出逢い:アンジェ視点
学園への入学を私は心待ちにしていた。
プロローグイベントで王太子殿下レオンハルトと出会って男爵家に預けられて以来、レオンハルトが私のところに会いに来てくれることは無かったからだ。
ゲームの知識を活かして何度か王宮に会いに行ったが、困惑した顔で連れ戻されてしまった。
そのうち、いつの間にか王宮への迷宮は入り口が潰されてしまって、会いに行くことも出来なくなった。
時を同じくして男爵家の警備も厳重になったから抜け出すことも難しくなってしまったんだけど。
私が産まれたのは王都でも貧しい家が立ち並ぶエリアだった。
産みの母親は私が誕生してしばらくして亡くなったそうだ。会ったこともないので、正直あまり感慨はない。
ただ、私と同じ特徴的なピンクの髪だったそうだ。
しかしこの髪は目立ち過ぎる。私が住む貧民街では人攫いも珍しくないためこの目立ち過ぎる髪は格好の標的になるから、と言われて髪を地味なブラウンに染めた。
私を育ててくれたのは、母の乳母だったひとだ。名前はナニィ。ナニィには私より二つ年上の娘のミニィがいて、私とは姉妹のように育った。
私にとってはナニィが母親であり、ミニィが姉だった。
前世の記憶を思い出したのは、十歳になる誕生日の当日だった。
私は前世で十三歳で死んだ……と思う。
自分が死んだときのことはよく覚えてないからわからない。
中学に入って初めてできた友達に教えてもらって初めて乙女ゲームというものを知って、物凄くハマったんだ。
特に王太子のレオンハルトが大好きで、レオンハルトのことを夢にみるくらいだった。
そのゲームに転生できて……レオンハルトが実在してるなんて!
これはきっと、早死にした私を可哀想に思った神様が与えてくれたプレゼントなんだと思ったの。
絶対にレオンハルトを攻略して、ゲットしてやる!
私はそう心に誓ったんだ。
だって、レオンハルトが大好きなんだもの!
ああ、早く会いたい!
ゲームの知識を思い出したことで、産みの母が前王の側室だったこと、自分は王家の落とし胤であることもわかった。
そして私はプロローグイベントに行かなければ、と思った。しかし、あのプロローグイベントがどこで行われるものなのかがわからなかった。
プロローグイベントが気になっているものの、どうすることも出来ずに日々が過ぎた。
やきもきして過ごすうちに産みの母の命日になり、最近体を悪くしたのか臥せりがちなナニィ母さんの代わりに花を摘みに行くことになった。
ミニィにいい花畑がないか聞くと、いい場所があると教えてくれた。ミニィはどこかのお家に勤めに出ているのだが、その近くで見つけたんだそうだ。
なぜかミニィは、花畑にいく前に髪の色を戻しておくようにと言っていた。なんでだろう?でも、姉妹同然のミニィの言うことだから従った。
いままでミニィが言ったことで間違っていたことなんてないもの。
髪の色を戻すとナニィが無理して起きてきて、私の頭に不思議な香水をかけてくれた。産みの母が使っていた香水だって。花摘みにいくだけなのに変なの。
教えてもらった花畑にいくと……なんとなく見覚えがある事に気付いた。
この場所とは違うけど、雰囲気があのプロローグイベントの花畑と酷似している。
近くの木々の向こうから大勢がいるような声が聞こえる。
私は何故かそちらに行かなければ、と思って駆け出した。
そこでは貴族たちのお茶会が行われていた。
私はすぐにここがプロローグイベントの場所だと気付いて、レオンハルトの姿を探した。
……いた!!
夢にまでみたレオンハルト。ゲームのまま、美しい銀髪、エメラルドの瞳。
ううん、ゲームなんかよりずっと素敵!
私はひと目でレオンハルトの虜になった。
でも、私の前には醜く太った令嬢がいる。
覚えてる。ゲームで一騎打ちの練習をした太ったキャラクターでしょ?
名前は出てこなかったけど、ゲームでみた丸いシルエットのまんまだわ!
似合わないドレスなんか着ておかしいったら!
それに、ゲームで邪魔なキャラクターだったレミーエ。
あの縦巻きロールもリアルに再現されてる。スプレーとかないだろうにどうやってるのかな?
実物をみるとボリューム感ありすぎて尊敬するレベルだわ。
髪縛るのに縄とか使わないといけなそう。
適当に相手をしていると、レオンハルトが迎えに来てくれた。
ああ、やっと会えた!私の王子様!




