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空は快晴。澄み渡る五月晴れだ。
草原を吹く風は爽やかで、緑の丘の上からは小さく伯爵家の屋敷が見える。
「ふーーー!!気持ちいいですわねー!お日様がぽかぽかで最高ですわ!」
「そうだな、涼やかで気持ちいい、太陽のようなコゼットにぴったりだな」
王太子殿下は太陽さえかすみそうなキラッキラに輝く笑顔を浮かべた。
今日はこの間計画したピクニックに来ている。
そして何故か……王太子殿下もいる。
最初は三人で王都の外まで行くつもりだったのだか、当日になって何故か殿下までゲオルグにくっついてやって来たのだ。
そのため危ないから王都の外に行くのはやめておこう、ということになり、伯爵家の敷地のはずれにある小高い丘に変更した。
爽やかな笑顔でやってきた王太子殿下を見てしばし固まった私は、ゲオルグを柱の陰に引っ張っていって問い詰めた。
「ちょっと、ゲオルグ!なんで殿下がいるのよ!聞いてないわよ!」
「だってさ、ピクニックの話をしたら付いてくるって聞かなくて……殿下はあんまり王宮の外に出たりしないから、かわいそうだしさ」
警備のことなどを考えるとだいぶ面倒くさい。
だが口をとんがらかしたゲオルグが可愛かったので許してあげることにした。
面倒だけど。来てしまったものは仕方がない。
追い返すわけにもいかないし。
「仕方ないわねぇ……」
「いいのか?よかった!やっぱりコゼットは優しいな!」
にぱっと笑った。
くうっ可愛い……!
ゲオルグのこの笑顔は狙ってやっているんじゃなかろうか。
可愛すぎてクラクラする。
「と、とりあえず、料理長にお弁当を増量してもらいましょう」
「そうだな!いっぱい食べたいからな!」
私は気を取り直してシシィにお弁当増量を依頼した。
そして丘の上。
爽やかな風の中、走り回っているゲオルグを放置して殿下とレミアスと私は、メイドが昼食の準備をするのを待っていた。
「フッフッフッ、すっごくいい天気……こんな天気なら、これをやるしかないでしょう!!じゃじゃじゃーーーん!!たーこーあーげーーー」
「「たこあげ?」」
私はカバンの中から自作のたこを取り出した。
天気が良かったらこれを飛ばして遊ぼうと、夜なべして作っておいたのだ。
三人分しかないが、代わる代わる飛ばせば問題ない。
ちなみに柄は私とレミアスとゲオルグの似顔絵を描いた。
制作期間一週間の力作だ。
「これをですね〜こうしてね〜えいやっ!」
私はたこの紐を掴んで力いっぱい駆け出した。
ダダダダダッ!ズルズルズル
はあ、はあ、はあ……
…………あがらない。
たこあげって、こんなに難しかったっけ……?
私が草の上に倒れてはあはあしていると、3人が様子を見にきてくれた。
「コゼット、大丈夫か?」
「なぁ、たこあげってこれだけ?あんまり楽しそうじゃないな」
「お水飲みますか?」
くそう……こんなはずでは……
レミアスが渡してくれたお水で喉を潤して、前世での記憶を改めて思い出す。
なんせたこあげをしたのは娘が小さかったころ以来だからね……
そうだ!確か二人でやる方が上手くいくんだ!
「ゲオルグ、たこをもって私について来て!こんな感じで持って……」
「おう!」
私はいくよー!と声をかけて走り出した。
ゲオルグのおかげでたこは遠くまで飛んだ。
全員で歓声をあげる。
そのあとは、メイドが声をかけてくれるまで夢中でたこをあげた。
思いっきり遊んだ後のお昼ご飯は美味しくて、レミアスも好き嫌いをせずに沢山食べてくれた。
お昼ご飯を食べてからもたくさん遊んで、あっという間に夕方になった。
「楽しかったですね〜!最高の一日でした」
「ああ。こんなに楽しかったのは久しぶりだ。コゼットといると本当に楽しい」
「だな〜!お弁当も美味しかったし!」
「本当に素晴らしい一日でした。人参があんなに美味しいとは思ってもみませんでした。コゼット、ありがとうございます」
みんなが楽しくて、本当に幸せだ!
レミアスの好き嫌いも今日でだいぶ減ったと思う。
食わず嫌いがかなり多かったから。
私たちはそれから、四人で定期的に集まって遊ぶことにした。
ピクニックの他にも、やりたいことは沢山ある。
前世で娘と遊んだことを思い出して切なくなったが、一緒にやった遊びをすることで、なんとなく娘と繋がっていられるような気がした。
これで少女編を終了します。
この後、閑話を挟んで学園編にはいろうと思います。




