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 せんべいは、レミアスとゲオルグが一緒に食べてくれた。

 殿下がいないとレミーエ様たちも中庭には来ないので、今日は3人だけでお茶会だ。


「なぁーせんべいってどうやって作るんだ?」


「お米を潰して叩いて以下略よ」


「以下略ってなんだよ」


「面倒くさいのよ」


 頭がぼんやりしていて上手く働かないから、あんまり説明できないし。

 どうやら自分でも作りたいらしいので、今度レシピを紙に書いて渡す約束をした。


 三人でぼけーっと空を見上げる。


「なぁ」


「……」


「なぁ、なんで泣いてたんだ?」


「それは、せんべいがのどに詰まって」


「そういうのいいから。殿下のことか?」


「…………」


 ゲオルグにしては勘がいいじゃないか。

 でも自分でもなんで泣いたのかわからないから、ムッと口を尖らせたまま返事をしなかった。


「殿下はなにか用事があったんですよ。お忙しいかたですし」


 レミアスがフォローしてくれる。

 用事って、アンジェと?

 考えてみるとアンジェは出自のこともあるし、殿下じゃないと対処できない何かがあったのかもしれない。


 そうだ。そうに違いない。

 そう考えるとなんだか気分が軽くなった感じがする。


「そうよね!一緒に遊べなくて泣いちゃうなんて、私ったら子供みたいね!恥ずかしい!」


 お気に入りのおもちゃを取られた子供じゃないんだから!

 全く、もうおばちゃんだと思ってたけど、意外と子供の部分もあったのねぇ。

 精神年齢が体に引きずられてきているのかしら。


 そのあとは食欲が戻ってきたので、大量のせんべいをむしゃむしゃ完食した。

 ゲオルグとレミアスが変な顔をしていたが。

 砂糖と塩をまちがえたかな??

 でも砂糖味のせんべいもいけるから問題ないよね。





 しかし、翌日になっても殿下とはほとんど話せなかった。

 ろくに目も合わせてくれない。

 そのうえ、午前中だけ授業にでると、早々に早退してしまった。

 どこか具合でも悪いのかと心配になったが、先生たちに聞くと、恐らく公務であるとのことだった。


 レミアスも調べることがあるから、といって早めに帰宅していった。

 さっそく公爵の不正について調べてくれるつもりなのだろう。


 殿下のいない中庭にはいつものレミーエ様たちもアンジェもいない。

 お茶をする気にもならなくて、私はゲオルグを誘ってシグノーラに向かった。


 最近、タケノコ掘りで忙しくてあまりシグノーラに顔を出せていなかった。

 以前シシィに頼んでいた新店舗設立やカフェスペースは上手くいっていると聞いているが、任せきりになってしまっている。

 シシィから聞いた報告では、緑茶やハーブティーと和菓子が人気を集めているということだった。


 適当なところに馬車を停めて、シグノーラ二号店の様子を見てみたが……店は閑散としていた。

 カフェスペースにもチラホラとは客がいるものの、盛況にはほど遠い。

 少しいる客は高齢者が多く、ダイエット商品などのメイン購買層だった若い女性の姿がみえない。




「あれ、今日は空いてるな。珍しいなぁ」


 ゲオルグが呑気な声をあげているが、私は焦って店の奥に入っていった。


「シシィ!」


 シシィは今の時間は店にいるはずだ。

 彼女はいつも放課後のお茶の時間が過ぎる頃に屋敷へと戻ってくる。


「あ、お嬢様……今日はお早いのですね」


 店の奥にいたシシィはバツが悪そうな顔をしていた。


「シシィ……店は、順調ではなかったのね。最初から?」


 私の言葉にシシィは首を横に振る。


「いいえ、いいえ。そんなことはありません。最初はとても順調でした。こんな状況になったのは、ここ最近の話です」


「最近……なにか心当たりはある?」


 考えられるのは、商品の質が落ちたとか、飽きられているとかだろうか。


「最近、近くに新しくカフェが出来まして……その店のほうにお客様が流れているように思います」


「新しいカフェ……」


 シシィの話によると、新しく出来たカフェではうちと同じようなハーブティー、そして和菓子を出しているらしい。

 だが偵察にいったシシィによれば、和菓子などはシグノーラのものに比べれば紛い物もいいところだそうだ。

 いわく、味に深みがないとか、芋餅や団子と一緒に出しているお吸い物には出汁がきいていないとか。


「あまり美味しくないとしたら……どうして人気があるのかしら。味の違いがわかればお客様は戻ってくるのではない?」


「それが……」


 新しく出来たカフェは、『執事カフェ』というらしい。

 執事に扮した見目麗しい男性が傅いて接客してくれるのだそうだ。

 うーん、なんか聞いたことあるぞ。

 だが……


「執事なんて貴族の家には大概いるじゃない。家に帰ったら本物がいるのに、そんなに人気がでるもの?」


「ええ、執事は珍しくありません。しかし、エーデルワイス伯爵家のセバスチャン様しかり、他の貴族家しかり。…………執事は大抵、ジジイなのです……!」


 なん……だと……!

 雷にうたれたような衝撃が走った。

 これは盲点だった。

 執事は家の中を取り仕切る役割を持っており、実務能力が重視される。主人の指示を受け、人事から経理まで一手に統括するのが執事の仕事。

 屋敷内の統括責任者である。

 そのため、若い執事など皆無に等しい。

 屋敷内の仕事を把握し、指示を出せるだけの経験がものを言うのだから当たり前だ。

 結果、執事になるのはそれなりの年齢に達したものばかりだ。

 うちのセバスチャンも白髪が似合うロマンスグレーだ。


「若くてピチピチした男の子が、お嬢様、おかえりなさいませ!おカバンお持ちしますね!とかいうんですよー!ご指名も出来るのです。うっかりお茶をこぼしそうになるのも初々しくて可愛くてー」


 シシィ。貴女、結構通ったわね?

 ギロリと睨むと、シシィはハッと口を押さえた。


「……コホン、つまり、その執事目当てに若い女の子のお客様が流れていると」


「そうなんです……」


 ふむ。執事カフェ自体はいい考え(どこかで聞いたことはあるが)だし、人気がでれば競合店舗が現れるのは当たり前のことだ。

 それ自体は悪いことではない。

 ないのだが。


 メニューを真似されたことが気にくわない。

 しかもあまり美味しくないだと!どうせなら美味しくして欲しい。そしたら私も食べに行くのに。

 悔しいからちょっと仕返しすることにした。




「フッ!フッ!フッ!はぁ……」


 飛び散る汗が陽の光にキラキラと輝く。

 陽に焼けた褐色の肌に茶色の髪が貼り付いて男性的な色気を醸し出している。


 周囲に集まった若い女性たちからほう……と息が漏れる。


「はぁ、はぁ」


「ゲオルグ、次は新しく開発した腹筋マシーンを試してみてくれる?」


「おう!これはすっごいな!ワクワクするな!」


 店頭ではゲオルグのダイエットマシーンお試し会が行われている。

 美少年を使った販売促進ならばシグノーラの専売特許!

 輝かしい美青年に成長したうちのゲオルグに勝てる美形などいなくってよ!


 ゲオルグが筋肉を弾けさせているのを横目に、私は大きく息を吸った。


「さあさあさあさあ!そこを行く奥様、お嬢様、旦那様!本日ご紹介致します商品はこちらの腹筋マシーン!え?なんの変哲もない台だろうって?いえいえ、実はこの角度に秘密がありまして……」


 腹筋マシーンはたくさん売れた。




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