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第2章3

「そんなに焼き芋が好きなのかしら…」


 忠誠を誓うほどの焼き芋好き……私にはまったく理解できない。


「まあ、ダグラス子爵家は古くは騎士の家系ですからね。もはや形骸化された慣習かと思いましたが、いまだにあるんですね」


 裾を払いながら言うシシィに、私ははて?と首を傾げた。


「形骸化された慣習って?」


 私の素朴な疑問にシシィは目を見開いた。

 そんなにおかしなことを言ったかしら。


「古い騎士の慣習に、序列が下位の者から上位の者に何かをねだり、上位の者がそれを下賜する対価に忠誠を受け取るというものがあるのです。お嬢様、先ほどわかっているわと仰いましたよね?」


「え?焼き芋が食べたかったのでしょう?」


「いや、プリシラ様は『私にコゼット様のものを下さいませんか』って仰いましたよ。……まさか、聞いていなかったんですか?」


 私を見るシシィの目がだんだん釣りあがってきている。

 ヤバい。

 そんなことを言ってただろうか……まったく記憶にないのだが。


「き……いてなかったです」


 私は冷や汗をダラダラ流しながら白状した。

 シシィは魂まで出てしまいそうな大きな溜め息をついた。


「そんなことだろうと思いましたよ……またボーッとしてたんですね?」


「はい……」


 情けなさすぎて顔もあげられない。


「一度忠誠を受け取ってしまったからには、もう返すことはできません。大変な失礼に当たりますからね。まあお二人とも騎士ではありませんし、お友達感覚でもいいのではないですか?」


「そ、そうよね。騎士のように任務があるわけではないしね」


 図らずも忠誠を受け取ることになってしまったが、危険な任務に赴くわけでもなんでもない。

 お友達として大切にしよう。


「これに懲りて、会話の最中にボーッとするのはやめて下さいね。まあ、今回のような古い慣習を守っている貴族などプリシラ様の他にいるとは思えませんが」


「はい……」


 私はしょんぼりと肩を落とした。


 シシィいわく、この慣習が行われていたのはもう三百年ほど前の各国で戦乱が頻発していた頃らしい。

 今では国王が騎士を叙任するときに形式的に行われるのみだそうだ。



 ああ、どうしてこうなった……


 私がはあと溜め息をついていると、トントンと肩を叩かれた。


「はい?」


 俯けていた顔を上げると、私の背後に沢山の生徒達が並んでいた。


「え?」


「コゼット様!私にもなにか下さいませ!」

「私にも!次期王妃殿下!」

「あんな方法があったなんて!私が先ですわよ!」

「将来の王妃殿下に忠誠を誓いますわ!」


 令嬢達が我先にと焼き芋に手を差し出してくる。


「だ、だめっ!忠誠はもういりません〜!それに、私は次期王妃殿下ではありません!」


 せっかく配るつもりだった焼き芋なのに迂闊に渡すことも出来ない。



 その時、私と生徒達の間に小柄な人物が躍り出た。


「コゼット様!コゼット様に無理強いはさせませんわ!皆様道をお開け下さい!」


 手に焼き芋を握りしめたプリシラ嬢だった。


「なんて得意げな!」


「まんまとコゼット様に取り入って、憎らしい!」


 ご令嬢方はプリシラ嬢を睨みつけ、聞こえよがしに悪口を言い始めた。


「み、皆様、落ち着いて!私に取り入ってもいいことなど……」


 ヒートアップする令嬢達を必死になだめるが、興奮しているためかまったく効果がない。


「どう言われようと、コゼット様に第一の忠誠を誓っているのは私です!これが目に入らないのですか!」


 水○黄門の紋所のようにプリシラ嬢は焼き芋を誇らしげに掲げた。


「私の方が先ですけどね……」


 隣でシシィがボソッと呟いた。






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