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小話・コルセットから解放された日

「お嬢様、また細くなられましたね。ウエストのくびれがすごいですわ」


「あらそう?嬉しいわ。最近、腹筋にひねりを加えているから」


「……これなら、コルセットをしなくてもいいくらいですわ。素晴らしいです!」


「まあ!コルセットはあまり気にしていなかったけれど、それって最高の褒め言葉よね!」


 前世では補正下着が必需品だったので締め付けられるのには慣れている。

 まさか慣れ親しんだそれとさよならできる日が来るなんて。

 ガードル、ウエストニッパー……ああ懐かしき贅肉。

 そしてさようなら、贅肉!

 思えばあなたとは長いお付き合いだったわね。

 あなたとわたし、2人でひとつ。

 でもごめんなさい、お別れの時が来たみたいだわ。

 そう、わたしは新しい世界に飛び立つの……!


「お嬢様、お嬢様」


「なによ、私が切ない別れに浸っているというのに」


 天に向かって掲げていた手をしぶしぶ下ろしてシシィに向き直る。


「今日はいつものコルセットよりも一段細いタイプのコルセットにしましょうね。ここまで来たら勢いで」


「くっ……!まだ上があるというの……私もついにマドンナの高みに達せたかと思ったのに」


「はい、両手を上に挙げて下さいねーマドンナってなんです?」


「マドンナ……それは、五十歳を越えても人前でレオタードが着れる女性のことよ」


「レオタード?」


「レオタードは異国の踊り子のようなかくかくしかじか」


「それはなかなかの剛の者ですね……!今でさえ人前でレオタードを着ようとは思えません」


 シシィがゾッとしたように口を押さえる。


 マドンナの高みにはいまだ届かない……


「ぐふぇつ」


 感慨に耽っている私の腹を、シシィが容赦なく締め付けた。

 シシィ、足使ってない?それは、はんそく……ぐえ。












 それは、ずっとずっと先の話。

 ひとりの太った女の子がダイエットに奮闘していたことなんて皆が忘れて、何年も何年も経った頃。


「まあ!ミュゼットったら、なんて細いウエスト!折れてしまいそう」


「うふ、恥ずかしいわ。ありがとう」


「オーッホッホッ!アタクシなんて今日も腹筋マシーンでひねりを加えたトレーニングをしてきましたわ。ミュゼットのウエストよりもずっと細いですわよ!」


 高笑いをあげた少女はくびれたウエストを誇るように背筋を反らす。反らしすぎてバランスが危ない。

 しかし、彼女のしっかり鍛え上げられた背筋と腹筋が素晴らしい役目を果たしてその危うい均衡を保っている。


「私も近頃足上げ腹筋とひねり腹筋に力をいれてトレーニングしているの」


「ひねりをいれるのは重要ですわよね」


 令嬢たちは毎日のトレーニングを欠かさない。

 たゆまぬ努力によって彼女らのスタイルは完璧に整えられ、アルトリア王国の令嬢にコルセットは必要ないと近隣諸国からの高い評判を得ている。

 令嬢達は今日も、シグノーラ製のトレーニング器具で筋トレに励む。


 この王国で最初にコルセットから解放された、マドンナ・コゼットの腹筋を目指して……




後日談みたいになってますが、まだまだ全然終わりません

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