第2章 2
翌日は学園に焼き芋を持参した。
調子にのったボブじいと私があまりに大量に焼いてしまったためだ。
調理場のストック芋を全て焼き尽くし、じゃがいもとカボチャまで焼きだしたところで料理長の雷が落ちた。
カミナリ様ってリアルにいたんだね。
ものすごく怖かった。
私ももちろん、令嬢が学園に焼き芋持っていくのってどうなの?!おかしくない?
と抵抗はしたのだ。
しかし、両親にまで揃って『今更だ』と言われてしまって、敢え無く大量の焼き芋を担いで登校するはめになったのだ。
カバンに入りきるわけも無く、大きな風呂敷状の布に包んで担ぐ。
シシィにも手伝ってもらっているため、二人でお揃いの風呂敷だ。
だが、私にも令嬢としての意地がある。
断固として風呂敷の柄にはこだわった。
その結果、シシィの風呂敷は白百合柄、私の風呂敷は薔薇の柄になった。
これでだいぶ令嬢感が出たと思う。
自分が焼いたものだしね。
勿体無いからいいんだけどね!
だけど、荷物を持つ手伝いにシシィしか手を貸してくれなかったのは、絶対に嫌がらせだと思う。
誰って?それはカミナリさ……ヒイイッ!
謎の悪寒が……!
ちなみにボブじいは、落雷中に
「オオウ、持病の腰痛が〜」
といって逃げた。裏切り者め。
校門からの道をえっちらおっちら歩く。
周りの生徒達が遠巻きに見ているのが恥ずかしい。
思わず俯きがちになっていると、遠慮がちな声がかかった。
「あの、コゼット様……?大変なお荷物ですわね。お手伝い致しましょうか?」
顔をあげると、そこには可憐な美少女がいた。
「あっ……ありがとうございます!」
優しい美少女は焼き芋を持つのを手伝ってくれた。
「申し訳ありません、プリシラ様。助かります」
美少女の名前はプリシラ・ダグラス。
艶やかな焦げ茶色の髪に愛らしいヘーゼルの瞳を持つ、ダグラス子爵家のご令嬢だ。
私の言葉にプリシラ嬢はぱちくりとつぶらな瞳を瞬いた。
「私の名前を知っていて下さったのですね」
「同じクラスだもの、当然ですわ。あなたも私の名前を覚えていて下さったじゃない」
プリシラ嬢の驚いた顔がかわいらしくて思わず笑みがこぼれた。
「いえ、あの、コゼット様は有名ですので……。私などの名前を知っていて下さるとは思わなくて」
プリシラは顔を赤くして俯いた。
私が有名……
殿下達といることが多かったせいだろうか。
一騎打ちの時に解説もする羽目になったし、ある意味有名なのかもしれない。
目立ちたがりではないので正直あまり嬉しくはないが。
「縁あって同じクラスになった方々ですもの。全て覚えておりますわ。そういえばダグラス子爵領はさつま芋の生産が盛んでしたわね。ダグラス領産のさつま芋は甘くて有名だとか……」
焼き芋をするに当たって、より美味しいさつま芋を求めて調べたのだ。
ダグラス領産のさつま芋はねっとり甘くてお菓子の様らしいが、貴重なため今回は手に入れることが出来なかった。
私の言葉にプリシラ嬢はますます目を丸くした。
「我が領地の特産品まで覚えていて下さるなんて…」
「いえそんな、焼きい……じゃない。……たまたまですのよ」
やはり令嬢が焼き芋の為に各地のさつま芋について調べまくったというのは外聞が悪いだろうと思い、慌てて言葉を濁した。
「たまたまだなんて、ご謙遜を。さすがコゼット様。我が領地のような小さなところの特産物にまで目を向けて下さるなんて」
そうなのだ。ダグラス子爵家の領地は小さく、さつま芋の生産量も限られているのである。
そのため希少価値が高いさつま芋は、あっという間に売り切れてしまうのだ。
来シーズンこそ、必ずゲットしてやる……!
私の来年の目標のひとつだ。
「コゼット様はまさか、全ての領地の特産や特色を覚えていらっしゃるのですか?」
「え?ええ、もちろんよ」
おっと、考えに沈んでいて、プリシラ嬢の言葉を聞き逃してしまった。
焼き芋が欲しかったのかな?
何故か瞳をウルウルさせながら上目遣いでこちらをみているし、余程お腹が空いているのだろう。
私は慈愛に満ちた眼差しで、お腹を空かせたプリシラ嬢に焼き芋を差し出した。
「言わなくてもわかっているわ。さあ」
「コゼット様……!」
何故か涙を流したプリシラ嬢は私の前に跪くと、捧げ持つ様に焼き芋を受け取った。
「ダグラス子爵家が娘、プリシラ・ダグラスはコゼット様に忠誠を誓います。下賜された品は終生大切に致します」
「え。いや、ナマモノ……」
「コゼット様に仕えられるなど夢のようですわ!よろしくお願い致します!先に教室に行ってから、残りの荷物を取りに参りますわね!」
「え……」
プリシラは優雅に礼をすると焼き芋の風呂敷を持って走って行ってしまった。
後にはボカーンと大口を開けた私と、焼き芋の重さに耐えかねて座り込んでいるシシィが残された。




