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第2章17

「ザムス夫人がいらっしゃいました」


「お通ししてちょうだい」


 ある日の昼下がり、紅茶を楽しむ私の元にシシィがザムス夫人の訪れを告げに来た。

 私は窓の外をのんびり眺めながら、カップに残った紅茶を飲み下した。


 コンコンコン!バンッ!


 カップをソーサーに置いていくらもしないうちに、部屋のドアが激しくノックされた。返事をする間もなくすぐさま開けられる。


「お嬢様、ザムスでございますザマス!」


「ごきげんよう、ザムス夫人。わざわざありがとうございます」


 創立祭では、ティーパーティーが催される。

 ティーパーティー用のドレスもザムス夫人が自ら担当してくれた。

 全くありがたいことだ。うん。

 でも何故か素直に喜べない。ザムス夫人が暑苦し……いや何でもない。


 私がボケっとしているうちに、ザムス夫人はドレスをさっさか広げていた。

 今回は完全にザムス夫人にお任せしているので、私も見るのは初めてだ。


「こちらのドレスは縦糸にピンクの糸を、横糸に銀糸を使った最新の生地を使用しているザマス。秋の花々をイメージしたデザインでごザいマス」


「これは……素晴らしいわね!」


 シシィに着せ付けてもらったドレスは私の体に吸いつくようにピッタリと合った。

 ……少々細身すぎる感もあるが。


「……あまり食事出来そうにないわね」


 ティーパーティーで出されるスイーツが一番の楽しみだったのに。

 限界まで締め上げられたコルセットは、私の腹肉とギリギリの戦いをしている。

 今のところシシィが真っ赤になって締めたコルセットが勝利しているが、スイーツは胃にはいった瞬間に口から押し出されるのではないだろうか。

 私は悲哀を込めて、梨のタルト……と呟いた。


 ザムス夫人ご推薦の最新の生地は素晴らしかった。淡いピンクと銀色が混じりあい、揺れるたびに不思議な色合いを作り出す。

 恐らくコスモスをイメージしているのだろうスカート部分は儚げで、ボリュームがあるのに軽くふわりと流れるように揺れる。


「お嬢様!儚げで妖精のようですわ!……喋らなければ」


「シシィ、ありがとう。でも心の声がだだ漏れよ」


 シシィが感激したように褒め称えてくれる。

 ザムス夫人も満足気だ。


「素晴らしいザマス。パーティまで、一ミリたりとも体型を変えないで下さいザマス」


「まさかのミリ単位?!」


 告げられる衝撃の事実。

 これは前回のドレスをボロボロにした、私への罰なのだろうか。


「タルト……」


「だめザマス」


「ケーキ……」


「だめザマス」


「ジュース……」


「だめザマス」


「マジで?!」


 いけない。衝撃すぎて言葉遣いが。

 おほほ、失礼致しましたわ。


「……冗談ザマス」


 真顔すぎて冗談に聞こえませんが。



「そういえば、乗馬ブーツのデザインをなさったと伺ったのザマスが」


「え?ああ、そうなの。乗馬する女性が増えたらいいなあと思ってね」


「……乗馬には、乗馬用の素敵なドレスが必要ザマスね」


 突然の話題転換にキョトンとする私を前に、ザムス夫人はキラリと目を光らせた。


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