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ガイウス、ショーコに訓練する 「ショーコ、そこの木に登ってみろ」

 中央森林に入って3日目。

 麓の村を旅立ってから、ショーコの様子がおかしかった。

 表面上は元気に振舞っているが、ふとした時に暗い翳が差す。


 きっとマルシャにはっきりと言われたんだろう。王都へ行けば、ショーコ自身が人から狙われる可能性が高いことを。それでも王都の探索者協会を頼るくらいしか、他に生き方がないことも。

 村を出るときも、マルシャはショーコのことをかなり気にしている様子だった。ブーツにポンチョ、水筒に背負い袋と、あれこれ譲ってやっていたぐらいだ。ショーコは気がついていないが、マルシャが譲った品はかなり値が張るものばかりだ。マルシャはあれでも王都でとびきり有名な鑑定者だ。スキルの気配まで嗅げるってのは鑑定者の中でも滅多にいない。そんなマルシャが使う旅の支度が安物なわけがない。それらを惜しみなく譲ったってことは、かなりショーコを気に入ったんだろう。そして、ショーコの未来を心配したんだろう。

 

 俺にはどうすることもできない。


 そりゃ、俺だってそこそこ稼げる探索者だ。

 ショーコ一人を養うくらい、何とかしてやれるだろう。──金の問題だけならな。

 それを考えたくらいには、俺はこの無邪気な女が気に入っているんだろう。だが、考えたからこそ無理だという結論も見えた。


 俺が探索者だからこそ、だ。

 ショーコは弱い。探索に連れて行くなんて不可能だ。西果ての森は浅かったし、この中央森林もできるだけ安全なルートを取っているから抜けることくらいはできる。しかし、採取に必要な草が安全な位置に群生しているなんてことはない。むしろそんな場所の草は刈りつくされているもんだ。だから、採取には危険な場所へ行くことのほうが多い。広場が近くになく、危険な深層で野宿することも多い。

 マギライ草の煙草だって万能じゃない。強い魔物なんかには、むしろそこに人がいることを知らせる羽目になるから使えない。ヤツラは不愉快な臭いを発生させる人間を滅ぼそうと躍起になることだってある。


 家か宿に置いておくことも考えた。

 きちんと注意しておけば、鍵だってかけるだろう。だがな、鍵なんてぶっ壊せば開いちまう。買い物をしている時に攫われたら? そんな時に俺が森の深層にいたらどうなる? どうにもならない。むしろショーコのスキルを知った連中は、そんなタイミングを図ってことを起こすだろう。

 

 俺には探索者以外はできない。

 探索者じゃなければ、養う金も得られないだろう。


 俺も相当この女に入れ込んでるな──してやれることなんて何もないのにな。



「王都には、中央にどでかい城がある。その城に、この国の王様がそこに住んでいる。その周辺に貴族街がある。だいたいが、偉い順に城に近い。貴族に関わると厄介になることが多いから、城の周りには近づかないことだ。

 その貴族街の周囲にあるのが、今度は貴族御用達の店だ。これも貴族がオーナーの場合がほとんどだな。高価なものばかりだから、平民は利用しない。まあ、しようとしても門前払いだろうけどな。

 そこまでを第一城壁が囲んでいる。


 第一城壁の周囲に平民の家や店が広がっている。壁に近いほど高級店が多いな。たまにお忍びの貴族なんかが来ることもある。俺も何度か見かけたことがあるな。基本はキレイな指先をしていることが多いからすぐにわかる。……ショーコもだけどな。

 第二城壁まではそんな感じだ。


 この第二城壁の外の北にはスラム街がある。東と西と南には畑が広がっている。こっちはそんなに危険なことはないんだが、スラムは税が払えない奴らばかりだ。多少の悪いことだって平気でやる奴も多い。犯罪者が潜むことも多い。


 俺たちは中央森林を抜け、北から王都に入ることになる。

 その時には、絶対にフードを脱ぐな、口を開くな」


 3日目の休憩を広場で過ごす間に、ショーコにできる限りの知識を伝える。これからもできる限り、広場ではこの世界の常識を教えていこう。特に王都の危険地帯や生活について。

 ショーコも情報の大切さを理解しているのか、真剣な表情で聞いている。


 ああ、あれも伝えなくてはいけないな。

 これも知っていないとまずいな。

 思いつくままにショーコに伝える。


 焚き火を前にして、火の粉がパチパチと爆ぜる音を聞きながらショーコに伝える。

 時々、パチリと大きな音で爆ぜる。

 携帯用の鍋で湯を沸かし、オキ草を放り込んで茶にする。

 ショーコは両手でマグカップを抱えて、真剣に俺の話を聞きながら飲んでいる。


 オキ草茶も気に入ったようだ。

 そうそう毎日は出してやれないが、広場で休憩する時にはできるだけ出してやろう。


「第一城壁の中に入るには検問がある、第二には歩兵が立っているだけだが、怪しい素振りをする奴以外はまず止められない。あからさまにスラムの住人だと、機嫌一つで殴られることもある……」


「それで、この王都での季節の祭りなんだが、基本的には春と秋。春の祭りはこの前終わったばかりだが、祭りの時期は犯罪も増える。特にスリ、かっぱらい、人攫いも増えるから、人込みでも安心しない方がいい。もちろん路地なんかには絶対に一人で行くなよ……」


「通貨の価値は、王都と辺境ではだいぶ相場が違う。さすがに王都では物の品質もピンキリだからな。だいたい平民が一食に支払う金額が、辺境での二倍近くなる……」


 もちろん、これから先の中央森林の注意もする。

 ショーコのいた世界には魔物はいなかったらしい。


「獣と魔物ってのは、見た目は何も変わらない。じゃあ何が違うかって言うと、魔物もスキルのようなものを持っている。──姿が消えたように見える魔物や、空中を二段階でジャンプする魔物なんかもいたりする。外皮が異常な硬さだったりする。一説によると、長い年月を経た獣が魔物になるなんて言われてる。

 だがな、獣と違って魔物を狩るのは危険だ。突然に思いがけない動きをするってことだからな。

 魔物は基本的に深層にしか出ない。探索者の中でも魔物の狩猟専門は少ない。魔物を狩るのには、それだけ強いスキルを持ってないと無事では済まされないからな。ほとんどの狩猟専門はそこまでのスキルはない。──昔は強烈なスキルを持つ人間も今より多かったらしい。今でこそ魔物は深層にしか出ないが、かつては平原にも溢れていたなんていう話が残ってる。だが、国ができて強いスキルを持つ人間がどんどんと魔物を狩った結果、深層にしか出なくなったらしい。それと同時に、強いスキル持ちも減っていった。子孫に受け継がれることがなくなった。偉い研究者が言うには、必要じゃなくなったスキルは淘汰されるだなんて話らしい」


 この先に進むうちに、マギライ草も使えない場所が一箇所だけある。

 幾つかの訓練も、この休憩日のうちにしておく方がいいだろう。


「ショーコ、そこの木に登ってみろ」

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