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55

 一度しゃがみこむと足はなかなか動いてくれなかった。


「いたっ」


「大丈夫か?どこが痛い。……足か」


 緊張が解けたからか、裸足で走ったことで傷ついた足に痛みが走る。


「裸足だったので……」


 よく見れば足の裏はかなり傷ついていて、意識した途端にズキズキしてくる。

 顔をしかめるのを見て、殿下がひょいと私を抱き上げた。


「うひゃうっ……おろして下さい!大丈夫!大丈夫ですから!」


「どう見ても大丈夫じゃないだろう。取り敢えず一緒に王宮にいくぞ」


「ひゃい……」


 誰かに抱き上げられるなんて赤ん坊の時以来だ。

 ダイエットで痩せはしたが、重たいと思われたらどうしよう。


 恥ずかしさで顔が火照る。

 私が殿下の顔を見ないように俯いているうちに、殿下は軽々と馬車に乗り込んだ。


 馬車の座席に下ろしてもらうと、向かいの席に苦笑したレミアスがいた。


「レッレミアス!?無事だったのね!」


「ええ。コゼットこそ大丈夫ですか?攫われていたと先ほどききました。他に怪我はないですか?」


「足の裏以外はなんともないわ。監禁されていたとアルフレッド先生から聞いたわ。……こんなに痩せてしまって。早く気付いてあげられなくてごめんなさい」


 レミアスの顔色は青白く、不健康にやつれて目の下にはくまができていた。

 満足に食事も与えられなかったのだろうか、と胸が痛んだ。

 私が痛ましく見つめていると、レミアスはゆるゆると首を振った。


「手荒な事はされていませんよ。監禁までしても、父にもまだ情があったようです。食事もちゃんと運ばれて来ました。ですが……少し、食欲がわかなかったもので」


 私はうんうんと頷いた。

 二週間も閉じ込められていたら、食欲も失せるだろう。

 精神的にも追い詰められていたはずだ。


「あっ!そういえば、レミアスがここにいるということは、クーデターのことは……?」


「ああ。レミアスが打ち明けてくれた。それを王に報告に行くところだったのだ」


 私の隣に座る殿下が真剣な表情で頷いた。


「それでコゼット。先ほどアルフレッド先生と言っていたが、君を攫ったのはアルフレッド・グランシール侯爵で間違いないんだな?」


「はい。私を舞踏会会場から連れ出したのはレミーエ様ですが、彼女は利用されていただけなんです。私を公爵家まで連れてこさせることでレミーエ様に誘拐の罪を負わせようとしたのです。その後秘密裏にアルフレッド先生の屋敷に私を運んだのだと思います」


 私はその後も必死にレミーエ様の弁護をした。全てはアルフレッド先生が黒幕で、彼女はいいように使われてしまっただけだと。

 レミーエ様が何故この誘拐に加担してしまったのかはわからない。

 彼女もドランジュ公爵と同じように脅迫されていたのだろうか。

 しかし、出来ればレミーエ様に重い罪を背負わせたくなかった。


 私の必死の言葉を真剣に聞いてくれていた殿下は、ふと不思議そうに私に問うてきた。


「コゼットのレミーエを助けたいという気持ちはわかった。しかし、お前はかなり怖い思いをしただろう?レミーエを罰したい気持ちはないのか?」


 殿下の言葉に、私はうーんと考えた。


 そして固唾をのんで見守っているレミアスにも聞かせるように、2人の顔を交互にみつめる。


「たんこぶは痛いけど、生きてますし。怖かったけど、こうやって助けてもらえたし。それに……」


「「それに?」」


「私、レミーエ様のこと好きなんですよね!あは!」


 二人は脱力したように笑った。


 王太子殿下は出来る限りレミーエの罪を軽くすると約束してくれて、レミアスは私と殿下にありがとうございますと言いながら涙ぐんでいた。



 そんな話をしているうちに、馬車は王宮に到着した。

 殿下とレミアスはこれから国王陛下にクーデターの件を進言しにいくらしい。


 私も行くべきだと思ったのだが、顔も体も泥まみれなので取り敢えず休むように言われた。

 私がアルフレッド先生から聞いた情報は、二人が報告してくれるそうだ。


 さぞ心配しているだろう両親にも連絡してくれるというので、お言葉に甘えてお風呂に入らせてもらうことにした。


 せっかくのドレスもボロボロだし、舞踏会初デビューは散々だった。


 あんなに頑張って準備をしたのに!

 返す返すも憎らしいわ!

 絶対に仕返ししてやる!と心に決めて、侍女の案内で浴室に向かった。













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