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第2章15

 草原に風が吹き渡る。

 秋晴れの空は澄みきっていて、抜けるように青い。すうっと息を吸い込むとキンモクセイの香りなのか、秋特有の不思議な匂いがする。


「なんて気持ちがいいのかしら……来て良かったわ!」


 私は馬上から辺りを見回し、秋の空気を堪能した。

 乗馬ブーツを考案してから、密かに馬に乗る練習をしていたのだ。

 初めて乗った馬は予想以上に目線が高く、慣れるまでにかなりの時間を要したが、慣れてしまえばこんなに楽しいことは無かった。


 勿論、馬車での移動の方が楽なことは間違いないが、風を感じながら馬を走らせる楽しさは格別だった。


 今日はレミアスも誘い、久しぶりに皆でピクニックに来ている。

 レミアスも期末試験だけは受けていたので、丁度いい打ち上げになった。


「私も乗馬を習おうかしら。とても気持ち良さそうだわ」


 馬車から降りたジュリア様が私を見ながら羨ましそうに呟くと、エミリア様とマリエッタ様も頷いた。


「本当に!あのブーツもとても素敵だし、ブーツの為に乗馬を始めたくなりましたわ!」


「うふふ、エミリア様ったら」


 お三方は馬には乗れないので馬車で来ているが、この分だと全員が馬で来られる日も遠くないかもしれない。


「馬に乗るのは気持ちがいいですよ。私が教えられたらいいのですが、まだそれほど上手くないのです」


 私も最近一人で乗れるようになったところなので、ひとに教えられるほど上手くないのだ。


「なんだ?乗馬を始めたいのか?」


 四人で話していると、ひと回り馬を走らせに行っていたゲオルグ達が戻ってきた。


「でしたら、私達がお教えしましょうか。な、ゲオルグ」


 レミアスは柔和な笑みを浮かべながら馬から降りると、自身の愛馬の頬を優しく撫でながら言った。


「レ、レミアス様が……?」


 三人は嬉しそうにぱあっと顔を明るくする。だがレミアスと目が合った途端、ジュリア様はたちまち顔を赤くして俯いた。


「レミアス様がお忙しくないのなら、是非……」


「それなら、コゼット様のデザインした乗馬ブーツが欲しいですわ。シグノーラに注文させて頂きますわ!」


「是非私も!」


「お揃いのブーツなんて嬉しいですわね」


「まあ!皆様ありがとうございます!気に入って頂けて嬉しいですわ」



 皆で笑っていると、殿下の拗ねたような声が割り込んできた。


「コゼット、男性用のはないのか?私もコゼットのデザインしたブーツが履きたい」


「そうだぞ!女達ばっかりずるいぞ!」


「コゼットの履いているブーツは見た目もですが、機能も良さそうですもんね」


 見れば、男性陣が羨ましそうな顔をしていた。

 言われて気付いたが、男性用の乗馬ブーツにはあまり力を入れていなかった。

 私は彼らの足元をみて、ふむ、と少し考えた。


 全般的に、男性の乗馬用のブーツはかなり無骨な作りになっている。

 あまり装飾などはされておらず、機能一辺倒という感じだ。


 王太子殿下の乗馬ブーツでさえそうなのだから、この世界の男性はあまり靴のおしゃれに興味が無かったのかもしれない。

 なんて勿体無いことだろう。


 綺麗な靴を履けば、気分まで明るく楽しくなるものだ。

 自分が女だから気づかなかったが、それは女性ばかりではなく男性もそうなのかもしれない。



「わかりました!男性用のブーツもデザイン致します!」


 女性向けの商品ばかり作っていたが、これからは男性向けのラインナップも増やしていこう。

 オシャレ革命を起こすのだ!


 楽しく話していたら、そろそろ昼食の時間になって、私のお腹がグゥと不満を訴えた。


「あらー」


「そういえばお腹がすいたね。そろそろ昼食にしようか」



 付いてきていた侍女がお昼の準備をしてくれる。

 今日のお昼はおにぎりとぬか漬けに、鳥のから揚げがメインだ。遠足と言ったらから揚げだよね、と思って昨晩から用意していたのだ。

 一応貴族らしくサンドウィッチやカボチャのタルト、さつまいものプディングなども料理長が作ってくれた。


「から揚げ、美味いなー!俺、これ大好きだ!」


「初めて食べましたわ!お肉がジューシーで、香辛料が効いていて本当に美味しいですわね」


 初めて食べるから揚げに信号機令嬢方は目を丸くしているが、気に入ってもらえたようだ。

 醤油はないが塩胡椒、酒、にんにく、生姜でしっかりと下味をつけたから揚げはとても美味しい。

 外で食べるのはまた格別だ。

 噛むたびに肉汁がジュワッと口の中で弾け、香辛料の香りがふわりと広がる。


 最近熟成されてきたぬか漬けもいい漬かり具合だ。

 ものすごく米がすすむ。


 竹の葉で包んだおにぎりに最初は戸惑っていた令嬢方も笑顔でおにぎりを頬張っている。


 殿下達三人は慣れたもので、おにぎり片手におかずを楽しみ、あっという間にお弁当箱は空っぽになった。



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