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しょう子、採取をする 「はい、ガイウス。マギライ草を採取したよ。すごいね、群生地だよ」

 中央森林10日目。

 火の熾し方、獣の跡の見分け方、安全な隠れ方をずっとガイウスにレクチャーされたおかげで、日本にいた頃に流行った「森ガール」に無事なりました──というのは冗談で、森での生活にだいぶん慣れてきた。魔物が現れた場合の逃げ方として樹上へ登らされたり、藪に身を潜めたりなんて訓練にも慣れてきた。

 最近は、ガイウスがいつも吸っている煙草になる草の採取も手伝えるようになった。

 マギライ草、木陰にニラの葉のようにして群生する草。魔物が嫌う草で、元から少し毒性がある。人間も食用にはせずに、乾燥させたものを紙で巻いて煙草にして吸うことで魔物の嫌う匂いを広げるものらしい。


 マギライ草は食べ物じゃないので、私にも採取できる。ガイウスが好きな煙草の原料と知ってから、森を歩くときには木陰をできるだけ注意して歩くようにしていた。今まで数本しか発見できてない。目を凝らして木の根元を見ながら歩いていると、一際大きなマギライ草の群生地を見つけた。

 


「はい、ガイウス。マギライ草を採取したよ。すごいね、群生地だよ」

「ショーコ、それはマゴノミ草だ……ったはずだ」


 しゃがんで早速採取した私を、ガイウスが咎めようとした。けれど、私の手の中にある草を見て、ガイウスが眉を寄せた。


「もう一度採取してみろ」


 左手で草を掴み、右手で小刀を草の根元に当てる。採取する場合には、根は残さないといけない。時間が経てば、草は再生するから。

 ザクリと音を立てて小刀が草を切る。

 私から草を受け取ったガイウスは、しばらく検分した後に笑った。 


「ショーコ。刈れるだけ刈ってから進もう」


 ザクリ、ザクリと草を刈っていく。

 刈られた草は、茎からすぐに透明な粘液が出てくる。

 採取したマギライ草をガイウスに渡すと、一定量ごとにまとめて草で縛ってから採取袋に収めていく。体感時間で20分くらいで、群生地を刈り尽くした。

 受け取り終わったガイウスが、しばらくしゃがんで群生地を確認した後に立ち上がった。


「ショーコ、これはマゴノミ草の群生地だ。……けどな、お前が採取したのはマギライ草だ」

「え?」

「多分、『メシマズ』スキルだな」


 そう言ってガイウスは満面の笑みで私の頭をグシャグシャと撫で回した。いつもどこか険しい顔をしていたガイウスが、こんなに笑顔になるところを初めて見た。寝顔も普段より若く見えたけど、笑顔も結構若く見える。


「おい、やったぞ。『メシマズ』スキル、使えるじゃないか!」

「え、ええっ!?」

「マゴノミ草なんて値が付かない草だ。群生地も手付かずだ……間違えて採取する奴がいなけりゃな。一流の探索者なら、そんなミスはまずしない。反対に、マギライ草は発見次第にすぐ刈られる。滅多に群生もしない。

 マゴノミ草は、マギライ草よりも少し肉厚で見た目はそっくりだ。だけど、これのある場所は魔物がよく好むし、この草を食べた魔物は好戦的になる。マギライ草と違ってよく群生する。

 だからな、ショーコ。

 おまえのスキル『メシマズ』なら、マギライ草を群生地で刈ることができるんだ!」


 ……え?

 役に、立った……の……?


 ガイウスの言葉が、ゆっくりと脳が理解していく。


 マゴノミ草は群生する。

 マギライ草は群生しない。

 そのマゴノミ草を私が採取すると、マギライ草になる。

 マゴノミ草を採取する人はいない。

 マギライ草は滅多に見つからない。

 だから、マギライ草を『メシマズ』スキルのある私だけが採取できる。

 毒のないマゴノミ草を『メシマズ』スキルを持つ私が採取すると、毒のあるマギライ草になる。


 そのことにようやく気がつくと、急に身体に力が入らなくなって私はへなへなとその場に座り込んだ。


「マギライ草は金になる。探索者としての生き方も、パーティを組めば可能かもしれないぞ」


 ガイウスの声が頭を素通りしていく。

 静かな森がぐにゃりと歪んで見える。

 ぽたぽたと水滴が頬を伝って膝に落ちていく。

 

 この異世界で、やっと生きていく方法が見つかった。

 安堵と歓喜と、他にも色んな感情がわっと押し寄せてきて、胸が一杯になった。

 上手く身体に力が入れられず、くたりと雑草が生い茂る地面に手を付いたとき、カチリと奇妙な音がした。


 ザシュッ。


「ぐがっ……!」

「えっ…………?」


 目の前に立っていたガイウスの身体がぐらりと傾いて、それからゆっくりとスローモーションのように倒れていく。

 ガイウスの左腕から木の棒が生えている。


 ──いつの間にガイウスの腕から木なんて生えたんだろう。


 ──あれ? ガイウスってば赤い色なんて身に着けてたっけ?

 

 ピチャリと水滴が頬に飛ぶ。


 ──この世界で雨が降るなんて初めてだ。

 

 見開かれたガイウスの瞳に、馬鹿みたいに口を開けている私の姿が映っていた。


 ──鏡をこの世界で見たことなかったけど、私って意外とファンタジーな服も似合ってるんじゃない?


 ──でも、どうして私、変な顔してるんだろう。


「嫌あああああああ!!」


 

 森に、誰かの悲鳴が響き渡った。

 ああ、森の中で大声を出すと危険なのに。

 ガイウスに森に入る前に教えてもらったのに。



 ドサリ、とガイウスが地面に倒れこんだ。

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