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第2章8

 昨日の会議が長引いて昨日は夜更かしをしてしまった。

 遅刻する!と焦って学園に馬車を走らせる。


 学園の外門で馬車をおりると私は早足で廊下を進んだ。


 すると廊下の先に、殿下の後ろ姿がみえた。

 随分たくさんの荷物を抱えている。

 あらら、大変そう。


「殿下、お手伝いしま……」


 荷物を持つのを手伝おうと口を開いた私は、そのままの姿勢で思わず固まった。



「殿下、ありがとうございます。ふふふ」


「ああ、構わない。プリシラはか弱いのだな。これからも何かあれば言ってくれ」



 荷物を持つ殿下の陰に隠れてプリシラ嬢がいたのだ。

 どうやら、プリシラ嬢の荷物を殿下が持ってあげているらしい。

 荷物は授業で使うものなのだろうか、地図や巻物、書物などが山ほどあって重そうだ。


 しかし、いくら男性とはいえ一国の王太子殿下に荷物持ちをさせるのはありなんだろうか。

 うーん。

 アリのようなナシのような。

 学園的にはありだろうけど、それでも身分にうるさい方もいるし、プリシラ嬢が怒られたら可哀想だから私も運ぶのを手伝おう。


「殿下、プリシラ嬢。おはようございます。お荷物大変そうですわね。お手伝いさせてくださいませ」


 私は二人に駆け寄って荷物に手をかけた。


「コゼット、おはよう。重たいから私が持つよ」


 振り返った殿下の笑顔は今日もハイパー爽やかで、キラキラと光の雫が見えるようだ。

 ゴシゴシ。

 うん、目の錯覚だった。

 頭から粉が出ている人を以前見かけたのでつい。


「私は鍛えているので大丈夫ですわ。腕力には自信があるのです。二の腕にはダンベル運動が効きますからね」


 私は言いながら荷物をグイイと引っ張った。

 しかし殿下もグイーンと荷物を抱き込んでいる。やるな。


「いいや、私が持つから大丈夫だ。こういうのは男の花道だからいいのだ」


「やめてください!ケンカをしないで!荷物も持てない私が悪いのです。私がか弱いばっかりに、すみませ……うっうう……」


 大声に振り向くと、プリシラ嬢が泣いていた。

 ビックリし過ぎて思わず荷物を引っ張る力が抜けて、バランスを崩した荷物が廊下に落下した。


 ドサドサドサッ


「あっごめ……」


「ああっ!コゼット様!申し訳ありません……お怒りをお鎮め下さい!」


 プリシラ嬢がうずくまって泣き出してしまった。

 げ、激情型すぎておばちゃんついていけないよ……思春期でホルモンバランスが崩れているのかしら。

 全くカケラも怒っていない私は、プリシラ嬢の涙に動揺しておろおろしながら彼女の肩に手を置いた。


「プリシラ様、私は……」


「キャアアアア!」


 私が手を置いた瞬間、プリシラ嬢は後ろの壁に向かって勢いよく倒れこんだ。



 危ない、頭をうつ……!





 その時。

 どこかから飛来した物体が空を切り裂き、壁とプリシラ嬢の間に入り込んだ……!


 シューーーーッ!

 ばいんばいんばいん


 プリシラ嬢は物体に弾かれ、ばいんと頭を起こした。


「「「え。」」」


 カランカラーン……


 その場に転がるのは一本のふらフープ。

 ふらフープが投擲された方に向き直ると、そこには片膝をついて無駄にカッコいいポーズを決めたゲオルグがいた。


「危ないところだったな。プリシラ嬢よ、腹筋運動は場所を考えなければ危険だぞ」


 ゲオルグが手で前髪をはらい、フッとポーズを決める。


「ゲオルグ……!あなた、いつの間にそんな技を……!」


「うむ。まさに神業だ。さすがだな、ゲオルグ」


「恐れ入ります。このゲオルグ、さらなる精進を重ねて参ります」


 まさかふらフープにこんな使い方があったとは。

 ……ゲオルグにしか出来そうにないが。

 ゲオルグが一流の大道芸……じゃない、ふらフープ使いになるのも時間の問題だろう。



 おっと、プリシラ嬢は大丈夫かな?

 ついゲオルグの神業に意識が持って行かれてしまった。


「プリシラ様、大丈夫ですか?お怪我は……」


 私は慌てて座り込んだままボー然としているプリシラ嬢は、ハッとした様子で周りを見回した。


「ちっ……」


「……プリシラ様?」


 あれ?いま舌打ちした?

 こんな可愛いご令嬢がそんなことするわけないか。


「……大丈夫ですわ。ありがとうございます。ゲオルグ様」


 プリシラ嬢はにっこりと笑うと、そのまま教室に向かって足早に去っていった。


「あれ……」


「いいのか?」


 いつの間にか隣に来ていたゲオルグが私にそう尋ねてくる。

 私は首をかしげて問い返した。


「なにが?」


「授業。もう始まるぞ」


「あーーっ!」


 私たちは慌てて散らばった荷物を拾い集めると、3人で教室に急いだ。






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