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「ゲオルグ……なにをしているんです?」


 後ろから声が聞こえ顔を向けると、金髪にヘーゼルの瞳の少年がこちらを呆然とみていた。


「レミアスじゃないか!丁度いい!お前もこのアオダーケフミをやってみろ!気持ちいいんだぞ!お前みたいな部屋にこもりっきりの陰気な不健康ジジイにはピッタリだ!」


 オーゥ、し・ん・ら・つ!

 ゲオルグ様はその発言のキツさに似合わない爽やかな笑顔をむけて、少年に言い放った。


 これは……悪気がない!


 しかし、悪気がないからといってこんな暴言を許してはいけない。

 ゲオルグ様の単純で明るい性格を考えると、本人は言葉のチョイスを間違えているだけだろうとは思うが、悪気ない言葉でも相手を傷つけるのは良くないことだ。


 こういうことが将来のイジメに繋がり、果ては非行につながるのだ。

 私は腰に手を当ててゲオルグ様に向き直った。


「こらっ!お友達にそんなひどいことをいってはいけません!確かにちょっと顔色も悪いし目の下にクマもあるしガリガリなのも気になるし髪の毛もパサついてるけど!」


「お、おい、俺はなにもそこまで……」


「口答えしないの!ごめんなさいは?」


「えっ」


「ごめんなさいは!?」


 ゲオルグ様はムッとした表情で私をみたが、やがて観念したように口を開いた。


「ごめんなさい……」


「よろしい」


 私は金髪の少年に向き直ると、頭を下げた。


「ごめんなさいねぇ、ウチの子がひどいこと言って……これからも仲良くしてくれると嬉しいわ」


「いや、うちの子ってなんだよ……俺、お前の子じゃないし……同い年だし……母さんかよ」


 ゲオルグ様がブツブツ呟いているが気にしない。

 少年は呆気にとられたような顔をしていたが、やがてそれは笑顔に変わった。


「あはっはっはっはっ!だ、大丈夫ですよ、気にしてません。ゲオルグの暴言はいつものことだし……私がガリガリなのも事実ですし」


 よかった。なんていい少年だ。

 でもゲオルグ様には、お友達との付き合い方を教えないといけないわね。


 私がうんうんと頷いていると、少年がにこやかに礼をした。


「申し遅れましたが、私はドランジュ公爵が第一子、レミアス・ドランジュと申します。以後お見知りおきを。貴方は……コゼット・エーデルワイス伯爵令嬢とお見受けしますが……」


 私はレミアス様の言葉にハッとした。ゲオルグ様へのしつけに気を取られて礼を失するとは、なんたること!

 ついつい前世のオバちゃん根性が出てしまっていた。

 鬼のような家庭教師によって叩き込まれ、被らされた猫の被り物を凌駕するとは……オバちゃん根性、すさまじい!


 私は慌てて被り慣れた猫を装着した。


「レミアス様。こちらこそご挨拶が遅れまして申し訳ございません。おっしゃる通り、コゼット・エーデルワイスでございます。失礼をいたしました」


 長年の猫被りにより自動で発動するようになった淑女の礼を優雅に決めた。


「いや、いいのです。面白いものが見られました。あの気の強いゲオルグに謝らせるなんて、貴方にしかできませんよ」


「まあ……」


「チッうるせえなあ。ていうかコゼット、なんか女みてえで気持ち悪いぞ」


「私は女です。淑女です。しゅーくーじょー!」


 ゲオルグ様のお尻をつねってやった。


「うひっイテテテテ!やめろよぉっ!女なのはわかってるよ!でも俺は、そこらへんの上品ぶってるやつらよりいつものお前が気に入ってるんだよ!」


「あら……ゲオルグ様ったら」


 気に入ってくれていたのか。

 今までとんと気づかなかったが、ゲオルグ様がほぼ毎日のように遊びに来る理由がわかった。

 健康グッズに目覚めたからだとおもっていた。


「それから、その〝様〟ってのもやめろよ。ゲオルグでいいよ。友達だろ」


 ゲオルグ様……ゲオルグが、照れ臭そうにそっぽを向いて言った。

 なにこの子。可愛い。

 私はニコニコ笑うとゲオルグに向き直った。


「はい。ゲオルグ」


 ゲオルグは嬉しそうにへへっと笑った。


「私のこともレミアスと呼んでください。ゲオルグの友達は、私の友達です。妹のレミーエからも色々と話を聞いていて、是非お友達になれたらと思っていたのですよ」


「まあ、レミーエ様から!光栄ですわ!」


 そうか、よく考えたらレミアスはレミーエ様のお兄様なのよね。

 健康丸出しの成長期まっさかり!という感じのレミーエ様とあまり似ていないから、わからなかった。


 レミアスはかなり細く、肌もカサカサしている。

 あまり栄養が足りていないのでは……と心配になるほどだ。


 私は、オバちゃんのお節介根性がムクムクと湧いてくるのを感じた。


「レミアス様……いいえ、レミアス。折角ですから、店の奥でみんなでお話ししませんこと?新しいお茶もあるんです」


 様をつけようとしたら、レミアスがメッという顔をしたので言い直した。


「いいですね!是非お邪魔させて下さい」


「やったー!コゼットのとこのお菓子は美味いんだよな!」


 私は二人を連れて店の奥の応接室にはいっていった。



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