52 王太子視点
伯爵家に向かうゲオルグを見送って、私兵に指示を出していたところ、部下から報告がはいった。
「目撃者がいる?」
「はい、舞踏会の最中にコゼット様とレミーエ様が公爵家にはいったのを見たものがいると……それから学園から出て行くところも目撃されているようで……」
「すぐにここへ呼べ。その後公爵家に向かうぞ。手勢を何人か用意しておけ」
「はっ」
目撃者が二人もいるとは。
ドランジュ公爵の仕業にしてはお粗末だな。
まさか、レミーエ単独の犯行か……?
少々変わってはいるが、可愛い妹のように思っていた。
幼い頃から会う機会も多かったレミーエのことを考えると、どうして、という思いが胸にこみ上げてくる。
しかし、今はコゼットだ。
舞踏会会場から姿を消して、既に数時間が経過している。
どんなにか怖い思いをしているだろう。
不安で泣いているかもしれないと思うと、側にいきたくて仕方がない。
闇雲に走り出しそうになる気持ちを抑えつけて、冷静になれと自分に言い聞かせる。
間違いなくレミーエがコゼットを連れ出しているだろうが、相手は公爵家だ。
確たる証拠がなくては問い詰めることは出来ない。
「殿下、お手を……」
侍従に指摘され、爪が食い込むほど握りしめた拳から血が滲んでいることに気が付いた。
それからすぐに目撃者二人が兵士に連れられてきた。
一人は学園の女子生徒で、ハンカチを握りしめて青い顔をして震えている。
もう一人は何の変哲も無い町人の男だった。
男はおどおどとして目線をキョロキョロ彷徨わせている。
「コゼットとレミーエの姿を見たというのはそなたら達か?」
侍従に促され、女子生徒から口を開いた。
「はい、殿下。私はコゼット様に用事があって。後を追いかけていたら、お二人が馬車に乗り込むところを見ました」
「そうか。間違いなくコゼットとレミーエだったのだな?」
「はい!間違いありません」
私は女子生徒に一度頷いてみせると、次に男の方に向き直った。
「そなたは?」
「はい、私はお二人が公爵家にはいっていかれるのを見たのです」
「そうか。そなたが見たのも間違いなくコゼットとレミーエだったのだな?」
「はい、間違いないです」
「そうか……何故だ?」
「え?」
「何故、町人のそなたが二人の顔を知っている?何故間違いないと断言出来るのだ?」
「そ、それは……兵士の方にお名前を伺ったから、勘違いしてしまって」
「ふむ……まあいい。それより。公爵家は貴族街のなかでも王城に近く、特に奥まった場所にある。そんなところで、何をしていた?」
「く……!」
「この男を捕らえよ!尋問して黒幕を聞き出せ」
すぐさま男は兵士に捕らえられた。
男は暴れて逃げようとしたが、複数の兵士に取り押さえられて地面に這いつくばった。
しかし執念深く首だけを動かして私を睨み上げてきた。
「何を偉そうに!偽物め!罪は必ず暴かれる。全ては正しき血筋にもどるのだ!首を洗って待っているがいい!」
そう叫ぶと、男は舌を噛み自らその命を絶った。
正しき血筋……
その言葉には覚えがある。
幸いなのか、周囲の兵士たちは苦し紛れの妄言と思ってながしているが、私の胸には一人の人物が思い浮かんだ。
「アンジェを、呼べ」
アンジェは舞踏会会場にはいなかった。
既に帰っているのか、どこにいるのかわからないので呼び出しには時間がかかりそうだとの事だった。
アンジェが見つかり次第連絡するように言いつけ、私は公爵家へと向かった。
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