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61 王太子視点

 裁定が終わり、父上の後に続いて謁見の間から退出する段になっても私は呆然としていた。


 幼い頃にアンジェが前王の王女だと知ってから悩んでいたことが全て無に帰したことで、気が抜けたかもしれない。


 一人で悩んでいないで、はじめから父上に聞いておけば良かったのだな……


 私は久しぶりに胸の重しがとれたような感覚を覚えていた。


 少なからず学園でともに過ごしていたアンジェが国外追放となったことは残念に思う。

 しかし彼女がコゼットを誘拐させ、レミーエも陥れようとしていたことを考えると、それ以上の感情は浮かばなかった。

 クーデターの神輿として担ぎ上げられた者への罰にしては軽すぎると思うほどだ。


 レミーエに関しては誘拐に荷担したという罪を考えれば、陥れられたとしても自業自得な部分もある。

 しかし幼い頃から見知った彼女の、私を好いてくれていたゆえのことと思えば、罪が問われずに済んで良かったと感じてしまう。


 公爵令嬢として何不自由なく過ごしてきたレミーエが貴族位を剥奪されるというだけでも、十分な罰に違いないのだから。


 レミアスが子爵位を得たとはいえ、レミーエが貴族の令嬢に戻れるわけではない。

 領地は一度王国に接収された後、その一部がレミアスに子爵領として与えられることになるが、以前と同じ生活を維持することは出来ないだろう。



 王族の私的空間のリビングに入ってもなお考えに沈んでいたとき、ふと視線を感じて顔を上げると、父上がじっと私を見つめていた。

 人払いをしたのか、いつの間にか部屋には私たち三人だけになっていた。


「父上……?」


 私と目が合った父上は、ふ、と寂しげに瞳をゆるめた。


「レオンハルトよ。私を非情な王と思うか」


「え……?」


「国王陛下……」


 母上が、痛ましげに父上の腕をそっと撫でた。

 私は父上が何のことを言っているのかわからず、首を傾げた。


「おや、お前は知っていたと思っていたが。……アンジェ嬢は、まず間違いなく前王陛下の王女であろうよ」


「えっ……?!ですが、先ほどの裁定では……」


 父上の言葉に私は驚愕した。


「余は、アルトリア王国の、国王だ」


 念押しするようなその言葉に、私は父上の言わんとすることを理解した。


 しかし体は震え、知らず握りしめた手は白くなるほど力を込めずにいられなかった。


「ま、さか、毒殺のことは……」


 そうでなければいいと、懇願するように、自分でも情けないほど声が震えた。

 自分の目の前にいる人物が、あの家族に優しい父なのかと恐ろしくなりそちらを向くことが出来なかった。


「余は何もしておらぬよ。余が王位についたならば、重用するとは……思っていたがな。しかしそれも最早終わりか……」


 父上がふ、と嗤ったように感じた。


「レオンハルトよ」


「は……い」


 父上の声が厳しさを増したのを感じ、私は思わず頭を上げてその瞳を見つめた。

 魂まで射抜かれるような鋭い眼差しだった。


「綺麗事だけでは国王はできぬ。清濁併せ呑むということも覚えるがよい」



 私には返事が出来なかった。

 冷たくなった指先に、母上の温かい手が触れた。


「前王陛下は政務をこなせるような器量の方ではなかったわ。あのままでは国は貴族たちのいいようにされていたでしょう。……言い訳にしかならないけれど……」


 母上は、一度言葉をきって私を見つめた。


「少なくとも『私達は』この国を、国民を愛しているわ。……もちろん貴方のことも」


 母上の言葉に、私は頭を殴られたような衝撃をうけた。

 私は王位を継ぐということを真に理解してはいなかったのだと、まざまざと感じさせられたのだ。










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