アルフレッド視点
「彼女は静かにしているか?」
私は帽子を執事に預けながら尋ねた。
アンジェと会ってきたが、またすぐに出掛けなければならない。
その前にコゼットの様子をみておくか。
執事は帽子を受け取りながら声を潜めて返した。
コゼットの事は、この執事にしか伝えていない。
「ええ、先ほど様子を見に行きましたが、まだ目が覚めていないご様子でした」
「そうか」
執事の咎めるような視線を無視して私はコゼットのいる部屋に向かった。
執事にはコゼットの素性は明らかにしていない。騒ぎ立てられたら困るからな。
自分の帰りを待っている人がいるというのはこんな感覚なのかも知れない。
何故か気持ちが浮きたつ不思議な感覚だった。
部屋のカギをガチャリと開く。
カギを掛けている以外は特に他の客室と変わりない。
タケノコ堀りの腕には驚いたが所詮は令嬢。
屋敷の三階にあるこの部屋から逃げられる訳もない。
「やあ、コゼットさん。なんだか久しぶりだね。元気だったかい?」
コゼットは部屋の床に座ってこちらを睨んでいた。
彼女の服装が昨日のままであることに気付いて、ドレスの用意を失念していたことに思い至った。
私とした事が、淑女に対して失礼な事をしてしまった。
しかし、こうしてみると本当に綺麗な少女だ。
以前は太っていたと聞いたがとても信じられない。
均整のとれたスタイルは折れそうに華奢だし、どうやってタケノコを掘れたのかと思うほどだ。
容姿が良いに越したことはないが、私は頭の良い女が好きだ。
その点、このコゼットは私の理想にぴったりと合致する。
特にシグノーラの商品の数々は私には一切思いつかないような新しい発想から作られていて、彼女が天才であることを思い知らされた。
しかも学園では入学して間もない頃からすでに親衛隊のようなものが陰で発足していてカリスマ性もある。
それに引き換え、あのアンジェという女はなんなんだ。
自分はコゼットと同じ転生者だと言っていたから開発や商売のアイディアを聞いてみたというのに……
絶対に当たるというから『執事喫茶』なるものを作っても、客が来たのは最初だけ。
彼女に面接をさせて美しい少年達を集めたが、選考基準は本当に顔だけだった。
礼儀もマナーもなっちゃいない。
それに執事などというありふれたものではやはり飽きられるのも早いのだろうか。
シグノーラのメニューを作れるというのでやらせてみれば、味に深みが全くない似て非なるものだった。
同じ転生者といっても全く使えない。
やたらゲームやらルールだのと連呼しているのを逆手にとって、ルールだからといえば何でも言うことを聞くのは楽でいいが。
コゼットと話していたらあっという間に出かける時間になってしまった。
クーデター決行まであまり時間がないので予定は常に詰まっているのだ。
名残惜しく思いながら、私はコゼットの部屋を退出した。




