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11:無駄にデリケートな中年の逃避行

 アイスドラゴン幼女ことコーリ(命名は当然ソウタ)が

ヒブリド入りして数日後の事。その数日間にソウタの胃がギリリと痛むが

どうにかそれだけで済んだのは、母竜から念話で伝え聞いた以外で

何だかんだで外の世界を知らないコーリの無垢さが幸いだった。


 とりあえずソウタは再びアムカイアド地獄山脈を探訪していた。

ぶっちゃけここ以外でソウタが独り落ち着ける場所がもう無いのだ。

コーリはユガやスーリャ等のヒブリドの良識人から色々お勉強があるので

まず付いてくる事は無いし、他の面々は幾ら超人的な実力があるとはいえ

この世界における人型生物としての脆弱性は地球と似通っているため、

付いて行きたくとも付いて行けないのだ。それが喜ばしいのか

悲しいのかは誰も答えが出せそうにないが。


>―――――――――――――――――――――――――――――――>

大軍魔喰王レギオンレクスマルス」に進化可能です。「大軍魔喰王」に進化しますか?

「アムカイアド=イオヤム霊峰樹海」の支配権を得ました。

「アムカイアド=イオヤム霊峰樹海」の支配者として君臨しますか?

<―――――――――――――――――――――――――――――――<


「…適当にやればよろしい」


 中々に久しぶりな謎ウィンドウメッセージに、先日と同じ

投げ槍なテンションで返事をするソウタ。


「ッグ…?!」


 全身が膨れ上がるような感覚と共に、頭のあちこちに小さな鈍痛。

さらに背中から何かがメリメリと出てくるような感覚。

普通ならば取り乱すどころか狂乱しかねない感覚だが、そこはもう

色々とバケモノに変異しているソウタなので慣れた感じである。


「………とうとう角が生えたな」


 触った感じでは6本ほど。長さは中指程度で太さは指三本を

束ねた感じの太さである。さらに背中には触らないと分からない程度の

突起があり、直接見れなくても分かる光の翼がどうにも

そこから生えているようだった。


「………ははは…」


 光の翼は任意で出し入れが可能で、当然出している間は

音速が出そうな速度で飛行も可能という事が分かった。

調子に乗って試したら余波であちこちに雪崩を起こさせたが、

何だか無性にイラついたので気にしないことにしたソウタ。


>>>


 とりあえず直接鏡で見てみたいと思ったソウタは足早に…

いや、文字通り飛んでヒブリドに帰ってきた。


「うおっ?! 兄ちゃんがすっげーパワーアップして帰ってきた!!」

「…大軍魔喰王…? ふぇぇ…!? 言葉が出てこないんだぬ!」

「角と翼が生えたソウタ……………これはこれで…イイ……!」

「兄様…素敵です…!」

「おー…やっぱ兄鬼パネェな? もう勝てる気がしねえんだけど」

「………」


 ヒブリドチルドレン三羽カラス+αの反応は大体予想通りだった。


「………そうよね…何だかんだで貴方が最大の非常識の塊だものね…」


 分かってはいたが、やはり頭を抱えこんでしまうユガにちょっとだけ

申し訳ない気持ちになるソウタ。


「おかえりなさいませソウタ様。とりあえず礼服の作り直しになるので

また後で採寸させていただきますね?」

「あ、ボスおかえりなさい。何かまた進化したっぽいっすね。

おめでとーございます!」

「角と光る翼でまた親分がスゲー感じになってるゴブね」

「でも基本的な見た目はそれほど変わってねえんだな」

「急激に姿が変異されるよりは全然良いじゃないんですか?」


 と、まぁこんな感じで「あ、そうなんですか。おめでとうございます」

と結構…いや、もう色々マヒしてるであろうが故の仕方のない

軽い対応がチラホラ出てくるだけであった。パラレルワールドとはいえ

同じ日本人なヨハンやミハルでさえ「まぁここ地球じゃないですし」

と、あっさり流されるもんだからそれはそれで釈然としないソウタ。


 っていうかちょっとさびしい気になるのがメンドくさい独身中年の

割とあるある(?)な特徴である。そんな性分であるため

本来は一々火を起こさないで手軽に水分補給用として飲用するために

作らせたり買い集めたりで備蓄している貴重な酒類を

コッソリ隠れて結構飲んだ。久々に酔っぱらうくらいなので、

後で皆から怒られそうな気もしたが、大量に飲んで酔っぱらって

気が大きくなっていたので、そのノリで西方…

グランリュヌ帝国方面へ夜通しダッシュしてしまったのである。


 そこが既に帝国東方領だなどとは知る由も無いソウタは

酒の勢いに任せてグングン夜道を進んでいく。テキトーに進んでたら

眠くなってきたので、その辺の木をぶち壊して薪にして

寝転がりながらちょっとずつそれを焚火で燃やしながら眠りにつく。


>>>


 ふと目が覚めたらガタンゴトンと揺れるので首だけ動かして

周りを見てみればどうにもおりの中であり、普通に身動きが

取れないのでおや? と思えば全身を鎖で簀巻きにされていた。

ご丁寧に手首足首にも謎金属製の手枷足枷がめられていた。


「………んあ?」


「あら…目が覚めたのね?」


「……あぁ?」


 若い女の声がしたのでそちらを鉄格子越しに見れば、貴族率90%は

堅いだろう身なりの良い人間族っぽい少女が小洒落た扇子を片手に

ソウタを見つめていた。


「姫様ッ! いくら呪印も施してあるとはいえ危険ですぞ!?」

「もう…カリオストってば…慎重すぎて臆病に見えるわよ?」


 少女を姫様と呼び、後ろに匿うのはどう見ても執事セバスチャンな従者。

セバスチャンらしからぬ感じはプレートメイルと業物くさい

魔法の槍を装備している部分くらいだろうか。


「………誰だお前」

「しゃべッ…?! 姫様! やはりこやつは単なる巨躯の

亜人ではありませんぞ!?」

「角とか生えてたし、もしかしてこれが伝説に聞く魔族とかかしら?」

「姫様ァ?! 流石にどっしりと構えすぎで悠長に過ぎますぞ?!」

「ああもうカリオストは急げだの鈍いだのと忙しないですわね…」

「他ならぬ姫様自身の為に具申しておるのですぞぉぉ?!」


 檻に入れて鎖でグルグル簀巻きなのだからこそ、こんな感じで

何か漫才じみた口論をしているのだろうかと考えつつ、

ソウタは軽く足に力を入れてみると、鎖の一部がパキリとイッたので

多分脱出は簡単かなぁ? ということで成り行きを静観することにした。


>>>


 とりあえず静観していたら、姫様とセバスチャン(仮)が

色々と話しかけてきたりしてきたのでテキトーに答えつつ

この護送中の特製馬車がグランリュヌ帝国東方領最大の都市

オストジャルダンとかいう場所に到着したらしい。


「口が利けるのだからちゃんと街並みを見せて面白そうな感想を

聞きたかったのだけれど、流石に市井の者達には刺激が強そうだから

市中では外に出せないのよね…ちょっと残念だわ」

「そうか」


 「口が利けるのだから解放してくれ」と言う気がしなかったのは

時々馬車の窓から見える街中の光景が、どう見てもここでは亜人種は

奴隷であるのが普通の雰囲気なモノしか見えなかった為である。


「でも安心なさいな。貴方が変に暴れなければ………ふふ…もしかしたら

あの侯爵カタブツの驚く顔が見れるかもしれないのよね…?」


 美人故に意地の悪そうな笑みさえ良く見えるとはよく言ったもので、

グランリュヌ帝国貴族の姫様はニヤリと笑みを浮かべる。


 そうこうしているうちにソウタは興味が無いので名前を覚えていないが

この辺りを治めるナントカ侯爵の館の玄関先に到着したらしい。


「さて………」


 この感じだと檻から出してもらうことさえ無さそうなようなので、

折を見て普通に出てやろうかと考えていたら、姫様の従者らが

大人数で色々頑張ってソウタが入ってる檻を外に運び出してきたし

姫様も声を掛けてきた。


「鎖は外してあげるから、私と一緒に来るんですのよ?」

「………? いや、外すのは自分で出来るからお構いなく」

「え―――?」


 姫様が小さく口を開けて呆けそうになるや否や、ソウタは何の

苦労も感じない様子で鎖ブチブチ手枷足枷バキンボキンの

檻メキメキメギンギョルズベキンと破壊してあ~らよっ自由一丁である。


「何じゃとおっ!? 緊急事態発生! 姫様をお守りせよッ!!」


 セバスチャン(仮)の号令で従者たちは各々の魔法の武器と思われる

見た目も豪華な武装で若干震えが見えつつもソウタを包囲する。


「!?!?!? …と、ととと止まりなさいッ!!!!"ᛋ ᚴᛚᛁᚠᚾᛁᛦ"!!」

「ん…?」


 姫様が最後に言ったナゾ呪文が良く聞き取れなかったが、

そこから急に胸が熱いなー? と思って見てみれば、

寝ている間に施されたらしい判子のような紋様がペカーと光っていた。


「何だコレ」


 とりあえず拭ってみたら手から煙が出たが、そちらは別段熱くないので

そのまま拭い続けたら綺麗に取れたので「まあいいか」としたソウタ。


「バカな…グレーターワイバーンすら大人しくなる呪印ルーインが…!?」

「あんな空飛ぶ食肉と一緒にしないでもらいたいな」

「そらとぶ…食にk…?!」

「あ、有り得ぬ……ハッ?! 姫様っ!!」


 ソウタのデタラメっぷりにセバスチャン(仮)は姫様を庇う(2回目)


「なあ、ここってイオヤム樹海からどれくらいの距離なんだ?」

「樹、海…?」

「ま、まさかお前は…!?」


 ソウタが樹海と一言言ってからは…姫様は(´・Д・`)ハァ…? で、

セバスチャン(仮)は樹海の化物がどうのこうので話にならない。

とりあえずこのまま投げっぱなしで帰るのもどうかと思ったのでソウタは

姫様に「しばらく付き合ってやるからこの辺の事を教えてくれ」と

なるたけ穏やかな表情と声音に努めて訪ねてみた。


>>>


 そんなわけでソウタは貴族の姫様ことグランリュヌ帝国第八皇女…

プルミエトワーリュ改めプリム姫の専属拳闘奴という表向きの

立ち位置で彼女らに同道することになった。


「しかしながら…この帝国じゃ亜人は基本奴隷なのか」

「お、怒らないでくれると私の心臓にも優しいのだわよ?」

「別に怒ってはいない………そこはかとなく不愉快なだけだ」


 どんな歴史的背景かは興味が無いので理由は知らないが、

グランリュヌ帝国では人間、エルフ、ドワーフ以外の異人種族は

臣民であろうとも奴隷以外では許されないというウ●コ帝国らしい。

実際外を見渡せば対象者は漏れなくグレードに差はあっても何かしらの

首輪だったり目に見えてわかる位置に奴隷用の呪印を施されていた。


「………まぁ、この調子じゃ奴隷経済も活発そうだし…別に俺は

正義の味方を気取るつもりも無いからどうでもいいんだが…」


 だからと言って現代日本人感覚で見ていて気持ちのいい光景ではない。

下手すりゃ日本の犬猫の方が良さそうに見える様子もチラホラである。

聞かなくても何となく分かる気がしたが、この帝国では


グランリュヌ皇帝「月光帝」>帝族・公家>>>上位貴族>>>>>

下位貴族≧上位ランカー冒険者>一等国民>二等国民>奴隷・家畜


 という地球人類の歴史でも大体似通ったヒエラルキーが普通だそうで


「何処だろうと人間は人間らしいというか…何と言うか…ハハハ…」

「???」


 ソウタの自嘲的な言葉は帝国で生まれた時から王侯貴族なプリムには

分かるはずもないので可愛く首を傾げて???の乱舞である。


 とはいえ大きな国にはメンドくさい物事が切っても切れないものかと

地球でも近代化して尚アパルトヘイトみたいなモノが最近まで残る…

人が増えすぎればそういった弊害が起こるモノなのかと

とりあえず割り切っておくことにしたソウタ。


「時々聞くけど、貴方ってその…ヒブリドとやらでは王様なのね?」

「仕方なく統治者をしてるだけだ。だから王じゃなくて酋長シカリな」

「……そこには貴方みたいなのが沢山いるの?」

「今のところは俺と同格は居ない………が、プラチナ級冒険者を単独で

十数人血祭りに上げられる実力者なら両手で数えきれない程度は居るな」

「そ、そうなのね…?」


 脇からセバスチャン(仮)がとにかく口うるさいが、その辺はプリムも

努めて無視してソウタに色々質問してくる。


「ち、ちなみにラム酒はヒブリドにあるのかしら? 帝国南部では

砂糖が特産なので沢山あるのだわよ?」

「ウチの交易担当が帝国アレルギーじゃなかったら行かせたいところだ」


 そういう理由で残念ではあったが、心のメモ帳に「月光帝国南部 砂糖

ラム酒ラム酒ラム酒ラム酒ラム酒」と深く刻み込むのを忘れないソウタ。


>>>


 その場の勢いに任せてプリム姫に付き合ってたら、いつの間にか

帝都グランアンファンの姫様の居城に来てしまっていた。

皇帝の直系ともなると殆どが何かしら大小の城を与えられるらしい。


「だってしょうがないじゃない…メシが旨いんだもの…」

「どうしたのソウタ? 今日の晩餐ばんごはんが気になるのかしら?

今日はシェフが自分で育てたフォア=グラのソテーらしいのだけど…

正直私脂っこいの好きじゃないのだわ」


 プリムが言うように、地球じゃ食えなかった高級品に似た素材を

使った料理がアホみたいに出てくるのだ。しかもソウタが

毒の有無を匂いで判別できるとプリムに知られてからは作りたての

温かい料理が食べたいプリムの一存も兼ねてソウタの目の前で

ビビりながらも頑張ってシェフが調理するというサービス付きである。 


「貴方が傍に居てくれると広い部屋でのんびり眠れて有難いのだわ」

「俺が傍に居るのは良いのか?」

「貴方はその辺の騎士爵シュヴァリエ達よりも紳士だもの。

………ねぇ、本当に私に仕える気は無くて? 公では仕方ない扱いでも

私の目の届く範囲なら何をしても良いように取り計らえるのだわよ?」

「………いや、俺にも家族のような連中が居る身なのでな」


 ふと気づけばグランリュヌ滞在も10日ほど経っていた。

流石にここまで長期でヒブリドから離れたことが無かったので、

ちょっと洒落にならないレベルでネネやナージャ辺りが

色々と大変な事をやらかしているのでは? と、

ちょっとした恐怖に駆られたソウタは一応プリムに

ねぐらが心配なので帰る」と一言断り(本人の反応は待たず)

ヒブリドに大急ぎで帰る事にしたのだが…


 帰還した先で半泣きのオオクチノマカミから助けを求められるとは

流石のソウタも予想していなかったのであった。


11:無駄にデリケートな中年の逃避行(終)

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