第2章14
「コゼット、ゲオルグ!素晴らしかったよ!」
ぜはぜはしていた息がなんとか整ってきたところに、殿下が小さく拍手しながらいらっしゃった。パートナーであるジュリア様もご一緒されている。
「ありがとうございます!いやあ、いい汗かいた!」
満面の笑みで応えるゲオルグ。
ダンスはいい汗をかく為のものではないわ!
爽やかにキラリと光る白い歯をへし折ってやりたい衝動に駆られたが、拳を握り締めてグッと我慢した。
まさに言葉通り踊らされてしまったが、ゲオルグのお陰で自分の実力以上のダンスが出来たことは確かなのだ。
なにも言うまい……ああ、足がガクガクする。
「とても息が合っていたけれど、練習の時はあんなアレンジはしていなかったな。それとも二人だけでも練習していたのかい?」
言葉とともに先ほどまではにこやかだった殿下の目が急に細められ、なぜか背中からどす黒いオーラが迸った。
「えひゃっ?!い、いいえ!初顔合わせですわ!」
動揺しすぎて変な言葉を口走ってしまった。
初顔合わせってなんだ。大絶賛幼馴染み継続中だ。
「コゼットが意外に踊れたから、即興でアレンジしてみたんですよ!俺達、結構息が合うみたいだから!」
殿下の黒いオーラに動じないゲオルグはにこやかに言い放ち、私の肩を抱いた。
挑戦的ともとれるゲオルグの言葉に、殿下のオーラが圧力を増す。
やめて、ゲオルグ!殿下のオーラのせいでクラスメイトがざわついているわ!
私のライフはもうゼロよ!
主に体力的な問題で!
殿下は意外と負けず嫌いだったのか。
ダンスの名手としては譲れない戦いなのかもしれない。
私は重たい空気を払おうと、慌てて話題を変えようとした。
「そっそろそろ殿下とジュリア様の順番ではないでしょうか!?楽しみですわね!」
あああ、少し挑戦的だったかしら?!
口が滑った!
バカ!私のバカー!
「ふっ……いいわ!私達のダンスを見ていなさい!オーホホホホ!」
「ジュリア嬢……?」
何故かジュリア様のスイッチが入った。
その名もレミーエスイッチ。
突然憑依したレミーエ様に驚いた殿下がポカンとする。
それと同時に、先ほどまでは雷でも放ちそうだった殿下のオーラが霧散し、ジュリア様に手を引きずられるようにしてホール中央に移動していった。
ピアノの音と共に、二人がリズムにのってステップを踏み始める。
ゲオルグと私のような奇想天外な動きはない。
しかし、ひとつひとつの所作は流麗で、指先まで神経の行き届いた仕草は優雅の一言だ。
私を含めたクラスメイト達から、感嘆のため息がこぼれる。
授業用の同じドレスを着ているはずなのに、最高級の絹のようにスカートの裾がひらめく。
曲の終了とともに二人がおじぎをした時には、ホールは水を打った様に静まりかえっていた。
皆、夢に浮かされたようにうっとりとしていたからだ。
「ブラボーー!!!これこそがダンスの真髄でございますわ!さすがでございます!」
教師の声が静寂を破ったことで我に返った生徒達は、盛大な拍手を二人に贈った。
勿論、私とゲオルグも精一杯拍手した。
拍手をしながら、ゲオルグがぼそりと呟く。
「うん、ジュリアなら縦回転もいれられそうだな」
ちょっと待てゲオルグ。一体どこを目指しているんだ。




