勧める。朝の一時間は夜の三時間に匹敵すると
俺の故郷で誰か偉い人が言ってたからな」
「ほう…大旦那様の故郷ではそのような…む? そういえば確かに朝は…」
「けどこういうのって頭が暖まってるときにやるべきじゃねーの?」
「一理あるが、悪手でもある……あと三十分で切り上げろ」
「あいよ、ボス!」
「致し方ありませんな、では…残り時間で最善を尽くしますゆえ」
こういう時にコーヒーやらお茶なんかがあれば良いなと思うが、
無いものねだりはしてもしょうがないのでソウタは
頭の中で残り時間をカウントすることにした。
>>>
明けて翌日。今日はソウタは大樹の元でスーリャを初めとした
元女奴隷達数人を交えて魔物素材の裁縫作業をしていた。
「ソウタ様…あの、このとても肌触りの良い革は…」
「ああ、それか? この間ここに襲来したワイバーンの翼の皮膜だ」
針仕事をしていた女性達が凍りついた。
「ん? どうした?」
「ソウタ様は御身の成されていらした事に疑問を呈していただきたいです」
「………あぁ、すまんな…何しろ上手になめせたのがそれと
巨大熊の革ぐらいだったのでな…何しろなめし用の胆汁の量等がどうしても…」
「失言でしたお許しください私が愚かでした」
「お、おう」
ちょっとスーリャの目が死んでいる気がしたが、気にしても
今さらどうしようもない気がしたので気にしないことにしたソウタ。
「…まぁ…ゆっくり焦らずやってくれ…その皮膜があれば
よりお前達に快適な天幕を提供できるのだ」
「お心遣い…痛み入りますソウタ様…」
「いや、お前達が快適になってくれないと畑仕事も却って遅々とするからな…」
「……本当に、ソウタ様は奴隷の扱い方をご存じないのですね…」
「…まぁ、俺の故郷では奴隷に相当する階級にも
畑と家を与えるのが普通だったからな…」
「…いつか…ソウタ様の故郷を見せて頂けますでしょうか?」
「…難しいだろうな…俺はここに神隠しで来てしまったからな」
「…そう、ですか…」
少し目に光が戻ったスーリャをとりあえず好として、
ソウタはあの子供三人(一人偽者がいるが)の様子を見ることにした。
立場的にも種族やら能力やら心構え的にもまだまだ問題があるあの子供三人には
やはりソウタ以外ではモーガン、スーリャ、ドルク以外誰も近づこうすらしない。
「………」
「どしたの? はやく置いて?」
「うぐぐ…」
「ぬぅぅ…四隅を取られている時点でもうルヴァルに勝ち目無いんだぬ」
戦闘訓練ばかりではヴァイスとルヴァル二人の心が荒むだろうと
仕方なく手作りオセロを与えたのだが…。
「うぐぐぐぐ…ぐぐぐぐがががががッ!」
「くすくす…どこにも置けないのに…くすくす…」
本当にこの幼女さんキタナイ。マジで大人気ない。
流石にネネの内側(主に実年齢)を突っ込むと割と本気で
麻痺から呪毒に精神汚染といった魔眼攻撃をブチかましてくるのだ。
推測するに一応ソウタより年下なのに大人げ無いったらありゃしない偽幼女だ。
「いり…した…」
「なに? きこえないよ?」
「参りましたってんだよちくしょーめ!!」
「相手が悪いんだぬ…未来予測瞳術とかおにちくなんだぬ」
「…何だ…インチキだったのか…ネネ」
ビクリとしてソウタを見て真っ青になるネネ。
「ちが…?! ちなうの!! ちなうのソウタ!
最初はルヴァルがせせこましいことするから…!」
「もういい…俺はもうわかったから…ヴァイス。ルヴァルが
本気で泣く前に変わってやれ」
「オッケーだぬ」
「な、泣いてないよ! 僕泣いてないッ!!」
ソウタは優しくルヴァルを撫でたらルヴァルの涙腺が決壊した。
可哀想なのでソウタは大きい魔石をルヴァルに与えてやった。
「さて…それじゃあネネちー………あたいにはインチキ無理だからぬ?
やったら即反則負けなんよ? 素の知力で勝負ぬ?」
「う、ぐ…ぐ…!!」
オセロの素の実力においてはヴァイスがソウタも余裕で降せる。
ならば今まで瞳術で圧勝だったネネは…火を見るよりも明らかだ。
「これはぬ? 最初の10手くらいでもう勝敗が決するんよ?
降参は何時でもオッケーぬ? ほい! どうぞだぬ?」
「く…ぐ…!」
「おや、瞳術反応があったぬ? 見逃しはもうしないんよ?
あと六手でネネちーの勝敗が見えてるんだぬ?」
「う…うぅ…うううう!!」
パチンパチンとネネが置いた瞬間にヴァイスはえげつない手を打つ。
ソウタには2手くらいしか先が見えないが、それでももう
ネネが置いた先から反撃不可能な手が展開されるのは目に見えていた。
考える暇すら与えないところがヴァイスの日頃の恨みを感じた。
「さあ、後2手だぬ」
「く…ぬ…ぬぬぬぬぬぬ…!」
「真似しないで欲しいんだぬ」
「だ、だれが…! ッ! ここっ!!」
「そぉい! さあ、最後の手だぬ! 足掻いてみせるんよ!!」
「ふげっ!? う…き…きぃぃぃ…!」
「ぬっひっひwww 仙人は伊達じゃないんだぬwww」
「く…sメsがk…!」
「ぬっひょっひょっひょwwwおやぁ~? 目の周りに血管が浮いてるんよ~?
まぁ瞳術は感じてない気がするから気にしないでやるんだぬ~~~★」
もうネネは転生者としての本性を隠せてさえいないようだ。
「…ネネ。もう降参しても良いんだぞ。次は戦闘訓練だ」
本気か演技かは不明だが目に涙を溜めているネネに
仕方なく助け舟を出すことにしたソウタ。
「え」
「まいりましたじゃあこのまま訓練やろう……ヴ ァ イ ス ?」
「ぬおぉぉぉ!? ちょ、ちょっと待つんだぬ!?」
「いいよ。まってあげる………でも…始まったら…たのしみだね?」
なんて顔だ…ネネは無表情の筈なのに笑っているのが分かるんだぜ…?
開始の合図をしたその瞬間にヴァイスが麻痺させられ、
悶絶くすぐり地獄を受けてしまうのはどうしようもない。
あまりにも酷すぎるので純粋なルヴァル少年の目を塞いだくらいだ。
>>>
静かに涙と鼻水を流しながら泣いているヴァイスにルヴァルが
そっと寄り添ったのを確認し、ソウタは己の頭に張り付いているネネを見る。
「大人気ないな」
「………ネネ…悪くないもん…悪いのは意地悪なあの白目だもん」
「もう良いんだ…俺は分かっていると言っただろう?」
張り付いているネネの力が少しだけ緩んだ。
「…最初も…本当に地獄だったの…やっと実験室から出られたと思ったのに…
今度は視界すら無かったの…首から上の動かせる範囲だけの世界だったのに…
次は自分じゃ碌に動かせない赤ん坊の体…前は唯一だった目も見えない…!」
「そうか」
「寝台から出ることさえないまま…溶解液に漬かって出られたと思ったら
次は訳の分からないまま馬車に揺られて…それで…それで…廃棄した!
また廃棄された! 見えないだけなのに!! それだけなのに!!!」
頭に暖かい雫を感じたが、気にしないことにしたソウタ。
「ただただ応答するだけの喋る肉みたいな生活で得られなかった23年…
それが終わって…この世界で今度こそ普通のって…思ってた矢先…
今度は…動かせるけど闇の中…得体の知れない音が聞こえる闇の中…
だけどソウタがくれた魔石のお陰で…ネネは…いろんな物を取り戻せたの…
でも…ネネには…ワタシには…何も返せるものが無かったから…
せめてソウタがさびしくないようにって…ワタシと家族を増やせばって…」
「出会ってから十分もらっている。無理に返そうとするな。
借金も恩も無理に返すべきじゃない。そういう自己犠牲は不毛だ」
ソウタはしゃがんでネネを抱きなおした。ネネはソウタの胸に顔を埋めた。
頭をゆっくり撫でてやるソウタ。
「なあネネ…お前…前世は何て名前だったんだ?」
ネネは小さい口をさらに小さく開いて答えたが、
その声はソウタにしか聞こえない。
「………お前の居た世界は…ゴミにすら劣るクソカス以下な世界だったんだな」
「わからない…あっちの外の世界なんて知りようも無かったから」
「そうか…」
ソウタは胡坐をかき、その間にネネを座らせる。ふとルヴァル達を見れば、
まだ鼻水とかの後が残っているヴァイスがルヴァルを笑い地獄に落としていた。
ルヴァルも涙と鼻水ですさまじいことになっていたので笑いそうになる。
「今は楽しいか?」
「うん…こっちのニンゲンはソウタ以外どうか知らないし興味も無いけど…」
「それは寂しいな。面白い奴に良い奴ってのは俺以外にも居るんだぞ」
「…ワタシは別に…ソウタさえ居れば何も要らないの」
「それだと俺が違う意味で寂しくなるから頑張って欲しいんだが」
ぐるりとソウタの方を向いたネネ。いい笑顔なのだが…
「じゃあがんばろ?」
「何、を…?」
悪寒が走った。気のせいか元々が濁った目であるネネの目が
さらに濁っている気がする。っていうか凄い力で張り付いてきた!?
「あのねソウタ? ワタシ、前の世界ではクソ共の目を盗んで
連中のクソフォルダから色々面白いのをハッキングしてたの?
ねえ知ってる? あの日って早められる方法があるんだよ?
具体的にはこの後メチャクチャセッ―
「スーーーーーーリャアアアアアアアアーーーーーーー!!!」
きっと人生でそう上げたことも無いであろう音量で叫んだソウタ。
「くふふ…? 呼んで良いの? ソウタ…終わっちゃうよ?
ワタシ以外誰もいなくなっちゃうんじゃないの?」
「すまーーーーーん!! 何でもなかったぁあ嗚呼ああああ!!」
きっと(ry二回目。ソウタは違う意味で絶体絶命である。
最初の豚さん以降初めての違う意味での絶体絶命である。
「ねぇソウタ…実践しよ?」
「うぉぉぉぉやめろおおおおおおおお!!?」
引き剥がすのは簡単だ。だが、全力っていうか幼女とは思えぬ力で
引っ付いてるネネを引き剥がすとなると、反作用で大変なことになる。
だからといって無抵抗では…ソウタはこの世界で社会的に一度死ぬ。
炉心溶融冥府魔道転生なんて訳にはいかんのだ。良識ある元・人間として。
「くふふ…年上のくせに…ワタシ、知識だけだから
手取り足取りおしえがががっ!?」
いつの間にかネネの頭にはルヴァルのエネルギー体義手の
アイアンクローが極まっていた。
「な…なんかわかんねえケド!! ソウタが危なそうだったから!!」
「良くやったルヴァル…今日の昼飯はお前に俺の秘蔵魔石デザートを進呈しよう」
「おおっ!? よっしゃ! んじゃとりあえずネネにさっきの仕返しするわ!」
「うががっが!? うぎぎぎぎっ!? ごごごんんのおおおおっがががが!?」
「ぬぅ…ルヴァルの義手攻撃が極まってるから発動出来ないみたいだぬ…
あとルヴァルの具現術…今のでレベル上がったんだぬ」
「おっ!? マジで?! そっか! やっぱ魔力を送るのが正解なんだな!!
やっぱヴァイスの鑑定すげーや!!」
「ま、まぁ別に大したこと無いんだぬ…」
「うごごごごごががががががががあああああああッ!?」
今現在ネネはルヴァルのエネルギー体義手アイアンクロー+
縮尺伸縮からしてある程度変幻自在なため、極まったまま浮かされている。
「ぎいいぎいいいいざあああまああああああああがががががッ!?」
「ルヴァル…程々にしないとネネの再生能力を上回りすぎるんよ」
「あ…? お、おう…? その割にはお前…嬉しそうだな?」
「今のところ人生最良の日だぬ」
「「え゛…?」」
ルヴァルとソウタは"このょぅじょどっちもこわい"と
奇跡のシンクロユニゾンしているかもしれない。
「お゛ぼえ゛でお゛げよ゛ぎざま゛ら゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「ひぃぃ!?」
「ブチ込む魔力が弱まりすぎぬ!! 瞳術発動の隙を与えちゃダメなんぬ!!」
「いやだって下手に入れたらマジでネネが…!」
「情けは人の為ならずなんぬ!! いっそこのままんぎょぬ!?」
「だどえ゛ごの゛ま゛ま゛あ゛あ゛じぬ゛ぉ゛ぉ゛お゛お゛ん゛ッ!?」
ソウタは限界まで手加減した拳骨をヴァイスとネネに落とした。
その行動を見てルヴァルはネネを落とすが、ソウタがナイスキャッチ。
「ヴァイス…言葉の使い方がおかしい…そしてネネ…少し休め」
「うぉぉぉぉぬぬぬぬぃぃぃぃだああああああああい!」
「………ごめんなさい…わるふざけしました……おやすみなさい…」
頭にタンコブを作ってのた打ち回るヴァイスと、その一撃で
色々開放された安堵からふっと意識を飛ばすネネ。
「ヴァイス…ネネを視ろ」
「…うぐぐぬぬ……い、生きてるんだぬ…気絶してるけど…ぉぉぉ…!」
のた打ち回りつつもちゃんとソウタの言う事を遂行できるヴァイスは
流石は人間の上位種である…が故か否かはソウタにはわからなかった。
>>>
その後、目を覚ましたネネはどうにも記憶が混濁しているようだったので
改めてヴァイスに状態を鑑定してもらったが、特に他に異常は無いようだ。
「…ネネ…ソウタに悪いことしてた…?」
「あぁ…まぁ…覚えてないのならば…良いんだ。次からはそういうのを
やってしまわないように気をつけてくれさえすれば俺は構わん…」
「ありがと…ソウタ。だいすき」
言いつつ凄い勢いでソウタの唇を狙ってきたのでガードし、
やっぱりこいつ覚えてるんじゃないのかとヴァイスを見るが
「その辺は素っぽいぬ」と返されたので安心できそうになかった。
2:拾われた者達は己の成している事の大きさをイマイチ理解していない。(終)
タグ【ぅわょぅじょこわぃ】に偽り無し回?