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 講堂の入り口からアンジェとエカテリーナが入場した。

 アンジェは赤のドレス、エカテリーナは青のドレスを身に纏っている。


 二人の足元はハイヒール。

 歩き方は……一応、様になっている。


 以前から考えていたが、恐らくアンジェは前世の知識があるだろう。

 プロローグイベントでしか接していないが、ゲームという単語を発していたので間違いない。


 そのため、ハイヒールにも慣れている可能性が高い。

 しかし、ダンスとなるとどうだろう。男爵家預かりだった為、教養として身に付けているだろうが、生粋の令嬢であるエカテリーナには及ばないかもしれない。


 対するエカテリーナはハイヒールへの慣れが不十分であると推測できる。

 シグノーラでは基本的に子供用のハイヒールは作っていない為、エカテリーナがハイヒールを履いたことがあるとしてもダンスを踊るのには慣れていないだろう。

 ちなみに子供用のハイヒールを作っていないのは成長途中でハイヒールを履くのは足によくないという私の持論からだ。



 二人の表情が視認できるところまで近づいてきた。

 アンジェは不敵な表情、エカテリーナはやや緊張した表情だった。


「それでは、審査員の方々と順番にダンスを踊って頂きます!ミュージック、カモン!」


 サンディ先輩の合図で控えていた楽団が楽曲を奏で出す。


 一応生粋の令嬢である私にも馴染み深い初歩的なワルツだ。

 ステップはそれほど難しくない。



 観客席の中に円形に作られた空間で、アンジェと王太子殿下、エカテリーナとアルフレッド先生が向き合った。

 そして、二組が一礼をしてダンスが始まった。


 最初は順調だった。

 ステップが簡単なためか、アンジェもエカテリーナもスムーズに曲を終えた。

 パートナーがそれぞれレミアス、ゲオルグと入れ替わった二曲め、少しテンポが速くなる。ステップは最初とあまり大差ない。

 まだまだ二人とも余裕がありそうだ。


 しかし三曲めになると、かなりステップが複雑になってきた。アンジェとエカテリーナのパートナーは入れ替わり、アンジェがゲオルグ、エカテリーナがレミアスと踊っている。

 二人の足元はやや覚束なくなってきた。

 アンジェはステップのタイミングがずれることがあり、エカテリーナは足元が若干ふらついているように見える。


 四曲め……パートナーはアンジェがアルフレッド先生、エカテリーナが王太子殿下になった。パートナーである殿下とアルフレッド先生は、最終曲ともなり複雑でスピードのあるステップを苦もなく優雅にこなし、完璧なリードをしている。

 観客席からも感嘆の声が漏れる。

 しかしアンジェとエカテリーナは……明らかにステップのミスとふらつきが増えている。

 リードが巧みな為まだなんとか踊れているが、かなり危ういギリギリの線だ。


「あっ……!」


 会場が息を呑む。

 エカテリーナが、ついに大きくバランスを崩した。

 殿下が素早く支えるが、これは……!

 エカテリーナが、手をついた。しかし素早く立て直す。

 足を挫いていないか心配したが、ダンスに戻れているため大丈夫だったのだろう。



 そした曲が終わった。

 アンジェは踊りきった達成感からか、満面の笑みだ。

 対して、エカテリーナは……悔しげに顔を歪め、いまにも泣き出しそうな表情だった。


「これでダンス審査を終了します!お二人とも、とても素晴らしかった!皆さま、素晴らしいダンスを見せてくれたお二人に、拍手をお願いします!」


 会場は二人の健闘を讃え、満場の拍手をおくる。

 私も頑張った二人にむけて一生懸命拍手した。


「それでは審査員の方々は投票をお願いします!」


 審査員たちが手元の紙にペンを走らせ、それを教師が回収していく。


「いやぁ、素晴らしい戦いでしたね、コゼットさん」


「ええ、ええ。本当に素晴らしいダンスでした。慣れないハイヒールでこんなに優雅にダンスができるとは、とても努力したのでしょうね。感動しましたわ……」


 ハイヒールで足も痛かっただろうに、頑張ったのね、と涙が溢れてくる。

 前世の娘のことが思い出されて涙が止まらない。


 サンディ先輩が号泣する私に慌てふためいているが、とまらないんだもの。


「コ、コゼットさん……………………(なんて純粋で優しいんだ……)」


「え?」


「あ、いや、なんでもありません。さ、さあ、審査結果がでたようです!」


 ステージの中央に目を向けると、先ほどの教師が歩みでた。


「一票目、アンジェ嬢! 二票目、アンジェ嬢! 三票目、アンジェ嬢! 四票目、エカテリーナ嬢! …………よって今回の一騎打ち勝負は、アンジェ嬢の勝利とします!」


 おおー!観客席から歓声があがる。

 それとともにサンディ先輩が殿下のもとへインタビューに走って行った。


「王太子殿下、この結果を受けての総評をお願いします!」


「そうだな……。今回の勝負は、純粋なダンスの力量ではエカテリーナ嬢のほうが数段上だった。しかし、ハイヒールへの慣れ、またダンスを楽しんでいるという点で、アンジェ嬢に軍配があがったのだろう。しかし両者とも、美しかった!楽しい時間を過ごすことができた。二人とも、ありがとう」


 殿下の言葉にアンジェは少し悔しさを滲ませながらも笑顔を向け、エカテリーナは涙を流しながら殿下を見つめている。


 こうして、チュートリアル一回目、エカテリーナとの勝負はアンジェの勝利に終わった。


 しかしこの勝負をみて、いくつか疑問に思ったことがある。

 まず、チュートリアルAであるエカテリーナとの一騎打ちは、アンジェはもっと楽勝で勝てるはずだった。にも関わらず、結果は三対一での辛勝。

 そして、ゲームでは無かったはずのシグノーラおよびハイヒールが一騎打ち採用されていること。


 この二点は明らかに本来のゲームの流れと大きく違うように思う。

 前世の知識をもつ私とアンジェのせいで、ゲームの流れが変わってきているのかもしれない。

 退場していく出場者二人を見送りつつ考えていると、アンジェが振り返った。

 ステージを見渡し、私をギラリと光る目で睨み据えた。


「……っ」


 しかしアンジェは何を言うこともなく踵を返すと、そのまま去っていった。



 アンジェも私が転生者だということに気付いているのだろう。

 一度話し合ってみるべきかもしれないな、と思いつつ、私も会場を後にした。


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