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「あんれぇー、オラ、道さまちがえだみてだぁーすまんこってすぅー田舎から出てきたばっかりだでなぁー。なんか騒がしいけんどなんかあっただか?」


「なんだか誰かが暴れてるみたいなんだ。俺もそっちに行かなきゃいけないから案内できない。きいつけろよ、ばあさん」


「はいさぁ、ありがどですよぉー」


 気の良い守衛は軽く手を振ると屋敷の入り口の方に駆けていった。


 小汚い格好をした老婆が広大な屋敷の脇を通って角に消える。

 角を曲がった老婆は周りを確認すると、先ほどまでとは別人のようなスピードで走り出し、夜の闇に消えた。


 こんばんは、みなさん!

 私、コゼットです。

 私は現在、貴族街の道をひた走っております。

 とっても暗くて怖いです。

 以上、現場からお伝えしました!


 侯爵家から脱出するのは楽勝だった。

 窓には簡単な掛け金がひとつきり。

 部屋は屋敷の三階だったけれど、シーツやカーテンなどの部屋中の布地をかた〜く結んでベッドに括り付け、えっちらおっちら降りた。


 その後は適当に茂みに隠れながら進み、塀の近くに生えていた木を登った。

 これがまた登りやすい木だったことか幸いした。

 サルスベリだったら死んでるところだよ。

 ゲオルグに木登りを習っておいて良かった。


 木から塀の柵にハイヒールをくくった絹のハイソックスを投げて巻き付け、塀に乗り移りそのまま塀の外に脱出。


 羞恥心?そんなの前世に置き忘れてきたから問題ない。

 いやぁ、普段から運動してて良かった。


 こんなに簡単に逃げ出せちゃうなんて、この屋敷の警備とか大丈夫なのかしら。

 どうやら私が囚われていることは内密だったようで、屋敷の一部の人間しか知らなかったみたいだ。


 それに加えてアルフレッド先生が出掛けていて護衛のうち何人かがそちらに割かれていたことが勝因かもしれない。



 無事塀の外に出た私は顔や服を泥で汚し、拝借した分厚いカーテンで体を包んだ。

 カーテンを土埃まみれにするのも忘れない。

 これで暗闇なら老婆に見えるだろう。


 そして冒頭の場面に戻る。

 塀沿いに歩いていたらすぐに守衛に見つかったのだ。

 屋敷の玄関で騒ぎがあったから見逃してくれたが、普段だったら捕まっていたかもしれない。

 暴れてくれている誰かさん、ありがとう!


 貴族街は閑散としていて薄暗い。

 いつ追っ手がかかるかとヒヤヒヤしながら私は走った。

 邪魔なハイヒールはとっくに脱ぎ去って、裸足の足に小石が刺さるが、緊張しているせいかなにも感じなかった。


 必死で我が家に向かって走っていると、前方から一台の馬車が近づいてくるのがわかった。


 馬車はかなりの猛スピードを出している。

 一瞬、助けを頼もうかと思ったが、先生の馬車だった場合を考えてなるべく目立たないように顔を伏せてやり過ごすことにした。

 一本道だから隠れるところがないのだ。



 馬車の蹄の音が近づいてきて、緊張から手にじっとりと汗がわいてくる。

 近づいてきたせいで、馬車の紋章がみえた。

 王族の紋章?!殿下?!


 考える前に体が動き、私は馬車の前に立ちはだかって通せんぼした。


「危ないではないか!道をあけい!」


 私は怒鳴る御者を無視して、馬車の窓に向かって思い切り叫んだ。


「殿下!レオンハルト殿下!!オラ、コゼットです!コゼット・エーデルワイスです!」


 なんたる幸運!私は護衛に両手を掴まれて地面に押さえつけられながら必死に顔をあげた。


「コゼット?!コゼットなのか?!」


「殿下!危険です!」


 止める護衛の手を振り切り、馬車から転がり出るように王太子殿下が姿を現した。


「で、殿下ぁ……うええ」


 自分が思っているより気を張っていたのだろうか。

 私としたことが、殿下の顔を見た途端に涙が止まらなくなってしまった。


「コゼット、コゼット……ああ、無事で良かった。怖かったな、大丈夫だ」


「うあええええごわがっだよぉー」


 優しく背中を撫でてくれる殿下の手が暖かくて、私の涙はしばらく止まらなかった。



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