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第2章 1 ボブじいさんと焼き芋

 季節は天高く馬肥ゆる秋。

 秋といえば食べ物が美味しい。


 そして秋といえば……焼き芋である!



「お嬢サマー!壺を持ってきたよ〜!ハハッ!」


「ええ!そうしたら、この壺にさつま芋をいれて……」


 この日のために用意しておいた特製の壺である。

 この壺の中に、金属の針金でさつま芋を吊るすのだ。

 ちなみにもちろん針金も特注品である。


 これだけでも、私の焼き芋にかける並々ならぬ情熱を理解して頂けるだろう。


 しかし、驚かないで頂きたい。

 なんと……この日のために炭を用意しているのである!


 炭火の遠赤外線によるホックホクの焼き芋……なんと甘美な響きだろうか。


 この炭は、我が家の庭園を順調に侵食している竹林の竹から作っている。

 いわゆる竹炭だ。


 きっかけは二ヶ月ほど前のある日の、お父様のぼやきだった。


「うちの庭は、だいぶ立派な竹林になってきたね……」


 ふらりと庭にやって来たお父様が、遠い目をしてポツリと呟いた。


 庭でボブじいと趣味の園芸をしていた私はギクリとした。

 以前も思ったことだが、この世界の竹は異様に成長が早い。

 とてつもない成長スピードを誇る竹は、伝統ある我が家の庭園の半分ほどを竹林にしていたのである。


 素敵なヨーロッパ風の庭園に広がる竹林。

 場違いにも程がある。


 素敵な東屋の向こうに広がる竹林。

 露薔薇の向こうに竹林。

 ある意味趣きがあると言えなくもないが、なんだか色々台無しだ。


 そして私は竹を伐採するとともに、何かに活用できないか考えた。


 竹を使ったランプや水筒などの工芸品も作ってみたのだが、作っても作っても竹が余る。


 ちなみに工芸品は珍しもの好きの貴族の皆様に受けたのでついでにシグノーラで販売している。


 その結果、思いついたのが竹炭作りだ。

 竹炭は農業にも使える上、お米も美味しく炊ける便利アイテムである。

 ガラス容器に水と一緒に入れておけばお水も美味しくなる。

 私は竹炭を作ることを心に決めた。




 竹炭を作ろうと思い立ってから試行錯誤すること数十回。

 なにせ炭の作り方なんて知らなかったし、この世界の暖炉では主に薪が使われている。


 しかし私とボブじいは頑張った。

 土中に埋めて熱してみたり、壺に入れて熱してみたり。


 最終的に、浅めの広い穴を掘って竹を組み上げ、その間に燃えやすい竹の葉をサンドイッチして火をつける事で大量の竹炭を作ることに成功した。


 ボブじい配下の庭師見習いや大工のリッキーさんの協力のお陰で現在、竹林を庭園の三分の一まで追いやることが出来た。


 苦労して作った竹炭を使った、記念すべき初焼き芋大会が本日行われるのである!

 参加者はボブじいと私の二人だけだが。


 壺の中に芋と炭を入れて、待つこと一時間。

 ついに焼き芋が完成した……!


「ふわぁああああ!ほ、ホックホクだよう〜」

「あっあつっおおおおおお、美味しい〜!」


 壺の中でじっくりと焼き上げることによって甘みが増し、黄金色に輝く焼き芋。

 二つにぱかりと割った片方を頬張ると、優しい甘さが口いっぱいに広がった。


「おおいしいいいいいいいいい!こんなに美味しい焼き芋初めてだよ!落ち葉で焼くより味が濃くなるね!」


 感動するボブじいに、私は秘密兵器を取り出した。


「ふふふふふ、じゃーん!バターー!」


「ワォー!焼き芋にはバターだよね!」


 熱々の焼き芋にはバターを塗ってパクリ。

 味にまろやかさが加わり、甘みがさらに増す。

 まさに至福のひと時である。


 今回は竹炭の初使用ということでボブじいと二人だけの焼き芋大会の予定だった。

 しかしあんまり美味しかったので、屋敷のみんなの分も沢山焼いて配る事にした。


 そして……その日のエーデルワイス伯爵家は幸せに包まれたのだった。


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