15:三羽烏が見るある日のヒブリド
<<<ヴァイス・リヒテンモーント>>>
凍土の蛇穴の"迷宮盟主"とかいうモノになってからは
あたいの一日はけっこー大変になった気がするんよ?
「………また岩蟻が地下五階にまで出てきたぬ?」
<そうなんすよー今迄はオレがマスター権限で何とかしてたんすけどね>
兄者から「強くなれる」と言われてダンジョンマスターというのに
"くらすちぇんじ"して、仙人から氷界地仙に存在進化したんぬ。
確かに兄者の言う通りにあたいはネネちーやナージャにも負けない
氷の魔法とか転移魔法とか覚えたしルヴァルに負けないくらいに
走り回れるようにもなったんよ?
<いや、ぶっちゃけヴァイス様がね? ちょっとこっちに戻ってさ…?>
あれから"けんぞく"とかいうものになった元"だんじょんますたー"の
ルフがほとんど毎日のように【念話】で凍土の蛇穴で起きている
ちっちゃい問題を何とかしてと言ってくるんだぬ。
「…もしかしてメンドくさいコトは全部あたいに丸投げしてるんかぬ?」
<ふへゅ!? そ、そそそそんなコトわわわ…!?>
確かにあたいはダンジョン"ますたー"になってからは色々と
頭の中に今迄知らなかった言葉とか知識とかは入ってきてるけど、
しょーじき一つ一つしっかり把握しようとすると熱が出るんだぬ。
そういえば兄者も「細かい事は出来るヤツに投げる」って言って
スーリャ達や倉庫番とかに細かい事は任せてるんだぬ。
だから下僕のヤツは何だかんだでやりたくない事を全部
あたい任せにしようとしてるんじゃぬーかと思って聞いてみれば
明らかにそうしようとしていたみたいで……ちょっとイラついたんだぬ。
「お前、地下四階から上は野良モンスター任せって言ってたぬ」
<うっ?!>
「そもそもそんなになるまで蟻んこ達を放っておいたのは誰だぬ?」
<………………さーせんした…>
「ダンジョンの中だったらお前も【ダンジョンムーブ】使えるし
最深部の守りを固めている特異種だってお前の言う事聞くことは
そのままにしてあるんだぬ…しょーじきあたい最近色々勉強だらけで
頭が痛いんだぬ…! それくらい今迄通りに自分で何とかするんだぬ!」
<…………ぐふ…! ……さーせん…自分で何とかしてみます…>
氷界地仙に存在進化したからって寒さが好きになるわけないんだぬ。
確かにあたい冷気に対して「激減」「無効」「吸収」「活性」「反射」と
ほとんど無敵になったんよ? でもだからといって兄者にひっついて
必死に魔石を食べて体をあっためたあの時を忘れられはしないんだぬ!
「…ぬぁー…」
あたいが存在進化してからゼナちーも「おっ? 白ちびもマジで
やるよーになったじゃん? じゃあもうアタシお前にもギリ避けられる
一撃とかクソめんどくせー手加減ほとんどしなくてもよくね?」と…
こっちもこっちでほぼ毎日特訓とか言って…! 特訓とか言って…!
ギリ避け可能って段階でもう手加減じゃないんだぬ!! ゼナちーは
あたい並に冷気耐性高いから碌にダメージ与えられないんよ!?
折角ネネちー達の前でも兄者に一杯甘えられると思ってたぬに?!
「…今日は何か兄者も大変みたいだったぬー…」
お昼ごろにモーちゃん(※モーガン)が真っ青な顔であたい達と
兄者で久しぶりに一緒に食べる昼ごはんを邪魔しに来たかと思ったら、
何だか陸走甲竜とかいうキマイラや樹海猪に美味しくないくせに超強い
樹海古兵螳螂とかをすれ違いざまに一撃粉砕しちゃうっていう
兄者か兄者並の人じゃないと"ふるぼっこ"されちゃうドラゴンが群れで
ヒブリドまでやってきたらしいんだぬ。昔なら漏らす級で怖かったけど…
しょーじき今のあたいなら全員氷漬けにして動けなくできそうだったぬ。
「オルルルアゥクルルアウゥ…フルル、ウルルアゥルル…!」
「え」
「パーパ! この子達ねー? パーパに絶対服従するから
ココに住まわせてくださいっていってるんだよー?」
「待てコーリ…お前が言うと色々と誤解が…」
兄者は凄いんだぬ。同じ竜種のコーリちゃんよりも竜種の言葉が
スラスラのペラペラなんだぬ。兄者が通訳するに、ヒブリドに来た
ランテンドラッヘ達の長老さんは兄者の下で色々働くのでそのかわりに
ここに自分たちも住まわせてくれっていう話らしいんだぬ。
そんなワケで今日も頭が痛そうなユガお姉ちゃんに引っ張られながら
兄者はランテンドラッヘ達のお家づくりとかで忙しいんだぬ…。
「…ぬぁー…」
ホントは兄者に意味も無くひっついてダラダラしたいんよ…。
でもネネちーやナージャに無意味にケンカを売るのも
あたいの主義じゃないんよ…。
「…暇だからトビアの所にでも行ってみるんだぬ」
>
とゆーことで今あたいはトビアのお家にお邪魔してるんだぬ。
「あれ…ヴァイス…? 今日はソウタ先生の所に行かないの?」
「今兄者のトコに行ったらユガお姉ちゃんが魔化鬼人なんだぬ」
「あはは…まぁユガ姉が不機嫌な時は確かに…」
最近は土地魔術師っていうよりは園芸師って感じのトビアだぬ。
と言うのも結構前から兄者に「ウドンに合う小麦の品種改良」とか
「案の定ガチ野生種だったコメを食える種に何とか頼む」と頼まれてから
ヒブリドで育てられそうな外の世界の野菜や果物を種から育てて
今のあたいでもやっぱりサッパリわからない言葉だらけなメモを取ったり
よくわからない木の苗に樹海の木の枝をくっつけてみたりとか
聞いてもイマイチよくわからない事を一杯やっているらしいんだぬ。
「今日は何をしてるんだぬ?」
「今日はねー…今の所は樹海固有種らしいミストルテイン種を…
あ、良かったらアルプ騎士国の苺クーヒェン(ケーキ)食べる?
それで今日の実験は元々から寄生木であるミストルテイン種を
トレントの苗木に継木することによる…」
トビアの草花の話はしょーじき聞いても内容とかサッパリなんだけど、
トビアがすっごい楽しそうだぬ。そしてそんな時のトビアは
あたいに一杯お菓子を御馳走してくれるんよ。今日はアタリの日だと
あたいはコッソリ"がっつぽーず"したんだぬ。
「あ、そういえばネネさm…ちゃんが最近また新しい点字の本を…」
…トビアはスーリャお姉ちゃん同様に普通にネネちーと話せるんだぬ。
最初は結構ネネちーに「オ前ノ顔ハ危険ダ」って絡まれたのに…。
今では何か色々話をしているらしいんだぬ。興味ないので聞き流すんよ。
「おっと…そろそろ実験に戻らないと…」
「ちぇー…だぬ…じゃああたいも兄者を探しにいくんよ」
「うん。じゃあまたねヴァイス」
「ばいばいぬー」
さぁて…兄者を探しつつ次は何処へ寄り道しようかぬー…?
<<<ネビリミネ・テオセニグマ>>>
最近は特にヒブリドが五月蠅い。原因は言うまでも無く
四年目の春からゴッソリやってきた移住希望者達だ。
ワタシとソウタの熱い時間を邪魔しなければ何をしようと構わないが、
どいつもこいつもワタシとソウタの時間を遮る案件ばかり持ち込む。
今日に至っては四足のドラゴンどもがソウタの庇護を得たいと来た。
「…ソウタ…」
ソウタは言う…「来る者拒まず、去る者追わず」…まぁここまで来て
去るヤツなんて今迄に感知こと無いけど…。
「…はぁ…」
今日はもうソウタに頼まれた食肉の屠殺は全部やった…殆ど趣味だけど
必要としてくれる人が居るから作った点字の新辞書も大体編纂した…。
だから今日こそは一日中ソウタにくっついてゆっくりソウタを…
ワタシだけを見てくれるようにイロイロやろうと思ったのに…。
何でそんな時に限ってランテンドラッヘとかワタシとの戦闘相性最悪な
走りトカゲどもが…
「あふぁ………ソウタのにおい…」
仕方がないからワタシはソウタのベッドでゴロゴロするのだ。
ああ…この匂いに包まれてるだけでソウタの赤ちゃんできそ…
「あ、あのー…ネネ様…? 一旦ベッドから降りてもらえると
あーし的にシーツ代えやすくて有難いし?」
「……チッ…」
「ひぃ…!?」
ワタシの楽しみを邪魔する新参者め…! 確かにお前達が織った
シーツや反物はソウタも気に入っている…! だが、だからといって
隙あらばソウタとの男女関係の接点を作ろうと毎回誰かしらの
アラクネ族がシーツ交換に来るのを容認するとでも…?!
「も、申し訳ありませぬ。ヒブリドの姫巫女様」
「シゥ、ジュディ…シーツ交換に一々2人も必要なの?」
「ひゃ…!? いや、あのヒブリド総代は体も大きいですし!?」
「そ、そうなのじゃ…! 普通だったら4、5人がかりなのじゃよ?!」
アラクネ族め…何故お前たちは繁殖に多種族の男を必要とするような
非合理な種族に進化した…!? お前たちがそんなだから
ワタシとソウタの時間は益々減っていくと言う事がわからないの…?!
「に、睨むのだけは堪忍してたも!!」
「流石のあーし達でも麻痺系の耐性は絶対じゃないし!?」
魔瞳術はやれるなら何回でもやる。やろうと思えば確実にやれる。
でもそれをソウタが許す筈も無い。ワタシもそこまでバカじゃない。
「…外に出る」
ただ脇を通ろうとしただけで天井まで飛び退いて避けるのか。
くふふ…そんなにワタシが怖いのか? 色々都合が良いので
どんなに腹立たしくても敢えて何も言わないよ?
>
今のワタシは生まれつき素の視力が無いから基本的にモノを見るのは
魔眼の副次的能力である微細魔力可視化と反響探知に依存してる。
「ソウタの現在地…結構遠い…」
悲しいかワタシの運動能力は前世の実験生物時代も相まって
センスからして壊滅的である。だからソウタが居る場所は遠すぎる…
「あっ」
「………」
小さく声を漏らしたので見れば……ソウタ曰く「同郷と言えば同郷」な
ミハルが居た。こいつにも無駄にソウタに近づかないよう釘は刺してる。
ソウタを「見た目からして好みじゃない」と抜かしたのでイラついたが、
嘘ではない事は魔力の波長からしてハッキリ分かっている。
でも、だからこそわざわざ長い階段を上って大樹リッカルディッギーの
ソウタの寝室近くまで来る理由が不可解である。
「何でここに来たの」
「え…あ、いや…下が結構騒がしくって…」
言われて見れば確かに地上ではバタバタと目にも五月蠅い。
ワタシから見たこの世界のあらゆるモノには一つ一つ明確か微妙に異なる
魔力の色彩に溢れている。だから今日みたいにバタバタと動き回られると
見るのも嫌になるくらいに色彩が入り乱れて目を閉じたくなる。
「…手に持っているのは何?」
「……こっちの世界の…絵本とか…」
流石はソウタの同郷なのか、ミハルもまたこの世界の住人とは
魔石を食べ存在進化する前のワタシとは違って流暢に会話ができる。
しかしながら彼女はワタシやソウタと違ってこの世界の文字は
十分には読み書きできないらしいので勉強をしているのだとか。
こちらの世界に来る前にも前世のクソ実験クソ研究者の見習いみたいな…
学生とかいう身分だったらしく時間があれば勉強しているらしい。
「…何を読んでいるの」
「あ…えと…私の居た日本だとフランケンシュタインの怪物…
って言ってもわからないよね…とにかくそれにほんのり似た…えーと…
強力無比な怪人が自分を恐れない盲目の少女と出会って
一緒に生きていくという感じの話…」
…何となく気になるのでワタシは彼女に音読を頼んだ。
<<<ルヴァル・アインヴンダー>>>
結構久しぶりにソウタ兄ちゃんと一緒に昼ごはん食べてたんだけど
今日もまた自分の事じゃない件で青い顔したモーガンが来たと思ったら
何か見たことない…ヴァイスの【鑑定】ではランテンドラッヘとかいう
今の僕じゃまだちょっと単独討伐は難しいキマイラやイオヤムボアに
クソデカカマキリを瞬殺してしまう鎧を着てるようなドラゴンの一種の
群れが押し寄せてきたっていうから、結構背筋が凍ったものの
いざ兄ちゃんと一緒に迎え撃とうとしたら、その群れの中の…
なんというか御爺ちゃんみたいなのが出てきて頭を下げながら
クァゴァと鳴いたんだけど同じドラゴンといえば同じドラゴンの
コーリが言うには兄ちゃんの部下になるからヒブリドに住みたい…
ということで今日も頭が痛そうなユガ姉ちゃんに引っ張られて兄ちゃんは
ヒブリド内で鎧ドラゴン達の住む場所を検討するべくあっちこっちへ
走り回っている。
「にゃにゃにゃ? そこに居るのはルヴァル君じゃにゃいか?」
「ミオン…ちょっとわざとらしいですわん」
「うわ…」
思わず声に出したが…僕はあんまり大人の女の人が好きじゃない。
何か知らないけどミオンとかゼナ姉ちゃんとか時々
アイネお姉ちゃんなんかが僕を見つけると絡んでくるんだよ…
「うわ…て…そんなにあちしと会ったのが嫌にゃのか?」
「ミオン…貴方が最初に彼に何したのか諳んじてあげましょうか?」
クーファお姉ちゃんが言うとおりだ。ミオンは僕を見るなり
「何という原石…! 今のうちにツバつけておくにゃ!」とか
微妙に意味は分からないがどうにも嫌な感じの笑顔で僕にベタベタと…
「あにゃー…いや、あん時のあちしはホラ…ソーにゃんと初めて会って
まだ日も経ってなかったしにゃー…?」
「第一印象と言うものは子供なら余計に印象深いんですわん」
そりゃまぁ確かに兄ちゃんと初めて出会ったときは僕だって
心臓が止まるかと思ったけど…でもなぁ…
「2人は2人で何してたのさ? 今日は結構慌ただしいのに」
「にゃははー…えーと…クーファ?」
「ぐるる…こっち見んなですわん」
この2人って仲が良いんだか悪いんだかイマイチわかんないんだよね…
まぁ僕も進んで2人と話したりはしないから仕方ないんだろうけど。
「言いにくいのなら僕は無理には聞かないけども…」
「にゃー…ルヴァル君のそういうとこホントすこだにゃー」
「わぅぅ…全く…ヒブリドに亡命することになった一因が
まるで改善してませんですわん」
「にゃっ?! クーファだって相変わらずドルクみたいにゃ―」
「グルル…それは喉笛を食い破られる覚悟ですか?」
「にゃにおーっ!? あちしは良くて自分はダメとか横暴にゃー!!」
ドルク兄ちゃんが何なんだろ…? まぁいいか…
何かミューミューバウワウと喧嘩し始めたし…
>
ソウタ兄ちゃん曰く「女の喧嘩は虫も食わない」…えーと確か
女の子同士の喧嘩に横槍を入れると矛先が変わって危ないから
自分が関係して無さそうならその場も離れて放置するのが良い…
ってことなので色々目まぐるしく変わり始めているヒブリドを
適当に散策してみることにした。
「…兄ちゃん達と此処で暮らしてもう4年なんだよね…」
最初の頃は大樹リッカルディッギーの一番低いけど太めの枝に
沢山の蔓と兄ちゃんが鞣した毛皮だけの
天幕とも呼べない家で四人で寝泊まりしてたんだよな…
地面にも畑なんか無くて…根っこ近くの部分を毎朝日の出の度に
ソウタ兄ちゃんが爪で引っ掻いて日にちを数えて…
「そういえば初めて魔石を食べさせてもらったのは…何時だったっけ…」
結構沢山当たり前のように食べてたからなぁ…
「よう、ルヴァル。相変わらずツンツンした頭してんなお前」
「あ、ヨハン…ヨハンは相変わらず髪型カッチカチだね」
すっかり畑以外にも焼き尽くされた故郷の村より立派かもしれない
商店街みたいなのも出来上がったヒブリドの大通りを歩いていたら、
キッカケは似たような意味で女の人がちょっと苦手っていうことから
年は三つも離れてるけどすっかり呼び捨て合う仲になったヨハンが
何も言わずカフギヌーの実(ソウタ兄ちゃんはカカオモドキと呼ぶ)を
無造作に放ってきたのでそれを受け取る。一口齧れば
果肉がトロリととろけて西の帝国ではお茶より沢山飲まれている
珈琲牛乳によく似た風味が口いっぱいに広がる。
「旦那に次いでの古株なオメーにしてみたら…やっぱ今のヒブリドは
グイグイ突っ走ってる感じなのか?」
「まぁね…僕が兄ちゃんに拾われた頃のこの辺りはフレイムグラスとか
サンダーポイズンシダーにグラビトンマッシュやらデーモンプラント…
まぁ兎に角陰湿な攻撃手段しか持ってない植物魔物だらけだったんだよ」
「名前だけだと学校サボりまくってたオレにはイマイチ分かりにくいな」
「結構前にゼナ姉ちゃんにも話したら"油断したら普通に死ぬ"って」
「マジかよ…油断しててもゼナ姐さんが普通に死ぬって…
真面目にヤベーやつだろソレ」
「多分僕らだと先に見つけられないと必殺されかねない…らしい」
「らしいってのはまた何で…」
「そりゃソウタ兄ちゃんが鬱陶しそうにブチブチ引き千切ってるのとか
グラビトンマッシュはヴァイスの好物だからってミチミチ抉り取るのしか
直前まで生きていたとしてもそんな光景でしか僕も見たことなかったし」
「…旦那パネェわ…」
カフギヌーの実を齧りながら僕とヨハンはヒブリドの大通りを
ゆったりのんびりと歩いていく。
「この辺はどんな感じだったんだ?」
「イオヤムボアの泥浴び場…日当たりが一番悪くて水はけも酷いから
雨が降ったりすると大体ここにイオヤムボアが体にくっついてる
寄生型の虫魔物とかを洗い落としてたんだよね」
「はぁーん…? 道理でここら辺は念入りに石畳が敷かれてんのか」
しばらく歩いていると最近ユガ姐ちゃんの交易にひょっこり付いてきて
何日かここで商売をしている行商人達の市場が見えてくる。
―そこの御嬢さん! 今なら東国一押しの香水がたったの40リッカ!
―グランリュヌのタペストリーはいかがですか?! ウチは
リッカでも交易金貨、銀貨に一部は物々交換でも良いよー!?
―おっとそこのドワーフのお兄さん! 東国東端ストニア王国で
最近話題の最東南端国ユグスレヴィア藩王国で最強酒と名高いラキア!
そのラキアの一級品をちょっと味見してみませんか?!
「こんな人達なんてそれこそ影も形も無かったよ」
「そういや少し前にヒブリドでもリッカっていう単位のカネも作ったな」
「そうだね」
何となく交易貨幣で良い気がするんだけど…その辺はモーガンに
エルヒス、倉庫番さんに兄ちゃんとか物知りな人らが集まって
「貨幣類を東国連合や大月帝国依存はヤバくないか?」って話で
今はヒブリドでしか作れないしヒブリドでしか使えない「紙幣」っていう
高級な紙で出来たお金を発行しようって話があったっけ…
「しっかしカネの単位の名付けはオレ笑うの堪えんの大変だったぜ」
「あぁ…あれは…うん…」
ちょっと思い出し笑いしそうになる。
―普通に親分由来で良いゴブでは?
―兄ィ、ボスがそれを望むと思うか?
―神なる兄
―大信愛夫
―じゃーあちしはクーゲルシュライバーで
―…リッカルディッギーヒュッケバイン…
―うっわ…
―これは酷いんだぬ…
―こめかみが痛いわ…
―あっはwww何で皆して騎士国語なのwww
―とりま"リッカ"で落着けお前ら…
まぁ僕もヴァイスもネネもアルプ騎士国に属する地方の生まれだから
騎士国語そのものが名称に使われるのは別に悪くは無かったんだけど…
普通に名称センスがね…
「あっ…兄ちゃんの声がする…」
「そーいやここから先の辺りを旦那がドラゴン達の為に弄ってたか…?」
いつの間にかワインを片手にしてたヨハンにちょっと呆れたけど
そろそろ夕暮れにもなるから良いかなと思って、
僕は兄ちゃんの声が聞こえた方へ向かうことにした。
<<<ヴァイス・リヒテンモーント>>>
"かいはつこーじげんば"で兄者を探して三千万里…は流石に嘘だぬ。
そんなにヒブリドは広くないんよ。でもこの間のブレスラとかいう
東の国の街を兄者に肩車でピョンと飛んで上から見た限りでは
広さだけならヒブリドの方がずっと広いんだぬ。
「…そういえばランテンドラッヘってどれくらい強いんだぬ…?」
今兄者がザクザク掘ったりしてる様子を見てネネちーの十八番の
金縛り喰らったみたいに固まってるのが一頭いたから視てやるんだぬ。
名前:アルダガルガ・ベベレブラ・トリスアギオン・グラバルカンス
性別:男
年齢:64
種族:陸走甲竜・風迅種
役職:族長、戦士長
存在位階強度:312
生命力:196543
霊体力:88976
総膂力:137564
瞬発力:88555
肉体硬度:52528
霊体硬度:72376
精神強度:3897
【属性耐性】
<炎>L18以下半減、L30まで軽減
<水>L20以下無効、L21以上激減、L30まで軽減
<風>L10以下無効、L11以上激減、L30まで軽減
<雷>L12以下半減、L13以上特効、L30以上致命
<地>L13以下半減、L30まで軽減
<光>L18以下半減、L30まで軽減
<闇>L14以下半減、L30まで軽減
<星>L1軽減
<波>無し
【異常耐性】
<毒>L53以下無効
<混>L37以下無効
<眠>L44以下無効
<痺>L11以下無効
<凍>L8以下無効
<石>L26以下無効
樹海の魔物の平均は20000だぬ…桁違いってレベルじゃぬーよ…。
あたいが勝てるの<水>と<凍>だけだぬ…あれ…
あたいって一応ダンジョンマスターなんだけどぬー?
こういう時は兄者を視てしまうのが一番だぬ!
名前:ソウタ・カリオ
性別:男(雄、牡:童)
年齢:36
種族:大軍魔喰王
役職:酋長、百万戦将
存在位階強度:7957
生命力:96547542
霊体力:22548754
総膂力:77524547
瞬発力:56455468
肉体硬度:65425461
霊体硬度:44542546
精神強度:5254257
【属性耐性】
<炎>L1356以下完全無効、L2256まで激減、L3243まで半減
<水>L896以下完全無効、L1024まで激減、L1152まで半減
<風>L775以下完全無効、L986まで激減、L1095まで半減
<雷>L639以下完全無効、L858まで激減、L1018まで半減
<地>L1536以下完全無効、L1858まで激減、L2156まで半減
<光>L851以下完全無効、L1021まで激減、L1056まで半減
<闇>L992以下完全無効、L1258まで激減、L1457まで半減
<星>L100以下完全無効、L128まで激減、L256まで半減
<波>L50以下完全無効、L100まで激減、L128まで半減
【異常耐性】
<毒>L3000以下無効
<混>L1899以下無効
<眠>L4208以下無効
<痺>L6665以下無効
<凍>L9887以下無効
<石>L10926以下無効
何一つ取っても兄者無双だぬ。まあ食べてきた魔石の数は
一人であっちこっち行ける分兄者とあたい達には月と地底くらいの
しょーじき考えるのもメンドくさくなる差があるんだぬ。
「何だ、ヴァイスはもう兄ちゃん見つけてたのか」
「あっ、ルヴァル………うーん…平均18000…話にならんぬ」
「何の話…あぁ、【鑑定】での兄ちゃんと僕の能力差か」
ちょっと後ろを見るとヨハンにリヒャルトお兄ちゃんに
ユガお姉ちゃんが死んだ魚みたいな目をしてタバコ吸ってるんだぬ。
「はひ…何で……私が…」
「おつかれ。おろして」
「ふひぃ…」
声がしたのでそっちを見たらミハルお姉ちゃんがネネちーを
肩車から降ろして尻もち付いてるんだぬ。っていうかネネちー…
幾ら体力が無いからってミハルお姉ちゃんに運ばせるとかおにちくだぬ。
「うわ…ネネ…お前後でちゃんとお礼しとけよ」
「かんがえておく」
「思いっきり嘘判定だぬ」
「…チッ…」
まぁネネちーは多分死ぬまでこんなだろうから
気に掛けるだけ時間の無駄なんよ。
「これで4回目くらいだけどさ…兄ちゃんの地均し凄いよな」
「初めて見て驚かないヤツなんてまず居ないと思うんだぬ」
「…穴掘りするソウタ…たくましい…見てるだけではいらんする…
…さいしょの子の名前はどうしよう…はぁはぁ…」
兄者に関してのネネちーは多分死んでもこんなだろうから
関わるだけ人生の無駄なんよ。
―パーパすごい! つちがスライムみたいにちゅるんちゅるん!
―兄様、こっちの土も水気を取ったよ?
―よし任せろ
兄者が土に腕をドスッ。そのままグイッと軽く引き上げると
バゴッとイオヤムボア4頭分くらいの土の塊が一緒に出るんよ。
あたいとルヴァルも頑張れば樹海の土を掘れるけど…
「ぬ?」
気が付けばあたい達にランテンドラッヘの一頭が顔を寄せていたぬ。
「カロロロロ…クァロロ…クァルロロロ…?」
「はぁ…ネネちー分かる?」
「………ぺっ……仕方ない…」
あたいやルヴァルは元々の母語の騎士国語は兎も角、魔石食べて
存在進化した後から大月帝国語に東国交易語を操れるようになったけど…
兄者とネネちーは今では魔物の一部とさえ言葉が通じるんよ。
「"聞けばお前達はあのヒブリド族長の子だと聞いたが、
お前達もまた族長の如き剛腕を持つのか?"…だって」
「いや、子供っていうか義兄弟だし…」
「まぁドラゴンからしてみればあたい達の区別とか難しいんだぬ」
「おっと…僕らは兄ちゃんほどの力は無いよ」
「あたいもこの間進化したばかりだからからっきしだぬ」
「………くそめんどい…」
でもちゃんと伝えるのはネネちーの不思議な所だぬ。
もちろん気にするだけ時間の無駄だから気にしないんよ。
「………後は適当に樹海の何処でも構わんから
お前達の寝床用に使いたいモノを好きなように見繕って敷くと良い」
「クォロロロ…」
「大丈夫だとは思うが、樹海の畜生どもを舐めてかかるなよ?」
「ヴルル…」
作業を終えたようで兄者がこっちに来るんだぬ。
ナージャと翼が少し大きくなったコーリも一緒だぬ。
「おつかれ。兄ちゃん」
「すまんな。昼飯の途中で抜けてしまって」
「だいじょうぶ…まったくきにしない…つちくさいのもいい…」
「ちゃんと洗ってあげたのにまだ土の匂い取れてなかったのね…」
「? パーパからはつちのにおいしないよ?」
最近はコーリが兄者の傍に居ることが多いせいか、ネネちーと
ナージャがつまんない諍いをしなくなってきたぬ。
流石にあの二人にもあたいより小さい子に対しては
ゲスにはならn…
「オイ白目…何か余計な事を考えた…?」
「流石に私も生まれたての子に嫉妬するほどじゃないからね」
嘘だッ?! あたいもあの時ちゃーんと見てたんだぬ!!
なんて奴らッ!? 兄者への好感度稼ぎとか浅ましいんだぬ!!
<<<ルヴァル・アインヴンダー>>>
ヴァイスが何かナージャとネネの琴線に触れる様な表情を浮かべたのか
2人の温度がひんやりしてきたような…
「ぬぁ」
「んっ」
「あっ」
兄ちゃんが三人の頭を軽く撫でてポンポン叩いたら収まった。
「割と疲れたからそういうのは後にしてくれ」
「ぬー…兄者にそう言われては…」
「わかった。やめる。だからこのままでいさせて…」
「もぅ…兄様ったら…」
今じゃこの三人をまとめて止めれるのって兄ちゃんくらいだよな…
「…で、団長…今後の事なんだけど…」
「歩きながらで良いか?」
「おう、大将のペースで良いぜ」
「旦那、頭に土ついてるぞ」
「あの…ヨハンくん…ついでに私も拾って…」
流石に死んだ魚みたいな目じゃなくなったけど、やっぱり
頭が痛そうな顔したユガ姉ちゃんたちが兄ちゃんを囲んで
歩きながらヒブリドの事で色んな質問意見交換し始める。
「あっ…兄者ぁー! 待ってほしいんだぬー!!」
いつもの様にひっついてたネネは兎も角、何かぼーっとしてた
ヴァイスが慌てて兄ちゃんたちを追いかけていく。
「カロロ…?」
「ん?」
ランテンドラッヘの御爺ちゃん…族長だっけ? 一番大きいし…
そんな族長さんが僕に何か話しかけてるんだけど…
「あぁ、ごめん…僕は兄ちゃんやネネみたいに君たちの言葉は
まだ喋れないし、わからないんだ」
そうか…とでも言ったのかは分からないが、ランテンドラッヘの
族長さんはまた何か一声鳴いて…挨拶か何か? から他の
ドラゴン達を地均しした場所に呼び集めている。
「あー…何か…」
僕の片腕と故郷を焼き払った赤騎士共への復讐心が揺らぎそうになる…
「…いやダメだ…これは僕のケジメだ」
中途半端はダメだって兄ちゃんも言ってたしな…。
「いつも通りいつも通り…」
近くにあるように見える大樹リッカルディッギーも
相変わらず青々としている。僕は軽く深呼吸して
兄ちゃんたちの後を追いかけることにした。
15:三羽烏が見るある日のヒブリド(終)