表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/181

51

 目を覚ますと、そこは見知らぬ部屋の中だった。灯りがないためよく見えないが。

 ギシギシ強張る体を起こすと、床と擦れた後頭部にズキッと痛みが走る。

 こりゃ、たんこぶが出来ているな。

 手で確かめようとしたが、背中側で縛られているようで動かせなかった。


 暗闇に目が慣れてきたので改めて部屋の中を見回すと、我が伯爵家と比べても遜色ないどころかもっと豪華な家具調度が並んでいた。

 部屋の中心の壁際にはベッドがひとつ。

 ベッドサイドにはチェストがあり、一般的な貴族の家の客室という感じだ。

 特徴的なのは、全体に女性向けのインテリアだということだろうか。

 ベッドは白に金の装飾が施されたものだし、寝具にはレースやフリルがあしらわれている。

 室内は灯りがないため色はわからないが、カーテンはなんとなく花柄にみえる。


 私は床に転がされていたようだが、敷かれている絨毯はふかふかで、背中も痛くない。


 ギシギシ痛んでいたのは縛られていて体が動かせなかったせいか。

 足は縛られていないため、膝立ちになってから立ち上がった。


 部屋のドアに背中を引っ付けて手でノブを掴んでガチャガチャと回してみたが、当たり前だが鍵がかかっていた。


 窓には分厚いカーテンがかけられている。

 なんとか肘を使って窓とカーテンの隙間に入ろうと試みる。

 窓の外は暗く、時計がないため時間はわからないが先程からそう時間が経ってはいないだろう。

 少し遠くに王城が見え、街の位置関係からここは貴族街の中でも高貴な身分の者の住む区画だと推測出来る。


 窓が開かないか試したが、後手に縛られている上、窓の掛け金がかなり高い位置にあるため無理だった。


 なんとか書物机に付属されている椅子を動かしてこようと足で押している時に、部屋の外から声が聞こえてきた。

 私は慌ててはだけたスカートを戻し、床の上に座った。



 私が座り込んですぐに、部屋のドアが開けられた。


「やあ、コゼットさん。なんだか久しぶりだね。元気だったかい?」





 そこには……予想外なのか、予想通りなのか……アルフレッド先生がいた。

 部屋の灯りが灯され、目がしぱしぱする。


「アルフレッド先生……」


「おや、あまり驚かないんだね。予想通りというわけかい?」


「そんなことございませんわ。充分驚いてましてよ。まさかレミーエ様と懇意にされているとは思いませんでしたが」


 この人がなにか仕掛けてくるなら、アンジェ絡みかと思っていた。

 レミーエ様とはむしろ敵対関係にあると考えていたから、そこがわからなかった。


 アルフレッド先生は片眉を器用にクイっとあげて面白そうに笑った。


「レミーエさんね……とくに懇意というわけではないのだけどね。今回は少しお手伝いをしてもらったよ。むしろ私としては君と懇意にさせて頂きたいね」


「私と……?」


 拉致してきておいて何を言っているのか。

 たんこぶ痛いんだぞ!

 私はギッと先生を睨みあげた。


「そんなに睨まないでくれたまえ。この部屋も君のために用意したんだよ。気に入ってくれたかな?」


「私のために?」


 通りで女性的な部屋のはずだ。

 まあ本当の私の部屋にはそこら中に健康器具が転がっていたりハーブの鉢植えがあったりぬか床をしまっていたりともっとごちゃごちゃしているが。


 しかしどんなに素敵な部屋であろうと先生の屋敷に住む予定はない。


「それはどうもありがとうございます。ですがこちらに住むつもりはありませんので、とっとと帰らせて頂きたいのですけど?」


「そういうわけにはいかないよ。君にはここで新しい商品の開発をしてもらうからね」


「開発?」


「そうだよ。君がデザインしているシグノーラの商品はどれも画期的で素晴らしいものばかりだ。それを今度は私のためにしてもらう。嫌だと言ってもムダだよ?君のようなか弱い令嬢にここからは逃げられない」


「すぐに父が探し出してくれますわ。私とて伯爵家の娘。いなくなって騒がれないはずがありませんもの」


「ハッ私には辿りつけるはずもあるまいよ。そのためにレミーエさんに働いてもらったんだからね。彼女が捕まっても私には辿り着けない。彼女は私がこの件に関わっていることすら知らないのだから」


「レミーエ様を利用したのね。……フン、だからって私が素直に開発なんかするわけないじゃない」


 誰が誘拐犯のために開発なんてしてやるものか。この脳内お花畑め。

 私は鼻で笑った。

 しかしアルフレッド先生は余裕の笑みを崩さない。


「構わないさ。どちらにしろ君はこの屋敷から出られないけれどね。君にその気があるなら側室にくらいにしてあげてもいいと思っていたのに、残念だよ」


「側室?レオンハルト殿下の?」


 この国は一夫一婦制で、側室を持てるのは王だけだ。

 何故ここに殿下の話が出てくるのかわからない。


「私の側室に決まっているだろう。君のその美貌は、殺してしまうには惜しいからね」


「側室を持てるのは王だけよ。それとも王にでもなったつもり?」


 馬鹿にしたようにフンと笑ってやる。


「私が王になるんだよ。先王の血を引くアンジェを妃にしてね。現王家は先王の血を引く娘に討ち滅ぼされ、正統な血筋に戻るんだ。そしてその使命を助けた私と結婚して、王位を継ぐ。この国に女王はいないから、私が王だ」


「なんてことを……クーデターを起こすつもり?でもそれなら、私は関係ないじゃない。家に帰してよ」

 帰してくれるわけがないが、一応言ってみる。しかしなんで私が誘拐されなきゃいけないんだ。


「どうやら、アンジェはレオンハルトにご執心のようでね。彼女は君とレミーエが邪魔なんだそうだ」


 レオンハルトにもいずれ死んでもらうけどね、と先生は狂ったように笑った。

 先生は私に一方的に話をして、部屋から出て行った。

 もはや私の命は彼の手の中にあるから、何を話しても大丈夫だと安心しているのだろう。

 まあ、これで私が華麗に脱出して全て暴いてみせるけどね!

 まだなんにも思いつかないけど。


 先生の話をまとめると、ドランジュ公爵は先王毒殺の証拠を掴まれてアルフレッド先生に脅されていたらしい。

 公爵の揃えていた軍備は先生が指示したもので、クーデターを起こすためのもの。


 先生ははっきりとは言わなかったが、レミアスは公爵がクーデターを起こそうとしていると勘付いたために、軟禁されているようだ。


 私は殺される予定だったところを、商品開発などの才能を買われてなんとか生き残れたらしい。


 先生の様子では、クーデターが起こるまでもうあまり時間がない。

 決行がいつなのかはわからないが、出来る限り早くここから脱出しないと殿下が殺されてしまう。


 先生は扉には鍵をかけていったが、手の紐は解いてくれた。

 私がトイレに行きたい!と怒鳴ったせいだ。

 たかが令嬢に脱出など出来まいとタカを括っているその鼻を明かしてやる!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ