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「さて。第1回シグノーラ販促会議を行いたいと思います。まずはアオダーケフミの販促強化について。皆様の意見を頂きたいと思います。発言時は挙手をお願いします」
私は真剣な眼差しで全員の顔を見回した。
「はい、お嬢様!」
「シシィさん、どうぞ」
「えーと、アオダーケフミの使用目的がさっぱりわかりません」
「俺もわからん」
「私も……」
シシィに続いてゲオルグやエド、スタッフが続々と手をあげる。
むむ……
「説明書に書いてあるのだけじゃ使い方がわからないのかな?」
アオダーケフミには使用説明書をつけてある。
しかしそもそも青竹踏みは踏むだけのものなので、特に難しいことはないと思うのだが。
ゲオルグが説明書を覗き込んで、うむーとうなる。
「いや、使用方法というよりは、踏んだところでなにがどうなるのかがわからん」
なん……だと!
そこで私はハッとした。
我々日本人には足ツボやツボ押しという概念が染み付いているが、この世界にはオイルなどを用いたマッサージはあるが、指圧や足ツボマッサージはない。
うむむ……盲点だった。
「わかりました。ゲオルグ様、靴をお脱ぎください」
「えっ!」
「靴下も」
「ええっ!」
ゲオルグ様は何故か恥ずかしそうにもじもじしながら裸足になった。
「さあ、アオダーケフミを踏んで下さい。全体重をかけて!」
「……!」
ゲオルグ様は恐る恐る足を出し、アオダーケフミに乗った。そして覚悟を決めて足に力を入れて踏み込んだ!
その様子を一同は固唾を飲んで見守っている。
ぎゅむっ
「さあ、もっと何度も踏むのです!その場で行進をするように!」
ぎゅむっ ぎゅむっ ぎゅむっ
「こ、これは……!」
「ゲオルグ様!いかがしました!」
シシィが身を乗り出すように問いかける。
「気持ちいい!なんだ、この足の裏を伸ばされるような不思議な感覚は……!こ、これは確実に……」
全員が息を呑んでゲオルグ様を見つめる。
「健康にいい!」
「まぁ……」
「あら……ふふ」
店内にいるお客様や道行く人々が足を止め、シグノーラのショウウィンドウから見える光景を見つめる。
微笑ましいものを見るような老婦人や頬を染める令嬢たちまでいる。
ぎゅむっ ぎゅむっ ぎゅむっ
「こちらは何をなさっておいでですの?」
やがて、意を決したようにひとりの令嬢が問いかけた。
「これはですね、この国より遥か彼方、東の国から伝わる健康増進法、アオダーケフミを行っているところでございます。足の裏には全身につながるツボ、というものがございます。そこをこのアオダーケフミによって刺激することで、活性化するというエクササイズでございます」
「まあ……それは、気持ちいいのかしら?」
令嬢がコクリと唾を飲み込んだ。
「それは実際に使用している方にお聞きしましょう。どうですか、ゲオルグさん」
「ああ、これは……気持ちいい……最高だ!」
ゲオルグ様が長時間の青竹踏みによって少しだけ汗ばんだ、最高の笑顔で笑った。
美少年の、まさにキラーン!と輝くような笑顔だ。
「……買うわ!」
「わ、私も!」
「私が先よ!」
令嬢達によるアオダーケフミ争奪戦が開幕した。




