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しょう子、決意する 「しっかりしなくちゃ! 私がガイウスを守らなきゃ!」

 両手に持てるだけ持った草と追加の枯れ枝と共に、息を切らしながらガイウスに駆け寄る。


「……良かった」


 まだ顔色は悪いけど、腕の傷からの出血は止まっているみたいだ。呼吸を確認すると、手のひらにガイウスの息が当たる。

 急いで鍋を火から遠ざける。しっかりと布で手を包んでから、柄を持って少し遠くに置いた。しばらく蒸らさなくちゃいけない。

 その間に、ガイウスの横に大きなズック草を並べていく。

 最初の日に、ガイウスが摘んできて、それからマルシャさんにブーツを譲ってもらえるまで私の靴代わりにした草。

 冷気も衝撃も抑えてくれて、私が触っても影響しない。

 大きな丸い蓮の葉のような分厚い草を並べてから、ガイウスを眺める。


 ぐったりとした、巨体。

 背だって私より20センチは高いだろうし、体重にいたっては見当もつかない。太っているわけではないけれど、よく鍛えられて厚い身体をしている。


「痛くしたら、ごめん」


 意識のないガイウスに、一応謝っておく。

 それから首の下に腕を入れて左手をガイウスの左の脇の下に差し入れる。右手をガイウスの右脇に入れる。息を整えてから、ぐっと力を込めて引き寄せる。


 ズズッ。

 少しだけガイウスの上半身がズック草の上に載る。


「もう一度っ」

 ズズッ。


「もう一度っ」

 ズズズッ。


 上半身が殆どズック草の上に載ったところで、今度はガイウスのお腹に巻きつくようにして引き寄せる。さっきのでコツを掴んだのか、今度は一度で胴体の辺りが草の上に載った。最後に足を片方ずつズック草に載せた。

 ガイウスにかけてあったマギライ草が、辺り一面に散らばっている。

 それを拾い集めて、残っていたズック草をできるだけ落ちないようにガイウスにかぶせて、その上にマギライ草も散りばめた。

 日が完全に落ちる前に間に合ってよかった。これから夜に向けて気温はどんどん下がっていくだろう。ズック草を敷いておけば、冷気で地面から身体が冷えるのを防げるはずだ。暗い森での採取なんて、しょう子には自信がない。

 本当に間に合ってよかったと、赤く染まった夕焼けに照らされる木々を見て呟いた。


「もう少しだけ、待っててね」


 静かに眠るガイウスを残し、鍋を持って焚き火から離れた。

 少し冷めすぎたかもしれない。

 焚き火越しにガイウスを見てから、いよいよオキ草茶の様子を確認する。


 さすがに『メシマズ』でも、爆発したりはしないよね。

 布をミトン代わりにして、ドキドキする気持ちをこらえて、鍋の蓋を思い切りよく開く。


 キャンッ!!


 突然、鋭い鳴き声が背後から響いた。

 

「えっ、何!?」


 振り向くと、そこには灰色の毛皮をした生き物が、鼻を前脚で押さえながらのた打ち回っていた。しょう子の腰ほどの高さのある生き物。四つ足だがもしも後足で立ち上がったならば、きっとしょう子の背丈ほどにもなるだろう。

 鋭い牙をむき出しにして、口からボトボトとよだれを垂らしながらのた打ち回っている。

 獣は赤く爛々と光る目で、しょう子の持つ鍋をにらみながらビクビクと痙攣する。


「え、は、は、は」


 突然現れた獣に、恐怖でうまく空気か吸えない。

 浅く呼吸を繰り返しながら、しょう子は腰からストンと地面に座り込んだ。

 鍋を手放さなかったのはまだ良かったが、衝撃で中身が三分の一くらい飛び散り、獣の顔に降りかかった。


 ンギャッ……


 獣は一声詰まったような声で鳴くと、ゆっくりと動きを止めた。



 森は再び、元の静けさを取り戻した。


 目を離せば、今にもまた動き出して襲ってくるのではないか。そう思って、しょう子は獣から視線を外せずにいた。赤い目が、虚空を鋭くにらみ続けている。

 しばらくして、ゆっくりと鍋へと視線を動かして、そこでしょう子は慌てて振り向いた。


「ガイウスっ!」


 あの獣が一匹だけとは限らない。もし今ガイウスが狙われたなら、眠り続けるガイウスはひとたまりもない!

 焚き火は煌々と燃え続け、他にはなにもいない様だ。

 

 バシンッ!

 太ももを、鍋を持っていないほうの手のひらで叩く。


「しっかりしなくちゃ! 私がガイウスを守らなきゃ!」


 がくがくと震えそうになる自分の身体を叱り付け、しょう子は立ち上がる。

 鍋はそのまま地面に置いた。

 よく見ると、黒く濁ったどろりとした液体がなべ底に残っている。そして異様に酸っぱい匂いがする。

 オキ草茶は赤く透き通った色をしているはずだから、これは明らかに何か違う。とてもじゃないが、今の弱ったガイウスに飲ませようものならショック死してもおかしくない。


「し……失敗かあ」


 鍋からの異臭は、温度が下がると共に少なくなっていた。

 代わりにどろりとした粘度があがっている。

 予め、ある程度は覚悟していたとは言え、これほど酷いものが出来上がるとは思わなかった。『メシマズ耐性』を信じるなら、しょう子が飲んでも大丈夫だろうけど、さすがに見た目から異様なものを怪我人に飲ませるわけには行かない。

 とにかく鍋は一旦その場に置いて、しょう子はガイウスに急いで駆け寄った。

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