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国王陛下の裁定が終わり、貴族達は解散となった。
帰り際にレミアスとレミーエ様の姿を探してみたが見つけることは出来なかった。
全く姿を見ていないので、謁見の間にはいなかったのかもしれない。
だが二人を心配する気持ちと同時に、どこかホッとしている自分もいて自己嫌悪に陥った。
二人に対してなんといって声をかけたらいいのかわからないからだ。
罪を犯したとはいえ、実の父親が死罪となることが決まり、どれだけ苦しい思いをしているだろうと思うと胸が痛む。
しかしあまりに想像の範疇をこえていて、自分に置き換えることも難しい。
……落ち着いた頃に手紙を書こう。
今はそっとしておく事も大切なのかもしれない、と自分に対する言い訳のような事を考えて、私はまた落ち込んだ。
王宮から馬車で屋敷につくと、シシィがタックルで抱きついてきて吹き飛ばされそうになった。
……今度、シシィに手加減というものを教えねば……げふっ。
その他にも心配していた使用人たちに涙ながらに出迎えられ、無事を喜ばれた。
「お、お嬢様ぁあ!私は心配で心配でもう……」
「お嬢様、ご無事でなによりでございます。じいは寿命が縮むかと思いました……ゲホッゲホッ」
シシィや侍女を慰めたり執事のセバスチャンの背中をさすったりと忙しくしていると、先程までの沈んだ気持ちがだいぶ軽くなった。
そうして賑やかにしている時、調理場の方から雄叫びが聞こえてきた。
何事かと覗きにいくと、そこには大量のクロワッサンの山の前で倒れるピートがいた。
そして、料理長が全身の筋肉を震わせながら男泣きしていた。
「ピ、ピート!ピート?!しっかりして!料理長!なにがあったの?まさかピートになにか?!」
「うおおお、うおおおおおお嬢様ぁぁ!クロワッサンを召し上がって下さぁいいい」
「え」
ピートは寝ているだけだった。
料理長とピートはクロワッサンを一晩中作り続けていたらしい。
「凄い量のクロワッサンね……」
調理場にはクロワッサン山が所狭しと並べられている。
……しかし私は登りきってみせる!
クロワッサンの星になったピートに報いるために……
「腕がなるわ!」
頬をパチンと叩いて気合をいれた私は、クロワッサンを片っ端から食べ始めた。
さすが料理長のクロワッサン。
王宮で食べたものも充分に美味しかったが、料理長の作ったものは絶品だ。
黄金色に輝くサクサクのパイのように軽い食感。
噛んだ瞬間に芳醇なバターの香りが鼻腔をくすぐり、パリッとした外側はサクサク。
しかし中身のほうは、軽い食感の生地が幾重にも重ねられ、しっとりとして味わい深い。
前世含めて生まれてこのかた、こんなに美味しいクロワッサンに出会ったことはないと断言できる!
まるで宝探しのようにチョコレート味やカスタードクリームなどのクロワッサンか混じっているのも憎い演出だ。
ついつい次々と手にとってしまうではないか。
夢中で食べ進めていた私は、クロワッサン山の途中でピタリと動きを止めた。
「お嬢様?」
隣でクロワッサンを食べていたシシィが気付いて声をかけてくれる。
「ぐる……じい……」
そういうだけで精一杯だった。
「お嬢様?!お嬢様!!」
バチンバチーーーーン!!
ヒュッ!
「痛ぁっ?!!!」
着ていたドレスの背中のボタンが弾けとび、寝っ転がっているピートに直撃した。
私としたことが、王妃殿下に頂いたドレスを着ていたことを忘れていた。
このドレスは物凄く細身だったからね。
苦しすぎて死ぬかと思った。
「ふうー。クロワッサンの食べ過ぎはボタンが危険ね!」
お腹が楽になったので、もう1つクロワッサンを手にとった。
むしゃむしゃ食べていると、肩をガシィッと掴まれた。
……なんだか振り向いてはいけない気がする……だが、振り向かなかったらもっとやばい気がする……
嫌がる首を叱咤してギギギと首を回すと、額に青筋を浮かべたシシィがいた。
思わず見なかったことにしようとしたが、今度は両肩を掴まれたため、逃げられない。
「……お嬢様?このドレス、王妃殿下に頂いたって奥様からお聞きしましたが」
「え、ええそうよ。王妃殿下の昔のドレスですって」
「私の見間違いじゃなければ、今ピートにぶち当たったボタンは真珠に見えましたが」
「そ、そうなのかしら。やだわシシィったら、いくら私でも背中は見えないわよ〜あは、は……」
シシィさんが怖い。
私は恐怖にガタガタ震えながら、シシィによって着替えに連れて行かれた。
だが安心してほしい。
抜かりない私はシシィに引き摺られていく間も、ちゃんとクロワッサンを両手に握りしめていたのだ!
……その後、ドレスについたクロワッサンのバターの染みにシシィが怒り狂ったのは言うまでもない。
携帯からの投稿だと、文頭スペースが反映されないのは何故なのか。・゜・(ノД`)・゜・。
折角なおしたのにいー




