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6

 鏡を見ながら決意を固めていると、寝室の方から声が聞こえてきた。


「お嬢様ー!どちらにいらっしゃるのです?!」


「私はここよ!シシィ!」


 

 慌てたような足音が寝室のほうから聞こえてくると、衣装部屋の扉がバタンと開かれた。


「お嬢様!もう起きられて大丈夫なのですか?ご気分は悪くはありませんか?」


 私付きの侍女であるシシィは、大きくつぶらな瞳を潤ませて心配気に私の顔を覗き込んできた。

 私は彼女の心配を払おうと、ことさら元気そうにニッコリと微笑んだ。


「大丈夫よ。気分はとてもいいわ。それよりお茶会はどうなったのかしら……主催者にも関わらず、途中で倒れるなど失礼をしてしまったわ」


 そう、お茶会である。途中で倒れてしまったからどうなったのかわからないが、王太子殿下までご招待した大規模なお茶会なのだ。主催者が倒れたからと、失礼なことをするわけにはいかない。

 にわかに不安になった私は、シシィに事の詳細を問うことにした。


 元気そうな私の様子にホッと安堵の息をついたシシィは、私を安心させるようにニッコリと微笑んだ。


「大丈夫ですわ、お嬢様。お茶会は奥様がかわりにとり仕切られて、つつがなく終わったところです。先ほど、お嬢様を心配されてこちらにいらっしゃいましたが、今は招待客の皆様のお見送りをされているところですわ」


 さすがはお母様。私の母とは思えないほど美しくしっかりした母は、父と結婚して伯爵家の女主人となった今も、理想の淑女として社交界に君臨している。

 プレイボーイとして名高かった父と結婚したときは、母を狙っていた貴公子たちが悲嘆にくれたという……

 そんな母が取り仕切ってくれたのなら間違いない。


 しかし、気にかかることが、ひとつ。


「あの、アンジェという少女はどうなったのかしら。招待客ではなかったようなのだけれど……」


 庭園でのアンジェとの邂逅。あれは、ゲームのプロローグイベントだ。

 貴族の庭園だと知らずに迷い込んだアンジェは、夢中で花を摘んでいるところをレミーエ様たちに発見される。不審な闖入者をレミーエ様が糾弾していると、そこに王太子殿下があらわれ、突き飛ばされたアンジェを助け出すのだ。


 プロローグだけに、何周もゲームをやりこむ娘によって何度も見せられた場面だ。

 たしか、スキップ出来なかったんだよな……望むと望まざるとに関わらず、場面を暗記するほど繰り返された。


 しかしいま考えてみると、貴族の庭園に無断で立ち入ったアンジェの方がどう見ても悪い。まして、王族を招いた茶会の最中だ。

 レミーエ様の対応に間違いなど何処にもない。

 たとえ突き飛ばしていたとしても…………ていうか突き飛ばしてもいない。

 勝手に彼女が転んだのだ。


 そもそもレミーエ様は、貴族至上主義で傲慢なところはあるが、反面常に淑女の鑑であろうとする、プライドの高い方だ。まだ幼く自制心が効かない子供であるとはいえ、レミーエ様がそんなことをするとは思えない。

 まぁ、庶民を見下しているだけに、ないとは言えないが……まずありえないことだろう。


 それにも関わらず、王太子殿下はアンジェの事を、レミーエ様にいじめられた被害者のように扱っていた。

 たしか、ゲーム内でもそんな流れだったはずだ。


 これがゲーム補正なのか……たんに殿下の見る目がないのかはわからないが、このイベントをきっかけにして、アンジェは王太子の伝手で某男爵家に預けられ、そこで学園入学のための教育を受けることになるのだ。

 つまり、ゲームは始まっている。

 六年後、十六歳になった時、アンジェは学園に入学してくる。


「あの少女は、王太子殿下のお付きの方が連れて行かれましたわ。なんでも病気のお母様がおられるとかで……不憫に思われたのでしょうね。どちらかに預けられるそうですわ」


 やはり……予想通りの展開に、私はガックリと肩を落とした。


 私の一騎打ちイベントは、学園入学直後に起こる。

 それまでに基礎点を積み上げ、一騎打ちに勝利出来なければ、学園卒業後は女子修道院に入学だ。

 ゲームではチュートリアルでも、私には1度しかない人生だ。

 誰かの踏み台になるいわれはない。


 学園入学まであと六年。

 とりあえず私のすることは決まっている。



 決意を秘めて、私はシシィに向き直った。







「シシィ。スリッパを持ってきてちょうだい」




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― 新着の感想 ―
[一言] 短い、回想、妄想多すぎ
2021/04/04 11:49 退会済み
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