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「スリッパとは、なんですか……?」
「え?」
胸を張って命じた私に、シシィは訝しげな表情を隠さない。
「スリッパよ。ほら、スリッパ。家の中で履く……」
「室内履きの靴のことですか?お嬢様が履いていらっしゃる……」
「室内履き……」
言われて私は自分の足元に目を落とす。
靴である。
いわゆる外で履くような靴とあまりかわらないが、家の中で疲れないように柔らかい皮がしかれ、足をあまり締め付けないような作りの靴。
この世界ではハイヒールは見たことがない。女性でも、せいぜい少しだけヒールのある靴を履いているくらいで、しかもそのヒールは木を削り出して作られている。
木のヒールは硬く重く、ハイヒールになんてしたらとてもじゃないが歩けたものじゃない。
一般的な靴はなめした皮で作られており、華奢とは言い難い作りだ。
話を戻そう。
つまり、スリッパは存在しない。
ということは、前世で私が愛用していたアレも、存在しないということである。
突然おかしなことを言い出した私にどう対処したらいいのかわからず眉を下げるシシィに、私は一生懸命スリッパを説明した。
スケッチブックに全体像を描いてようやく理解してもらえたようで、出入りの靴職人に発注してもらう約束を取り付けた。