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13.捨てる準備


フェイル殿下に王と王妃、そして大変遺憾ながら馬鹿二人にも挨拶して友好国を出た。連れ帰る馬鹿は納得いかない顔で付いてきているが、知ったことではない。


「うーん、有意義な訪問でした。ある一部を除いて」


「あの馬鹿姫が琴音様に感謝の言葉を贈るとは私としても大変予想外でした」


「護衛って楽なんだなぁと思ったよ」


それぞれ思い思いの感想を抱きながら帰国していくんだけど、俺とフェルトさんの心の中は穏やかじゃない。いや、ミッションはコンプリートしたよ。予想の斜め上の方向で。


「馬鹿姫のチョロさが私達の想定以上だったのが敗因ですね」


「いえ、負けた訳ではありませんから」


「試合に勝って、勝負に負けた感じでしょうか」


だって私達の組んだ予定が全くと言っていいほど崩れたじゃないか。室長と話し合ったことが全部無駄になったのだから完璧な勝利とは言えないよな。


そして帰国してすぐに室長へと報告したら案の定のことを言われた。


「何をしているの?」


全く持ってその通りなので乾いた笑いしか出て来なかったよ。この後に報告書を作成して、内容を補完するのが業務内容なので部屋から出ようとと腰を上げたら室長に止められた。


「フェルトは退室。琴音はこのまま残って。次の仕事の話」


「は?」


「では失礼します」


逃げるな! というかちょっと待ってよ。俺は今しがた帰って来たばかりだよ。それなのに何ですぐに次の仕事の話がやってくるんだよ。休暇の話は何処に行った!


「問題が発生した。明日には出発してもらう」


「また急な話ですね」


「色々と逃げ道を塞がれた。何としても期日までに到着しないといらない出費が増える。国庫に甚大な負担」


国庫に甚大って何があってそうなったんだよ。移動合わせると二週間ばかり留守にしていただけで急展開だな。殿下が俺との約束を忘れている可能性は低いだろうから、この展開は想定外かな。


「まず一つ。どうして負担になるんですか?」


「勇者到来のパレードを開催する。もし来れなかった場合、我が国で損失を埋めないといけない」


「それは開催する国の勝手ではないのでしょうか」


「先延ばしにしていたからいい加減に来いという意思表示。下手するとあちらから乗り込んでくる」


また面倒な。そこまでしてくる国となると油断はしてられないか。明らかに勇者を取り込もうとするのが分かり切っている。フェイル殿下は親しみやすくて助かったけど、今回の国は明確に敵になりそうだ。


「ちなみにその国の担当者はそこで死んでる」


見た目は確かに死んでるな。机に突っ伏して身動き一つしていないから。偶にビクンッと動くのが凄く怖い。何があったらあんな状態になるのやら。


「確実なのは、彼は帰って来ない」


「意外と早いお別れでしたね」


すでに終わったこととして話しているけど、結果が確実に分かっているという事だろう。俺の事が伝わっている可能性は低いから、引き抜きはないだろうが気を引き締めないと。


「休日は纏めて取らせてもらいますよ」


「それは殿下に確認」


「あとで伺います。フェイル殿下から伝言を頼まれていますから」


手紙とかで間接的にでもいいから言ってほしい内容なんだけど。一国の代表の言葉を無碍に出来るはずもなく、承ったけど気は進まない。


「今回のミッションは簡単。琴音は無事に帰ってくること」


「それ以外は?」


「自由にさせていい。どちらにせよ、彼の行動を縛っても結果は変わらない。連れて行かないという選択肢はない」


「勇者を呼んでいるんですから、その選択は問題外ですね」


俺の事はお呼びじゃないから仕方ない。馬鹿の為に俺が人柱になるつもりは微塵もないからな。自分の人生の為なら他人を差し出すぞ。友人とかなら別だが。


「詳しいことはまた後で」


「先に殿下の所に行ってきます」


言伝頼まれているのに仕事の話をしていて伝えられなかったら不味いからな。こっちを優先した方がいいだろう。



「それで伝言ですが『第一子が生まれたよ。羨ましいでしょ』だそうです」


「よし、琴音。結婚しよう」


「お断りします」


青筋浮かべながら告白しないで欲しい。だから言いたくなかったんだよ。何で自慢話を俺経由で流したのか。こういう流れを予想したんだろうなぁ。


「フェイルめ。俺に何か恨みでもあるのか」


「弄って楽しんでいるんじゃないですか」


元の世界の同級生達を思い出してしまう。コスプレさせようとしたり、身体の、特に胸に関するセクハラなんかしてきていたからな。それを考えれば殿下は仲間になるのだろうか。


「あとで抗議の手紙を送っておこう」


「どうぞ、ご勝手に。私の事は書かないでくださいね」


嘘や妄想を書かれたら堪らない。それにもしフェイル殿下と結託して俺の事を落とそうと画策されても嫌だ。


「取り敢えず、仕事の話をしましょうか。次に行く国についてですが」


「気を付けることだ。特に琴音は。琴音が勇者であることは伝わっていないことを祈るしかないのだが」


「どんなに情報封鎖していても何処からか漏れるものですから仕方ありません」


人の口には戸が立てられないとはよく言ったものだ。それに国によっては隠密みたいなものが存在している可能性だってある。遅かれ早かれ俺の事はばれるだろう。


「あの国は特に勇者の知識に飢えている。我が国が発展したのは勇者のおかげだと公言している位だ。我々が否定しないのも悪いのだが」


否定は出来ないのだろう。それが事実である部分が少しでもあれば口にしていいことではない。そして相手は自分達にも勇者がいればもっと発展できると思っているのかもしれない。勝手に呼び出された方からしてみたらいい迷惑だ。


「勇者が知識を持っていない可能性を考慮していないのでしょうか」


「あの国に限って言えばそんな考えは持っていない。秘匿していると強引に思い込んでいる。先代もそれで大分苦労していたからな」


何回も引き抜きにあったということだろうか。それでも相手の国に渡らなかったのはある意味で凄い。多少強引な手も使っただろうと思うけどさ。


「今までの勇者はそこにだけは所属しなかった。何かしら感じ取っていたのかもしれない」


「色々と危険な国なんですね」


ミサさんが淹れてくれたお茶を口に入れながら呑気に答えたら殿下に睨まれた。分かっているから今は呑気に言えるんだよ。現場に着いたらちゃんとするから安心してほしい。


「私の答えは変わらないので安心してください。ゆっくりとお茶を楽しめるのも今だけですから」


あっちに行ったら下手したら何も口に出来ない可能性もあるからな。ミサさんが毒見をしてくれるだろうけど、不安はある。それでミサさんが倒れでもしたら正気を保っていられる自信がない。


「琴音が俺の所に来てくれて良かった。渡そうと思っていた物があるからな」


何だろう。装飾品の類ならいらないけど。だってそれが婚姻用のものだったら嫌だし。知らずに受け取って、勝手に婚姻しましたとかだったら暴れるぞ。


「これだ」


ゴトッと重い音をしながら置かれたのは一丁の銃だった。流石に俺の顔が引き攣ったのが自分でも分かる。何で贈り物がこれなんだよ。むしろ何であるんだよ、オートマチック製のが。


「よく作れましたね」


「かなりの犠牲を出して作り出されたらしい。現存するもので五丁しかないがな」


犠牲というのが怖くて聞きたくないな。考えられるので試射して暴発したとかだろう。一体何人の手を吹っ飛ばしたのか。


「その中でもこれは奇跡の一丁と言われている。材料に最硬度の鉱石をしているから壊れる心配はほぼないそうだ」


ふーんと手に取ってみるとズシリと重い。元の世界で本物の銃を持ったことはないから、元より重いのかは判断できない。そもそも撃ったことがない俺に扱いきれるものだろうか。


「琴音は魔術がまだ使えないだろ。ならせめてそれ位持っていた方がいい。お守りでもいいな」


「物騒なお守りですね。大体当てる自信がありません。暴発はしないんですよね?」


「奇跡のと言っただろう。それは一回で評価試験をクリアした一品だ。他の銃は開発段階で死者すら出している曰く付きばかりだからな」


恐ろしいにもほどがある。そりゃ量産とかも考えないだろう。そもそも遠距離の攻撃方法で魔術があるのだから銃が特別扱いされることもなかったのだろう。


「弾は?」


「装填されているのを除いて十二発。あとは弾倉が三つ」


今入っているのを足して四十九発といった所か。多分だが簡単には補給できないだろう。銃を作るのにこれだけの苦労があったのだから、弾の制作だって容易な事じゃないはずだ。銃のの訓練とかは出来そうにないな。


「空になった弾倉も回収すること。それだって作るのに相当の苦労があるんだからな」


「了解しました。役に立つかどうか分かりませんが、一応お預かりしておきます」


無いよりはマシって程度だな。しかし何処に仕舞っておけばいいのだろう。映画とかだとベルトで挟んだりしているのは見たことがあるが。弾倉は何処に仕舞えば。


「あとでホルスターを届けておく。銃もその時に一緒に渡すようにするか」


「そうですね。今渡されても意味はありませんから」


安全な城の中だからな。この中でだけは俺の安全も保障されている。心休まる場所であるかと聞かれれば返答に困るが。だって居心地悪いんだよ。


「それと今回の護衛は副長にする。その方が琴音も安心だろ」


「確かにあの人の強さは嫌というほど知っていますが。それほど警戒しないといけないのですか?」


この国の最高戦力の一角だろうに、そんな簡単に国外へ同行させていいのだろうか。


「琴音の無事が最優先だから仕方ない。あっちには特に何かを付ける気はないがな」


これは馬鹿に特別扱いされていると言われても反論できないな。今回に限って言えば思いっきり特別扱いされているから。国の面子の為だから仕方ないか。


「これで私も国を移ると言ったらどうしますか?」


「それが琴音の意思なら俺達が引き止める権利はない」


そんな気はないけどな。予想外の事の連続だけど、此処の人達が悪い人達じゃないのは分かる。引き止めないというのも本当だろう。勇者としてのメリットは何も持っていないからな。


「そういえば行く先の国は我が国との関係性ってあるんですか?」


「特にない。あちらが勝手にこちらを敵視しているだけなんだが。それでも国同士で険悪な関係という訳ではない」


「敵視されているのにですか?」


「王族だけだ。あそこは支配欲が強くてな。勇者を一度も獲得できないことが相当悔しいんだろう」


原因が誰にあるのかは分かり切っているな。召喚されていた勇者たちも中々に勘の鋭い人達だったのだろうか。それとも会った時に露骨な態度を取られたか。


「だから遠慮する必要も理不尽な要求を呑む必要もな。やり返しても何の問題もないと言っておく」


「私が何かすると思っているのですか?」


「思っているから言っているのだ」


何もなかったら俺は何もしないぞ。期待されているような事態になるとも限らない。まぁ明らかに気に障るようなことを言われたら何かをするかもしれない。


「そもそも私は今まで大人しかったはずですが」


「何となく感じただけだ。もう一度言うが大人しくする必要はないからな」


はいはい、要するに暴れて来いと言っているんだろ。何か有ったのか、この国とあちらは。勝手に敵視しているのだから問題だってあるか。


「精一杯頑張ってきます」


俺が言えることはこれだけだな。本来なら俺が抑える役目のはずが、世界が変われば役目も変わるのかね。


琴音は新しい武器を手に入れた。

使う機会がやってくるのかどうかは不明ですね。

あくまで庶民の番外編ですから戦闘面はあまり考えていないのが現状です。

本当にお守り代わりで終わりそうな気がする筆者でした。

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