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「どうぞ、今日のおやつはいちご大福です」


「「……いちご大福?」」


 レミアスはキョトンとした表情、ゲオルグは期待に満ちた表情でいちご大福を見つめる。


「春ですからね。いちごとアンコを使ったお菓子です。召し上がれ〜」


 そしてお茶は緑茶だ。

 ふぅー。落ち着くわぁ〜。


「このお茶は……紅茶とは違うのですね。すっきり爽やかな飲み口ですね」


「これ美味いよな!俺も好きだ。父上も気にいったってさ」


 ここで緑茶を飲みなれているゲオルグはグイグイ飲んでどんどん食べている。

 対してレミアスは味わうように口にしている。

 友達だと言っていたが、とことん対照的な二人である。


「これは、普通の紅茶とは違う種類の茶葉なのですか?」


「いいえ〜同じお茶の葉から作ってるんですよ。加工の仕方が違うだけです」


 お茶は茶葉を発酵させて作る。緑茶も紅茶も同じ茶葉からできるが、紅茶は茶葉を発酵させているが、緑茶は発酵させていない。

 緑茶は茶葉を蒸して揉んで乾かしたらできる。

 紅茶よりずっと簡単だ。


 緑茶の作り方を説明すると、レミアスは感心したように何度も頷いた。


「同じ茶葉からできるとは……全く別のお茶な感じますね。素晴らしい発想だ。シグノーラが次々と画期的な商品を開発しているのも頷ける」


「いやぁ〜それほどでもぉ〜」


 いやぁ、主婦の豆知識をそんなに褒めてもらうなんて照れちゃうねっ。

 って、シグノーラの商品開発が私だってバレちゃうよ!

 私は冷や汗を流しながら首を横に振る。


「い、いやぁ、シグノーラの商品はお母様がですねっ」


「あれ、秘密だったの?ごめん、俺、言っちゃった」


「えー!!秘密だって言ったじゃない!もう!ゲオルグなんて知らないからねっ」


「えーっ悪かったってー機嫌直せよ。これやるから。な?」


「私があげた大福じゃない!まったく!」


「くすくすくす。仲がいいんですね」


 ゲオルグに怒っていると、また笑われてしまった。

 ニコニコしているレミアスは美しくて儚げだ。

 儚げ……およそ、やんちゃ盛りの少年に相応しい表現ではない。

 この不健康さはどうしたことだろう。


「ところでレミアス……あなた、ご飯はちゃんと食べているの?」


「ご飯……ですか」


 急に話が変わったためか、レミアスがキョトンとする。


「レミアスは好き嫌いが激しいんだ。肉も魚も食べないし、野菜もほとんど食べないんだよ」


 ゲオルグが代わりに教えてくれた。

 うーん。それは体に良くない。


「ダメですよ!食事は健康の基本です。とくにあなたの年頃は、よく食べよく遊びよく眠るのが基本です!夜は眠れていますか?」


「最近、あまり眠れないんだ……」


 だから目の下に大きなクマさんがいるのか。

 クマさんを撃退せねば!


「それでは、カモミールティーを差し上げます。寝る前に飲むと心が落ち着いて、よく眠れますからね」


 あとは好き嫌いの改善だが……。

 そうだ!


「レミアス、ピクニックに行きましょう!うちの料理人は最高に腕がいいのです!ピクニックでお腹を減らして、美味しいお弁当を食べて好き嫌いを無くしましょう!」


 子供は野菜が嫌いな子が多いが、野菜も美味しいとわからせてあげれば食べられるようになるのだ。

 これをきっかけにして、好き嫌いを少しずつ減らしていけばいい。


 レミアスはまたしてもキョトンとしていたが、だんだんに嬉しそうな笑顔になっていった。


「ピクニック行きたいです!楽しそうだ!」


「ええ、ええ、楽しみですわね!」


「お、俺も!俺も行くからなっ!」


 二人でニコニコしていると、何故かゲオルグが顔を真っ赤にして割り込んできた。

 今にも手を取り合いそうだった私たちの間に無理やり身体を入れてくる。


 どうしたのかしら。

 仲間はずれにされて寂しかったのかな?


「当たり前じゃないですか。みんなで一緒に行きましょうね」


 ニッコリしてゲオルグの頭をナデナデしてあげた。

 よしよし、いい子いい子。


 ゲオルグは私の手をばっと振り払うと、ますます顔を赤くしてそっぽをむいた。


「ふ、ふんっ!」


「ふふふ」


「ははは」


 なんとも和やかな春の昼さがりだった。





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