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軽く頭を振って、頭痛が治まったのを確認した私は、伯爵令嬢らしく可愛らしく整えられた部屋の中を見回した。
部屋の広さはそこそこある。
まあ、くさっても伯爵令嬢である。前世で節約の末ゲットした念願のマイホームのリビングよりもずっと広く、ざっとこの部屋だけで二十畳はあるだろうか。主寝室だけでこの広さ。王族や公爵とは比べものにならないだろうが、前世日本の住宅事情を思い出せば、贅沢すぎるほどだ。
しかもこの部屋に加えて、私専用のリビングルームや小寝室まであるのだ。とりあえず小寝室といってみたが、あの部屋は一体なんなんだろう。
主寝室に飽きたら使うんだろうか?まぁいい。
そして寝室にはリビングに続く扉とは別に、衣装部屋への扉があった。
衣装部屋に足を踏み入れると、コロコロとした大きめな私にそっくりなコロコロとした大きめな……つまり装飾過多でビックサイズのドレスが所狭しと掛けてあった。
これは……ひどいわ……
前世の意識がなかった今までは気付かなかったが、それらの衣装はいたるところにフリルやリボンがあしらわれ、どこもかしこもふっくらとした私の体型をカバーしつくして覆い隠すように……なにこれ?みのむしなの?
しかも全体的にピンク色だ。
膨張色……前世の知識でいえば、デブにこのドレスたちは最悪である。
大きな肩幅をさらに大きく逞しくみせ、ふとましい腰まわりを腰だと気付かせないくらいにカバーしている。
カバー力抜群だ。
おかげさまで体のほぼ全てを覆い尽くされた私は、さながら大きな球体である。押したら転がりそう。いや、マジで。
十歳にしてこの逞しさ……子供相撲大会でもあらば、見た目だけなら横綱間違いなしだ。
力士のような体力は当然ない。
だって令嬢だもの。
屋敷内と趣味の庭造りしか出歩かないし、食事は毎日フルコース。
これがまた美味しくて……ついつい令嬢のたしなみも忘れておかわり!と元気よく叫んでしまうほどだ。
腕のいい料理人と、娘が可愛くて仕方ない両親のおかげで、コゼットはすくすくふくふくと大きく成長した。
そう、横に……
衣装部屋に設置してある姿見を覗き込むと、わりと大きめの姿見からはみ出しそうな自分の姿が確認できた。
うーん……太い……
悲惨な現状を再確認した私は、ダイエットを決意した。